零余子日記   作:須達龍也

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東北組の続きです。


浅草の鬼14

「ぬぅっ、逃げられたかっ!!」

 炎柱の煉獄さんが、悔しそうにそう叫んだ。

「…はてさて、逃げられたのか、見逃されたのか、どっちなんだろうな」

 対照的に音柱の宇随さんが、辺りを見渡しながら、冷静にそう言った。

 

 私としては、見逃されたのだと…そう、感じていた。

 

 意識が完全に柱二人に行っていたとは言え、自分の技が上弦の鬼にも通じたと自信を持った中…

 

 

 …相手にならん…

 

 

 …上弦の参に、片手間に…本当に片手であしらわれたのは、屈辱以上に無力感を感じていた。

 

「…鳴ちゃーーん!」

「鳴さん!」

 

 少し離れた場所に避難していた雪と薫が駆け寄って来た。

 

「すごかったよー、鳴ちゃん!」

「上弦の参が現れなかったら、上弦の伍を討てていたのではないですか!?」

 

 二人が興奮気味にそう言った。

 

 確かに、それは私もそう思った。

 上弦の参が参戦しなければ、まさにあの瞬間に、煉獄さんの剣が上弦の伍を討っていたはずだ。

 

 

 …ただ、だからこそ、あの瞬間に上弦の参が現れたんだろう。

 

 

「ほんと、すごいよ、鳴ちゃん! 私なんて、相手を見ただけで足がガクガクだったのに!」

「確かに、格の違いを怖ろしいほど感じました。鳴さんが飛び出した瞬間には、頭がまっしろになりましたよ」

「ごめんね、今だ!…って思っちゃったから」

 

 足手まといになるから、隠れていろと言われていたのに、つい飛び出してしまった。

 

 

 …あれっ? これって、命令違反かも…

 

 

「命令違反は、いただけないなぁ」

 

 宇随さんのその言葉にドキーっとしてしまった。

「す、すみませんでした」

「ただまあ、速さと鋭さは申し分なかった。あともうちょっと力があれば、あそこで上弦の伍の首を切り落とせたかもしれなかったな」

「うむ! まさにここだ!…って瞬間での、いい一撃だった!!」

 宇随さんに続いて、煉獄さんにも褒められてしまった。

「あ、ありがとうございま…す?」

 しかられる流れからの称賛だったので、お礼を言っていいのか迷いながら、そう答えた。

「お前、成宮さんの弟子だったっけか?」

「はい。そうです」

「へぇー、成宮未来については、いろいろと噂を聞いちゃあいたんだが、姉弟子のほうも大したもんだ。

 こりゃあ、お前の分もあっちの噂に加算されちまったか?」

 未来についての噂は、まだ私は聞いていない。初任務がこれで、雪と薫以外の隊員とは話もしていなかったからだ。

 それでも…

 

「…それは違うと思います。未来は、もっと…全然すごいですから」

 

 姉弟子として、誇らしい…嬉しい気持ちはあるはずなのに、そう言ったときにはチクリと胸が痛かった。

 

 

「うむ! 俺の継子になるといい、面倒を見てやろう!」

 

 

 急に脈絡なく、煉獄さんが突然そう言ってきた。

 

「いやいや、いきなりなんでそうなりやがる。成宮さんとこの弟子だぞ」

 宇随さんが先に突っ込んでくれた。…良かった、さすがに柱の人に突っ込むのはどうかと思ったし。

 

「彼女の刀には、炎色が混じっている! 炎の呼吸の適正は十分にあると見た!

 雷の速さに、炎の激しさが加われば、確実に強くなるぞ!」

 

 

 その煉獄さんの答えは、激しく私の心を揺さぶった。

 

 

「…なるほど。確かに、な」

 

「どうだ! 炎柱を継ぐとかを別にしても、炎の呼吸の修行は確実に君を強くする! 甘露寺のように、別の呼吸を派生するかもしれないしな!」

 

 その提案は、恐ろしく魅力的だった。

 

「すごいすごい! 炎柱の継子だって!」

「柱のお墨付きですね!」

 

 雪と薫が左右からゆさゆさと体を揺さぶってくるが、そんなことが気にならないくらいに、心の方が揺さぶられている。

 

 心のどこかで、きっと追いつけないと思っていた未来に、追いつくことができる?

 

「…よろしく、お願いします!」

 

 気が付けば、そう言って頭を下げていた。…師匠に何の相談もなく、申し訳ないと思う間すらなかった。

 

 

 私は、未来の後ろじゃない、隣に立ちたいんだ!

 

 

 思い描いた未来が、その道が見えたと思った瞬間だった…その、凶報が告げられたのは…

 

 

 

「カァアァァ!! 炎柱、煉獄杏寿郎、音柱、宇随天元!」

 

 

 

 その鎹烏が、誰の鎹鴉かはわからない。

 

 

「大至急、本部ニ帰投セヨ! 緊急柱合会議デアル!!」

 

 

「なに!?」

「なんだ?」

 

 

「浅草ニテ、上弦ノ零、並ビニ、上弦ノ壱ガ現レタ!」

 

 

「ええっ!」

「浅草って…」

 

「…まさか…」

 

 

「恋柱、甘露寺蜜璃、霞柱、時透無一郎、並ビニ、成宮未来ノ三名ガ戦カッタガ…」

 

 

 

「…敗北シタ!!」

 

 

 

「なんだと!」

「……!」

「…え」

「そんな…」

 

 

 ドサッ…

 

 

 気づいたら、足に力が入らなくなっていた。

 

 

「…まさか、みらいが…?」

 

 

 

「大至急、緊急柱合会議ヲ開催スル!!」




これにて、浅草の鬼編が終了です。
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