零余子日記   作:須達龍也

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それぞれの理由と選択…


最終選別試験11

「…みんな、もう山を降りない?」

 

 

 

 その日の晩、塩焼きした味のしない焼き魚を食べながら、そう切り出した。

 

「…未来」

「「……」」

 

 普段は容赦ないツッコミを入れてくる鳴ちゃんも、私の真剣な表情に押されているし、雪ちゃんと薫ちゃんも、なんとなく私が言おうとしていることを察している様子だ。

 

「薫ちゃんと雪ちゃんとは、もう話したんだけど、鬼殺隊はろくな組織じゃないよ。こんなのに入る必要はない。…ううん、入らないほうがずっといい」

 

「「「……」」」

 みんなが私の話を黙って聞いてくれているので、そのまま話を続ける。

 

「鬼に対して、すごい恨みがあるんなら別だけど、みんなそうでもないんだよね。

 だったら、このまま鬼なんかと関わりがある組織に入ることなんかない」

 

 これが私の結論。

 

 みんなを知る前だったら、気にもしなかったんだろうけど、知ってしまった以上、放ってなんておけない。

 

 

「未来が言いたいことはわかるよ」

 

 

 鳴ちゃんが口を開いた。

 

「…初日とは違う。未来が…ううん、みんなが降りたいと言うなら、私は止めないよ」

 

「違うよ! 鳴ちゃんもだよ!!」

 鳴ちゃんが私の言いたいことをわかってないので、反論をするんだけど、それに対して寂しそうに笑われてしまった。

 

「確かに私も、鬼に対して特に恨みも憎しみもない。復讐なんて考えたこともないよ」

 

 それならば、山を降りることに、鬼殺隊に入るのをやめることに問題なんか、ないはずだ。

 

 

「…ただ、剣を振るのが、好きになっちゃったんだ」

 

 

「…鳴ちゃん」

 

「…ああ、なんだろう、すごく自分勝手だなあ。ひどい理由だとは、私も思うよ。

 でもさ、男ですら剣を握らなくなったこの時代で、女だてらに剣を振るえる場所なんか、他にはないよね」

 

 鳴ちゃんが自嘲気味に笑う。

 

「最初はそんなに好きじゃなかったんだ。

 辛いし、しんどいし、なんでこんなことをさせられるんだろうって、昔は思ってたんだよ」

 

 そこで、私の顔を見て、楽しそうに笑った。

 

「でもさ、ある日、妹弟子ができて、負けず嫌いだからね、私。

 そいつに負けないように、剣を振るって、抜かれても、追いつこう追い抜こうって、剣を振るようになって…」

 

 鳴ちゃんが、持っていた木の枝を、ひゅっと振る。

 

「ああ、私、剣を振るの、好きなんだなあって、そう思っちゃたんだよ」

 

 ああ…

 

「新しく技を覚えることも楽しかったし、自分が強くなっていってることも嬉しかった。はまっちゃったんだ」

 

 私のせいだ…

 

 

 

「剣を忘れて普通に生きるのは、多分もうできない。そう、私は、鬼殺隊に入りたいんだ」

 

 

 

「…死ぬかも、しれないんだよ?」

 

「…そうだね。正直、そこの実感はまだ薄いかもしれない。あとで後悔することになるのかもしれない。でも今は、そっちの道を選びたいと思ってる」

 

 朗らかに笑っている鳴ちゃんを、止める言葉は見つからなかった。

 

 

「…私は、そこまで前向きではないですが…」

 

 

 そう言って、薫ちゃんが話を始めた。

 

「…そもそも、私は売られてしまったって言うのもあるんですが、前に未来さんには、頑丈だったからって、そう言いましたけど…」

 

 薫ちゃんが、そこで下を向く。

 

「役立たずだったんです、私。物覚えが悪くて、ドジで、愚図で…取柄と言えば、それこそ頑丈なだけで、何も家の役に立たなかったから、売られたんです。

 売られた先でも、私、頑張ったんですけど、言われたことも碌にできなくて、呆れられてて、お使いの途中で、転んでけがをして、裏で泣いてて…」

 

「…薫ちゃん」

 

「…血が止まるよう、深呼吸をしながら、みっともなく泣いてた私を、師匠が見つけてくれたんです」

 

 上げてくれた顔は、少しだけ笑ってくれていた。

 

「才能がある。そう言ってくれたのは、生まれて初めてでした。私でも、何かの役に立てる。そう思えたのは、とても…とてもとても、嬉しかったんです」

 

 ああ、わかる…わかってしまう…

 

 

 

「役立たずには、戻りたくない。そうですね。私は、鬼殺隊に入りたいです」

 

 

 

「…死ぬかも、しれないんだよ?」

 

「…そうですね。それは、怖いです。…それでも、役に立つんだって思える道を行きたいです」

 

 暗い部屋で、ランプの明かりだけで本を読んでいた少女が、薫ちゃんの言葉に共感してしまった。…もう、何も言えなかった。

 

 

「…それで言うと、私はもっと後ろ向きかもしれない」

 

 

 雪ちゃんが、ポツリとそうこぼした。

 

「私は、捨て子でした。家族の顔も、本当の名前すら知らない」

 

 その童顔に浮かぶのは、諦観だった。

 

「私は、他に生きる方法を知らない。他の道は、きっと、怖くて選べない」

 

「…雪ちゃん」

 

「…師匠と、兄さんは、ちょっと異常だとは思ってます。…それでも、大好きで、私の家族なんです。あそこを、家族を捨てることなんて、できない」

 

 ああ、それは…それは無理だ…

 

 

 

「家族を失いたくない。異常かもしれないけど、それなら、私も異常です。一緒に笑いたい、一緒に怒りたい、一緒に泣きたい、一緒がいいです。私は、鬼殺隊に入りたい」

 

 

 

「…死ぬかも、しれないんだよ?」

 

「…それは、イヤですね。…でも、一緒でないよりは、イヤじゃないかも」

 

 まだほのかに温かい、母のなきがらにすがって泣く童女が、一緒がいいと叫んでいる。一緒でなければイヤだと喚いている。それを捨てろなんて、私が言えるわけがない。

 

 

 ギィリィィイイィィ…

 

 

 ああ、悔しい、悔しすぎる!

 

 

「…うん、わかったよ。…じゃあ、みんなで、合格しよう」

 

 

 

 私に、こんなことを言わせるなんて、ふざけるな! ふざけるなっ!!




それは、命を懸けるには弱いかもしれない。
それでも、道を選ぶには足るきっかけになる。

零余子ちゃんの、鬼殺隊へのヘイトが溜まっていきますw
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