零余子日記   作:須達龍也

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「浅草の鬼」の章、思ってたよりも、長くなったなあ。


浅草の鬼12

 鬼の開祖…鬼舞辻無惨の話は、珠世さんからも聞いた。

 珠世さんが鬼になった話も含めて、珠世さんを信じられる…信じてもいいのではと思ったのも、その話を聞いたからだった。

 

 その話の中で出た、始まりの呼吸の剣士。

 

 鬼舞辻無惨を追い詰めた、最初にして…現状、最後の剣士。

 かつての始まりの呼吸の剣士は、今の柱達よりもずっと強かったと聞いたことはあったが、その継国縁壱という剣士は、中でも飛びぬけて強かったんだろう。

 

 

 ただ、それほどの剣士をもってしても、鬼舞辻無惨は滅ぼせなかった。

 

 

 鬼舞辻無惨の頸を刎ねた…それでも死ななかった。

 その場から逃げるため、細かく分裂して弾けて飛んだ。

 

 

「無惨のもっとも恐るべきところは、その生き汚なさです」

 

 

 珠世さんのその言葉に込められた思いは、私よりも重いんだろうなと、ストンと腑に落ちたように思った。

 

 鬼舞辻無惨を討つための、切り札。それを、珠世さんと案を出し合った。

 

 切り札その一…鬼を人に戻す薬。

 残念ながら、これは完成の目途が立っていない。

 その研究には無惨の血の濃い鬼…十二鬼月の血が必要とのことで、これには鬼殺隊が協力できると思った。

 

 切り札その二…老化の薬。

 老化とは成長ということであり、成長とは細胞分裂を繰り返すことだ。

 細胞分裂を繰り返すことは、体の再生にも繋がっており、鬼の強力な再生能力を逆手に取って、わずか数分で何百年も老化させることが可能だ。

 百年二百年を余裕で生きる鬼には、盲点であろう老化というのも、また厭らしい。

 こちらもテストには、十二鬼月の血が必要なので、早急に集める必要があるなと思ったものだ。

 

 切り札その三…分裂を阻害する薬。

 無惨の逃亡を阻止するためには必須の薬。

 珠世さんは絶対に必要だと考えていたので、既にかなりのところまで構築されており、あとは実際のテストを待つばかりにまで完成していた。

 

 切り札その四…細胞を破壊する薬。

 それはもう完全に毒なのでは…と思ったものだ。

 いわゆる癌のようなものを体内に作り出す薬で、これも鬼の再生力を逆手に取るような恐るべき薬だ。私の作った毒なんかとは比べ物にならないくらい強力なものだ。

 

 

 …それでも、これほどの切り札を思いつきながらも…

 

 

 

「…ですが、最後の最後で、あの男に引導を渡すのは、奴が千年以上対策を求め続け…いまだ辿り着けていない、太陽の光になると思います」

 

 

 

「…珠世さん、それを克服されていたら、どうすればいいですか?」

 

 

 鬼舞辻無惨を討つためには、珠世さんとの協力が必須だと考えたお館様の決断は間違いなかったと思う。

 

 

 …それでも、もう何もかもが遅かったのではないか?

 

 

 その思いを、否定する材料が見当たらなかった。

 

 

 

 ガチャ…

 

 

 

「…ああ、もう起きてましたか」

 部屋に入って来て、こちらを一瞥してそう言ったのは、新しい下弦の肆だった。

「…私は、何で生かされてるんですか?」

 最初に出た言葉は、それだった。

 

「…おや? いい感じに弱ってますね。絶望でもしましたか?」

 

「っ!?」

 ガツンと頭を殴られたように感じた。

「あなたの質問の答えとしては、そう命じられたから…ですよ。どうしてあなたを生かしているのかなんて、私にはわかりませんね」

「…十二鬼月なのに?」

 私のその言葉に、肩をすくめる。

「十二鬼月と言っても、なりたての下弦なんて、そんなものですよ。上の命令には逆らえませんし、疑問を持つことすら許されません。

 上弦ですら、そうそう変わりません。全てはあのお方の思し召し次第」

 

 下弦の肆が開けた扉を後ろ手に閉め、その扉に寄り掛かるようにして、こちらを見下ろしてくる。

 

 

「…ただ、零余子様だけは、別です」

 

 

「…むかご…上弦の零?」

 

「…そうです。零余子様のためだけに用意された役職です。誰よりも優秀で、これ以上ない成果を出したからこその、上弦の零です」

 ある種、恍惚の表情でそう言った。

「誰も彼もが、あのお方の意思を慮り、その意に沿おうと汲々とする中、零余子様だけは違います。己が意思を押し通せます。そして、それが許されるのです。

 空いた下弦の肆に、自分のお気に入りを押し込めることくらい、朝飯前なほどに」

 

 身内のひいき目はあるのだろうが、この娘が代わりに下弦の肆となっているのは、まごうことなき事実だ。

 

 

 …そんな上弦の零は、何を考えている?

 

 

 ふと、そんなことが頭によぎった。

 

 

 八方ふさがりで、文字通り手も足も出せない状況、そんなやけっぱちな気分が、そう思わせたのかもしれない。

 

 

「…朝飯と言えば、食事は出ないのかしら?」

 

 

 私のそんな軽口に、にこりと笑うとほがらかに言ってきた。

 

 

 

「一日抜いたくらいで、死にはしませんよ」




老化薬とか細胞破壊薬の理屈は、作者の独断と偏見でw
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