「あっと、最初に決着が着きそうなのは、ここかな」
うん、意外なようでもあり、順当なところでもあるかな。
「無惨様、ちょっと行ってきますね」
「ふむ、何をしにだ?」
どこへとは聞かず、用件の方を聞かれた。
「一言で言いますと、勧誘…になりますかね?」
「…ふん、好きにしろ」
そうして、無惨様の許可を得る。
「では胡蝶様、行きましょうか?」
「えっ? …で、ですが…」
私が誘うと、蟲柱が躊躇する。
いろいろと思うところがあるのはわかるが、躊躇っている場合ではないだろうに。
「…正直、私だけでは話はうまく転がらないでしょう。そうなると、彼はただ死ぬだけですが…それでいいんですか?」
私のその言葉に、覚悟を決めたようで…
「…わかりました。お願いします」
…そう、頭を下げて来た。
…月の呼吸 参ノ型 厭忌月・銷り(えんきづき・つがり)…
…岩の呼吸 伍ノ型 瓦輪刑部(がりんぎょうぶ)…
無造作に振るわれた二連撃…そこから放たれる斬撃に対し、右足で跳躍し、鉄球と手斧にてなんとかいなす。
打つ手が限られてきている。
天秤は既に大きく傾いているのは、間違いない。
…月の呼吸 陸ノ型 常世孤月・無間(とこよこげつ・むけん)…
…岩の呼吸 伍ノ型 瓦輪刑部…
ただの一振り。
だが、そこから放たれる無数の斬撃を、馬鹿の一つ覚えのように、跳躍して、鉄球と手斧の重量を以て、なんとかさばききる。
攻め手に回れない。
向こうの放つ技を、なんとか致命傷を避けるようにさばくのがやっとになっている。
筋肉の収縮で、なんとか止血はできているが、左足を失ってしまったことが、どうしようもなく厳しい。
踏ん張りが効かない。
距離を取れない。あるいは詰めれない。
「…だが、まだ生きている。動けるし、振るえる」
「ふふ… 見事だ… 技の冴えに… 乱れなし…」
チャキ…
鬼気が巨大になる。
奴の持つ刀が長く、大きく、禍々しくなる。
「もったいないが… しまいにしようか…… ぬ…」
途端、気が霧散するのを感じる。
「はーい! ちょぉーっと、お待ちを!」
突如として現れたのは、地上にて感じたものと、そして…
「さて… 何用かな…」
「はい、勧誘に来ました」
…勧誘、か…
「なるほど… 確かに… 惜しいな…」
「ですです。ご理解いただいて嬉しいです」
…鬼への勧誘ならば、一顧だにしないのだが…
「…久しいな、胡蝶。生きていたか」
「…お久しぶりです、悲鳴嶼さん」
…死んでしまったと思っていた胡蝶の気配を感じたからこそ、話をしようと思った。
「………」
「…………」
だが、互いに次の言葉は出なかった。
「んー? 私から言いますか」
見かねた上弦の零が、助け船を出す。…実に皮肉な話ではあるが。
「勧誘と言っても、鬼になれってことではないです。…ああ、別に鬼になってもいいって言うんなら、それはそれでありですけどね」
「そんな気は毛頭ないな」
「ま、でしょうね。だから、それとは別の勧誘です。
実は新しい鬼殺隊を作ろうと思ってます。そちらの胡蝶様を中心にした、今までとは違う新しい組織です」
その言葉に、胡蝶がビクッと震えた。
「正当な後継組織であると周囲に示すには、柱の数が多い方が説得力ありますからね。だから、こうやって勧誘に来たんですよ」
…何ともはや、勧誘する気があるとは思えない言いぶりだ。
「…裏切りだと、…そう思われても仕方ありません」
胡蝶が重い口を開いた。
「…鬼の口車に乗せられ、体よく利用されているだけ…それも、そうなのでしょう」
その言葉には、強い苦悩が伺えた。
「ですがっ!! …ですが、鬼の犠牲になる人を、できるだけ少なくなるように、全力をつくします!
それだけはっ! …それだけは、今ここに、誓います!」
…鬼殺隊の初志、それだけは必ず貫くと、誓ってくれた…
「…そうか。…信じるとも」
「…悲鳴嶼さん…」
「…おー、纏まりました?
足は残念ですけど、まあ相談役みたいなので、…あー、鬼になれば治りますよ。やっぱり鬼になります?」
「…一つ、聞いてもいいだろうか」
「…なんですかね?」
「お館様は、どうなるのだろうか」
「………無理ですね。どうあっても、無理です。…旧鬼殺隊の象徴として、これまでの鬼殺隊の全てを背負って、死んでもらいます」
「…そうか」
「……子供たちは生かしてあげても良いです。
まだ年端もいかないようですし、正当な後継組織であるとの説得力にもなりますし、それに、これまでの協力者の協力も得やすいでしょうから」
…それが、最大限の譲歩なのであろう。
「…そうか、それはありがたいな」
…どうだろう、信じられるだろうか? …ああ、だが、信じたいな…
「…私は、お館様に命を救われた。お館様が死ぬと言うならば、私だけでも供をしたいと思う」
「…悲鳴嶼さん…」
「…供は私だけでいい。そう伝えてくれ」
「…わかり、ました」
「…最後に話ができて良かった。我々の心は残る、これからも続いていく、それだけで十分だ…」
悲鳴嶼さんは、状況把握能力は高いと思ってます。
太陽の下に、上弦四体を連れて、鬼舞辻無惨が現れた。
いろいろと、悟った部分がありました。
しのぶさんの新しい鬼殺隊を、裏切りというよりも、希望と見ました。