零余子日記   作:須達龍也

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去年の内に、なんとか書き上げたかったのですが…
プロットはできているのに、筆がまるで進まない、書かねば書かねばと焦れば焦るほど、どんどん嫌になると言う、悪循環に陥ってました。

正月休みで、なんとかリフレッシュできたかなあ。
とにかく、なんとか、完結まで頑張ります!


新しい鬼殺隊3

 山の中の小さな庵。

 そこは、あの人の大きさから考えると、実に小さいものだった。

 ただ食事をし、寝るだけ…その為だけの場所だったのだろう。修行場は山の中、滝の下…そういった自然の中だったのだろう。

 

 

 …そして、あの懐かしい小さな寺にも、似ているように感じた。

 

 

 コンコン…

 

「…はい」

 

 その庵から出て来たのは、おそらくは年下だろうが、俺よりも体格のいい男だった。

 

「…継子だったのか、ですか? いえ、私は才能が無かったので、継子にはなれませんでした。それでも、面倒を見て下さっていて…」

 

 あの人なら、さもありなん…と言ったところだろうか。

 

「…まだ、いろいろと信じられないのですが…そうですね、皆さん参られるので、蟲柱に仏壇だけ用意してもらって」

 

 部屋にポツンと置かれた小さな仏壇。あの人の大きさからすれば、ずいぶんと小さいように感じる。

 焼香をし、手を合わせて、黙とうをする。

 

 

 

 …ああ、ずいぶんと遅くなってしまった…

 

 

 

 もっと早く来なければいけなかった。…少なくとも、あの人が生きている内に…

 

 …いずれは、…なんとか早いうちに、…最終選別試験に合格したら、…雷の呼吸の型を全て覚えたら、…柱になったら…

 

 …そうやって、ずるずると後回しにして、なんだかんだと言い訳をして、…こうして、取返しがつかなくなってから、ようやく来た。

 

 …もう会うことはできない。……もう、謝ることはできない…

 

 

 …そのことに後悔と同時に、少しホッとしてしまっている自分が、本当にどうしようもない…

 

 

「…これから、ですか? …正直、よくわからないです。いろいろなことが起きたので、まだちょっと、考えられないです」

 

 …そう、まさに、いろいろあった…

 

 …あいつと会って、一緒の任務に当たって、別れてから…

 

 

 

 …何かあったら、私を頼っていいからさ。人生楽しもうぜ…

 

 

 

 …まだ一か月も経っていないのに、な…

 

 あの銀座での任務…今思うと、本当に上弦の壱だったのかもしれない…あの後、俺は横浜の方に行っていた。少し毛色の違う鬼が出たという話で、討伐系というよりも捜索系の任務だった。

 

 そこで、凶報を聞いた。

 

 浅草にて、上弦の壱…そして、上弦の零が現れ、蟲柱、恋柱、霞柱…三人の柱と共に、あいつも敗れたという話だった。

 柱ですら敗れるのだ、新人隊士だったあいつが敗れたのも、仕方がないのだろう。それが鬼との戦いだ…そう割り切っていたつもりだった。

 

 さらなる凶報は続く。

 鬼殺隊の本拠地を、上弦の零、壱、弐、参…そして、鬼舞辻無惨に襲われたらしい。

 

 そこからは、混乱の極みだった。

 

 鬼殺隊の一切合切の指令は、本部から出ていたのだ。何をすべきか、どうすべきか、どこに向かえばいいか、戦うことしかできない連中ばかりなんだ、わかるわけがなかった。

 

 

 あの大混乱をたったの一週間でおさめた蟲柱は、ものすごいとしか言えなかった。…更には…

 

 

 そんなことを考えながら下山していると…

 

 

「おっ! パイセン、ちーっす!! お久しぶりの鳴柱未来ちゃんですよー!

 いや違った、成宮未来ちゃんでした。…あーっと、別に違ってもなかったね! 失敗失敗!」

 

 

「…………」

 

 

「誰かさんには、柱になんかなれっこないみたいなこと言われてしまいましたが…なっちゃったんだなー、こっ、れっ、がっ!!」

 

 

 …う、うっぜええぇぇぇぇ!!!!

 

 

 少しだけ心配していたのだが、こうして会ってみると、心配した分を返せ…という気分にさせられる。

 

「んー、何か言うことがあるんじゃないですかね? うん?」

 

 

「………その節は、申し訳ありませんでした」

 

 

 色々とぐっと我慢して、そう頭を下げた。

 

「おろろ? 予想外に素直だぞ。なんか悪いもんでも食べた?」

「ひどい言いようだな。…まあ、こうして会ったんだ。謝罪くらい安いもんさ」

 あの時、そう感じたのは嘘ではない。ただ、嘘ではないが、そんな気性なんてものを吹き飛ばすくらいの強さもまた、感じてはいた。

 

「…鳴柱就任、おめでとうございます」

 

 その言葉を口にするのは、思っていたほどは悔しくなかった。

「…ん、ありがと」

 にぱっと笑って、そう返して来た。

 いろいろと逸話を聞いていたが、会ってみるとまるで変っていないように感じた。

「それで、お前…あなたも、岩柱のところへ?」

「いんや、あんたに会いに来た」

 あの人の庵がある山道で出会ったのに、俺に用事? …ここに来ることを、誰にも告げていないのに?

 

 

「あんた、私の継子にならない? …というか、なれ」

 

 

「……なんで、俺なんだ?」

 俺の印象には強く残ってはいるが、俺とこいつとの関係は、ただ一度同じ任務に就いただけのもので、…あとは、その前にぶつかって、ボコボコにされたくらいだ。

「…んー? 私が知る中で、二番目に強い雷の呼吸の使い手だから、かな?」

 特に思い入れもないかのように、そう言われた。

 

 少しだけ浮かれかけた気分に、水をぶっかけられたような気がした。

 

「…ちっ、だったら一番強い奴を継子にしたらいいんじゃないですか」

「いや、一番は師匠だからね。さすがに元柱の師匠を、弟子の私が継子にするのって、おかしくない?」

「へっ? …姉弟子じゃねえのか?」

「鳴ちゃん? んー、鳴ちゃんより、獪岳のが強いよ」

 きょとんとした顔で、そう言われた。

 

「まあ、どっちを継子にしたいかって聞かれると、もちろん鳴ちゃんだけどな」

 

 …なんでこいつは、上げてすぐ落としやがるんだ…

 

「鳴ちゃんは炎柱に取られたからさあ。まあ、そっちのが鳴ちゃんにはいいかもしれないから、しょうがないんだけどさー」

「…ただの消去法かよ」

 また暗い気分になって、そう愚痴る。

「…そうだね。消去法だけど、見込みのない奴を継子にはしないよ。あんただったら次の鳴柱になれると思ったからだよ」

 まっすぐにこちらの目を見て、そう言ってきた。

 そのまなざしには、嘘も偽りも、…それどころか、何の気負いも、気合もなかった。ただただ自然に、そう思っていることがわかった。

 

「…そう、か」

 

 認めてくれていると、そう感じた。…それは、嬉しいことだった。

 

 

 …認めている奴に、認められる…それは、とても嬉しいことだった。

 

 

「んじゃ、桑島さんのところに行こうか」

 

 

「え? …なんで?」

「継子にするのに、師匠への挨拶は必要なんでしょ? うちの師匠にも、炎柱が挨拶に来たらしいし、そういうもんじゃないの?」

 

 …確かに、炎柱はそういうのをきっちりしそうではある。

 

「ま、せっかくだし、行こう行こう」

 

 

 

 有無を言わさずって奴だった。

 

 

 

 あれよあれよと、そのまま先生のところへと行くことになり、道中で菓子折りを買って、日暮れ前には、到着してしまった。

 

 なんというか、むずがゆいと言うか、照れ臭いと言うか…何枚も猫を被ったこいつと、なんとも嬉しそうな先生との会話は、とても居たたまれない気持ちになった。

 

 どんな会話がなされたのか、目の前で繰り広げられたはずなのに、ほとんど覚えていなかった。

 ただ、それでも…

 

「…獪岳は今、壁にぶつかっています。儂の力及ばず、それを乗り越えさせる手伝いができませんでした。

 それでも、才があり、また努力も惜しまない優秀な弟子であることは間違いありません。

 どうか、より高みに、より前へと導いてやって下さい」

 

 先生がそう言って、頭を下げてくれたのは、忘れられない。

 

「ここまで育て上げられたのは、桑島先生の指導のたまものです。私が教え導くことなどほとんどないとは思いますが、全力を尽くします。

 間違いなく、私の次の鳴柱となるでしょう。そのことは保証致します」

 

 先生への礼を返すように、そう請け負ってくれたことも、忘れたりしない。

 

 

「…不肖の弟子でしたが、先生の教えを胸に、必ず柱に…先生の誇りとなれるような男となります!」

 

 

 …気づけば、そう宣言して、頭を下げていた。

 

 

 

 

 

 …その後、泊まっていけという先生の申し出を断って、なぜか、どっかの山へと入っていく。

「…どこに、行くんだ?」

 それでも確信を持って前を歩く鳴柱…未来へと聞く。

「んー? …ああ、そろそろ待ち合わせ場所に…あー、居た居た」

 そう言われて見た場所には、いつから居たのか、白髪頭の少年が居た。

「…待ち合わせと言うか、呼びつけられたんだけどね」

 その少年の左目に刻まれていたのは…

 

「かっ、下弦の伍っ!」

 

「まあまあまあまあ」

 未来は驚きもせず、下弦の伍の右手を取って握手をする。

「なっ、何が!?」

「まあまあまあまあまあ」

 何でもないかのように、こちらに左手を向けてくる。

 

 いやいやいや、おかしい。これはおかしい。…それなのに、魅入られたかのように、その左手を取っていた。

 

 

 べべんっ!

 

 

 琵琶の音が聞こえたような気がした。

 

 風景が様変わりする。

 石壁にぐるりと囲まれた、石畳の場所…頭に浮かんだのは、稽古場…闘技場と言ったものだった。

「…こ、ここは?」

「ここは京都の地下闘技場。ようこそ獪岳、私のホームへ」

 左手を握っていた未来が、にこやかにそう言った。

 

 状況の変化についていけない。

 

「ど、どうして?」

 闘技場の真ん中へと、手を引かれながら、そんな益体もないことを聞く。

「んー、荒療治かもだけど、ぶつかってみるのが一番かなって」

 なんでもないことのように、未来がそう答える。

「まあ、思い切ってやれば、壱ノ型だってすぐに使えるようになるよ」

 

 なんだか、頭がぼんやりとしてくる。

 

 いつの間にか、左手は空になっていて…そのことが、寂しくて…数歩前にある背中を見詰めて…

 

 

「私が責任もって、相手をしてあげるよ」

 

 

 そう言って振り返った彼女の顔は…

 

 

「…上弦の、レイ…」

 

 

 オレのコトバに、ニッコリとワラって…

 

 

 

「…恋、狂え…」




獪岳さんの再登場でした。
筆が進まなかったのは、コイツのせいだったということでw
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