「カァァ、八神鳴ィ、東北ノ漁村ヘェ向カェェ!!」
鳴ちゃんの鎹鴉が来たと思えば、いきなり喋り出した。
「鬼狩リトシテノォ、最初ノ仕事デアル」
何度見ても不思議だね。インコや九官鳥のようにスムーズに喋っている。
「心シテカカレェェ、東北ノ漁村デワァァ」
それに、ただの声真似じゃあないね。自分で考えて喋っているっぽい。あんな小さな脳で、どうやって?
「漁師ガ消エテイルゥ、毎夜、毎夜」
言語を操るのは、大脳の前頭葉と側頭葉だけど、そこだけが異常に発達しているのかな?
「漁師ガ、漁師ガ、消エテイル!!!」
やばい。解剖したいね。研究意欲がうずうずとうずくね。
そこで、鳴ちゃんの鎹鴉と一緒に来ていたのか、隣に雀もいることに気付く。
「チュン?」
お前は使えないなあ。そっとため息をつく。
「共同任務デアル、氷雨雪ト、夏木薫トトモニィ、現地ヘェ向カェェ!!」
ん?
「私は?」
とりあえず、雀に聞く。
雀が隣の鳴ちゃんの鎹鴉を見る。
「ハァァ、成宮未来ワァ、別任務デアル!」
最初のはため息じゃないよね? ため息つきたいのはこっちだよ!
「街ノ洋菓子店デェ、怪シイ侍ガ出没シテイル、ソノ調査ヘェ向カェェ!」
んん? 洋菓子店に、侍? …いやいや、まさかでしょ。
「店ニワ入ラズ、タダジット佇ンデイル、黒衣ノ侍デアル!」
…うぇぇ、まじかあ。
「コチラモ共同任務デアル、街ニアル藤ノ花ノ家紋ノ家デェ、獪岳ト合流セヨォ!!」
「誰だよ?」
「桑島さんところのお弟子さんだ。同じ雷の呼吸の剣士になるな」
師匠がそう教えてくれる。
「えー、鳴ちゃんと一緒のがいいなあ」
「ダメェ」
うるさいよ。
とりあえず、鳴ちゃんたちが心配だったので、長子ちゃんに連絡を取って、猗窩座様に陰からの護衛をお願いする。
鳴ちゃんも、十二鬼月が相手でなかったら、なんとかなるとは思うんだけど、それでも何が起こるかわからないのが、命がけの戦闘というものだ。
猗窩座様にお願いするのは申し訳ないのだが、昼日中に出歩ける戦闘力のある護衛となると、猗窩座様くらいしかいないのが現状だ。
「っと、ここが藤の花の家紋の家だね」
街の中心部にデデンと構える大きな邸宅に、でかでかと藤の花の家紋が描かれている。
こういう民間の協力者の存在は、数百年以上続いている鬼殺隊が築いた財産と言えるんだろう。
組織と言うのは、志だけでは運営などできない。
人、金、物、それらは組織である以上、必須である。
鬼の被害者を中心に、不足分は拾ったり買ったりしてかき集め、集めた人間を最終選別試験で、少数精鋭の鉄砲玉へと仕立て上げる。
財源は基本的に産屋敷一族が賄いつつ、かつて助けた藤の花の家紋の家からも寄付金を募る。そして、それ以外のところからは一切受け取らない。
金を出されれば、当然口も出される。鬼殺隊の運営に横やりを入れられたくないということだろう。実に徹底している。
産屋敷一族が築いたそうした歴史、財力、流通、コネクション、そういった力は、財閥にも匹敵している。
そして、その全ての力を、鬼狩りへと集中しているのだ。
私が言うことではないんだろうけど、もっと他のことに力を注げばいいのにと思う。
「来たか」
藤の花の家紋の家に入ると、待ってましたと言わんばかりに、いきなり声をかけられた。
「俺の名前は獪岳だ」
「ども、成宮未来です」
腕組みして偉そうだなと思いつつ、名乗り返す。
「お前の噂は聞いているが、俺の方が階級が上で先輩だ。ここでの指揮は俺が取る」
言われるまでもなく、そのつもりではいたんだけど、それでも頭ごなしにいきなり言われると、カチンと来るね。
うん、一発かましてもいいよね?
別に獪岳さん、変なことは言ってませんよ。