いよいよ、あれが幕開けですよ!
べん…べべんっ…べんっ…
「…なんか最近、よく呼ばれるようになったわね」
花魁姿の鬼が、つまらなそうな顔で愚痴った。
「ヒョッ…例の下弦が入った頃くらい、ですかな?」
壺からにゅるりと飛び出て来た鬼が、その言葉に応じた。
「怖ろしい怖ろしい。百年以上呼ばれなかったのが、ここわずか十年でもう三度目。割り切れぬ数字…不吉の丁、奇数!! 怖ろしい怖ろしい…」
階段の上から、老人の鬼が会話に加わる。
「…そもそも、たかが下弦の入れ替え戦で、なんでわざわざ呼ばれたのかしら」
心底不快そうに、女が言う。
「………」
その場にもう一人居た鬼は、会話に入ろうとはしない。
「…これはこれは、猗窩座様! いやはやお元気そうで何より。今は下弦に顎で使われていると聞いて心が躍った…ゴホンゴホン! 心配で胸が苦しゅう御座いました。…ヒョヒョッ」
壺の鬼が、煽るように声をかけたが、腕を組んだまま応じない。
「いやいや、そう言うものでもないぞ」
新たに現れた鬼が、猗窩座に対して気安げに肩を組んでくる。
「ヒョッ…童磨殿……」
「あれはなかなか面白い鬼だよ。…それに、かなり美味しかったぞ」
ゴパッ!!
つい先ほどまで組まれていた猗窩座の左拳が、童磨の顎を打ち払った。
「ヒィィィ…」
「おおっ! うーん、いい拳だ! 前よりも少し強くなったかな? 猗窩座殿」
「…その件について、文句がある」
童磨の煽りに、猗窩座は応じない。…ただ、それ以前から既に怒りは持っていた。
「上弦の壱様は最初に御呼びしました。ずっとそこにいらっしゃいますよ」
争いを止める為か、はたまた何も考えてはいないのか、琵琶の鬼がそこに言葉を投げかける。
「私は… ここにいる……
無惨様が… 御見えだ…」
一段下の部屋で、綺麗に正座で佇んでいた侍の鬼が、そう告げた。
「「「「「!!」」」」」
逆さに存在する部屋が、天井に現れ、皆が一斉に姿勢を正した。
しゃかしゃかしゃか…
「下らんことをくっちゃべるな」
天井に現れた部屋は、どうやら茶室のようだった。正座した着物姿の女…鬼舞辻無惨がそこで茶を点てていた。
「あいつは、お前たちが百年以上かけて、何の手掛かりも持ってこなかった青い彼岸花を、わずか十年ほどで作ったんだぞ。
…十二鬼月はただただ強さのみで選んでいるから、下弦のままだが、その功績はお前達全員を合わせたものよりも、遥かに上だ」
「返す… 言葉も…… ない…」
「私は上弦だからという理由で、お前たちを甘やかしすぎたようだ。
…下弦も呼んでいる。要件はそれからだ。黙って待っていろ」
べんっ…べべんっ…
黒死牟以外の上弦のいた畳の間の一段下に、板の間が現れ、そこに下弦の鬼達が呼ばれた。
…黒い燕尾服を着た青年の鬼…紺色の作務衣姿の壮年の鬼…白い襟巻をした着物姿で額と両頬に十字傷のある鬼…顔に「工」のような入れ墨を入れた鬼…
…そして、お手て繋いで一緒に現れた、零余子と累…
べべんっ!
次の琵琶の音で、板の間に下弦、一段上の隣の畳の間に上弦、さらに一段上の両方の前面の畳の間に、琵琶の鬼と黒い着物姿の無惨がいるという構図に変わる。
上弦は即座に平伏し、下弦の中では零余子と累が続けて平伏した。他の下弦の面々は状況の変化についていけてない。
「頭を垂れて蹲え、平伏せよ」
無惨のその言葉に、ようやく残りの下弦も平伏する。
「申し訳ございません。お姿も気配も異なっていらしたので……」
零余子がそう謝って、下弦のフォローをいれる。
べべんっ!
「…あれ?」
琵琶の音で、零余子の位置が鳴女の隣に変わった。
「お前はそこでいい」
前回は下弦の前だけだった。…果たして今回は、上弦も含めた全ての十二鬼月の前で、零余子に対する特別扱いを示した。
「那田蜘蛛山…累…下弦の伍の縄張りに、柱二人を含む鬼殺隊が来た」
その言葉に、下弦の面々が累に目をやる。
「…たまたま、その時その場に、零余子と猗窩座が居たゆえ、退けることができた」
「退けただけですか? 柱は二人共取り逃がしたので?」
無惨の説明に、童磨が聞いてきた。
「…退けただけだ。猗窩座の最上位任務は、零余子の護衛だったが、…確かにこれは失態だな」
「…申し訳ございません」
無惨の言葉に、猗窩座が頭を下げる。
「…まあいい。とりあえず、一度は退けたが、再び来るだろう。…今度は更に増員されて…だ」
「山は… 面倒ですな…… 遮蔽物も… 多い……」
黒死牟がそれとなく、迎撃戦に反対の意を示す。
「広いのはいいですが、広すぎますね。山全部となりますと、一人一人の受け持つ範囲が広くなりすぎます」
童磨も、あまり気乗りしないことを示す。
「……」
猗窩座は何も言わない。何を言っても言い訳のように聞こえるからだ。
「…地の利を得られても、時を好きにできるのは向こうです。いつ来るかわからない中、待つのはしんどいですし、向こうは守るものが何もないので、不利となれば即座に逃げられてしまいます」
零余子のそれは、猗窩座のフォローの為だったが、残りの上弦の鬼には、順番を飛ばされたようで面白くない。
「…お前たちの意見はわかった。累は縄張りを放棄しろ」
「はっ」
無惨の結論に、累が即座に了承を示した。
「…正直、鬼狩りに対する重要度はかなり下がっている。…それでも、これまでいろいろと面倒をかけられた相手だ。放置するのも面白くない」
そこで、全員の顔を見回す。
「これまで通り、お前たちは鬼狩りの本拠地を探せ。…以上だ」
「「「「「「「「「「「「はっ!」」」」」」」」」」」」
というわけで、完全にパワハラ会議を乗り切りました!
やったね、零余子ちゃん、大勝利!!!
零余子ちゃん、累君とお手て繋いでやって来ましたが、これは無惨様の把握(呪い)から抜けているからです。
実は猗窩座様も、累君とお手て繋いでやって来てました。
上弦は順番だったので、黒死牟様はともかく、童磨の奴は絶対に突っ込みたくてうずうずしていたはずw