べべんっ!
猗窩座様を抱きとめたままの体勢で、いきなり呼ばれた。
阿修羅と山坊主も、近くに転がっている。…ちょっとは再生が進んでいるようで、まだなんとか見れたものになっている。
他にいるのは、いつもの場所に鳴女さん、それにその前に立っているのが…
「わわわっ!」
慌てて正座の体勢に移行する。
意識を失ったままの猗窩座様を抱えてだったので、自然に膝枕の形になったけど…しょうがないね、うん。
「…さて早速だが、何があった?」
無惨様が前置きなしに聞いてきた。
山坊主と阿修羅はボロボロ、猗窩座様もこの状態…うん、私が答えるしかないですよね。
「…正直、私もよくわかっていないのですが、わかる範囲でお答えします」
古文書に従い、深夜に備中鍾乳穴の最奥に四人で訪れたこと。
鈴の音が聞こえたと思ったら、青い鬼火に囲まれ、広い場所にいつの間にやらいたこと。
そこに方相氏を名乗る鬼が現れたこと。
「…方相氏、だと?」
「はい。黄金の四ツ目の仮面、玄衣に朱の裳と、見た目は方相氏の恰好をしておりました。また、私の問いかけにも、そうであると答えておりました」
「…なるほど、続けろ」
方相氏が持っていたのは五鈷鈴のみであったこと。
この場所が黄泉比良坂で間違いないと言ったこと。
私たち四人を生贄として、魂を頂くと言ったこと。
「…ただ、青い彼岸花に関しては、方相氏も知らなかったようでした」
「…うぅむ…」
私の言葉に、無惨様が渋い顔をする。…まあ、一番の目的が空振りだったのだから、そこは当たり前か。
猗窩座様を中心に、四人がかりで方相氏と立ち向かったが、極めて強敵だったこと。
猗窩座様の必殺技で、方相氏の上半身をふっ飛ばして、勝ったかと思ったら、たちまち復活したこと。
復活後は、猗窩座様の攻撃ですら効かなくなったこと。
「…それで、あの、猗窩座様に魅了をかけて、強化をしました」
…正直、ここが良く分からない。魅了はかからなかった自信があるんだけど、結果としては、かかってたんだよね?
「…ほう、猗窩座にまでもアレを使えたのか。強化した猗窩座が方相氏を破ったというわけか?」
「…えっと、破ったのかまではちょっと、よくわからないと言いますか…そのあとも、笑ってましたし…」
…いや、ほんと、私も何が何だかわからないんですけど。
私も誰かに聞きたいくらいなんですけど、白昼夢かなんかだったのかなあ…でも、山坊主と阿修羅はボロボロだし、猗窩座様もこんなだし、夢ではないんだろうなあ。
「…あっ」
そこで、腰に差してたものに気付く。
「…これ、方相氏が最後に投げ渡したものなんですけど」
方相氏の五鈷鈴を無惨様に差し出す。
「青い彼岸花の代わりというわけではないですが、どうぞお納め下さい」
正直、思わず受け取ってしまったけど、持っているのはなんか怖いので、無惨様に押し付…コホン、預かってもらおう。
「……いや、いらない。…お前が持っていろ」
押し付けそこなった。ちくしょー!
「…では、猗窩座はもういいな。お前たちは旅籠に戻してやろう」
「ええっ!」
「…なんだ?」
「…いえ、なんでもないです…」
零余子があからさまにがっかりする。
べべんっ!
不満タラタラだった零余子と、ほとんど再生が終わっていた阿修羅と山坊主を、転送させた。
…しかし、方相氏とは、な…
あくまで自称ではあるようだが、零余子から聞いたその実力は、かなりのものだ。
何より、何が起こるのかと気にかけていたあいつらが、いきなり私の認識範囲外に行ったのは間違いない。
私の認識範囲内…少なくとも、岡山からは確実に居なくなっていた。
数分後、再び認識できた瞬間に、呼び寄せた。…話を聞くに、数分間の出来事とは思えないが、異界に囚われていたのは間違いないだろう。
「…ちっ」
はっきり言えば、そんなやつとは関わりたくはない。
あの馬鹿、何を押し付けようとしやがる。…京都にいるんだったら、どっかの寺社にでも奉納してこい。
しかし…あいつは…なぁ…
鬼札にも程がある。
極めて危険であり、同時に有用だ。扱いが非常に難しい。
「…だが、まずは何よりも青い彼岸花だ…」
奴の取り扱いは、保留としておく。
無惨様はとりあえず心の棚に、零余子を置いた。