「成羽愛宕大花火…ですか?」
「そう。…あれ? 三日後のそれを見に来たんじゃないの?」
明朝、旅籠屋の主人に面白い話を聞いた。
成羽愛宕神社奉納花火と、かつて呼ばれたそれは、江戸時代から続く有名な花火大会だそうだ。
実は、私は花火を見たことがない。
鬼になる前は、そもそも外にすら出られなかったし、鬼になった後も部屋にこもりがちで、花火を見に行こうという発想すらなかった。
「…いえ、そうです。それを見に来ました」
しゃあしゃあとそう言った。
花火…知識としてはありますが、なかなか浪漫があるものだと聞く。
気になる二人で見に行けば、関係が進展するのは間違いない!
調査中だとゴリ押せば、三日くらいはなんとかなる…はず!
こんな偶然そうそうない。まさに天の采配に違いない!!
そう! 二人で見に行けと言われているんだ!!!
「…花火大会?」
「そう、近くでやるんです」
零余子にコソコソと廊下に引っ張り出されたと思えば、そんなことを言われた。
「…一緒に、見に行きませんか?」
…ドン! …ドン!
…なんだろう、この光景は…
零余子の言葉を聞いた瞬間、いつかどこかで、花火を見たような気がした。
「…猗窩座様?」
「…ああ、いや…」
記憶にないはずの光景を、頭をふって消し去る。
「…それで、どうでしょう?」
おずおずと、上目遣いでそう聞いてきた。
…そんな風に、照れながら見上げられることに…
「…あ、ああ」
…頭がうまく働いていない。どっちともとれるような曖昧な返事を返していた。
零余子がぱぁっと笑顔になる。
「はい! 約束ですよ!」
…約束…
新月の晩、再び備中鍾乳穴へと向かいます。
一応、この調査という題目でここに来ましたから、当然参ります。
まあ、今は三日後の花火大会のほうが、大事なんですけどね。…むふふ。
何が起こるかわかりませんから、川口氏は旅籠に置いてきます。かなりぐずりましたが、私の魅了は完璧です。
月明かりがまるでない、ただそれぞれが持つカンテラだけで見る鍾乳洞の入り口は、黄泉へとつながっていると言われたら、そんな気になってくる雰囲気をしております。
「…俺から行こう」
猗窩座様を先頭に、すぐ後ろを阿修羅、その後ろに私、最後尾が山坊主という布陣で進みます。
丑三つ時(午前一時半)まで一刻(二時間)程、時間的余裕は十分にあります。
「…ひゃあっ!」
「なんだっ!」
「どうしたっ!」
「何があったっ!」
一斉にカンテラを向けられます。
「…えっと、首元に水滴が…お騒がせしました」
ああ、恥ずかしいやら、申し訳ないやら…
なんでこういうのって、一番ビクッとするところに落ちてくるんだろう。
その後は特に何事もなく、行き止まりにまで到着する。
懐から懐中時計を取り出し、カンテラで文字盤を確認する。
丑三つ時まで一刻を切ったくらいを、針が示している。
古文書の時間なんて適当だと思われるので、何かが起こるなら、もう起こっていてもいいころだろう。
寅二つ…いや三つ(午前四時)まで待機していた方がいいだろうか? …ああ、でも日の出も早い。最悪はここで日の入りまでいることも考慮したほうがいいだろう。
「…鈴の音?」
猗窩座様の言葉に、耳を澄ませる。
チーン……チーン…
高く澄んだ音が聞こえてくる。
フッ…
「…カンテラがっ!」
鈴の音が聞こえたと思えば、全員のカンテラが同時に明かりを失った。
チーン……チーン……チーン…
鈴の音に合わせて、青い炎が現れて、周囲を青く照らし出す。
「…鬼火?」
「…それよりも、ここはどこだ?」
その言葉にハッとなる。鈴の音は聞こえるが、水の音が聞こえなくなった。
また青い炎に照らし出されたここは、相当広い場所だった。
…ええ、ちょっと! …ほんとに何か起こるのっ!?
何も起きない方が不自然ですよねw