独裁者の考えを誰も止められないと、こんなひどい状況になるんだ。
それでも、どこか他人事のように感じてしまうのは、平和ボケとしか言えないんだろうなあ。
「うわっ、なんかすごい子が来たよ」
数百メートル離れた木の上から眺めていたんだけど、驚きの闖入者に思わずそう口にしていた。
「…すごいって?」
そばで同じように目をこらしながらも、そこまでは見えていないのか、獪岳がそう聞いてきた。
「…両足が義足で、隻腕。…それに、あれは目も見えてないかもね」
五体不満足にも程がある。自分で言っていて、びっくりだよ。
「だったら、流さんだろうな。そんな隊士は、流さんしかいない」
「…義足、隻腕、そして盲目ね。どれか一個だけでも、引退の理由になりそうなものだけど」
「…引退どころか、どれも鬼殺隊に入る前の最終選別試験で負ったものらしいけどな」
「なんじゃそれ、最終選別試験、やっぱクソだな。
…というか、あんな隊士に居られたら、引退しづらいにも程があるな。うちの師匠も片足くらいなんだってなるわ」
「…確かにな」
現場では、山坊主がその流君を押さえて、阿修羅がたった今、異人の鬼の両足を斬り落とした。
メインだった異人の鬼は大したことなかったが、流君はなかなかすごいね。
義足とは思えないくらい滑らかに動くし、隻腕とは思えないくらい力強く剣を振るってるし、なによりもチラリとこちらを伺っているようにも見える。
「…見物だけのつもりだったけど、ちょっと介入しましょうかね」
…………
……
「…左腕一本とは思えない強さだったね」
こっちには気づいていたようだったから、死角からとは言わないけど、それでも遠間からの霹靂一閃(へきれきいっせん)を受けきられるとは思わなかったね。
日輪刀についた血を払うように、ピッと振る。
「…私に雷光赫花(らいこうしゃっか)まで使わせたんだ、誇っていいよ」
最後の砦だった左腕すら失ったというのに、向けてくる殺気はいささかも衰えない…むしろ、増しているくらいだ。
「近づいたら噛みつかれそうだねえ、怖い怖い」
噛みつくのは、こっちの方なんだよ?
「…どうするつもりなんだ?」
後ろから獪岳が、心配そうにそう聞いてきた。
「左腕一本であれだけの強さだったんだ。五体満足で視力も回復したら、ものすごく強くなると思わない? それに鬼になって、更に倍でドンだよ」
「…そういうのは、お前は強要しないと思ってたんだが」
意外そうに、そう言われた。
「…まあね、普通はしないんだけどさ」
そこで、ため息を一つ吐く。
「…これは駄目だよ。強要するよ。私のわがままだよ」
流君が…こいつがどう思っているかなんて、関係ない。私の勝手で決めさせてもらう。それに、鬼になるのだって、そんなに悪いもんじゃないよ。
『…お、お前は…』
「…ん?」
完全に意識のすみっこに追いやっていた、異人の鬼が声をかけてきた。
『…いえ、貴女は、真祖なのか? …この国を支配している真祖なのでしょうか?』
「はい? …トゥルーヴァン…なんだって? 英語っぽいのはわかるけど、読むのはなんとかなっても、聞くのはちょっとなんだよねえ」
ポリポリと頭をかく。
「まあ、話はあとで聞かせてもらうよ」
…でも、あんまりめんどくさい事情を聞かせてくれるのは、やめて欲しいかな。
主人公にある程度のハンデを与えるというのは、少年漫画の手法の一つですが…
さすがに、流君はハンデが重すぎるでしょう。
少年ジャンプには合わないと判断されたのも、致し方ないかな。