鬼殺隊が来た。
…早くね?
いやいや、わかってましたよ。予想通りですよ。むしろ計算通りですよ。
だから、私は驚いてませんし、オタオタもしてませんし、あわあわもしてませんし、もちろんビクビクだってしてませんよ。
オタオタ…バタン!
オタオタして倒れた? …幻覚ですよ。
鼻が赤い? …暗いところで役に立つんですよ。
まあ、とりあえず、応対した父を魅了尋問した結果、以下のことがわかった。
まず、森に入った猟師数人が鬼に喰われたと聞いて、やって来たとのこと。
そして、昨日この家の娘子…私のことだ…が、生贄にされたと村人に聞いたとのこと。
それに対して、父が間違いないです。昨夜うちの娘を生贄に捧げましたと答えたとのこと。
鬼殺隊の少年は、沈痛な面持ちでそれに応じ、まだ鬼はいるでしょうから、この村を見回ると答えたらしい。
あわあわ、鬼殺隊がそばをうろついてますよ! やばいですよ!
いやいや、落ち着け。私は死んだことになってるし、この家から出なければ大丈夫! …だよね?
とりあえず、布団をかぶる。すっぽりかぶる。ビクビク…地震かな?
「すー、はー」
深呼吸をし、考えに没入する。
あの鬼って、どうしたっけ? …あの方の呪いでぐちゃぐちゃになった後、そのまま放置した。山の麓の祭壇そばだから…今は見事に太陽の下でチリになって消えてしまっているだろう。
じゃあ、鬼殺隊士はどうする? …どこかに隠れているはずの鬼を探し回るだろう。もういないから、探しても見つかるわけがない。
だったら、どうなる? …鬼は逃げたと結論づけて、いずれは村を去るだろう。
それはいつ? …まあ、早くても一週間は探すよね。
「それはまずい」
見つかるかも、殺されるかもと、一週間もこの部屋で布団かぶって、オタオタ、あわあわ、ビクビクしていられませんよ!
「…鬼殺隊でも、少年だったなら…」
…私の魅了が効くはずだ! …効いてください、お願いします!
月が綺麗だった。暗い夜道だったが、十分明るいと言えた。
「満月のおかげだな」
周囲を明るく照らしてくれる満月に感謝をささげる。
「…満月じゃないよ」
そこに声がかかった。
「満月は昨夜だよ。よく見たら欠けているでしょ。少しだけ」
木でできた簡素な祭壇に、少女が一人腰かけていた。
「昨日は、それはそれは綺麗な満月だったんだよ」
昼間も、つい先ほども、祭壇を見たときにはいなかった。
「あなたは鬼を殺しに来たんだよねえ。…早いねえ、わずか数日で来るんだねえ」
少女がころころと笑う。
綺麗な女の子だった。
月の光を受けて、キラキラと光り輝く銀の髪。
病的なほどに真っ白で、透けるような無垢な肌。
血のように鮮やかな、紅の瞳。
人形以上に整った、美しい顔。
「…でも、遅いよ。…一日、遅いよ」
そのすべての特徴は、昨夜生贄にされた少女のものと一致した。
「…すまない」
それは自分の心底からのものだった。
一日だろうが、一刻だろうが、少女にとっては間に合わなかったという事実のみが全てだ。それに対し、何も言い訳できない。
…チャキ…
だが、それとこれとは別だった。
鬼…にしては、気配が薄かった。
人を喰ったことのある鬼は、外見がどんなに美麗でも鳥肌が立つような嫌悪感しかなかったが、この少女には、ある種の神秘的な魅力があった。
幽霊…なのだろうか?
こんな仕事をしているが、今まで霊に会ったことはなかった。…だが、悪霊、怨霊の類であるならば、斬らねばなるまい。
「…私を斬るの?」
少女が悲しそうにそう聞いた。
「…斬りたくは、ない」
それは自分の本心だった。若い身空で生贄にされ、殺され、霊になった後も斬られるなんて、あまりにあまりだった。
「ねぇ、抱きしめて」
少女が両手を広げて、僕に微笑みかけた。
「…それとも、怖い?」
言葉とは裏腹に、その笑顔は蕩けるように甘かった。
そして、妖しいばかりに美しかった。
嗚呼、僕は霊に憑りつかれてしまった、魅入られてしまった。
零余子ちゃんの能力、魅了のかけ方について。
ちなみに、鬼状態でも、擬態(人間状態)でも、どっちでも使えます。
①目と目を合わせます。 (瞬間、好きだと気付きます)
②声をかけます。 (蕩けるように甘い声です)
③フェロモンを嗅がせます。 (すんごいいい匂いです)
④血を吸います。 (痛くなく、むしろすごく気持ちいいです)
①~③は順番が前後しても構いません。