零余子日記   作:須達龍也

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さて、この完全体になった零余子ちゃんに勝てるかな!



最終選別試験9

「蒸気機関車だッ!」

 

 

 時間を停止した上に、駄目押しの蒸気機関車!

 

「おおおっ…オラオラオラオラ!!!」

 

「無駄無駄無駄無駄!!!」

 

 蒸気機関車を間に挟んでの、再度の連打の打ち合い!

 

 なんか、下弦の壱っぽいのが中でつぶれていくように見えたが、まあ気にしない。

 

 

「八秒経過! ここからの脱出は不可能だ!! …ふがっ!!」

 

 

 

 

 

「ふがっ…ふががっ…」

 

 こしょこしょこしょ…

 

「ふがっ…へっくしょん!!!」

 

「ああ、やっと起きた」

 

「ん、んんーーー」

 

 きょろきょろと見回すと、先端がふわふわっとした草を持った鳴ちゃんに、雪ちゃん、薫ちゃん…森の中っぽい光景…ああ、そっか…

 

「おはよー、もうちょっとやさしくおこしてよー」

 こしこしと目をこすりながら、そう非難する。

「なかなか起きなかった、未来が悪い。今から私が寝るんだから、さっさとどけ」

 鳴ちゃんは、にべもない。

「おはようございます、未来さん。私も寝ますね」

 雪ちゃんは、笑ってそう言ってきた。

「うん、おはよー、おやすみー」

「おう、おやすみ。ちゃんと見張ってろよ」

「おやすみなさい」

 場所を譲ると、鳴ちゃんと雪ちゃんに挨拶をかわす。

「おはようございます、未来さん。顔を洗ってきたらどうですか?」

 既に見張りを始めていた薫ちゃんにそう言われて、顔を洗いに行く。

 

 いい夢を見ていたような…いや、そうでもないのかもしれない。…いやいや、あそこから逆転されるようなことは、ありえないはずだ。

 

「ふー、さっぱりした。薫ちゃん、おはよー」

 薫ちゃんにそう挨拶して、隣に腰を下ろす。

「よく眠ってましたね。疲れはとれましたか?」

 ニッコリ笑顔で、そう聞かれた。

「うん、ばっちりさ。そっちは怪我のほうは大丈夫?」

 薫ちゃんの顔色が、寝る前よりもずっと良くなっていたので、そう聞いてみる。

「はい。だいぶ回復しました。こう見えて、結構頑丈なんです」

 確かに、さすがに鬼程ではないが、かなりの回復力だ。

「私の家、貧乏だったので、薬もなければ、医者にもかかれなかったので、我慢するしかなくて…深呼吸してごまかしてて、そうしてたら、なんか痛みが取れて、治ったりしてたんです」

 

 ええっ? 人間って、そんなんで治るものかなあ?

 

「私はとりわけ頑丈だったから、売られ…奉公に出されて、そこが藤の花の家紋の家でして…」

「へー」

「私はどうも、呼吸法みたいなのを使ってたみたいで、それを今の師匠に見とめられて、そのまま弟子になることになったんです」

 藤の家紋の家なら、鬼狩りの育手に乞われたら、ほいほいと差し出すだろうなあ。

「だから私、鬼なんか見たの、今回が初めてで。聞くと見るでは、大違いですね」

「そりゃ、そうでしょう」

 百聞は一見に如かずだ。

「未来さんは、これまでに鬼を見たことは?」

「まあ、それなりに、ねえ」

 苦笑せざるを得ない。

 

 おそらく鬼殺隊の誰よりも、見たことがあるだろう。それも、特に強い鬼ばかりだ。

 

「やっぱり、力だけでなく、そういう覚悟みたいなのも、全然足りなかったのかなあ」

 薫ちゃんが、そう言ってため息をついた。

「師匠が言うには、昔は鬼狩りになろうって人は、大体鬼の被害者で、鬼に対して強い恨みがあったり、あるいは、自分のようなものを作りたくないっていう、強い動機がある人がほとんどだったって」

「ふーん」

「それが数年前から、格段に鬼の被害が減ったようで、今では私みたいな鬼を見たことないような人間の方が、増えたみたいで」

 私が十二鬼月になったくらいかな?

「力や技はともかく、心の面ではやっぱり大きく違うみたいで。…未来さんは、今回の受験者の数、どう思いました?」

「んー、三十人くらい居たね。多いのか少ないのかは、よくわかんなかったけど」

「昔は二十人に行くか行かないかって話で、だいぶ増えました」

 

 あれ、なんか変じゃね?

 

「鬼の被害者の数が減ったのに、受験者の数は増えたの?」

 わからなかったので、素直に聞いた。

「受験者が増えたわけじゃないです。試験の回数を減らしたんです。二十人くらいで行っていた試験を、三十人くらいになるまで実施しなくなったんです」

 なるほど、二十人で二回やってたのを、三十人で一回になったみたいな話か。

「受験者数が増えれば、試験の難易度も落ちます。そうやって、なんとか試験を成立させているみたいですね。…もっとも、合格者数は三人くらいと、あんまり変わらないみたいですけど」

 薫ちゃんは、なかなか事情通のようだ。

 

「生存率一割か、なかなか厳しいね」

 

「いいえ、合格率が一割なだけです」

 

 私の言葉を、そう訂正された。

「昨日の夜に、未来さんも言ってましたよね、山を降りればいいんですよ」

「ああ、そりゃそっか」

 山なんだから、裾野の方が広い。中腹まで降りれば、藤の花が咲いているから鬼は来れない。

「運が悪ければ死にますけど、それでも死んだ人よりは逃げた人の方が、多いと思いますよ」

 命がけで合格を目指す奴よりも、付き合ってられないと逃げる奴の方が、多いのが当たり前だろう。

 

 特に、鬼に対して、恨みも憎しみもなければ、なおさらだ。

 

 

「ああ、なるほど。そういう試験か」

 

 

 ふっと、理解できた気がする。

 

「この鬼がいる山の中で、一週間生き残れる強さを持ってて、なおかつ、この試験から逃げずに、最後まで命がけで付き合うような、頭のおかしい奴を選ぶための試験ってわけだ」

 

 

「まあ、そういうこと…なんでしょうね」

 

 

 

 薫ちゃんも、苦笑しながらも、そう肯定した。




最終選別試験、こういうことなんだろうと推察しました。

試験の説明の時に、藤の花の話をしたのも、そこから下まで降りれば逃げられますというヒントだったんでしょう。
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