ふむ、零余子ちゃん、ステーキソースにあうね。
零余子ちゃんも、残すはあと一回くらいだ。最後は零余子飯かな。
「…はふー…」
とりあえず、湯舟につかって、冷えた体をあっためる。
「…んあぁーー…」
考えることは、一つだけ。
「…逃げられちゃった…か…」
鳴柱、成宮透…うん、今も私の知覚領域内にいます。とりあえずは、近くの藤の家紋の家で治療中なんだろう。まだ大阪の街にいるわけだ。
深夜を狙って襲撃する?
右足を失ったんだ、戦闘能力は落ちているのは間違いない。
それに、私の魅了の支配下にある以上、奴に負けることはないだろう。
鬼殺隊の本部が関東にある以上、柱が他にいるとも考えにくい。
場所をどうやって把握したかって聞かれたら、魅了した奴の場所は近ければわかるって答えればいいけど…
…じゃあ、本拠地を割り出すように、尾行すれば良かったとか言われたら…
チャプ…ブクブクブク…
んあー、めんどくさいことになったー!
いろいろ知ってるかもって、魅了したのが間違いだったか。あのまま阿修羅に殺させてれば、悩むこともなかったのに。
体と頭をタオルで拭きながら、備え付けの鏡を見る。
いつも以上に顔色の悪い顔が見える。
「…あーあ、ほんとにあのまま逃げられてたってことにならないかなー」
目の前の顔と、相談するかのように話しかける。
「…私たちは柱を追い詰めた。だけど最後の最後で逃げられた。それでいいじゃん、ねぇ…」
鏡の中の、紅い瞳がゆらめく。
「…柱は強かった。…死を覚悟した。…開き直って、無理やり魅了の暴走をやった。…わずかな一瞬で、できるようになってた。…それで、阿修羅が格段に強くなった。…仕切りなおそうとした柱の一瞬の隙をついて、阿修羅が右足首を切り落とした。…旗色悪しと考えられたか、柱には逃げられた…」
目の前の女が頷く。
「…それで、いいよねぇ…」
べべんっ!
寝巻に着替えたところで、呼び出された。
横を見ると、阿修羅もいる。二人共慌てて土下座する。
べべんっ!
「面を上げろ」
「「はっ!」」
いきなり呼び出されたけど、まだ一か月は経ってないよね?
「ふっ、なんで呼び出されたんだろうって顔だな」
「…いえ」
顔に出てしまっていたようだ。恥ずかしい。
「…なかなか豪気だな、零余子。柱と交戦したことなど、大したことではなかったか?」
「っ! …まさか、そのようなことは」
なんでもう知ってるの!? …チラリと横を見ると、阿修羅も驚いているので、阿修羅からでもなさそうだ。
「なんとなくは状況を掴めているのだが、当人たちの話を聞きたくなってな。まずは阿修羅から聞こうか」
「はっ!」
阿修羅が無惨様に話す。
鳴柱につけられていたことに気付いたところから、交戦となったこと。
そして、残念ながら埋められない実力差から、破れそうになったこと。
そして…
「…零余子から呼ばれ、振り返ってその目を見た瞬間から、正直記憶が曖昧です。
おそらく、あの術にかかったと思われるのですが、これ以降は零余子からお聞きした方がよろしいかと」
「…わかった。零余子、続きを話せ」
「はっ!」
無惨様から促され、私も起こったことを話す。
阿修羅と柱との交戦中、手が出せなかったこと。
柱の片手間の攻撃で、死にかけたこと。
もはやなるようになれと、阿修羅に術をかけたこと。
予想外になんとかなり、阿修羅が格段に強くなったこと。
阿修羅手強しと見たか、まずは私からというように、柱がこちらに標的を変えようとしたこと。
その隙をついて、阿修羅が柱の右足首を切り落としたこと。
旗色悪しと見たか、柱がそのまま逃亡したこと。
「…以上となります。
なんとか撃退はできましたが、残念ながら、殺すことまではできませんでした」
起こったこと全てを、包み隠さずに報告した。
「…なるほど、な」
無惨様がじっと見つめてくる。
なんでしょう? …と小首をかしげると、フッと笑われた。
「両名とも、報告ご苦労。…そして、よくやった。
柱の撃退は、これまで上弦しかなしえていない。二人がかりとは言え、下弦でなしえたのはお前たちが初めてだ。
よって…」
…瞬間、首に何かが刺さったのを感じた…
「…褒美をくれてやろう。順応し、より強くなれ」
どくどくどく…と、無惨様の血が入ってくるのを感じる。これまでにない量だった。
べべんっ!
無惨様の気配がなくなったのを感じるが、それどころではなかった。
「はっ…はぁぁああぁぁぁ……」
…さすがに、この量はきつい。
無惨様の血は暴力的だ。…それこそ、ご本人同様に。
こちらはとにかく逆らいませんと、頭を下げて恭順の意を示しているのに、その頭を踏みつけ、蹴りつけ、何度も何度も足蹴にしてくるように、私の体内で暴れまくる。
「…うっ、…ぐっ…」
私を殺そうとするように、血管内を、心臓内を、脳内でさえも暴れまわる。
命の危機を感じても、逆らわない。全身を蹂躙してくるのを、黙って受け入れるだけ。私はあなたのしもべです。何でも受け入れます…と示し続けることが肝要だ。
「…はあ、…はぁ、…はー…」
満足したように、無惨様の血が大人しくなる。
こうなったら、しめたもの。体内に王様部屋を作り、とりあえずそこにご案内する。そして、存分に接待し、じわじわ、じわじわ…と吸収していく。
今回はちょっと想定外の団体客だったので、慌ててしまったが、これでなんとか大丈夫だ。
ふと、横を見ると…
「がぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁぁぁぁーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
旅籠”阿修羅屋”の方は、大変なようだった。
零余子ちゃんは自分で自分に魅了をかけました。
…まあ、そうしないと、零余子ちゃんはストレスで死にそうでした。
旅籠”零余子屋”では、女将零余子ちゃんと若女将零余子ちゃんを筆頭に、仲居零余子ちゃん達がご機嫌を取りつつ、無残様御一行を王様部屋にご案内して…
あとは、芸者零余子ちゃん達が集まって、接待をしておりますw