自粛しているつもりではないのだが、自粛を強制されている気がする。
「…とりあえず、もう帰ってもいいかなっと」
累君のすぐ後に部屋に入るのも、空気に困るので…累君がでなく、私がだけどな…しばらく待った後、部屋の方に行く。
「…少し待ってもらえるかな」
ふすまに手をかけたところで、声をかけられた。
振り返ると、これまた見かけた顔があった。
「…阿修羅さん」
上半身裸で、六本腕全部で腕組みしているのは、昨日も見た…そして血戦を行った鬼、阿修羅さんだった。
昨日から変わったのは、その左目が”下肆”から”下陸”になったところくらいだろう。
今度こそ仕返しだろうか?
正直なところ、勢いで下弦の肆の座を奪ってしまったが、私からすると恨みも何もなかったんだけどなあ。…多分、山坊主のせいだよ、あいつが悪い。
阿修羅さんからすれば、昨日の血戦が不本意だったろうことは、わからなくはない。
実際、二対一だったし、無惨様から言われれば拒否はできなかっただろうし、私も卑怯だと言われれば、そうと認めざるをえないところがある。
…でも、阿修羅さんと、ついでに指剣鬼は、既に私の魅了を受けているんだよねえ。
心臓に私の血がとどまっているのを感じる。助言をするなら、心臓を取り出して新しく再生し直すことをおすすめしよう。…もちろん、言わないけどね。
実力的には、私よりも断然上なのは間違いないけど、…残念、もう私には勝てないんだよ。
「あの昨日の術…そう、あの…えーと、元下弦の陸の、あいつにかけた術…」
ああ、阿修羅さんも指剣鬼の名前は知らないようだ。…むしろ、知っている奴がいたのか怪しくなってきたぞ。
「…あれを、私にもかけてもらえないだろうか?」
「…は?」
こいつ、何言ってるんだ?
「あなたの術を受けて、あいつはものすごく強くなった。あれを私にもして欲しい」
「…あー、えーと」
「頼む。私はどうしても、もっと強くなりたいのだ」
…なるほどねえ。強くなる裏道、近道として、私を利用しようってわけだ。
今のところ、鬼が爆発的に強くなる方法としては、無惨様から血を頂くくらいしかなく、後は、稀血くらいか。
前者は無惨様の気分次第だし、命の危険もある。後者はそうそう見つからない。
それを考えると、私に頼るのは、お手軽でお気軽だろう。
指剣鬼くんも、どれくらい記憶が残っているのかはわからないが、指剣を伸ばす長さは長くなっていたし、自由自在に動かせるようになっていた。片手の指を十本にするのができるかはわからないが、それでも私の術にかかる前よりは段違いに強くなっている。
「うーん…」
できるかできないかと言われれば、できるんだけど。
「…敵が、対戦相手がいないとねえ」
そう、魅了による暴走、強化…というか、狂化って感じだけど、あれは基本的に私に向かうものだ。なんとか、別な相手に向かうようにできたんだけど、止める為には気絶させるしかないのは変わってない。
正直な話。阿修羅さんなら指剣鬼くんを気絶させることができると思ったから、やった部分がある。
今、阿修羅さんにあれをかけたらどうなる?
他に誘導する相手もいない以上、私に向かってくるよね。
現時点でも私より強い阿修羅さんが暴走して、私が気絶させれる? …いやいや、どう考えても、こっちが気絶させられるわ。
そしたら…
………
…うん、脳が考えるのをやめたよ。考えちゃあいけない未来しかないよ!
「うん、無理ですね」
「相手が必要だと言うならば、止水殿に血戦を挑まないか? 堕姫殿でもいい。…あるいは、勝てるとは思わないが、黒死牟様に挑戦するのもっ!」
「待った!」
興奮しだした阿修羅を止める。
「それって、全部あなたの都合ですよね? なんで私があなたの都合で動かないとダメなんです? はなはだ図々しいと思いません?」
死に値しますよ! …というのは、さすがに言いすぎですけどね。
「ならば、私をそばにおいてくれ!
護衛でも、召使いでも構わない。鬼殺隊が来たならば、私が代わりに戦おう!」
「いや、断る!」
バッサリと断って、さっさと部屋に戻る。
何が嫌だったかって?
どっかで聞いたような言葉だったのが、一番嫌だったよ!!
鬼舞辻無惨による下弦への評価
止水 … お気に入り。忠実で真面目だから。
鵺 … お気に入り。実験の成果だから。
大太 … わりとお気に入り。どこまで大きくなるか楽しみ。
累 … お気に入り。境遇を高く評価。
阿修羅 … わりとお気に入り。思ったよりも強かったから。
零余子 … あんまり好きじゃない。
現時点での評価ですけどねーw