プロットはできているのに、筆がまるで進まない、書かねば書かねばと焦れば焦るほど、どんどん嫌になると言う、悪循環に陥ってました。
正月休みで、なんとかリフレッシュできたかなあ。
とにかく、なんとか、完結まで頑張ります!
山の中の小さな庵。
そこは、あの人の大きさから考えると、実に小さいものだった。
ただ食事をし、寝るだけ…その為だけの場所だったのだろう。修行場は山の中、滝の下…そういった自然の中だったのだろう。
…そして、あの懐かしい小さな寺にも、似ているように感じた。
コンコン…
「…はい」
その庵から出て来たのは、おそらくは年下だろうが、俺よりも体格のいい男だった。
「…継子だったのか、ですか? いえ、私は才能が無かったので、継子にはなれませんでした。それでも、面倒を見て下さっていて…」
あの人なら、さもありなん…と言ったところだろうか。
「…まだ、いろいろと信じられないのですが…そうですね、皆さん参られるので、蟲柱に仏壇だけ用意してもらって」
部屋にポツンと置かれた小さな仏壇。あの人の大きさからすれば、ずいぶんと小さいように感じる。
焼香をし、手を合わせて、黙とうをする。
…ああ、ずいぶんと遅くなってしまった…
もっと早く来なければいけなかった。…少なくとも、あの人が生きている内に…
…いずれは、…なんとか早いうちに、…最終選別試験に合格したら、…雷の呼吸の型を全て覚えたら、…柱になったら…
…そうやって、ずるずると後回しにして、なんだかんだと言い訳をして、…こうして、取返しがつかなくなってから、ようやく来た。
…もう会うことはできない。……もう、謝ることはできない…
…そのことに後悔と同時に、少しホッとしてしまっている自分が、本当にどうしようもない…
「…これから、ですか? …正直、よくわからないです。いろいろなことが起きたので、まだちょっと、考えられないです」
…そう、まさに、いろいろあった…
…あいつと会って、一緒の任務に当たって、別れてから…
…何かあったら、私を頼っていいからさ。人生楽しもうぜ…
…まだ一か月も経っていないのに、な…
あの銀座での任務…今思うと、本当に上弦の壱だったのかもしれない…あの後、俺は横浜の方に行っていた。少し毛色の違う鬼が出たという話で、討伐系というよりも捜索系の任務だった。
そこで、凶報を聞いた。
浅草にて、上弦の壱…そして、上弦の零が現れ、蟲柱、恋柱、霞柱…三人の柱と共に、あいつも敗れたという話だった。
柱ですら敗れるのだ、新人隊士だったあいつが敗れたのも、仕方がないのだろう。それが鬼との戦いだ…そう割り切っていたつもりだった。
さらなる凶報は続く。
鬼殺隊の本拠地を、上弦の零、壱、弐、参…そして、鬼舞辻無惨に襲われたらしい。
そこからは、混乱の極みだった。
鬼殺隊の一切合切の指令は、本部から出ていたのだ。何をすべきか、どうすべきか、どこに向かえばいいか、戦うことしかできない連中ばかりなんだ、わかるわけがなかった。
あの大混乱をたったの一週間でおさめた蟲柱は、ものすごいとしか言えなかった。…更には…
そんなことを考えながら下山していると…
「おっ! パイセン、ちーっす!! お久しぶりの鳴柱未来ちゃんですよー!
いや違った、成宮未来ちゃんでした。…あーっと、別に違ってもなかったね! 失敗失敗!」
「…………」
「誰かさんには、柱になんかなれっこないみたいなこと言われてしまいましたが…なっちゃったんだなー、こっ、れっ、がっ!!」
…う、うっぜええぇぇぇぇ!!!!
少しだけ心配していたのだが、こうして会ってみると、心配した分を返せ…という気分にさせられる。
「んー、何か言うことがあるんじゃないですかね? うん?」
「………その節は、申し訳ありませんでした」
色々とぐっと我慢して、そう頭を下げた。
「おろろ? 予想外に素直だぞ。なんか悪いもんでも食べた?」
「ひどい言いようだな。…まあ、こうして会ったんだ。謝罪くらい安いもんさ」
あの時、そう感じたのは嘘ではない。ただ、嘘ではないが、そんな気性なんてものを吹き飛ばすくらいの強さもまた、感じてはいた。
「…鳴柱就任、おめでとうございます」
その言葉を口にするのは、思っていたほどは悔しくなかった。
「…ん、ありがと」
にぱっと笑って、そう返して来た。
いろいろと逸話を聞いていたが、会ってみるとまるで変っていないように感じた。
「それで、お前…あなたも、岩柱のところへ?」
「いんや、あんたに会いに来た」
あの人の庵がある山道で出会ったのに、俺に用事? …ここに来ることを、誰にも告げていないのに?
「あんた、私の継子にならない? …というか、なれ」
「……なんで、俺なんだ?」
俺の印象には強く残ってはいるが、俺とこいつとの関係は、ただ一度同じ任務に就いただけのもので、…あとは、その前にぶつかって、ボコボコにされたくらいだ。
「…んー? 私が知る中で、二番目に強い雷の呼吸の使い手だから、かな?」
特に思い入れもないかのように、そう言われた。
少しだけ浮かれかけた気分に、水をぶっかけられたような気がした。
「…ちっ、だったら一番強い奴を継子にしたらいいんじゃないですか」
「いや、一番は師匠だからね。さすがに元柱の師匠を、弟子の私が継子にするのって、おかしくない?」
「へっ? …姉弟子じゃねえのか?」
「鳴ちゃん? んー、鳴ちゃんより、獪岳のが強いよ」
きょとんとした顔で、そう言われた。
「まあ、どっちを継子にしたいかって聞かれると、もちろん鳴ちゃんだけどな」
…なんでこいつは、上げてすぐ落としやがるんだ…
「鳴ちゃんは炎柱に取られたからさあ。まあ、そっちのが鳴ちゃんにはいいかもしれないから、しょうがないんだけどさー」
「…ただの消去法かよ」
また暗い気分になって、そう愚痴る。
「…そうだね。消去法だけど、見込みのない奴を継子にはしないよ。あんただったら次の鳴柱になれると思ったからだよ」
まっすぐにこちらの目を見て、そう言ってきた。
そのまなざしには、嘘も偽りも、…それどころか、何の気負いも、気合もなかった。ただただ自然に、そう思っていることがわかった。
「…そう、か」
認めてくれていると、そう感じた。…それは、嬉しいことだった。
…認めている奴に、認められる…それは、とても嬉しいことだった。
「んじゃ、桑島さんのところに行こうか」
「え? …なんで?」
「継子にするのに、師匠への挨拶は必要なんでしょ? うちの師匠にも、炎柱が挨拶に来たらしいし、そういうもんじゃないの?」
…確かに、炎柱はそういうのをきっちりしそうではある。
「ま、せっかくだし、行こう行こう」
有無を言わさずって奴だった。
あれよあれよと、そのまま先生のところへと行くことになり、道中で菓子折りを買って、日暮れ前には、到着してしまった。
なんというか、むずがゆいと言うか、照れ臭いと言うか…何枚も猫を被ったこいつと、なんとも嬉しそうな先生との会話は、とても居たたまれない気持ちになった。
どんな会話がなされたのか、目の前で繰り広げられたはずなのに、ほとんど覚えていなかった。
ただ、それでも…
「…獪岳は今、壁にぶつかっています。儂の力及ばず、それを乗り越えさせる手伝いができませんでした。
それでも、才があり、また努力も惜しまない優秀な弟子であることは間違いありません。
どうか、より高みに、より前へと導いてやって下さい」
先生がそう言って、頭を下げてくれたのは、忘れられない。
「ここまで育て上げられたのは、桑島先生の指導のたまものです。私が教え導くことなどほとんどないとは思いますが、全力を尽くします。
間違いなく、私の次の鳴柱となるでしょう。そのことは保証致します」
先生への礼を返すように、そう請け負ってくれたことも、忘れたりしない。
「…不肖の弟子でしたが、先生の教えを胸に、必ず柱に…先生の誇りとなれるような男となります!」
…気づけば、そう宣言して、頭を下げていた。
…その後、泊まっていけという先生の申し出を断って、なぜか、どっかの山へと入っていく。
「…どこに、行くんだ?」
それでも確信を持って前を歩く鳴柱…未来へと聞く。
「んー? …ああ、そろそろ待ち合わせ場所に…あー、居た居た」
そう言われて見た場所には、いつから居たのか、白髪頭の少年が居た。
「…待ち合わせと言うか、呼びつけられたんだけどね」
その少年の左目に刻まれていたのは…
「かっ、下弦の伍っ!」
「まあまあまあまあ」
未来は驚きもせず、下弦の伍の右手を取って握手をする。
「なっ、何が!?」
「まあまあまあまあまあ」
何でもないかのように、こちらに左手を向けてくる。
いやいやいや、おかしい。これはおかしい。…それなのに、魅入られたかのように、その左手を取っていた。
べべんっ!
琵琶の音が聞こえたような気がした。
風景が様変わりする。
石壁にぐるりと囲まれた、石畳の場所…頭に浮かんだのは、稽古場…闘技場と言ったものだった。
「…こ、ここは?」
「ここは京都の地下闘技場。ようこそ獪岳、私のホームへ」
左手を握っていた未来が、にこやかにそう言った。
状況の変化についていけない。
「ど、どうして?」
闘技場の真ん中へと、手を引かれながら、そんな益体もないことを聞く。
「んー、荒療治かもだけど、ぶつかってみるのが一番かなって」
なんでもないことのように、未来がそう答える。
「まあ、思い切ってやれば、壱ノ型だってすぐに使えるようになるよ」
なんだか、頭がぼんやりとしてくる。
いつの間にか、左手は空になっていて…そのことが、寂しくて…数歩前にある背中を見詰めて…
「私が責任もって、相手をしてあげるよ」
そう言って振り返った彼女の顔は…
「…上弦の、レイ…」
オレのコトバに、ニッコリとワラって…
「…恋、狂え…」
獪岳さんの再登場でした。
筆が進まなかったのは、コイツのせいだったということでw