零余子「…えー、いらないんだけど」
Q.もしも、もしもの話です。
零余子「…んー、大蜘蛛と……臭蜘蛛(くさぐも)?」
そこに、愛はなかった。
長子様の秘書…的なものになってから、一番最初に渡されたのが…
「…紫色の薬?」
…瓶に入った紫色の液体だった。
「紫色の彼岸花から抽出した薬です。飲むよりは、直接血管に注射したほうが効果が出るのは早いから」
「…はあ? どんな効果が?」
結が瓶を電灯に透かしながら、そう聞いた。
「太陽の下でも、問題なく行動できるようになるわ」
「「ぶっ…」」
「…ああ、二時間って制限はあるけど」
長子様が追加で注意事項を言ってくれたけど、とんでもない薬だった。
「追加の青い彼岸花の薬は、さすがにまだできてないし…まあ、できていても…まだあなた達にまでは、回せないからね」
なんだか、サラリと超重要事項が語られてる気がする!
「…じゅ、重要なものなのでは?」
先ほどまでと違い、結が両手で落とさないように大事に抱えながら、そう聞いた。
「まあ、貴重品ではあるけど、私の仕事の手伝いには必須だからね。隣でいきなり燃えられても困るし」
「仕事は屋内だけかと、思ってました」
「…基本はね。京都市内くらいは普通に回ることもあるから…まあ、移動も基本は車なんで、一日で1時間も太陽の下にでることはないとは思うけど。
…正直、仕事中にそんなことを計算できる気はしないので、自分たちで把握しておいてね。あとで注射器を渡すけど、その瓶の量で十回分になるわ。一度に全部使っても二十時間分にはならないから」
「…え、えっと、いくらくらい…いえ、なんでもないです」
結が値段を聞こうとして、やっぱりやめた。うん、正解だよ。聞いたら多分使えなくなる気がする。間違いない。
…なんだか、ここに来て…いや、零余子様に会ってから、驚いてばかりだ。
「…さすがに、もうこれ以上は驚くことはない…よね?」
「ばっばーん! 鬼殺隊に入隊したよ。これは隊服で、こっちが待望の日輪刀!!」
久しぶりにお会いした零余子様は、前に那田蜘蛛山で見たことがある、鬼殺隊の人間のような恰好をしていた。
「…えっと、おめでとうござい…ます?」
どう言うのが正解なのだろうか?
「ふっふーん、ありがと」
にぱーと笑顔でお礼を言ってくれたので、間違いではなかったようだ。
「…目的は果たされたということで、今後はこちらに戻っていただけるのですよね」
長子様の問いかけ…というか、確認は、割と圧があった。
「うーん、当初の目的は果たしたんだけど、鬼殺隊の本拠地の場所はまだわかってないから、もうちょっとかかるかな」
「…そうですか」
その零余子様の答えに、長子様が肩を落とされる。
「…え、えーと、うん。そんな長子ちゃんに朗報です!」
あからさまにシュンとなってしまった長子様を励ますかのように、零余子様がそう言った。
「長子ちゃんの十二鬼月入りが決まりました! わー! おめでとー! ぱちぱちぱち!」
かなり重要なことを、割と軽くおっしゃられる。…そういう性格…というか、性質だと理解してはいても、心臓と胃に悪い。
「…え、えっと、下弦の陸…でしょうか?」
長子様がそう質問…というか、確認をする。
そこには、そうであってくれという願いが込められていた。
下弦の伍の累は、零余子様の後ろに平然と突っ立っているし、下弦の肆は零余子様で…つまりは、下弦の壱から参であるならば、形の上では零余子様よりも上位の鬼となってしまう。
さすがにそれは避けたいという気持ちは、痛いほどよくわかる。
「あっはっは! 釜鵺くんは生きてるよ。勝手に殺しちゃあ駄目だよ。めっ!」
何がおかしいのか、零余子様が笑って否定する。
笑い事じゃないよ、長子様の顔色が真っ青だよ。
「長子ちゃんには、私の後の下弦の肆になってもらいました。ちゃんと無惨様の許可も取ってるよ」
そう言って、答え合わせをしてくれる。
私たちはそろってホッとして、それから、んっ?…となる。
「…あの、それは零余子様が下弦の上位…あるいは、上弦の鬼になられるということですよね?
…でしたら、その代わられた方が下弦の肆になられるのでは?」
代表して、私がそう聞いた。
「ううん、私は上弦の零ってのになるから、下弦の肆は空いちゃうんだ。問題なし!」
「「「……………」」」
そろって絶句する私たちを、累が生暖かい目で見ている。
気持ちはわかる…そう言っていると理解できたよ。
とにもかくにも…
「「「それが一番、重大な報告ですっっ!!!」」」
「お、おう…」
私達が綺麗にそろって突っ込んだので、零余子様がびっくりした顔をされる。
いえいえ、驚いたのはこっちですよ。
上弦の零…つまりは、現在の十二鬼月より上の役職を、あの方が作られたということで、あの方の次に偉い鬼に、零余子様がなられたということで! とにかく、これはすごいことで!!
…本当に、零余子様には驚かされてばかりだ。
…でも、今後もそんな生活が続けばいいな…なんて、私もすっかり毒されたものだな。
これにて、ある女鬼の話は終了です。
おまけ的に挿入したエピソードでしたが、思ったよりも長くなりました。