ざわざわ…ざわざわ…
何を言っているのかはわからない。…それでも、家の外にたくさんの人間がいて、普段よりもずっと騒々しかった。
お通夜の間、私は母のそばにいることを許されなかった。
まだほんのりとぬくもりの残る母から引き離され、部屋から出ることを禁じられた。
死というものを、当時は認識できていなかったが、永遠の別れであるということは、なんとなく感じ取れていた気がする。
家の外のざわめきが、波を打ったように静かになり、大きな笛の音が聞こえたあと、人々が遠ざかっていく気配を感じた。
母の遺体が入った木棺が、家から出て行ったのだろう。
死も、葬儀も、愛も、情も、何もわからない、物心がついてない頃だったが、布団をかぶって静かに泣いたことを思い出した。
…記憶にないと思っていた、母の葬儀を思い出すあたり、私はだいぶショックを受けているんだなと、ぼんやりと思った。
一番最初に会った阿修羅の印象は、六本腕を腕組みし、むっつりと押し黙った表情だった。
命がけの決戦の後の、自分勝手な打算の結果で、最初の阿修羅との戦いは、そこまで重要なものじゃなかった。
その後に、阿修羅が私に近づいてきたのも、多分に打算があっただろう。
それは、そういうものだ。きっかけなんて、そんなものだ。
阿修羅と山坊主は、会うたびにいつも張り合っていた。
口を開けば言い合いをしてたし、なんだかんだと勝負をしていた。
そんな様子を呆れて見ていたが、内心は…友達というものがいなかった私は、きっと羨ましく思っていた…と思う。
岡山への旅行の時は、邪険に扱ったけど…そんな扱いをしても大丈夫だと、そう甘えていたと思う。…いつからかはわからないが、もう既に友達だと思っていたんだ。
べべんっ!
正座をし、静かに佇んでいる零余子は、心ここにあらずというものを体現していた。
「…面を上げろ」
「……」
私の声に反応し、零余子が少しだけ顔を上げる。ただ、視線は合わないし、心の声もまるで聞こえてこない。
…なんて、人間臭い鬼なんだ…
思ったのは、それだった。
仲が良かった阿修羅が死んだことに悲しみ、塞ぎ込み、心が弱っているのだろう。成り立てであっても、こんなに人間臭い鬼はいないだろう。
怒鳴りつけそうになる衝動を抑え、一つだけ聞いてやる。
「…何か、望みはあるか?」
「…………」
静かに瞬いて、こちらを伺ってきた。…今日、初めて視線が合った。
「…山坊主……に、会いたい…です」
わかった…とだけ応じて、送り帰した。
研究所の庭に、大きな石を置いた。
「…阿修羅の、…墓か?」
後ろから聞こえてきた声に、振り向かずに応じる。
「…うん。…何もないのは、寂しいから…」
戒名もない、何もないただの大きな石。きっと、私たち以外には、墓だとはわからないだろう。
遺体もなければ、遺骨もない。その墓の下に埋まっているのは…
「…前にさ、阿修羅にあつらえて作ったスーツがあったんだ、覚えているかな?」
「…ああ、むかつくことに、割と似合ってた奴じゃな」
「…ふふ、阿修羅はおっきかったから、できあいのはなかなか合わなくて、それなりに奮発したんだよ」
わずかな期間しか着なかったスーツだけど、それなりに印象に残っている。
神戸から大阪まで、初めて列車に乗った時、そして大阪観光…ふふ、もちろんデートなんかじゃないよ、私の初デートは高いんだからね…
…でも、いいよ。デートにしてあげてもさ…
鳴柱に襲われた時は、破かないように脱いでいたな…あの時は、私は必死だったのに、阿修羅はそれなりに余裕があったのかな…
「…それ以降は、岡山の旅行まで、あんまり会えなくてさ…」
「…そっちが呼んだくせに、あからさまに邪魔者扱いじゃったな」
あの時も、山坊主と阿修羅の二人は仲が良かった。やっぱり二人は仲良しなんじゃんって、思ったもんだよ。
「…ねえ、山坊主も話してよ。…私の知らない阿修羅の話をさ」
「…お前に会う前じゃと、大した話なんぞ、ないんじゃがのう」
山坊主はそう言いながら、私の横に来て、手に持っていた一升瓶の中身をドプドプと石にかけた。
「阿修羅って、お酒が好きだったの?」
「知らん。…知らんが、こういうもんじゃろう?」
本で出てくるような鬼は、大概が大酒飲みで、有名な酒呑童子なんかはその最たるものだ。…でも、実際は違う。鬼はお酒では酔わない。そして、生前の阿修羅が酒好きだったのかも、よく知らない。
…それでも、そういう作法はしっくり来た…
どっこいしょと座った山坊主の隣に、私も座り込む。
阿修羅はここにはいないけど、それでも、三人で車座になる。
「…誰かと…さ」
「…うん?」
「…山坊主と…さ、…阿修羅のことを、話したかったんだ…」
「…うん」
「…二人がかりだったんだってさ、一人は倒したけど、もう一人の方にやられたんだって…」
「…ふん、だらしない奴じゃな」
「…ほんと、だよね、…黒死牟様…みたいになるって、言ってた…くせに…さ」
「…六本も腕があったんじゃからな、三人まではなんとか、しろよ…な」
「…勝てない…でも、さ、…逃げ、れ…ば、良かった…のに…」
「…それは、…どうじゃろうな」
「…それでも、……それでも、生きて…ひんっ…生きてて、くれたら…」
山坊主の手が、私の頭にのせられた。
「…もう、会ぇ…ぁえない…なんて、…そんなの、ぃやだ…よう…」
…鬼の死は、ひどく寂しい…
…残るのは、想いと…悲しさだけだ…
「…それでも、お前が居てくれたのは、阿修羅にとっては、幸せなことじゃったと、儂は思うぞ…」
とりあえず、ここでも原作同様に、下弦の壱を倒したのは
粂野匡近と不死川実弥のコンビになります。
おそらく原作だと、下弦の壱が殺されても、上弦達は気にしないし
他の下弦達も上が空いたとしか思わなかったと思います。
うちの零余子ちゃんは、どうしようもなく人間臭くて
周りの鬼達にも、ちょっとずつ影響を与えていたりします。