「ぬぅっ、逃げられたかっ!!」
炎柱の煉獄さんが、悔しそうにそう叫んだ。
「…はてさて、逃げられたのか、見逃されたのか、どっちなんだろうな」
対照的に音柱の宇随さんが、辺りを見渡しながら、冷静にそう言った。
私としては、見逃されたのだと…そう、感じていた。
意識が完全に柱二人に行っていたとは言え、自分の技が上弦の鬼にも通じたと自信を持った中…
…相手にならん…
…上弦の参に、片手間に…本当に片手であしらわれたのは、屈辱以上に無力感を感じていた。
「…鳴ちゃーーん!」
「鳴さん!」
少し離れた場所に避難していた雪と薫が駆け寄って来た。
「すごかったよー、鳴ちゃん!」
「上弦の参が現れなかったら、上弦の伍を討てていたのではないですか!?」
二人が興奮気味にそう言った。
確かに、それは私もそう思った。
上弦の参が参戦しなければ、まさにあの瞬間に、煉獄さんの剣が上弦の伍を討っていたはずだ。
…ただ、だからこそ、あの瞬間に上弦の参が現れたんだろう。
「ほんと、すごいよ、鳴ちゃん! 私なんて、相手を見ただけで足がガクガクだったのに!」
「確かに、格の違いを怖ろしいほど感じました。鳴さんが飛び出した瞬間には、頭がまっしろになりましたよ」
「ごめんね、今だ!…って思っちゃったから」
足手まといになるから、隠れていろと言われていたのに、つい飛び出してしまった。
…あれっ? これって、命令違反かも…
「命令違反は、いただけないなぁ」
宇随さんのその言葉にドキーっとしてしまった。
「す、すみませんでした」
「ただまあ、速さと鋭さは申し分なかった。あともうちょっと力があれば、あそこで上弦の伍の首を切り落とせたかもしれなかったな」
「うむ! まさにここだ!…って瞬間での、いい一撃だった!!」
宇随さんに続いて、煉獄さんにも褒められてしまった。
「あ、ありがとうございま…す?」
しかられる流れからの称賛だったので、お礼を言っていいのか迷いながら、そう答えた。
「お前、成宮さんの弟子だったっけか?」
「はい。そうです」
「へぇー、成宮未来については、いろいろと噂を聞いちゃあいたんだが、姉弟子のほうも大したもんだ。
こりゃあ、お前の分もあっちの噂に加算されちまったか?」
未来についての噂は、まだ私は聞いていない。初任務がこれで、雪と薫以外の隊員とは話もしていなかったからだ。
それでも…
「…それは違うと思います。未来は、もっと…全然すごいですから」
姉弟子として、誇らしい…嬉しい気持ちはあるはずなのに、そう言ったときにはチクリと胸が痛かった。
「うむ! 俺の継子になるといい、面倒を見てやろう!」
急に脈絡なく、煉獄さんが突然そう言ってきた。
「いやいや、いきなりなんでそうなりやがる。成宮さんとこの弟子だぞ」
宇随さんが先に突っ込んでくれた。…良かった、さすがに柱の人に突っ込むのはどうかと思ったし。
「彼女の刀には、炎色が混じっている! 炎の呼吸の適正は十分にあると見た!
雷の速さに、炎の激しさが加われば、確実に強くなるぞ!」
その煉獄さんの答えは、激しく私の心を揺さぶった。
「…なるほど。確かに、な」
「どうだ! 炎柱を継ぐとかを別にしても、炎の呼吸の修行は確実に君を強くする! 甘露寺のように、別の呼吸を派生するかもしれないしな!」
その提案は、恐ろしく魅力的だった。
「すごいすごい! 炎柱の継子だって!」
「柱のお墨付きですね!」
雪と薫が左右からゆさゆさと体を揺さぶってくるが、そんなことが気にならないくらいに、心の方が揺さぶられている。
心のどこかで、きっと追いつけないと思っていた未来に、追いつくことができる?
「…よろしく、お願いします!」
気が付けば、そう言って頭を下げていた。…師匠に何の相談もなく、申し訳ないと思う間すらなかった。
私は、未来の後ろじゃない、隣に立ちたいんだ!
思い描いた未来が、その道が見えたと思った瞬間だった…その、凶報が告げられたのは…
「カァアァァ!! 炎柱、煉獄杏寿郎、音柱、宇随天元!」
その鎹烏が、誰の鎹鴉かはわからない。
「大至急、本部ニ帰投セヨ! 緊急柱合会議デアル!!」
「なに!?」
「なんだ?」
「浅草ニテ、上弦ノ零、並ビニ、上弦ノ壱ガ現レタ!」
「ええっ!」
「浅草って…」
「…まさか…」
「恋柱、甘露寺蜜璃、霞柱、時透無一郎、並ビニ、成宮未来ノ三名ガ戦カッタガ…」
「…敗北シタ!!」
「なんだと!」
「……!」
「…え」
「そんな…」
ドサッ…
気づいたら、足に力が入らなくなっていた。
「…まさか、みらいが…?」
「大至急、緊急柱合会議ヲ開催スル!!」
これにて、浅草の鬼編が終了です。