「…みんな、もう山を降りない?」
その日の晩、塩焼きした味のしない焼き魚を食べながら、そう切り出した。
「…未来」
「「……」」
普段は容赦ないツッコミを入れてくる鳴ちゃんも、私の真剣な表情に押されているし、雪ちゃんと薫ちゃんも、なんとなく私が言おうとしていることを察している様子だ。
「薫ちゃんと雪ちゃんとは、もう話したんだけど、鬼殺隊はろくな組織じゃないよ。こんなのに入る必要はない。…ううん、入らないほうがずっといい」
「「「……」」」
みんなが私の話を黙って聞いてくれているので、そのまま話を続ける。
「鬼に対して、すごい恨みがあるんなら別だけど、みんなそうでもないんだよね。
だったら、このまま鬼なんかと関わりがある組織に入ることなんかない」
これが私の結論。
みんなを知る前だったら、気にもしなかったんだろうけど、知ってしまった以上、放ってなんておけない。
「未来が言いたいことはわかるよ」
鳴ちゃんが口を開いた。
「…初日とは違う。未来が…ううん、みんなが降りたいと言うなら、私は止めないよ」
「違うよ! 鳴ちゃんもだよ!!」
鳴ちゃんが私の言いたいことをわかってないので、反論をするんだけど、それに対して寂しそうに笑われてしまった。
「確かに私も、鬼に対して特に恨みも憎しみもない。復讐なんて考えたこともないよ」
それならば、山を降りることに、鬼殺隊に入るのをやめることに問題なんか、ないはずだ。
「…ただ、剣を振るのが、好きになっちゃったんだ」
「…鳴ちゃん」
「…ああ、なんだろう、すごく自分勝手だなあ。ひどい理由だとは、私も思うよ。
でもさ、男ですら剣を握らなくなったこの時代で、女だてらに剣を振るえる場所なんか、他にはないよね」
鳴ちゃんが自嘲気味に笑う。
「最初はそんなに好きじゃなかったんだ。
辛いし、しんどいし、なんでこんなことをさせられるんだろうって、昔は思ってたんだよ」
そこで、私の顔を見て、楽しそうに笑った。
「でもさ、ある日、妹弟子ができて、負けず嫌いだからね、私。
そいつに負けないように、剣を振るって、抜かれても、追いつこう追い抜こうって、剣を振るようになって…」
鳴ちゃんが、持っていた木の枝を、ひゅっと振る。
「ああ、私、剣を振るの、好きなんだなあって、そう思っちゃたんだよ」
ああ…
「新しく技を覚えることも楽しかったし、自分が強くなっていってることも嬉しかった。はまっちゃったんだ」
私のせいだ…
「剣を忘れて普通に生きるのは、多分もうできない。そう、私は、鬼殺隊に入りたいんだ」
「…死ぬかも、しれないんだよ?」
「…そうだね。正直、そこの実感はまだ薄いかもしれない。あとで後悔することになるのかもしれない。でも今は、そっちの道を選びたいと思ってる」
朗らかに笑っている鳴ちゃんを、止める言葉は見つからなかった。
「…私は、そこまで前向きではないですが…」
そう言って、薫ちゃんが話を始めた。
「…そもそも、私は売られてしまったって言うのもあるんですが、前に未来さんには、頑丈だったからって、そう言いましたけど…」
薫ちゃんが、そこで下を向く。
「役立たずだったんです、私。物覚えが悪くて、ドジで、愚図で…取柄と言えば、それこそ頑丈なだけで、何も家の役に立たなかったから、売られたんです。
売られた先でも、私、頑張ったんですけど、言われたことも碌にできなくて、呆れられてて、お使いの途中で、転んでけがをして、裏で泣いてて…」
「…薫ちゃん」
「…血が止まるよう、深呼吸をしながら、みっともなく泣いてた私を、師匠が見つけてくれたんです」
上げてくれた顔は、少しだけ笑ってくれていた。
「才能がある。そう言ってくれたのは、生まれて初めてでした。私でも、何かの役に立てる。そう思えたのは、とても…とてもとても、嬉しかったんです」
ああ、わかる…わかってしまう…
「役立たずには、戻りたくない。そうですね。私は、鬼殺隊に入りたいです」
「…死ぬかも、しれないんだよ?」
「…そうですね。それは、怖いです。…それでも、役に立つんだって思える道を行きたいです」
暗い部屋で、ランプの明かりだけで本を読んでいた少女が、薫ちゃんの言葉に共感してしまった。…もう、何も言えなかった。
「…それで言うと、私はもっと後ろ向きかもしれない」
雪ちゃんが、ポツリとそうこぼした。
「私は、捨て子でした。家族の顔も、本当の名前すら知らない」
その童顔に浮かぶのは、諦観だった。
「私は、他に生きる方法を知らない。他の道は、きっと、怖くて選べない」
「…雪ちゃん」
「…師匠と、兄さんは、ちょっと異常だとは思ってます。…それでも、大好きで、私の家族なんです。あそこを、家族を捨てることなんて、できない」
ああ、それは…それは無理だ…
「家族を失いたくない。異常かもしれないけど、それなら、私も異常です。一緒に笑いたい、一緒に怒りたい、一緒に泣きたい、一緒がいいです。私は、鬼殺隊に入りたい」
「…死ぬかも、しれないんだよ?」
「…それは、イヤですね。…でも、一緒でないよりは、イヤじゃないかも」
まだほのかに温かい、母のなきがらにすがって泣く童女が、一緒がいいと叫んでいる。一緒でなければイヤだと喚いている。それを捨てろなんて、私が言えるわけがない。
ギィリィィイイィィ…
ああ、悔しい、悔しすぎる!
「…うん、わかったよ。…じゃあ、みんなで、合格しよう」
私に、こんなことを言わせるなんて、ふざけるな! ふざけるなっ!!
それは、命を懸けるには弱いかもしれない。
それでも、道を選ぶには足るきっかけになる。
零余子ちゃんの、鬼殺隊へのヘイトが溜まっていきますw