その一報は、京都にある藤の家紋の家で聞いた。
「…そう、なんだ…」
話はしたことがない。あそこで何度か見かけただけの関係だった。…それでも、少なからず衝撃を受けた。
大太さんを殺したのは、岩の呼吸を使う剣士だったとのこと。
その功績をもって、岩柱になるだろうとのこと。
炎柱、鳴柱と、ここのところ減っていた柱が、ようやく増えたことで盛り上がっているとのこと。
盛り上がっている藤の家紋の家は、居心地が悪かった。
べべんっ!
呼び出されたのは、一報を聞いた夜だった。
私の他には、累君と阿修羅がいた。
阿修羅と会うのは久しぶりだったが、さすがに神妙な顔をしていた。呼び出された理由を知っているのだろうか?
逆に、累君はあまり変わった様子は見られなかった。こちらは知っているのか、知らないのか?
べべんっ!
「面を上げろ」
「「「はっ!」」」
声から察するに、機嫌が悪い感じだった。…まあ、当たり前だけど。
「大太が殺された。下弦の参だ」
事務的な中にも、隠しきれない怒りが感じられる。
その無惨様の怒りが、大太さんへの哀悼に感じられ、少しだけ嬉しく感じる。
ただただ消えていき…何も残さない鬼の身、どれだけの者が悼み、悲しんでくれるのだろうか?
「お前たちを一つずつ上げる。下弦の陸はいずれまた補充する予定だ」
続く無惨様のお言葉は、予想通りではあったのだが、あまり簡単には受け入れられない。
「…お待ちくださいませ」
「…なんだ?」
機嫌が一段悪くなったのを感じる。予想通りなのだが、おなかがキューっとなる。
「私はこの中では一番弱い身です。このまま下弦の肆に居たいと存じます」
「私の決定に、異を唱えるのか?」
無惨様が、静かに言った。
ひぃぃ…しんどい、胃をぎゅーっと雑巾みたいに絞られているように感じる。
「…申し訳ございません。…ですが、私には下弦の参は分不相応です。戦闘面であまりお役立ちにはなれぬ身を恥じるばかりです」
累君や阿修羅よりも数段弱い私が、彼らよりも上にいるのは、正直落ち着かなかった。指剣鬼君に勝った段階で、やめておけば良かった。後悔先に立たずとはこのことだ。
「…下の者が不満に思うなら、入れ替わりの血戦を申し込めばいい。序列が上がることに文句をつけるな」
無惨様のおっしゃりたいこともわかる。わかるのだが、それは強者の意見だ。私みたいな弱者は、ただただ落ち着かないのだ。
「…本当に、本当に申し訳ないことなのですが、現状頂いている任務にも、差支えが出てしまうやもしれません」
「…ぐっ」
青い彼岸花の研究まで盾に取り、固辞をする。…そこまでやることかと、思わなくもないが、なんか変な意地になっている。
「…あいわかった。…では、累と阿修羅を…」
「あっ、僕も下弦の伍のままでいいです。なんかめんどいんで」
お、お前えぇぇー!!
無惨様のお言葉を遮るとか! あと、なんか建て前でもいいから、言い訳しろよ! あとあと、言葉遣い!! こっちがハラハラするわっ!!!
「そうか、わかった」
ええぇぇぇーーーー!!!
あっさり! そんなあっさりと! 私にはさんざん脅してきたのに! ひいきだ!! 依怙贔屓だっ!!! 断固抗議するぞっ!!!!
「何か、言いたいことがあるのか?」
「…いえ、なにもないです、はい」
よわっ! 我がことながら、よっわっ!! だが仕方ない! 仕方ないんだよ!!
べべんっ!
無惨様の気配がなくなる。本当におなかが痛くてたまりませんよ。
「…ああ、そうだ、零余子」
何でもなかったように、累君が私に話しかける。
この流れで、よく私に声をかけれるな!
「…なに?」
「僕の母さんになってよ」
累君に告白された。
「…はい?」
えっ、えぇぇーーー!!
告白にしても、大胆すぎる!
そ、そんな、子供を作ろうってことなのかな? …いや、そんなっ! …えぇぇーー! …でも、その、なんだ…鬼でも子供できるのかな…ああ、いや、そういうんじゃなくて…えぇ、ええぇぇーーー!!
「…ああ、でも、零余子が母さんはやっぱりいやだな。うん、ナシで」
…そして、フラれた。
お、おまっ! ふざけんなー!!!!
べべんっ!
あまりのグダグダな展開に、鳴女さんが呆れたのか、そのまま部屋へと転送された。
「うがあぁぁぁあああぁぁぁーーーーーーーー!!!!!!」
…結局、阿修羅が下弦の参になり、私と累君はそのまま。下弦の陸には山坊主がなったみたいだ。嬉しそうに報告に来てくれたよ。
零余子と累君は、お互いに「こいつ、怖いものなしだな」って思ってます。
阿修羅は「こいつら、怖れ知らずにもほどがあるだろう!」って、気が気じゃなかったです。