前にいるのが、鬼で良かった。…小鬼だったら、R-18タグが必要でした。
零余子ちゃんは鎖帷子を装備すべき。
次の日の夜、廃寺にやって来た私を見て、山坊主がげんなりとした顔をする。
「…なんでまた来たんじゃ?」
「うるさーい! 勝負だ! 今度はこっちがギッタンギッタンにするんだ!!」
そんな私に対して、こいつはため息までついてきた。
「儂はもう、お前さんと戦う気にまるでならん」
「なっ、なんでだよー!」
「なんでって…」
心底疲れたような顔をして、こちらを見る。
「戦いの最中に、ぎゃーぎゃーと、泣くは喚くは、あげくの果てには…」
「あーー! あぁーーーー!!!」
「じゃから、とっとと帰れ」
しっしと手を振るさまは、猫を追い払うかのごとくだった。
「…そうはいかない。私は強くならないといけないんだもん。…少なくとも、お前に勝つくらいには強くならないと」
山坊主はボリボリと頭を掻くと、面倒くさそうに言った。
「しょうがない奴じゃな。せっかくじゃ、一応聞いてやるから言ってみろ」
「…なんと、お前さん、まだ鬼になって一年しか経っておらんのか」
コクリと頷くと、呆れたようにため息をついた。
「鬼になって、たった一年で十二鬼月になるじゃと? そんな話は見たことも聞いたことも…ああ、あるなあ。
確か童磨(どうま)様が、鬼になってわずか一年で十二鬼月になったと聞いたことがある」
「童磨様って?」
「今の上弦の弐じゃよ」
うへぇ。…鬼になって一年での十二鬼月入りは、かなり厳しい道のようだ。
「そういや、山坊主…さんは、どれくらいで下弦の肆になったの?」
「儂か? 儂は四十五年前に鬼になって、下弦の陸になったのが三十年前、下弦の伍になったのが二十五年前、下弦の肆になったのが二十年前になる」
「へー、すごい順調じゃないの」
私の言葉に、すごく皮肉気な苦笑を浮かべた。
「…そこまでは、な。
…そこからは、上に行けると思えずに、上に行くことを諦め…その地位を守ることしか考えられなくなった」
「…しかし、結局は十年前に入れ替わりの血戦で敗れ、今に至るというわけじゃ」
「あれ? 下弦の伍に落ちるわけじゃないの?」
「違う、入れ替わりじゃ。儂のその時の相手は十二鬼月外だったから、負けた儂が入れ替わって十二鬼月外に落ちたんじゃ」
「へー、どんな鬼に負けたの? …というか、十二鬼月ってどんな鬼達なの? どれくらい強いの?」
ここぞとばかりに、ぐいぐいと聞く。
「…図々しい奴じゃなあ。…まあいいか、話してやるわい」
上弦の壱…黒死牟(こくしぼう)様。…ちなみに、敬称は山坊主の付けてたのをそのまま使っている。
十二鬼月最古にして最強の鬼。全ての鬼の中で、あの方の次に強いのは間違いない。
元は鬼殺隊の剣士で、腰にも刀を差していることより、刀を使って戦うと思われる。
…残念ながら、山坊主は黒死牟様が戦っている姿を、見たことがないとのこと。
上弦の弐…童磨様。…さっき話題になった人…というか、鬼だ。
鬼になってわずか一年ほどで下弦の陸になり、その後もトントントンと序列を駆け上がり、現時点で上弦の弐にまでなっている。
…山坊主が十二鬼月入りしたころには既に上弦の弐だった為、これまた戦っている姿は見たことがないとのこと。
上弦の参…猗窩座(あかざ)様。
…またまた戦っている姿は見たことがないらしいが、一切の武具や飛び道具を使わずに、己が肉体のみで戦うと聞いたことがあるとのこと。
あ、私とおんなじだって言ったら、一緒にするなとほっぺたをつねられた。
上弦の肆…半天狗(はんてんぐ)様。
見た目は弱そうな老人とのこと。
…これまた、またまた、戦っている姿を見たことないのだが、上弦の肆にいるからには、おそらくすごい血鬼術が使えるのだろうとのこと。
上弦の伍…玉壺(ぎょっこ)様。
その姿は独特な…異形の鬼とのこと。
…そして予想通り、戦っている姿は見たことがないとのこと。
役に立たないなぁ…と思わず言ってしまったのは仕方ないよね? それなのに、無言でほっぺたをぐにぐにされた。
「ひゃへひょー! ほっへははひひへふー!!!」」
上弦の陸…堕姫(だき)様。
すごく綺麗で色っぽい大人の女性とのこと。…お前より全然大人だとか、色気が違うとか…そんな情報いらない。
「堕姫様の戦っている姿は、見たことがあるぞ」
ちょっと自慢気に言われたことに、若干イラっとした。
その戦いは、入れ替わりの血戦で、相手は下弦の壱。都合二回行われたのを見たとのこと。
堕姫様の血鬼術は帯を使うらしい。無数の色とりどりの帯が舞い踊るのは非常に美しかったそうだ。
そして、その帯は柔らかくも、非常に鋭く、二回の血戦共に、たちまちの内に下弦の壱の首を跳ね飛ばしたらしい。
「駄目じゃん。下弦の壱、まるで成長してないじゃん」
「いやいや、これだから素人は…」
何の素人で、お前は何の玄人なのかを聞きたかったが、ほっぺたの危機を感じて、ぐっと我慢した。
下弦の壱…止水(しすい)様。…今さっき話題に出たばかりの鬼だ。
黒死牟様と同じく、元鬼殺隊の剣士であり、まさにその黒死牟様の誘いに応じて鬼となったらしい。
堕姫様との血戦で、一度目のものは何もさせてもらえずに首を落とされたのだが、二度目には何かの剣技を用いて、襲い掛かる無数の帯を斬り裂きながら舞うように間合いを詰めていき、堕姫様の首も半分斬ったのだが…完全に斬り落とす前に、堕姫様の額に第三の目が見開き、直後に背後からの帯で首を落とされたそうだ。
…どうでもいいけど、山坊主の語り口調が熱い。
黒死牟様からは…敗れはしたが、悪くなかった…と褒められていたとか。
あの方からも…成長のあとが見られた。何よりもその上を目指す姿勢が見事だ…と絶賛されていたとか。
上弦の鬼になった暁には、”止水”の前に”明鏡(めいきょう)”をつけることを約束されているとか。
猗窩座様にも気に入られていて、既に上弦の漆(しち)のように扱われているとか。
…情報量が、一人だけ多すぎるんですけど!? …あ、玄人って、そういう…
「…何か言いたげじゃな?」
ほっぺたを押さえながら、なんでもないですよと首を横に振った。
オリジナル十二鬼月の設定について
下弦の壱、止水さん。
命名の由来は明鏡止水と、鬼になって”止”まった”水”の剣士の意味から。
黒死牟様の話では、鬼殺の剣士を何人かスカウト成功しているようなのに…
原作で出たのは、獪岳さんだけ。
元鬼殺の剣士の鬼なんて、強そうなのになあ。そう思って登場したのが、止水さんです。
堕姫さんとの二度目の血戦で使ったのは、「拾ノ型 生生流転」でした。
水柱の継子をしていたころ、黒死牟様と水柱の戦いを見て、水柱にあっさりと勝った黒死牟様に、鬼になることを申し出たという設定があったり。