零余子日記   作:須達龍也

30 / 149
三十話です。
まるまる一か月連載したことになります。
今後も宜しくお願い致します。



30

 闇の中にいた。

 

 ふっと、ランプの明かりが点く。

 そこにいるのは一人の童女。ただ、一心不乱に本を読んでいる童女。

 

 …私だ…

 

 物心つく頃には、既に本を読んでいた。…本の世界に逃げ込んでいた。

 私の世界は暗く狭く、友達どころか、私を知る人すら居なかった。

 

 母が死に、家の奥に押し込められた。

 しばらく後、父が再婚した。相手は、母の妹だそうだ。

 

 母の記憶はなかった。それでも、どこかで、母を求めていたのだろう。

 言いつけを破り、新しい母に会いに行った。

 

 

「お前のせいで、お姉ちゃんは死んだ!」

 

 

 …頬の痛みと共に、その言葉は、ずっと忘れることは、できなかった…

 

 

 弟が生まれ、妹が生まれた…らしい。

 父には、新しい家族ができた。…でも、私の家族じゃあなかった。

 

 私はただ、家にいるだけの存在。座敷童のようなものだった。

 

 

 本だけが、私に新しい世界を教えてくれた。

 日記だけが、私が存在することを残せる唯一のものだった。

 

 

 

 私は何の為に生まれ、何の為に生きているんだろう。

 

 

 

 

 

「…はっ!」

 

 意識が飛んでいた。走馬灯を見ていた。

 

 阿修羅が頑張っている。柱を相手に、まだ諦めていない。…やっぱり、私なんかよりもずっと強い。

 

 一説によると、走馬灯を見る理由は、今までの経験や記憶の中から、迫りくる”死”を回避する方法を、探しているらしい。

 

 …でも、私には何もない。空っぽだ。

 ただ生きていただけ。…ただ存在していただけ。

 

 生きている意味もなければ、生き続ける理由もない。

 

 

 ここで死んでもしょうがない。だって、私のこれまでは無意味で、これからも無価値に違いないのだから。

 

 

「…やだよ…」

 

 意味がないと生きていたらいけないの?

 

「…死にたくない…」

 

 理由がないと生きることに価値はないの?

 

 

「…うるさい…」

 

 

 私は死にたくない。そこに意味がなかろうと、それに価値がなかろうと、生きたいんだ!

 

 

「阿修羅ぁぁぁああぁぁぁーーーーー!!!!」

 

 立ち上がって、叫ぶ。

 私は足掻く、みっともなくても、たとえ無駄なんだとしても!

 

 

「こっちを、見ろおぉぉぉーーーーー!!!!!」

 

 

「…そんな余裕は…」

 

 

「いいから、見ろおおぉぉぉーーーー!!!!!」

 

 

 チラリとこちらを伺った阿修羅の目を見、その瞬間で奴の心臓を…心を掌握する。

 

 

 

「…こい、くるえぇっ!!!」

 

 

 

「があああぁぁぁぁああああぁぁぁーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 厄介なことになった。

 

 先ほどよりも遥かに鋭くなった六本の刀を、なんとかさばく。

 

 

 

 …闇月・宵の宮…

 

 

 

 …雷の呼吸 伍ノ型 熱界雷…

 

 

 

 攻撃を跳ね上げられない。

 先程までの攻撃に、慣れてしまったばかりに、より速く、より鋭くなった剣技に、押されてしまった。

 

 まだこちらが上だ。だが、すさまじい勢いで、その差を詰められている感覚になる。

 

 

 それでも…だ…

 

 

 六本腕の下弦の陸の向こう、顔を右手で覆いながらも、その指の間からこちらをヒタと見据える紅の眼差し。

 血のような両目から、真っ赤な血を流しながら、まっすぐにこちらを見詰める、下弦の肆。

 

 

 俺の勘が告げている。こいつのほうがやばい、と…

 

 

 

 …こいつのほうが、危険だ!

 

 

 

 …雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃…

 

 

 

 …三連…

 

 

 

 目の前の下弦の陸を大きくかわし、下弦の肆の首を刎ねる!

 

 

「足だぁっ!!」

 

 

 …くっ…

 

 

 大きくかわしたはずの、下弦の陸の腹から、七本目の…伸びる腕が生えていた、それが持つ刀が…

 

 

「…ふんっ!」

 

 

 …斬り飛ばされた右足首を呼吸で強引に止血し、日輪刀で代わりに地面を跳ねる。

 

 

「お前だけは…ここでぇっ!!」

 

 

 

 …一閃!

 

 

 

 奴の首を、両腕もろとも、斬り飛ばした!

 

 

「…えっ」

 

 ニヤリと笑う奴の顔…今、斬ったはずだろう、首を!

 

 一緒に斬った左手が、俺の頭に…

 

 

 パチッ…

 

 

 …ぐっ、斬った…ん、じゃない…自分で、引っこ抜きやがった…んだ…

 

 

 遠のきそうになる意識の中、奴の宙に浮いた右手が、奴の頭を…首元に押し付けてきた。

 

 

 …つぷっ…

 

 

 

 …苦痛なのか、快楽なのか、圧倒的な情報量が脳に押し寄せたように感じ、完全に意識を失った…




大金星です。

零余子ちゃんは、鳴柱の動きを完全には追えていませんが…
どこを斬ろうとしているのかはわかっているので、無理やり首を引きちぎりました。
でも、かなりギリギリのタイミングでした。

糸を使える累君のほうが、スマートですね。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。