申し訳ないですが、零余子ちゃんと一緒に乗り越えてください。
阿修羅が死んでも、世界が止まるわけではない。
日々は流れていく。
その流れの速さに、戸惑うこともあるけれど、少しずつ、ちょっとずつ、前に向かうしかない。
私がぼんやりとしていても、研究は進んでいく。
古文書の解析はほぼ終わり、青い彼岸花の再現は、代替品などを用いて研究を進められている。
私は、それを横目に、甘いものを食べたりするだけだった。
ある日、赤紫色をした、彼岸花ができた。
二株だけできた、その彼岸花は、偶然の産物だった。…研究室ではなく、いつの間にか庭に咲いていたのだ。
阿修羅の墓のそばで、いつの間にか生えていたそれは、阿修羅からの贈り物のようにも思えた。
その赤紫の彼岸花を注射した鬼の右腕は、四半刻ほどの間、日の光の下で焼け落ちなかった。
赤い彼岸花をわずかに赤紫色にした成分は、日の光に対して有効であることがここに示された。
面談時に、無惨様が引きちぎられた左腕でも、同様のことを試してみたところ、同じく四半刻ほど日の光の下で蠢いた後、燃え尽きたのが確認された。
つまりは、血の濃さに関係なく、同じ効果があることが示された。
無惨様は上機嫌になったし、研究所の他のメンバーも沸き上がったが、私自身は戸惑いの方が大きかった。
いろんな出来事が、私を置いて進んでいくようで、何とも言えないもやもやした気持ちを抱えていた。
…誰かに甘えたかった。
…私に優しい誰かに、ただただ側にいて欲しかった。
大きく転換した研究が、慌ただしく動いているのを尻目に、東京出張の予定を入れた。
それでも、問題はなかった。…笑っちゃうことだが、青い彼岸花の研究に、あまり私は必要なかったから。
関東方面に行く際には、鬼狩りの様子をうかがう必要があった。
阿修羅の件を聞いて以来、行ってなかった藤の家紋の家に向かう。
何度も何度も嫌な話を聞かされた場所なので、正直なところ、行きたくはなかった。…今回だって、憂鬱な気分で重い足を進めた。
…それを虫の知らせというのなら、そんな虫は潰してしまいたい…
………山坊主が、……死んだ………
…もういやだ…何も聞きたくない…何も知りたくない…
…私一人では、受け止めきれない。…この悲しみを分け合える、誰かがもういない…
………世界は、どこまでも残酷だ………
べべんっ!
想定以上に、ひどい様子だった。
私に気付いて、伏せていた体をのろのろと動かし、正座をする。
心ここにあらずどころか、魂すらもないのではないかと感じてしまう。
「……無惨さま…」
声をかけあぐねていると、零余子が口を開いた。
「…なんだ?」
「…下弦の鬼は、…何の為にいるのでしょうか?」
その言葉には、何の感情も乗っていなかった。
「…それは…」
「…ただ、鬼殺の剣士を柱にするためだけに、存在するのでしょうか?」
下弦の鬼の殺されるペースは、確かに異常だった。
今の鬼殺隊の実力が高いのか、それほど弱くもない下弦の鬼達が、バタバタと殺されている。
「…十二鬼月に、下弦は必要なんでしょうか?」
下弦の肆である零余子の、その言葉は非常に重い。
捨て鉢になったのならまだわかるが、そこには単純な疑問しか感じ取れない、こころがどこかに抜け落ちたかのようだった。
「…不要というわけではない。お前がいるし、累もいる」
「…累くん…大丈夫かなぁ…魅了の強化をした方が…ああ、でも…それは、あんまり効果ないか…」
ぶつぶつと言っている零余子は、もう既に壊れてしまったのではないかと、本気で思わせた。
「…ふぅ」
息を一つつき、鳴女に合図を送る。
べべんっ!
「…現状、下弦の鬼達がバタバタと殺されている。関西にいるお前は大丈夫だとは思うが、護衛をつけることにした」
「…え?」
「…下弦の肆の護衛、確かに承りました」
零余子の隣で正座していた猗窩座が、頭を下げて、そう応じた。
ほぼゼロになった零余子ちゃんのライフを、なんとか回復させるため
ヒーローでヒーラーの登場です。