まだの方は、前の話から読み返して下さい。
「…ここ…は!」
覚醒から、すぐに大体のあらましを思い出す。
自分の体の様子を伺うと、白い拘束具に包まれているのがわかる。
試しに腕や足を動かそうとしてみるが、びくともしない。ベッドの上でもぞもぞと動くのが関の山だ。
それではと、周囲の様子を見回すと、全体的に白い部屋で、印象としては病室のように感じる。
飾り気のない内装に、武骨なベッドが置かれているだけで、漂ってくる薬の匂いが病室という印象を与えているのだろう。
「…なんのつもり…」
上弦の零…あの女の鬼に敗れたのは、覚えている。
下弦の肆であった頃からの、三回目の邂逅。
一度目は冬の京都。
十二鬼月であることに驚くほどの弱さだったことが、特に印象に残っている。…ただ、まず間違いなく、偽物であったのだろう。
二度目は那田蜘蛛山。
十二鬼月がいると言われていた那田蜘蛛山に、あの女はいた。…いや、あの女もいたというのが正しい表現か。
上弦の参、下弦の肆、下弦の伍、まさかの三体もの十二鬼月がそろっていた。何の冗談かと思ったものだ。元下弦の壱が二体いたことまで含めると、まさにありえない顔ぶれだった。
あの時は、強さよりも不気味さを感じた。
毒が効かないことに加え、鬼にはありえない肉体を持った元下弦の壱達をあごで使う様子に、言い知れぬ不安を覚えた…そう、成宮さんの言葉を思い出すほどに。
…というか、成宮さん、ああっ! もうっ!!
三度目は珠世邸。
珠世さんとは、じわじわと距離をつめているところだった。
彼女は鬼ではあるのだが、その心根は非常に善良で、姉さんの思い描いた仲よくなれる鬼というのは、彼女のような鬼なのではと、思わざるを得なかった。
まだお互いに警戒感が残っていたとはいえ、その知識、経験、技術には素直に尊敬の念を覚えたものだ。
そんな折での、襲撃だった。
見たことのある女の鬼が、なぜか下弦の肆になっており、やりあった不可思議な鬼二体に、あの女が更に驚くべき上弦の零となって現れた。
上弦の鬼…ここ百年、鬼殺隊の柱の死亡原因のトップ。
たくさんの柱が殺されながら、上弦の鬼の一体たりとも倒せていない。…姉さんが亡くなった理由も、上弦の鬼だ。
那田蜘蛛山で一合だけまじえた上弦の参、その強さは私、カナヲ、更に冨岡さんを加えて、三人がかりでギリギリやりあえるかといった印象だった。その場には更に下弦の肆、伍などもいたのだから、撤退の判断に間違いなかっただろう。
そんな上弦の参を超える、上弦の零…そんな役職は聞いたことすらなかった。
ただ正直、強いのは強いのだが、上弦の参以上だったかと言われると、それはないと思う。
下弦ではありえない強さではあるが、上弦の上位…それも最上位の零を冠するほどの強さでは、ありえない。
「…ええ、わかってる。…無理やり、目をそらしているわね」
あの鬼…上弦の零は、成宮未来だったんだ。
下弦の肆の特徴を、これでもかと言わんばかりに兼ね備えていた、新人隊士。
違和感はあった。怪しんだし、調査もした。
…そして、問題ないと結論を出した。
…なぜか?
…そんなの決まっている。太陽の下で、普通に活動していたからだ。故に、人間であると、結論を下した。
下弦の肆であった鬼が、上弦の零へとありえないほどの昇進をしていた理由。その理由も、今では明らかではないか。
「…陽光を克服したから…」
…それだけではないだろう。
…それだけのはずがないだろう。
「………鬼舞辻無惨に、もう陽光は通じない…」
捕らわれたしのぶさん、最悪の事態に気付きました。