前に主役にはなれない味だと評価したけど、脇役にするには目立つ味ですわ。
「…京都へ行くんじゃなかったのか?」
「うん、そだよー」
「じゃあ、なぜ、大阪で降りるんだ?」
今更だなあ。
「大阪に来るのは初めてだしね。せっかくだし、観光しようよ」
左横から傘を差してくれている阿修羅の顔を見上げて、にぱーと笑いながら答える。
「天守はないみたいだけど、大阪城は見に行こう。私、西軍の方が好きなのよねえ。判官びいきなのかな、負けた方に惹かれるというか、真田幸村とか好き。
幸村の講談とか聞きたいなあ。知ってる? 猿飛佐助とか、霧隠才蔵とか、忍者を使ったんだよ、忍者!」
楽しさが伝わるように、手裏剣を投げる構えをして、阿修羅の顔を伺うと…
「じゃあ、今日は大阪で泊まるのか?」
はー、これですよ。
せっかく話題を振ったのに、どうでもいいとばかりに聞き流すのは良くないなあ。そんなことでは女の子に好かれませんよ。女は黙ってついて来いって言うのは、時代遅れな考え方ですよ。
まあ、いいですけど。
「ふふーん、今日は大阪ホテルに泊まりますよ。この辺では最高級のホテルです。ホテル泊まったことあります? ないですよね? …まあ、私も初めてですけど」
そこで言っておかないといけないことを思い出す。
「そうそう、上星卿に電話で大阪ホテルに予約をしていただいているんですけど、上星零余子と従者一人って言ってありますので、人前ではぞんざいな口調はダメですよ。ちゃんと零余子お嬢様って呼ぶんですよ」
「…めんどくせえ」
実にめんどくさそうに言う。まあ、口数が多い方じゃないし、そうそうボロも出ないだろう。
とりあえず、ホテルに荷物を置いて、観光だー!
大阪城を見に行き、いろいろと史跡をめぐり、講談を聞き、もちろん行きたいところを一日で全部まわれるわけではないけど、それなりに満足する。
ホクホク顔でホテルへの帰路についてたところで、阿修羅にボソッと告げられた。
「…つけられているな」
「えっ? いつから?」
ドキッとして聞き返す。
「さっきの土産物屋を出たあたりからだな。人通りが多かったから気のせいかと思ったが、こんなひとけのないところにまで付いてきているんだ。私たちに用があるんだろう」
こういう感覚は、私よりも阿修羅のほうが、全然強い。
「何人?」
「一人だ」
数人だったなら、可愛い私につられて不埒な考えを起こした連中の可能性もあったが、たった一人というのなら、その可能性は低い。
こちらは男連れだし、その連れである阿修羅の見た目は、普通に強そうに見えるからだ。
「…じゃあ、もしかして」
「…もう少し行くと、完全にひとけがなくなる。そこで対処しよう」
気配を殺せない弱き者…という感じではないな。
人通りが少なくなってから、わざと気配を強めた感じだ。
私たちに無関係なものでは絶対にない。鬼殺の剣士だ。…それもかなり強いな。
それを感じているのか、零余子もオドオドビクビクと、こっちに引っ付いてくる。
「…ちょっと傘を持ってろ」
「え、うん」
零余子に傘を持たせ、スーツの上を脱ぐ。ネクタイを外し、シャツも脱ぐ。いい素材の服だ、破くのは忍びない。ズボンはまあ仕方がないな。
「待たせたか?」
零余子を脇に下がらせ、道の真ん中まで出て呼びかける。道と言っても車道のない細い道だがな。
「…いや、そうでもない」
着流しに日輪刀だけ携えた男だった。
「おや、そっちのお嬢さんも鬼だったのか、あまりそんな気配を感じなかったなあ」
二人の鬼を前にしても、あまり緊張しているようには感じない。実に、飄々としている。
馬鹿というよりは、自信があるのだろう。
「下弦の陸に、…お嬢さんのほうが下弦の肆かよ。十二鬼月が二人でつるんでいるとか、何の冗談だ」
十二鬼月二人を前にしても、ひるむ様子はない。
「こっちは任務前の非番だったんだけどな。
ちょっと町をぶらついてたら、強い鬼の気配を感じて、まあ、見なかったことにもできんわな」
そこまで言うと、腰を下げて居合の構えを見せる。
こちらも手のひらから刀を一本ずつひねり出し、両手に刀を持つ。
右手を上に、左手を前にする基本的な二刀流の構えを取る。後の四本の腕はまだ生やさない。
二本の刀で奴の刀を押さえたのち、腕を生やしながら斬る! …初見殺しの技の一つだ。
…雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)…
速い! …とっさに二本の刀で首を守る。
…二連…
稲妻のように、目前で急角度で曲がった…と思った時には、右腕が跳ね飛ばされている!
「鳴柱、成宮透(なりみや とおる)だ。…その名を冥途の土産にくれてやろう」
ででででーん!!
はしらがあらわれた!
むかごはにげだした。しかし、まわりこまれてしまった!