零余子日記   作:須達龍也

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あの零余子ちゃんが、ここまで来ました(ホロリ)


最終選別試験5

「…おなか痛いの、治った?」

「ふぇっ! どういうこと?」

 隣を走っていた鳴ちゃんに、いきなり聞かれて、ちょっと変な声が出た。

「いや、なんか百面相してたけど、最後は二マニマしだしたから」

 表情に出さない、クールで冷静な私の感情を見やぶるとは、鳴ちゃんもなかなかやるね。

「うん、だいぶ治まったかな」

 さて、悩みに折り合いをつけた以上、次に気になるのはアレだ。

 

 

 雷の呼吸、実戦で使ってみたい!

 

 

 かなり前に、阿修羅と二人でボッコボコに…というか、バッサバサにやられた雷の呼吸、今度はこっちが使うのだ。

 稽古ではさんざん使ったが、実際に実戦で使ったことはこれまでない。

 

 せっかくの機会だ。雑魚鬼に使って、試してみたいじゃないか!

 

 くん…

 

 

「…ああ、ちょうどいいな。…鳴ちゃん、先に行くね」

 

 

 

 

 

 

 

 それは、まさに悪夢のようだった。

 

 この藤襲山に囚われている鬼は、私なんかでも対処できる雑魚鬼と聞いていた。血鬼術が使えるモノはもちろん、異形の鬼もいないはずだった。

 

 そのハズだった。

 

「…ぐぐ、逃げて! 雪ちゃん!」

 

 先ほど会ったばかりで、私を助ける義理なんてないはずだ。…それでも彼女、薫ちゃんはそう言ってくれる。

 

「…でも! そんなの!」

 

 彼女を離せと、師匠から借りた日輪刀を、何度も何度も振り下ろす。

 

 でも駄目っ!

 

 ガンッ、キンッ…と、硬質な音を立ててはじかれる。薫ちゃんを捉えている腕の一本も斬れないどころか…傷すらつけられない。

 その鬼…体中に何本も腕が生えた、腕だけで構成されているような…異形の鬼は、ニヤニヤとこちらを眺めて笑っている。

 

「逃げてもいいぞぉ。そうしたら一本ずつ、こいつの手足をもぎとってやるから」

 

 遊んでいるんだ。

 その気になれば、こいつはいつでも薫ちゃんを殺せるんだ。

 私がここで逃げずに抵抗しているから、人質のように薫ちゃんを捕まえたままでいるだけなんだ。

 

「ここしばらく、俺の可愛い狐が来ないんだぁ。ああ、つまらない、つまらないィィ!!」

 

「あがぁっ!!」

 

「薫ちゃん!」

 

 奴が地団駄を踏みながら癇癪を起すと、握っている手の締め付けが強くなったのか、薫ちゃんが悲鳴をあげる。

 

「鱗滝め、鱗滝め! 鱗滝め!! 鱗滝め!!!」

 

「…あ、か…ぅぁ…」

 

「薫ちゃん!!」

 

 

 ああ、薫ちゃんの悲鳴が小さくなる。ああ、どうにか、どうにかしないと…

 

 

 

 …雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)…

 

 

 

「…えっ?」

 

 

 

 …三連…

 

 

 

 稲妻が走った。

 

 

「ぎゃぁぁぁあああぁぁぁ!!!!!!!」

 

 腕を斬られて悲鳴をあげる鬼。…そして、私の前に薫ちゃんを抱えて、スタっと降り立った女の子が一人…

 

「ちょぉっと、その子と一緒に、向こうの鳴ちゃん…あの女の子の所まで下がっててくれるかな」

 

 何の気負いもなく、その子はそう言った。

 私達では到底かなわない、異形の鬼を前にしているのに、楽しそうに笑っているくらいだった。

 

「なんで! なんでぇ!!」

 

 斬られたことが納得できないのか、その腕だらけの鬼が、そう叫ぶ。

 

「…んー、なんで、か。…まあ、気持ちはわかるけど、これは…あれだねえ」

 

 鬼に律儀に答えるように、女の子は指を頭に当てて考えている。

 

「あ、あのっ!」

 

 薫ちゃんを抱えたまま、その子に声をかけようとすると、数十メートルくらい離れたところに立っている女の子を、指で差された。

 いいから逃げろ、そう言っているようだった。

 

「ありがとう!」

 

 そう言って、私達は一目散に駆けだす。だから、その後の女の子と鬼とのやりとりは聞こえなかった。

 

 

「…あんたよりも、さっきの女の子のほうが可愛かったからだよ」

 

「そんな! なんでっ!!」

 

「…大丈夫、無抵抗で殺されろなんて、言わないから」

 

 にぃっと笑う。

 

 

「…恋、狂え」

 

 

 

 

 

 夢を…幻想(ゆめ)を見ているのだろうか?

 

 

「がぁぁぁぁぁぁああああああぁぁぁぁぁーーーーー!!!!!!!」

 

 

 数十メートル程先で、異形の鬼が吠える。

 

 その咆哮と共に、鬼を中心に十メートル程の地面が爆発した。

 

 大量の岩とか石とか土ぼこりを巻き上げながら、無数の腕が地面から生えてくる。

 

 あの子は…既に上空へと脱出している。

 

 

 でも、まわりには足場がない!

 

 

 雷の呼吸は、足が命だと聞いた。その速さをもって、あらゆるものを切り裂く呼吸。

 

 だからこそ、足場がないあんな空中だと!

 

 あの子の姿が、巻き上げられていた岩の向こうに消える。

 

 

 

 !!!!!!

 

 

 

 あの子の姿を隠していた岩が、すごい勢いで、ものすごい高さまで、跳ね上がった…いや、蹴り上げられたんだ!

 

 

 

 …雷の呼吸 壱ノ型 霹靂一閃(へきれきいっせん)…

 

 

 

 それはまさに、稲妻だった。

 

 

 

 …十三連…

 

 

 

 天空から地面に降り注ぐ稲妻のように、激しく向きを変えて、哀れな鬼へと襲い掛かる。

 

 

 異形の鬼であっても、天災には敵わないんだ。

 

 

 

 …そんな風に、私には見えた…




零余子ちゃんの雷の呼吸の技は、呼吸二割、鬼の身体能力三割、血鬼術五割の無理くり技です。

ただ、それでも、その強さは本物です。もう既に柱クラスと言えます。

雷の呼吸をきっかけに、生体電気を操り、視覚から脳への電気信号を増やし、動体視力を大幅に上げ、脳から筋肉への電気信号も増やし、反射速度も跳ね上がってます。

雷の呼吸は、本当に零余子ちゃんにあっていました。
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