二回目のが後遺症は重いと聞きますが、個人差が大きいとも言いますしね。
言いたいことを言ったので、部屋を後にする。
整理する時間もいるだろうし、打ち合わせなり相談なり、すり合わせる時間も必要だろう。
「…零余子様」
「ん、何?」
どこかおずおずと、長子ちゃんが口を開いた。
「お互いに妥協をしようとのことですが、どこまで妥協するおつもりなのですか?」
「んー?」
何が言いたいのか、よくわからない。
「私と零余子様、それに阿修羅殿と山坊主殿も、方相氏ゆえに食事は必要ないですが、他の鬼達は違います。
人間の犠牲を減らすためという理由で、食事を制限するのはいかがなものかと…」
長子ちゃんがそう言って、懸念事項を忠言してきた。
「…何をズレたことを言っているの?」
だけど、まるでお話にならない。
あえてぼかしたとは言え、そんな受け取り方をされていたとはねえ。
「こちらが妥協するのは、新生鬼殺隊の存続を認めることだけに決まっているじゃない。それも、ある程度こちらのコントロール下にあることが前提で、よ」
「…そうなのですか?」
「そもそも、こちらとあちらは対等じゃないの。同じだけ妥協…譲歩するわけないじゃない」
まあ、そういう風にも聞こえるように言ったんだけど、そう素直に受け取られるとなあ。
「黒死牟様の話にもあったように、鬼殺隊を壊滅させるのって、めんどくさいの。
当主を殺して、柱の何人かを排除しても、また時間が経てば、どっか知らない場所で鬼殺隊は復活するのよ。
まあ、仕方ないから、また探すでしょ。そして、同じように当主を殺して、それを支える柱も殺すことになるじゃない。でもまた、時間が経てば、またまたどっか知らない場所で鬼殺隊は復活することになるわけ。
うわー、めんどくさー」
考えただけでゲンナリする。
「そんなことになるくらいなら、新しい鬼殺隊は私達の知っている場所で、ある程度こっちの言うことを聞く状態で、存在してる方がましでしょう?」
「…それは、確かに」
「だから、私達は妥協して、こっちの言うことを聞いてくれる状態だったら、鬼殺隊が存続することを認めましょうということ」
「…では、向こうに求める妥協と言うのは?」
「んー、まずはこっちに逆らわないこと。あと、こちらの重要な鬼には手出ししないこと。んーー、そんなものかな?」
あらら、思ったほど、あちらも妥協する部分は少ないね。まあ、いいことだ。
「…それは、ある程度の鬼の犠牲者には目をつぶれ、と、そう言うことですよね」
「んーーー?」
長子ちゃんが変なことを言う。
「今更でしょ? 今だって鬼殺隊は鬼の犠牲者をゼロにはできていない。今後もそうなるだけで、何もマイナスにはなってないじゃない。
それに、ちょっとやんちゃが過ぎる雑魚鬼については、こちらから情報を流してあげるつもりだから、今よりも鬼の犠牲者は減ることになる。断然プラスじゃないの」
そこまで言いながら、ふと、うまい表現を思いつく。
「そうね。言ってみれば、理想を追わずに、現実に妥協しろってことになるわね」
鬼は人を喰う。そんな鬼が存在する以上、人間の犠牲者をゼロにすることなんてできない。不可能だ。それが、どうしようもない現実だ。
鬼の犠牲者をゼロにする。それは鬼殺隊の理想なんだろうけど、それをするためには鬼を全滅させなければできっこない。そして、そんなことはできない。不可能だ。
「…あの娘達は、そのことに気付いているんでしょうか?」
「んー、恋柱はまず気付いてない。霞柱も多分、気付いていないね。…でも、蟲柱は気付いていると思うよ」
あの話をした時の様子から、そう推測した。
「…では、この提案を受けるでしょうか?」
「ははっ」
かなり彼女達に肩入れしているように見受けられる長子ちゃんに、思わず笑ってしまう。
「受けるなら任せるし、受けないなら受けるまで強く魅了するだけだよ。
受けないという選択肢は、そもそも存在していない」
「ふ… なるほど…」
私のその回答に、黒死牟様が笑った。
「どうしました?」
「いや… 甘くは… ないなと… そう思っただけだ…」
「そうですか?」
ずいぶんと、甘い提案だと思うんですけどねえ。
そもそもが、鳴ちゃんとか、雪ちゃん薫ちゃん、ついでに獪岳とかが、死なないように、あとは無職にならないようにって、それが一番の理由なんだから、びっくりするくらいに甘々だ。
「…魅了を深くかけると、壱から十まで、私が指示しないといけなくなるから、それはそれで面倒なんですけどね」
面倒を避けるために、また別の面倒を背負うことになるなんて、なんて面倒な話だ。
「でも、ま、多分だけど、蟲柱は提案を受けるよ」
「…どうして、そう思うんですか?」
「彼女は…ううん、彼女だけは、現実を知っているからだよ」
そう、無惨様を討つことは、絶対にできないという、現実を…ね。
お互いに妥協しましょうというのは、実際にはただの降伏勧告でした。
それも、拒否できないという類の(爆)
しかし、鬼と鬼殺隊の戦況の有利不利の状況からすれば、それも致し方ないか。