ブオンッ!!
うなりをあげて振るわれた左手を、猗窩座様が右腕で受ける。
ガッ!!
踏ん張れず…いや、踏ん張らずに、そのまま吹き飛ばされ…たんじゃなく、自分で飛んで後ろに下がる。
…もう、腹をくくるしかない。
「阿修羅! 山坊主!」
「おう」
「なんじゃ」
私の呼びかけに、こちらを見てきた二人の目を見て…
「…恋、狂え…」
「「があぁぁぁぁああぁぁーーーーーーー!!!!!」」
私がまっすぐ指差した方相氏に向かい、二頭の狂鬼が飛びかかる。
恐らく前とは違い、今度の暴走では、そこまで能力は跳ね上げられないだろう。
…それでも、わずかでも上がるのなら、やらない道理はない。
そうして、私は猗窩座様へと駆け寄る。
「猗窩座様…」
「…零余子か」
猗窩座様の両手の傷は、既に治っている。それでも…
「…猗窩座様、これからあなたを、魅了します」
まっすぐに目を見て、そう告げた。
「………わかった。…やってくれ」
一瞬の躊躇があったが、猗窩座様もそう言って、頷いた。
そっと抱き着いて、首筋に噛みつく。
血を吸った…その瞬間、これは無理だと思った。
…無惨様の血が濃い…
私や阿修羅、山坊主なんかとは比べようもないほどの濃さ、…この中で、私の血が心臓に留まれるとは思えなかった。
それでも、できることは…
「けぷっ…」
猗窩座様の血を吸い、私の血を入れる。
「…どうだ?」
まっすぐにこっちを見てくる猗窩座様の目は、うつろなところもなければ、濁ったところもない。
まさに正気そのものの目で、かけらも魅了できなかったことを示していた。
「がぁっ…」
「ぐぁっ…」
聞こえてきた声につられて見てみると、真っ赤に染め上げた左手から、ポタポタと血を流している方相氏と、ぐしゃぐしゃにされている、阿修羅と山坊主が転がっていた。
「ちっ…」
猗窩座様が、私をかばうように前に出る。
ああ、なんとか…なんとかしないと…
グン…
「…零余子?」
方相氏に向かおうとしていた猗窩座様の右手を、いつの間にか取っていた。
戸惑う猗窩座様の目をしっかりと見つめて……
「…恋……ゆ…き…」
「…がっあああぁぁぁーーーー!!!!」
右手を放すと、猗窩座様がまっすぐに方相氏に向かう。
それをどこかフワフワとした気分で見ている。
…なんだろう? …よくわからない…
…破壊殺・乱式…
向かってきた方相氏の左手を砕き、仮面を砕き、肩を砕き、腹を砕き、…まるで奴の体が泥でできたものかのように、猗窩座様の拳の当たるところが、砕かれていく。
チーン…
時間が巻き戻されたかのように、砕かれた部分がくっついて戻っていく。
…破壊殺・滅式…
「…ああ…」
血が飛び散る。今度砕けているのは、方相氏の体じゃない…
「…形代を、さらに堅くした…」
両の拳が砕け、連撃が止まる。
方相氏が五鈷鈴を振りかぶる。
「…魂を、いただこう…」
五鈷鈴が頭へと振り下ろされる…
「…はくじさんっ!!」
私の口が、知らない名前をつむいだ。
パキンッ!
…鈴割り…
振り下ろされる五鈷鈴を、側面から砕けたはずの右手で殴り壊した。
「…俺の魂は、…やれない…」
ドンッ!!!
…方相氏の頭があったところに、猗窩座様の右拳があった。
ドサ…
方相氏の頭が、数メートル向こうに、落ちた。
…ザアッと方相氏の体が塵芥のように、崩れ落ちる。
…勝った?
チーン…
…その音に、ゲンナリしながら、鳴った方を見る。
「かかか」
宙に浮かんだ方相氏の頭と、宙に浮かんだ五鈷鈴があった。
「…あの形代を壊すとはな。なかなかに面白かった…」
方相氏がそう言うと、ひょいっとばかりに、五鈷鈴が弓なりに飛んできた。思わず両手で受け取る。
「…餞別じゃ。新月の晩に鳴らすと良い…」
それだけ言うと、ふっと消えた。
周りに浮かんでいた青い鬼火達も消え、辺りは消えていたはずのカンテラの赤い光で照らされていた。
「…猗窩座様!」
少し離れた所に立っていた猗窩座様のところへ駆け寄る。
私の姿を目にすると、柔らかく笑ってくれた。
「…この約束は、…守れてよかった…」
それだけ言って、倒れそうになる猗窩座様を抱きとめた。
ううん、もっとうまく書きたかった。
今回の岡山旅行編は、脳内プロットから二転三転しました。
ああ、難しいねえ、難しいよ。