零余子日記   作:須達龍也

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なんとか完結までこぎつけました。
皆さま、長いことお付き合いありがとうございました!



72(最終回)

「…というわけです」

 

 累以外の全員を帰した後、累から詳細を聞いた。

 

「…はー、まったく、あいつは…」

 

 最悪の事態ではなかったことにホッとしつつも、それでいいのかと言われれば微妙なところだ。

 

「とりあえず、どこかでまた会わないとな」

 

「国外に出るって言ってましたし、難しいんじゃ?」

 

 

 太陽を克服できたというのに、やれやれだな。

 

 

 

 

 

 

 

「海外に逃げるんじゃなかったのか?」

 

 神戸港に行こうとしていて、累君に伝言しようと思い立って関東に変更し、その後の横浜港に行く予定も変更し、とりあえず東京駅へと向かっていたところ、猗窩座様から目的地を聞かれた。

「いやあ、累君に言伝したし、大丈夫かなあって」

 お気に入りの累君からだったら、無惨様も冷静に聞いてくれるだろう。

 

 …それに、海外に行くって言伝たし、まだのんびり国内にいるとは、無惨様でも気が付くまい。ふひひ。

 

「…あと、海外に出るのって、割とめんどくさいんですよ」

「そうなのか?」

「海外に出るのには旅券が必要なんで、いろいろ身分証を出して、申請して、…お金出したらそれでいいってもんじゃないんですよ」

 私だけは、身分をちゃんと日本国に作っているんですが、猗窩座様をはじめとする鬼は日本国には身分がないので、そこから作らないといけない。…まあ、魅了と金でなんとでもなるんですけどね。

 

「そうですね。まず猗窩座様から、身分を作りますね!

 私と夫婦ということにして、ちゃちゃっと作っちゃいましょう!」

 

 うん、名案です!

 

「えっ、それは…」

(名案じゃないですー!)

 

「まあまあ、書類上だけですって!」

 

 まずは…ね。

 

「…うーん」

(まずはって思ってるじゃないですかー!)

 

「…で、とりあえず、今はどこに向かっているんだ?」

 阿修羅がそう聞いてきた。

「東京発の特急で、大阪まで行きます。そこから鹿児島まで船で行って…そして、地獄めぐりですよ!」

 ひっひっひ…と、笑って告げる。

「…地獄って」

「温泉に行きたいって、良く愚痴ってましたもんね」

 長子ちゃんの言葉が答えです。

 

 

 

 

 

 なんだかんだで、別府温泉までやって来ました。

 予約はしていないけど、躊躇なく一番高級な宿にみんなで入ります。魅了でどうにか、なるなる!

 

「ふむ… 来たか…」

 

 なんか、いきなりお侍さんがいたよ!

 

「…黒死牟!」

 

 猗窩座様が、そのお侍さんを黒死牟様と断じます。

 

 

 うえぇぇ、なんで! なんでいるの!?

 

 

「…温泉地を張らせていて、正解だったか」

 

 そう言って入って来たのは、無惨様です。

 

 

 前門の黒死牟様に、後門の無惨様…あばばばばばば…

 

 

「…ふん、別にお前をどうこうしようってわけではないわ」

 

 よく見れば、黒死牟様は温泉旅館の浴衣を着ている。二人で温泉に来たのだろうか? …仲良しですね?

 

「…お久しぶりです」

「…ご無沙汰しております」

 

「…阿修羅に、山坊主か。…お前の周りでは、もう何が起こっていても、不思議ではないんだな」

 

 無惨様がやれやれと言った感じで、そうこぼします。

 

「…えっと、偶然…ですね?」

 

「…偶然のはずがあるか。前に温泉がどうこう言ってたからな、別府に黒死牟、草津に童磨、それぞれ一番でかい温泉旅館に張らせていただけだ。後は知らん。

 それで、黒死牟からこっちに来たと連絡を受けて、やって来たわけだ」

 

 数ある温泉地、しかももっと数ある旅館を、ピンポイントで押さえられていた! …まあ、草津のほうでなくて良かったと思うべきか。

 

「…えぇっと、どんな御用でしょうか?」

 

「…はぁ、あれで最後のつもりだったのか? …とりあえず、連絡役だけでもつけさせろ。

 …まさか、このまま逃れ者になるつもりだったわけではないだろうな?」

 

「いえいえ! …まさか、そんなことは!」

 

 …ちょっとだけしか、考えてませんでしたよ?

 でもまあ、青い彼岸花のわいろが通じたのか、穏当にまとまりそうだ。

 

 

「…では、とりあえず温泉に入ってからで」

 

 

 無惨様は盛大にため息をつかれた後、好きにしろと許してくれたよ。やったね!

 

 

 

 

 

 

 

 べべんっ!

 

 

 再び無限城に召集された。

 

 辺りを見回すと、下弦の壱、弐、参、伍…今度は十二鬼月の下弦のみを集められたようだ。…下弦の肆はいない。

 まあ、そりゃそうか。下弦の肆がいなくなったから探せと無惨様に召集をかけられたのは、ついこないだだ。

 

 

 べべんっ!

 

 

 次に移動したと思ったら、一段高いところに女が一人…って、左目に”下肆”の文字、いなくなったっていう下弦の肆じゃないか。

 

 

 べべんっ!

 

 

 今度こそ現れた無惨様に、一同平伏する。

 

「えぇい、お前も向こうに行こうとするな!」

「はわわ、つい癖で!」

 

 なんか締まらない。

 

「面を上げろ」

 

「「「「はっ!」」」」

 

 見えるのは無惨様と、猫のように首根っこを掴まれている下弦の肆…なんだこれ?

 

「お前達の中から一人、こいつのところに派遣する」

 

 無惨様のその言葉に、首根っこを掴まれたままの下弦の肆が、ちょっとだけ頭を下げた。

 急に呼び出されたが、あまりの展開に、状況がよく呑み込めない。…そう思っていると、すぐ隣にいた下弦の伍が手を挙げた。

 助かった。前回もこいつが手を挙げて、話は終わったので、今回もそうなると期待したのだが…

 

「…僕はパスで」

 

 しゃあしゃあとそう言った。

 

「…ぬぅ」

「こらー! 累君、どういうことだー!!」

「…しょうがないか」

「しょうがなくない! 依怙贔屓ダメ!!」

 

 …なんだ、この茶番…

 

 結局、下弦全員が持ち回りで、下弦の肆のところに派遣されることになったようだ。

 

「…僕の時はそっちが来てよ。曾お爺ちゃんの役が空いてるから」

「ふざけんなー! 性別まで変わってるじゃないかー!!」

 

 …ほんと、なんだこれ?

 

「…えぇい、とりあえず今日からは下弦の陸を連れていけ! 解散だ!!」

 

 あっさりと、最初の生贄は俺に決まったようだ。

 

 

 べべんっ!

 

 

 

 

 

 

 

 鳴女さんに、自然研究所の地下室に送ってもらった。

 別府からの旅費が浮いたというか、せっかくの温泉旅行が一泊で終わってしまったというか、微妙なところだ。

 

「…ここは?」

 

 きょろきょろと辺りを見回すのは、下弦の陸の伝統なのか、ちょっと指剣鬼くんを思い出すね。

 

「…戻ったか」

「…どうなった?」

「…そっちのは、下弦の陸か?」

「…お帰りなさいませ」

 扉を開けて、猗窩座様、山坊主、阿修羅、長子ちゃんが入ってくる。

 

「…上弦の参!」

 

 山坊主と阿修羅に驚かないということは、二人とは接点がなかったのかな?

 

 

「…ようこそ、私の研究所へ!

 まあ、あんまりひどいことにはしないから、そこだけは安心してよ」

 

 

 にっこりと笑って、そう告げる。

 

 

 

 …なんというか、初対面なんだけど、妙に仲間意識があるんだよね。

 …あと、下弦の弐と参にも、なんでだろう?

 …魂に刻まれた仲間というか…ダメダ、コレイジョウカンガエテハ、イケナイ…

 

 

(不思議ですねー)

 

 

 

「…とにかく、楽しくのんびりやってこー!!」




書き上げてみると、前回の方が最終回にふさわしい気もするw
まあ、パワハラ被害者の会のみんなも救済ということで。

追記、駆け足で書き上げたせいか、わかりづらいと感想を頂き、少し加筆しました。
これで少しは…どうでしょう?

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