五十里啓とかいう勝ち組に転生した件について   作:カボチャ自動販売機

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一気に時間が飛びます。
そして今話からはずっと前に書いたものではなく付け足しで書いた話なのでテイストが若干違うかもしれません。


8話 市原鈴音

一高に入学して一年が経ち、今日が運命の日だった。つまりは物語の始まり、司波兄妹の入学の日だ。

ただそれとは別に今日は特別な日でもある。

 

「エリカ、迷わず来れたかい?」

 

「啓兄、あたしを子供扱いし過ぎ」

 

睨むようにエリカが突っ掛かってくるが、いつも通り頭をぽんぽんと撫でてご機嫌を取っておく。エリカはムスッとしているけど手を止めようとはしないので、嫌ではないのだろう。

今日はこのぼくの可愛い妹、千葉エリカの入学式でもある。中学校時代ただの一人も仲の良い友達はおらず、心配していたが、原作を知っている身としては高校は安心だ。大変なことも多いけど、それでも彼女という人間が成長するために必要なことだ。何より、彼女にとって今までとは比べものにならないくらい楽しい三年間になることは間違いないのだから。

 

「摩利さんも来たがってたけど仕事だって残念がってた。花音もその付き添いで引きずられていったよ」

 

「その光景が簡単に浮かぶ」

 

風紀委員長の摩利さんは忙しいし、自分だけぼくと一緒にエリカを出迎えようとした花音は、摩利さんに首根っこ掴まれ、引きずられるようにして連れていかれた。あんまり大勢で出迎えられてもエリカが恥ずかしいだろうから丁度良かったのかもしれない。

 

「これであたしも高校生、だね?」

 

エリカが挑発的にぼくを見詰める。あはは、と笑いながら頭を撫でて顔を伏せさせた。

あれから一年が経つけれど、ぼくの許嫁問題は未だに解決していない。ぼくが決めてしまえばそれで終わるのだけど、時が経てば経つほどに決められなくなり、現在も続いていた。どんなに遅くても卒業までには決めなくてはならないし、どっちを選んでも摩利さんには必ずしめられるし、目下一番の悩みかもしれない。贅沢な悩みといえばそうなのだが、悩んでいる側としては真剣なのだ。

 

「さ、遅刻しないように会場へ行きな。早く行かないと席が無くなってしまうからね」

 

「啓兄は?」

 

「仕事。生徒会の手伝いをしてるんだ」

 

生徒会はこういう行事では常に忙しく、メンバーの人数が伝統的に固定されてしまっているため人手不足。風紀委員も手伝ってはいるけど、そんな生徒会メンバーの一人である我らがマスコットに頼まれてぼくはお手伝いに駆り出されていた。

大体の仕事は終えたから、後は入学式が近くなっても校内を迷っている新入生がいないか見回りをするだけ。エリカを見送ったぼくは、新入生が迷いそうな場所へと足を進めた。

 

「啓くん!」

 

テクテク、と表現するよりも、トテトテと表現するのが正しいような愛くるしい動きでぼくの元へと走ってきたのは、ぼくに手伝いを頼んだ張本人にして、去年一年間を同じクラスで過ごしたクラスのマスコット、中条あずさだった。

あの、入学式での一件以来仲良くなり、お互いにCADが好きだったりで話しやすく、今では親友ともいえる存在となっていた。彼女の頼みとあっては、ぼくは大概頷いてしまうのだから、この手伝いも必然だったのだろう。

 

「後はもう大丈夫そうだから、切り上げて良いよ。手伝ってくれてありがとう」

 

ぼくは彼女の持っていた書類の束をひょいと受け取って片手に持ち直し、鳩が豆鉄砲を食ったように、きょとんとしている彼女の頭を数回ぽんぽんと触れる。

 

「これ、会場まで持っていくんでしょ?あずさドジだからぼくが持っていくよ」

 

「ド、ドジじゃないよ!」

 

あずさの反論を待たずに歩き出したぼくに、もうっ、と不満そうな声を漏らしつつも、しっかり着いてくる。

 

「あ、私の癒し!」

 

講堂の生徒会メンバー達が控えている場所へ書類を持っていくと七草会長が真っ先に飛んできた。この書類は会長に渡すのがベストだろうから丁度良いと言えば丁度良いのだけど、この人のぼくの扱いは完全にマスコット扱いである。あずさとセットで会長の癒しとして認定されてしまい、今もこうして両頬を手でふにふにされている。既に会長の手によってワシャワシャされてダウンしているあずさの様になるのは御免なので、千葉道場で修得した足さばきで、さっと抜け出す。

 

「鈴音さん止めてくださいよ」

 

こういう会長の暴走を止めるのが生徒会会計の一番の仕事なんだから。

 

「私を会長のお守りにするのは止めてください」

 

「ねぇ鈴ちゃん、私に聞こえてるって忘れてない!?」

 

鈴音さんは表情を変えずに、ただ会長から目を逸らした。

 

「なんでよ!」

 

「鈴音さんは会長の公式飼育委員ですから」

 

啓くんには私を敬う気持ちが足りないわね、とあずさをダウンさせたわしゃわしゃ攻撃が始まってしまった。初対面の時からこんなことばかりしてくるから敬意の気持ちとか、憧れとか、一切合切吹き飛んでしまうんですがね!

この人ぼくのこと男と認識してないから。ぼくの性別を忘れてないかと訊ねたら、だって啓くんは啓くんじゃない、と当たり前のことのように首を傾げられてしまった。どうやら知らぬ間にぼくの性別は『けいくん』になったらしい。公的書類晒してやろうかな。

 

「鈴音さん!見てないで助けて!」

 

さっきも止めてくれなかったように、飼育委員鈴音さんは、我関せずで助けてくれない。ぼくの頬がもう取れそうなのだけど。

 

「まあ、貴方が引き受けてくれるならいくらでも止めてあげますが」

 

なんでこんなに助けてくれないのかと思ったら、どうやら先日、論文コンペのメンバーへの誘いを断ったことをまだ根に待っていたらしかった。

魔法を経済活動に不可欠なファクターとすることで魔法師の地位を向上させ、兵器としての魔法師からの解放を目指している鈴音さんの思想には共感出来るし、是非とも実現させて欲しいとも思っている。ぼくに協力できるならいくらでも協力したい。

ただ論文コンペだけは駄目なのだ。その日はぼくが生きるか死ぬか、つまりは物語に勝つか負けるかの大勝負の日なのだから。

 

六月初頭に論文コンペ出場希望者が校内の論文選考会に論文を提出し、選ばれた三人がメンバーとして論文コンペに参加するのだ。鈴音さんは現三年の理論トップ。今年は間違いなく鈴音さんをメインにしたコンペになるだろう。どうやら鈴音さんはそれにぼくを加えたいらしいのだ。そのために、ぼくに論文選考会に論文を出せと迫ってきている。六月に選考がある以上、今くらいから準備するのはむしろ遅いくらいなので、鈴音さんはこの時期にぼくへ言っているというわけ。

 

鈴音さんとは結構馬が合って、魔法の話も良くするし、そういう思想の話もしていたからぼくと鈴音さんの目指すべき形が似ていることも理解していただろう。ぼくが論文を発表したことがあるのも知っているし、論文選考会に論文を提出しようとしないのが納得できないのかもしれない。

ぼくの知り合いの先輩では一番頼りになる頭の良い先輩なのだけど、敵に回すと一番狡猾で怖い先輩でもあるのだ。

 

頑なに首を縦に降らないぼくに鈴音さんはただ一言。

 

「残念です」

 

そう言って、ダウンしていたあずさを、ぼくと会長のところに連れてきて差し出すと、会長は喜んであずさとぼくを頬がくっつくまで近づけて並べて抱きすくめた。ぼくとしては美少女二人とくっつけるので役得でしかないのだが、鈴音さんは何がしたかったのだろうか。

 

そう疑問の隠った視線を鈴音さんに向けると鈴音さんは笑っていた。そのクールな笑みは計画通りとでも言うような、それはそれは悪い顔で。

 

パシャリ。

 

そんな昔懐かしい携帯端末のカメラの音が響く。ん?

 

「記念に千代田さんに送っておきますね」

 

至ってなんでもないことのように悪魔みたいなことを言い出した。

 

「良い写真ですから」

 

「ぼくを殺す気ですか!?」

 

あずさとぼくが頬をくっつけて、ぼくらの後頭部には会長の満面の笑顔。

只でさえ花音からはあずさと仲が良すぎると変な勘繰りをされているのに、そこにこんな写真送ったらどんなことになるか。考えるだけでも恐ろしい。

ぼくが花音怖さに鈴音さんに屈するか悩みながら、会長にわしゃわしゃとされていると救世主は現れた。

 

「あの、私はどこで待機を……」

 

どうやらぼくがここに来る前にリハーサルを終えた深雪さんは、こうして好き勝手やっている生徒会の面々に忘れ去られ、放置されていたらしい。生徒会のしっかり担当、鈴音さんが、あっという顔をしている時点で忘れられていたのは間違いない。世紀の美少女がなんて不憫だ。でもこれで助かった。

 

「ごめんなさい、啓くんが甘えてくるものだから」

 

会長が笑顔で嘘を吐いた。ここぞとばかりに同調する鈴音さん。ちょっと、貴女が同調したらもうそれは白でも黒になるよ!何も助かっていなかったね!これじゃあ、今度は深雪さんに軽蔑され――

 

「啓さん、私には甘えてくれないのに」

 

――る、でもなく、そこには何故か頬を膨らませた深雪さんの姿が。なんでだ。

深雪さん――正確には司波兄妹と――と出会ってもう一年以上になるけど、キャラ崩壊し過ぎじゃないかな。

 

「あら?二人はお知り合いなのかしら?」

 

「はい、お兄様の唯一のご友人ですから」

 

深雪さんが笑顔で嬉しそうに言えば、当然のことながら何とも言えない微妙な空気になる。達也くん、知らないところで、友達少ない可哀想なやつということになってしまった。会長が、仲良くしてあげよう、という不穏な独り言を呟いているくらいだ。達也くん、強く生きてくれ。

 

「それはそうと深雪さん、入学式まで啓くんは触り放題だからね」

 

「えっ」

 

達也くん、どうやら強く生きなくてはいけないのはぼくの方だったらしいよ。

元気100%で答辞に向かった深雪さんとは裏腹に、控え室で屍になっていたぼくを慰めてくれたのはあずさだけだった。

親友、放課後カラオケ行こう。奢るから。

 

 

ぼくの魔法科高校二年目はこうして始まった。





次話で一旦完結なのですが、まだ完成していないので投稿遅れたらごめんなさい。
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