べべんっ!
琵琶の音と共に、即座に土下座する。
さすがに、もう慣れました。
本日は、延期されていた、私の下弦の肆、就任の日です。
夢も見ずに寝たおかげで、体調もバッチリです。
…エエ、ユメナンカ、ミマセンデシタヨ…
べべんっ!
次の琵琶の音の後、無惨様の気配を感じる。
確認などしない。ただ言葉がかかるのを、平伏したまま待つ。
「…面を上げろ」
おおっ、今日は顔を上げてもいいんだ。機嫌がいいみたいでホッとする。
「はっ!」
今日の無惨様も、黒のスーツに白のズボン。
あまり派手な色は、お好みではないようだ。
「昨日の血戦、見事であった。下弦の肆に任ずる」
「ははぁ、ありがとうございます!」
短い言葉ではあるが、この一か月の苦労を褒めてくれるのは、とても嬉しかった。
そう、本当に、本当に頑張った。…だから、もっと褒めてください。
「…ふむ。そうだな…
鬼になってわずか一年での十二鬼月入り。先例は童磨くらいのものだ。
奴はその後、上弦の弐にまでなっている。お前にも期待しているぞ」
「ははっ! 童磨様と比較されるのは大変光栄に存じます」
私の心の声を読んだかのように、更に付け加えて褒めてくれた。大変嬉しいです。
「改めて、身が引き締まる思いです」
…でも、しばらくはのんびりしても、いいですよね?
そう、一か月頑張ったので、一か月はダラダラしてもいいですよね?
「無惨様のご期待に沿えるよう、粉骨砕身頑張ります」
温泉、温泉がいいな。別府温泉とかどうかな?
九州に行くのは初めてだな。わーい、楽しみー!
「十二鬼月の名に恥じぬよう、今後も努力していく所存です」
来月から、ボチボチやります。
「貴様はぁっ!」
びくぅ!!
えっ、怖っ! なんか急に機嫌が急降下した!
「十二鬼月に数えられたからと言って終わりではない、そこから始まりだ。
より人を喰らい、より強くなり、私の役に立つための始まり」
えーっ! いきなり説教ですよー! 私、褒められて伸びる子なんですよー!
「ええぃ! もういい! こっちを向け!」
「…っ!?」
ズブリと、いきなり左目に指を突っ込まれた。
「目がーー! 目があああぁぁーーーー!!!」
「私の血も分けてやった。今後も励めよ。
ダラダラするなよ! 本当にさぼるなよ!! わかったな!!!」
べべんっ!
「うー、いたた。びっくりしたなあ、もう。鬼か? …鬼だな。
でも、入れる前には入れるって、言ってほしいなあ」
左目から流れる、血と涙を手でこすりながら、ぶちぶちと愚痴る。
「…あの?」
「ん?」
琵琶の君から声をかけられた。あら、珍しい。
「血を分けて頂いた割に、あんまり苦しまれませんね?」
言われて、少し考える。
「ああ、私って、血ばっか飲んでるからか、血の吸収は速いみたいですねー」
「…そう、なんですか」
あれ? …なんか、若干引かれている気がするぞ。
零余子ちゃんは褒められると、調子に乗ってサボります。
叱られて伸びる子なので、無惨様の教育方針は間違ってません。