そろそろ途切れるかなとは思ってましたが、こんなミスでとは…残念!
チーン……チーン…
闇の中に、青白い右手が浮かんでいる。
その右手が持つのは…五鈷鈴(ごこれい)のようだ。…今響いている鈴の音は、これの音なのだろう。
チーン……チーン…
宙に浮かんでいる右手が、五鈷鈴を鳴らすと…ぬるりと全身が現れた。
それは、黒い衣をまとった大男…何よりも目立つのは、顔にかぶった黄金の仮面。四つの目を持つ、鬼の仮面…
「…方相氏(ほうそうし)?」
「…ほう?」
私のつぶやきに、奴が反応を返した。
「…なかなか勉強しているやつがいるな。いかにも、儂は方相氏だ」
「方相氏って、なんだ?」
奴を正面に見据えたまま、猗窩座様がそう尋ねてきた。
「…ええと、神社とかでやっている追儺式(ついなしき)…厄とか鬼とかを払う行事で、先頭で鬼を払う…
…鬼です」
チーン…
奴が右手の五鈷鈴を鳴らした。
「かかか…今宵の生贄は、なかなかに風変りじゃの」
絶賛混乱中なんだけど、聞き流すには物騒な言葉があった。
「…生贄?」
方相氏は鬼を払う。
私達は鬼だから払う…そういう話というには、生贄という言葉は似あわない。
そもそもこいつは、黄金の四ツ目の仮面、玄衣(黒い衣)に朱の裳(もすそ)と、方相氏の恰好をしてはいるが、手に持っているはずの鬼を斬る刀や矛、盾と言ったものを持っていない…右手に五鈷鈴を持っているのみだ。
チーン…
「…ふむ、時間はまだある。少し話をしようか」
いちいち鈴を鳴らすなと思わなくもなかったが、何が何だか状況がわからないので、その提案は渡りに舟だった。
チーン…
「…かつて、儂は陰陽師どもに召喚された。都を脅かす鬼を滅ぼせとのことで…」
チーン…
「…一鬼につき、百の魂をよこせという約定で、それを受けた…」
百の魂って、鬼を一体滅ぼせても、百人の生贄を用意するならば、良いのか悪いのか微妙なんじゃないの?
チーン…
「…都にはびこる百鬼夜行、…その、ことごとくを滅ぼした…」
誇るでもなく、なんでもないように、そう言った。
チーン…
「…じゃが、奴らは約定を違えた。…ただ、その代わりに、鬼神として祀り、信仰を捧げようと宣った…」
チーン…
「…儂はそれを受けた。魂を得られずとも、信仰を得られるならば、百年、千年を考えれば得であると考えたからじゃ…」
…割と俗物だな…
チーン…
「…じゃが、信仰は歪んだ。一部は正しく、一部は間違えて伝わった…」
方相氏は鬼を払う鬼だ。…だが、地方では節分の鬼として、払われる方の鬼とも伝えられている。
チーン…
「…故に、こうして、裏で生贄の魂を頂くことにした…」
…あー、なるほど、表ではちゃんと信仰しているところもあるから、裏でこっそりと生贄をもらうと…大層な登場と物言いの割に、すっげえ俗物じゃない、それ?
「私達、一応鬼なんだけど、生贄になるの?」
チーン…
「…お前たち鬼擬きも、魂があるからな、生贄になる…」
鬼擬き…ねえ。平安時代の鬼って、私達とは違うってことなのかな?
「…ここって、黄泉比良坂なの? それとも彼岸なの? 三途の川も賽の河原も見えないけど、もう地獄なの?」
得体のしれない鬼相手だけど、毎週の無惨様との面談で精神が鍛えられたのか、ちゃっちゃと質問していく。
チーン…
「…あの世とこの世との境、そういう意味では黄泉比良坂と言える…」
あのトンデモ本、まさかの当たりだったのか…
「…じゃあ、青い彼岸花は、ここにあるの?」
ゴクリと息を飲んで、そう聞いた。
「…青い、彼岸花? …なんじゃそれは?」
そこはガセなのかよーーー!! そこが一番肝心なのにっ!!!
平安コソコソ噂話
「五鈷鈴というのは、密教法具の一つで五鈷杵の上半分と下半分が鈴になっている物。
方相氏というのは、本文でも書いているように、鬼を払う鬼のこと。
追儺式は中国から伝わり、日本でも宮中行事だったんだけど、鎌倉時代から衰退し、
江戸時代にはすっかり行われなくなったみたい。
宮中行事としては廃れたんだけど、寺社では残り、今の令和の世でも追儺式は見られるよ」