零余子日記   作:須達龍也

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今回の話は、書くかどうか迷いました。
なんとなく匂わせるだけで、書かなくてもいいかなとも思いましたが…それぞれの決着としては、必要かなと。


それぞれの決着7

 …さて、そろそろ認めざるを得ないのかもしれない…

 

 …それは、自分の死などよりも、遙かに認めるのが難しいものだったが…

 

 

 

「…負けたんだね。私達は、鬼殺隊は…」

 

 

 

 一族が滅びるまで…人の営みが続く限り…どこまでも食らいつく…そう覚悟していたはずなのだが…

 

「…私達が鬼舞辻を滅ぼすのが先か、鬼舞辻が永遠を得るのが先か、そういう勝負だったということか…」

 

 

 

 …鬼舞辻無惨は、陽光を克服した…

 

 

 

 そのことが持つ意味は、とても重たい。

 

 鬼舞辻を滅ぼす方法が、まるで思い浮かばない。

 どうにかして封印し、海の底にでも沈めるくらいしか、方法はなさそうだ。

 

 怯え疲れ、私の膝で眠る娘達…ひなきとにちかの頭を撫でながら、そんなどうしようもない…益体もないことを考えるだけだった。

 

 

 私はもう間もなく死ぬだろう。

 

 

 それが病によるものなのか、鬼舞辻の手によるものなのかは、どうでもいい。そのことは覚悟していたし、抗うつもりもない。

 残念に思うのは、奇跡のようにつどった、歴代でも上位に来るであろう柱達を喪ってしまうことだ。

 

 私の死後、輝利哉が新たな鬼殺隊を率いることになるだろう。

 

 だが、そこには輝利哉を支えてくれる柱達が、居ない。

 更には、鬼舞辻が陽光を克服したことすら、知らない。

 

 なんという苦難な道だろうか。呪われているとしか思えない。

 

 

 

 …人を呪うのは、人ってことですよ…

 

 

 

 ふと、そんな言葉を思い出す。 

 呪いの起こりはわからないが…

 

 

 

 …人の想いは永遠だ、決して許さない、絶対に逃がすまい…

 

 …私が死んでも、子が、孫が、一族の誰かが、きっと滅ぼしてやろうぞ…

 

 

 

「………なるほど。

 …我が一族を呪っているのは、我々だと言われても…否定できないのかもしれないね…」

 

 

 

「…お館様」

 

「…行冥かい?」

 つい数時間前に聞いた声と雰囲気に、懐かしさを感じる。

「…助けに来てくれた…という感じでは、なさそうだね」

「…残念ながら」

 

 勘がどうとか以前の問題だ。そんなわけがないことは、とっくにわかっている。

 そもそも、私を助ける余裕があるのなら、どうにか逃げて輝利哉の元に行って欲しいというものだ。

 

「…私はもう戦えないので、御供をしようと参りました」

 

「…そうかい」

 行冥の声には諦観があったので、ある程度予想できた答えだった。

 そして、あの行冥をしても、諦めざるを得ないということだった。

 いよいよだと言うことで、ひなきとにちかを軽く揺さぶってみるが、どうにも目覚める様子はない。

 そこに、声がかかった。

 

 

 

「…私の血鬼術で眠ってます。親に縋り付いて泣く子らは、見たくなかったもので…」

 

 

 

「…お館様」

「…しのぶかい? 良かった。生きていてくれたんだね」

 懐かしいしのぶの声と気配に、安堵する。

「…蟲柱と岩柱との約束ですから、その子らは生きて帰してあげます」

 数時間前に聞いた、上弦の零が淡々とそう言った。

「そうなのかい?」

「ええ。子供を殺すのは、イヤですから」

 上弦の零の言葉に、徐々に感情がこもってくる。

 

「あなたを殺した後、蟲柱があなたの子供を立てて、新しい鬼殺隊を作ります。これまでのものとはまるで違う、まったく新しい鬼殺隊です」

 

 上弦の零が吐き出したのは、そんな宣言だった。

 

 だが、しのぶが居てくれるのは、本当にありがたいことだ。

 しのぶは珠世さんと繋がりがある。

 今の私には何も思い浮かばないが、もしかしたら鬼舞辻をなんとかできるかもしれない。わずかなりとはいえ、そんな可能性が出て来た。

 そんなことを考えていると、私のその考えを遮るように、言葉が発せられた。

 

 

「私はあなたが嫌いです! あなたの…あんたの鬼殺隊が、大っ嫌いだっ!!」

 

 

 こんな風な、あからさまな嫌悪を叩きつけられるのは、いつ以来だろうか?

 

 

「少数精鋭と言えば聞こえはいいが、ただ情報漏洩の危険性を下げる為だけ…いえ、意思統一をしやすくする為もあるのかもね、でもその為に、隊員はごく少数で、極めて危険な任務に当たらざるを得ない。

 生きて帰れたら儲けもの、仮に負けて死んでも、残った隊員の意識高揚に使える。仲間の仇を討て、鬼を憎め、鬼を恨め! その為に命を賭けろ!!」

 

 

 そんな上弦の零の言葉に乗っているのは、純粋な怒りだった。

 

 

「弱き者を助ける? 人々を救う? そんなのは、二の次だろう!

 あんたの鬼殺隊からは、そんな綺麗ごとでは隠せない、鬼への…無惨様への、おぞ気が走るような恨みと憎しみしか感じない!

 弱き者が死んでも構わない! 人々がどれだけ殺されようともどうでもいい! 隊員の血がどれだけ流れようが、どれだけの屍を積み上げようが、たとえ全滅の憂き目にあおうが、ただただ無惨様へとその刃が届くことこそが、最優先!!

 

 隊員たちの屍山血河の果てに、無惨様を殺そうとするお前は、鬼よりも尚、悍ましいっ!!」

 

 

 むき出しの敵意が、どうしようもない怒りが、更には隠そうともしていない隊員への同情が、そこには乗っていた。

 

 

 

「私たちの勝ちだ! お前の負けだっ!! 地獄に堕ちろっっ!!!」

 

 

 

 

 

「…言われてしまったね」

「…ですな」

 言いたいことを言い切って、上弦の零が私と行冥を残して行ってから、少しだけ時間が経っていた。

「可哀想な子供たちを、大勢死地に送り出したのは、他でもない私だ。

 そんな私が地獄に堕ちるのは、当然のことだろう」

「……」

 

 それはいい。それはどうでもいいんだ。

 

 

「…ああ、あんな鬼が居たんだねえ」

 

 

 彼女らが消えて、しばらく言葉が出ないほどに驚いたのは、その為だった。

 

「彼女の言葉には、怒りがあった。…それも、私が鬼を滅ぼそうとしていることに、じゃあない。

 …その為に、隊員(こども)たちが死んでいることに対して、怒っていた」

 

 その純粋な怒りは、むしろ嬉しく感じられた。

 

「…いつの間にか、時代は変わってしまっていたんだね」

 

 千年続いた、鬼との…無惨との戦い。

 統治者が代わっても、年号が替わっても、変わらないと思っていたんだけどね。

 

 

 

「…負けたんだね。私達は、私は…」




零余子ちゃん、耀哉のことは嫌いです。
多分、童磨よりも、ずっとずっと…
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