「…上弦の伍…」
話だけは、宇随と煉獄に聞いていた。
壺から壺へと瞬間移動し、捕らえ難いと。
ただ、見た目の印象は…
「…まるで蛇だな、胸糞が悪い」
「何を言うか! この私の美しいフォルムの、どこが蛇だっ!!」
短い手をばたつかせて、そう文句を言ってくる。
だが、その見た目は完全に、醜い蛇の下半身に、更に醜い人間の上半身があるようにしか見えない。
それは、まるで、奴のようで…
「…上弦の伍か、…もちろんお前の方が強いんだろうな」
そうだ、俺の生殺与奪の権を完全に握っていて、神が如く振るまい、一族の者もそのように扱っていたが…それでも、奴は上弦どころか、十二鬼月ですらなかった。
「背開きか、腹開きか、どっちがいい?」
「きっさまーーー!!!!」
「この後、上弦の壱に、零、…二戦控えているんだ。手間取っていられないんだよ」
「…おいおい、嘘だろ。上弦の陸だって…」
「ふふん、今更びびっているのかしら」
瞳に描かれているのは、上弦と陸の文字。それを信じるならば、この女が上弦の陸ということになる。
「お前、吉原に潜んでいた鬼か?」
「まあ、見ればわかるわよね。あそこで情報を集めつつ、おびき寄せた柱を一人ずつ殺していく計画だったのに、あの小娘のせいでご破算よ」
不機嫌そうに、そう言う女。はてさて、小娘ってのは、さっき見かけた上弦の零のことを言っているのかね?
ただ、まあ…
「お前が吉原にいた鬼だっつーなら、ハズレだったってことだな」
「は?」
「お前、上弦の鬼じゃねぇだろ、弱すぎなんだよ」
ズッ…
「えっ?」
ニブいにも程がある。頸が落ちてようやく、驚きの声をあげてやがる。
「さってと、さっき見かけた上弦の上の連中は、どう考えても一人では厳しそうだったな。こいつの一個上の上弦の伍もそれなりにやばかったし、急いで合流しねぇとな」
「ちょっと待ちなさいよ、どこ行く気!?」
上弦詐欺のこの女は、一体何の間違いなんだ?
「よくもアタシの頸を斬ったわね、ただじゃおかないから!」
「まぁだギャアギャア言ってんのか。もうお前に用はねぇよ、地味に死にな」
「ふざけんじゃないよ! だいたいアンタさっき、アタシが上弦じゃないとか言ったわね」
「だってお前、上弦じゃねぇじゃん」
「アタシは上弦の陸よ!!」
「だったら何で頸斬られてんだよ、弱すぎだろ。脳味噌爆発してんのか」
「アタシまだ負けてないからね! 上弦なんだから!」
「負けてるだろ、一目瞭然に」
「アタシ本当に強いのよ! 今はまだ陸だけど、これからもっと強くなって…」
「説得力ね…」
「わーーん!!」
「ほんとにアタシは上弦の陸だもん、本当だもん! 数字だってもらったんだから! アタシ凄いんだから!!」
ギャン泣きじゃねぇか、嘘だろ?
いやいやいや、それよりコイツ、いつまで喋ってんだ?
頸を斬ってるのに、体が崩れねぇぞ…
「死ねっ!! 死ねっ!! みんな死ねっ!!」
ダンッ! ダンッ!!
「わぁあああ! ああああ!!」
子供のように泣きわめいているが、体が崩れそうな感じはまるでない。
「頸斬られちゃったああ! お兄ちゃああん!!」
「うぅううん」
頸を斬った体から、何かが出ようとしている!
!!!!
即座に放った斬撃は、あっさりと躱された。
「泣いてたって、しょうがねぇからなああ。頸くらい自分でくっつけろよなぁ。おめぇは本当に頭が足りねぇなあ」
頸を斬り落としたのに死なない。
背中から出てきたもう一体は何だ!? 反射速度が比じゃねえ。
…音の呼吸 伍ノ型 鳴弦奏々(めいげんそうそう)…
とにかく、二体まとめて…
…円斬旋回・飛び血鎌(えんざんせんかい・とびちがま)…
…お互い、小細工なしの全力全開ってか!?
「良いぜぇ! こっからはド派手に行くぜ!!」
アニメの遊郭編、楽しみです。