鳴ちゃんと一緒に、咲き誇る藤の花の下をくぐって、藤襲山を登ります。
この藤の花、私はだいぶ慣らしたのでなんとか平気ですが、それでもあんまり近づきたくはないですね。
三日月の夜、最終選別試験がいよいよ始まります。
ざっと見る限り、集まっている見習い剣士は三十人程。これが多いのか少ないのか、よくわかりませんね。
女の子の剣士は、私達以外だと二人だけ。やっぱり少ないですね。
産屋敷の人間は、まだ来ていないようです。ちょっと遅くないですかね?
…とか思っていると、私達が登って来たのとは違うところから、登ってくる人がいます。きっと産屋敷の関係者ですね。
…おんやぁあ~~?
「みなさん、お待たせしました。これから最終選別試験の説明をしますね」
「…………」
どこかで見た覚えのある…というか、忘れるわけがない…毒使いの女と、変な羽織の男が現れた。
「この藤襲山には、みなさんの先輩たちが生け捕りにした鬼が閉じ込められてます」
「…………」
「大丈夫ですよ、鬼はこの山からは逃げ出せません。みなさんも登って来た時に見たと思いますが、山の麓から中腹にかけて咲いていた藤の花、鬼はこれが嫌いなんですよ」
「…………」
「でも、ここから先は藤の花は咲いてません。つまり、この先には鬼がいます」
ドスッ!
毒使いの女…確か、蟲柱の胡蝶しのぶが、ニコニコした表情のまま、隣の男に肘打ちを入れる。…結構いい音がしたぞ。
「…この中で、七日間生き抜く。…それが、合格条件だ」
打たれた脇腹をさすりながら、男が最終選別試験の合格条件を説明した。
「間違わないで下さいね。どれだけ鬼を倒したかではありません。生きていることが条件です。
蛮勇よりも、慎重さの方が大事です。殺すことよりも、死なないことを重視して下さいね」
「…武運を祈る」
「それでは、今から試験を始めます!」
その言葉で、鳴ちゃんと一緒に奥へと駆ける。駆けながら、予定が大きく狂ったことに頭を悩ます。
なんでなのか、どこまで勘づいているのかはわからないけど、今回の試験には産屋敷の一族の者は来ずに、代わりに柱がやって来た。…そしておそらく、今回だけでなく、今後の試験にも現れないんだろう。
たまたま今回からになったとは、ちょっと考えづらい。さすがに私に勘付いて…とは思いたくはないのだけれど、その可能性も考えないと駄目だろう。
とにかくまずいのは、今回の試験で産屋敷の本拠地を見つけるのは、まず無理になったということで…
自信満々に、必ず突き止めますと無惨様に言ってしまっているのにぃっ!
それを思い出すと、おなかがきゅ~~っと痛くなってくる。
「…お腹、痛いよう…」
「えっ、試験が始まったばかりなのに、大丈夫なの?」
鳴ちゃんが心配して、そう声をかけてくれるのだけど…
大丈夫じゃないよ! 絶対に怒られるよ!! うわぁあぁぁーーーん!!!
「彼女が、お館様が気にしていた子ですね」
「…そうだな」
全受験生がはけ、寂しくなってしまった場所で、しのぶと義勇が会話をかわす。
「なんというか、第一印象は、すごいイラっとしますね。ええ」
「…そうか?」
「誰かを思い起こさせる外見で、あくまでも私の個人的印象に過ぎないんですけどね」
「…下弦の肆、だったか?」
「白い髪と白い肌、そして紅の瞳…あの鬼と、外見的特徴は近いです」
「…珍しい外見だとは思うが、それだけではな。お館様の娘御達も、瞳以外は近いことになる」
その義勇の指摘に、しのぶがはあっとため息をつく。
「もちろん、わかってますよ。あの子…成宮未来が、鬼ではないということは。
隠達の報告でも、晴れの昼ひなか、野外で稽古をしていたことは確認できてます」
「…実際にも見たしな」
その確認の為に、二人が藤襲山に登ってくるのが、少し遅れたという事情があるくらいだった。
「そうですね。あの姉弟子の子と、団子を頬張りながら、のんびりと日中歩いているのは、私達もこの目で確認しましたしね」
「…妙な感じこそしたが、さすがに鬼だとは考えられない」
義勇が、そう断定した。
「それに、ちょっと見ただけの私たちはともかく、半年も一緒に居た成宮さんが見逃すとも思えません」
「…お館様の勘だ。何かはあるのかもしれないが…」
「さすがに、あの子が鬼と言うことはないでしょうね。ただ…」
「…ただ?」
「…いえ、なんでもありません」
しのぶが言葉を濁す。
…ただ、本当に鬼なのだとしたら、かなりまずい…
その最悪の想像を、しのぶが考えないようにしたのは、ある意味しょうがないことと言えるだろう。
とりあえず、様子見にぎゆしのコンビを送り出しましたが
勘が鋭いにも、程があるよねw