なんとなく匂わせるだけで、書かなくてもいいかなとも思いましたが…それぞれの決着としては、必要かなと。
…さて、そろそろ認めざるを得ないのかもしれない…
…それは、自分の死などよりも、遙かに認めるのが難しいものだったが…
「…負けたんだね。私達は、鬼殺隊は…」
一族が滅びるまで…人の営みが続く限り…どこまでも食らいつく…そう覚悟していたはずなのだが…
「…私達が鬼舞辻を滅ぼすのが先か、鬼舞辻が永遠を得るのが先か、そういう勝負だったということか…」
…鬼舞辻無惨は、陽光を克服した…
そのことが持つ意味は、とても重たい。
鬼舞辻を滅ぼす方法が、まるで思い浮かばない。
どうにかして封印し、海の底にでも沈めるくらいしか、方法はなさそうだ。
怯え疲れ、私の膝で眠る娘達…ひなきとにちかの頭を撫でながら、そんなどうしようもない…益体もないことを考えるだけだった。
私はもう間もなく死ぬだろう。
それが病によるものなのか、鬼舞辻の手によるものなのかは、どうでもいい。そのことは覚悟していたし、抗うつもりもない。
残念に思うのは、奇跡のようにつどった、歴代でも上位に来るであろう柱達を喪ってしまうことだ。
私の死後、輝利哉が新たな鬼殺隊を率いることになるだろう。
だが、そこには輝利哉を支えてくれる柱達が、居ない。
更には、鬼舞辻が陽光を克服したことすら、知らない。
なんという苦難な道だろうか。呪われているとしか思えない。
…人を呪うのは、人ってことですよ…
ふと、そんな言葉を思い出す。
呪いの起こりはわからないが…
…人の想いは永遠だ、決して許さない、絶対に逃がすまい…
…私が死んでも、子が、孫が、一族の誰かが、きっと滅ぼしてやろうぞ…
「………なるほど。
…我が一族を呪っているのは、我々だと言われても…否定できないのかもしれないね…」
「…お館様」
「…行冥かい?」
つい数時間前に聞いた声と雰囲気に、懐かしさを感じる。
「…助けに来てくれた…という感じでは、なさそうだね」
「…残念ながら」
勘がどうとか以前の問題だ。そんなわけがないことは、とっくにわかっている。
そもそも、私を助ける余裕があるのなら、どうにか逃げて輝利哉の元に行って欲しいというものだ。
「…私はもう戦えないので、御供をしようと参りました」
「…そうかい」
行冥の声には諦観があったので、ある程度予想できた答えだった。
そして、あの行冥をしても、諦めざるを得ないということだった。
いよいよだと言うことで、ひなきとにちかを軽く揺さぶってみるが、どうにも目覚める様子はない。
そこに、声がかかった。
「…私の血鬼術で眠ってます。親に縋り付いて泣く子らは、見たくなかったもので…」
「…お館様」
「…しのぶかい? 良かった。生きていてくれたんだね」
懐かしいしのぶの声と気配に、安堵する。
「…蟲柱と岩柱との約束ですから、その子らは生きて帰してあげます」
数時間前に聞いた、上弦の零が淡々とそう言った。
「そうなのかい?」
「ええ。子供を殺すのは、イヤですから」
上弦の零の言葉に、徐々に感情がこもってくる。
「あなたを殺した後、蟲柱があなたの子供を立てて、新しい鬼殺隊を作ります。これまでのものとはまるで違う、まったく新しい鬼殺隊です」
上弦の零が吐き出したのは、そんな宣言だった。
だが、しのぶが居てくれるのは、本当にありがたいことだ。
しのぶは珠世さんと繋がりがある。
今の私には何も思い浮かばないが、もしかしたら鬼舞辻をなんとかできるかもしれない。わずかなりとはいえ、そんな可能性が出て来た。
そんなことを考えていると、私のその考えを遮るように、言葉が発せられた。
「私はあなたが嫌いです! あなたの…あんたの鬼殺隊が、大っ嫌いだっ!!」
こんな風な、あからさまな嫌悪を叩きつけられるのは、いつ以来だろうか?
「少数精鋭と言えば聞こえはいいが、ただ情報漏洩の危険性を下げる為だけ…いえ、意思統一をしやすくする為もあるのかもね、でもその為に、隊員はごく少数で、極めて危険な任務に当たらざるを得ない。
生きて帰れたら儲けもの、仮に負けて死んでも、残った隊員の意識高揚に使える。仲間の仇を討て、鬼を憎め、鬼を恨め! その為に命を賭けろ!!」
そんな上弦の零の言葉に乗っているのは、純粋な怒りだった。
「弱き者を助ける? 人々を救う? そんなのは、二の次だろう!
あんたの鬼殺隊からは、そんな綺麗ごとでは隠せない、鬼への…無惨様への、おぞ気が走るような恨みと憎しみしか感じない!
弱き者が死んでも構わない! 人々がどれだけ殺されようともどうでもいい! 隊員の血がどれだけ流れようが、どれだけの屍を積み上げようが、たとえ全滅の憂き目にあおうが、ただただ無惨様へとその刃が届くことこそが、最優先!!
隊員たちの屍山血河の果てに、無惨様を殺そうとするお前は、鬼よりも尚、悍ましいっ!!」
むき出しの敵意が、どうしようもない怒りが、更には隠そうともしていない隊員への同情が、そこには乗っていた。
「私たちの勝ちだ! お前の負けだっ!! 地獄に堕ちろっっ!!!」
「…言われてしまったね」
「…ですな」
言いたいことを言い切って、上弦の零が私と行冥を残して行ってから、少しだけ時間が経っていた。
「可哀想な子供たちを、大勢死地に送り出したのは、他でもない私だ。
そんな私が地獄に堕ちるのは、当然のことだろう」
「……」
それはいい。それはどうでもいいんだ。
「…ああ、あんな鬼が居たんだねえ」
彼女らが消えて、しばらく言葉が出ないほどに驚いたのは、その為だった。
「彼女の言葉には、怒りがあった。…それも、私が鬼を滅ぼそうとしていることに、じゃあない。
…その為に、隊員(こども)たちが死んでいることに対して、怒っていた」
その純粋な怒りは、むしろ嬉しく感じられた。
「…いつの間にか、時代は変わってしまっていたんだね」
千年続いた、鬼との…無惨との戦い。
統治者が代わっても、年号が替わっても、変わらないと思っていたんだけどね。
「…負けたんだね。私達は、私は…」
零余子ちゃん、耀哉のことは嫌いです。
多分、童磨よりも、ずっとずっと…