神剣が選ぶもの(旧ありふれた魔王に勇者ときどき転生者) 作:くろから
ザァーと水の流れる音がする。
未来「グッ・・・・ガァッ・・・・アァァァア!!!!!」
未来「アッ!?なんだ・・・・・ここ・・・・って冷たっ!」
未来はびしょ濡れになっていた
未来「葉山のヤロー、こっちを打ってきやがった、まあ、光輝に任せるか」
未来「肋骨が何本か逝ってやがる、それに肩が」
ブラーんと動かない左腕を弾いて、外れた肩を元に戻す
ガコンッ
未来「痛ッツぅ!でモナドはしっかり握ってましたと、だけど、離せねーな」
どうやら薄れゆく意識の中でしっかり握りしめすぎたらしい、強張った右手を解きほぐす
その時、未来の頭に映像が流れ込んできた
でかい熊が襲いかかってくる!
未来「ッ!!!モナド『盾』!!」
しかし、ベヒモスの突進をはじき返したバリアでも守りきれず、吹き飛ばされる
未来「ガハッ!!!マジかよ!モナド『疾』!!」
足に緑色の光が宿り、未来はそれを確認すると、一目散に逃げ出した、
あまりの速さに熊は追い付かず、そのまま逃げ切られてしまった
未来「ハアッ、ハアッ、『盾』でも防げないとなると、戦闘は不意打ちだけでし止めなきゃいけないのか」
〜〜〜〜一方の頃〜〜〜〜〜
「痛っ~、ここは……僕は確か……」
ふらつく頭を片手で押さえながら、記憶を辿りつつ辺りを見回す。
周りは薄暗いが緑光石の発光のおかげで何も見えないほどではない。視線の先には幅五メートル程の川があり、ハジメの下半身が浸かっていた。上半身が、突き出た川辺の岩に引っかかって乗り上げたようだ。
「そうだ……確か、橋が壊れて落ちたんだ。……それで……」
霧がかかったようだった頭が回転を始める。
どうやら穴のどこかに水の流れがあって、それにたまたま乗れたらしい
「よく思い出せないけど、とにかく、助かったんだな。……はっくしゅん! ざ、寒い」
地下水という低温の水にずっと浸かっていた為に、すっかり体が冷えてしまっている。このままでは低体温症の恐れもあると早々に川から上がるハジメ。ガクガクと震えながら服を脱ぎ、絞っていく。
そして、パンツ一枚になると錬成の魔法を使った。硬い石の地面に錬成で魔法陣を刻んでいく。
「ぐっ、寒くてしゅ、集中しづらい……」
望むのは火種の魔法だ。その辺の子供でも十センチ位の魔法陣で出すことができる簡単な魔法。
しかし、今ここには魔法行使の効率を上げる魔石がない上、ハジメは魔法適性ゼロ。たった一つの火種を起こすのに一メートル以上の大きさの複雑な式を書かなければならない。
十分近くかけてようやく完成した魔法陣に詠唱で魔力を通し起動させる。
「求めるは火、其れは力にして光、顕現せよ、〝火種〟 ……う~、なんでただの火を起こすのにこんな大仰な詠唱がいるんだよぉ~、恥ずかしすぎる。はぁ~」
最近、癖になりつつある溜息を深々と吐き、それでも発動した拳大の炎で暖をとりつつ、傍に服も並べて乾かす。
「ここどこなんだろう。……だいぶ落ちたんだと思うけど……帰れるかな……」
暖かな火に当たりながら気持ちが落ち着いてくると、次第に不安が胸中を満たしていく。
無性に泣きたくなって目の端に涙が溜まり始めるが、今泣いては心が折れてしまいそうでグッと堪える。ゴシゴシと目元を拭って溜まった涙を拭うと、ハジメは両手でパンッと頬を叩いた。
「やるしかない。なんとか地上に戻ろう。大丈夫、きっと大丈夫だ」
自分に言い聞かせるように呟き、俯けていた顔を起こし決然とした表情でジッと炎を見つめた。
二十分ほど暖をとり服もあらかた乾いたので出発することにする。
ハジメ「どの階層かはわからないけど、上よりずっと広くて、暗い本当に何回層なんだろう、ここは」
しばらく考え込んでいると、視界の端で何かが動いた気がして慌てて岩陰に身を潜める。
そっと顔だけ出して様子を窺うと、ハジメのいる通路から直進方向の道に白い毛玉がピョンピョンと跳ねているのがわかった。長い耳もある。見た目はまんまウサギだった。
ただし、大きさが中型犬くらいあり、後ろ足がやたらと大きく発達している。そして何より赤黒い線がまるで血管のように幾本も体を走り、ドクンドクンと心臓のように脈打っていた。物凄く不気味である。
明らかにヤバそうな魔物なので、直進は避けて右か左の道に進もうと決める。ウサギの位置からして右の通路に入るほうが見つかりにくそうだ。
ハジメは息を潜めてタイミングを見計らう。そして、ウサギが後ろを向き地面に鼻を付けてフンフンと嗅ぎ出したところで、今だ! と飛び出そうとした。
その瞬間、ウサギがピクッと反応したかと思うとスッと背筋を伸ばし立ち上がった。警戒するように耳が忙しなくあちこちに向いている。
ハジメ(やばい! み、見つかった? だ、大丈夫だよね)
本来自分のような雑魚が来るべき階層ではないのだ、「気がつかれたら絶対に死ぬ」と、表情に焦燥を浮かべながら無意識に後退る。
それが間違いだった。
カラン
その音は洞窟内にやたらと大きく響いた。
下がった拍子に足元の小石を蹴ってしまったのだ。あまりにベタで痛恨のミスである。ハジメの額から冷や汗が噴き出る。小石に向けていた顔をギギギと油を差し忘れた機械のように回して蹴りウサギを確認する
蹴りウサギは、ばっちりハジメを見ていた。
赤黒いルビーのような瞳がハジメを捉え細められている。ハジメは蛇に睨まれたカエルの如く硬直した。魂が全力で逃げろと警鐘をガンガン鳴らしているが体は神経が切れたように動かない。
やがて、首だけで振り返っていた蹴りウサギは体ごとハジメの方を向き、足をたわめグッと力を溜める。
ハジメ(来る!)
ハジメが本能と共に悟った瞬間、蹴りウサギの足元が爆発した。後ろに残像を引き連れながら、途轍もない速度で突撃してくる。
気がつけばハジメは、全力で横っ飛びをしていた。
直後、一瞬前までハジメのいた場所に砲弾のような蹴りが突き刺ささり、地面が爆発したように抉られた。硬い地面をゴロゴロと転がりながら、尻餅をつく形で停止するハジメ。陥没した地面に青褪めながら後退る。
蹴りウサギは余裕の態度でゆらりと立ち上がり、再度、地面を爆発させながらハジメに突撃する。
ハジメは咄嗟に地面を錬成して石壁を構築するも、その石壁を軽々と貫いて蹴りウサギの蹴りがハジメに炸裂した。
咄嗟に左腕を掲げられたのは本能のなせる業か。顔面を粉砕されることだけはなかったが、衝撃で吹き飛び、再び地面を転がった。停止する頃には激烈な痛みが左腕を襲う。
ハジメ「ぐぅっ――」
見れば左腕がおかしな方へ曲がりプラプラとしている。完全に粉砕されたようだ。痛みで蹲りながら必死で蹴りウサギの方を見ると、今度はあの猛烈な踏み込みはなく余裕の態度でゆったりと歩いてくる。
ハジメの気のせいでなければ、蹴りウサギの目には見下すような、あるいは嘲笑うかのような色が見える。完全に遊ばれているようだ。
ハジメには、尻餅をつきながら後退るという無様しか出来ない。
やがて、蹴りウサギがハジメの目の前で止まった。地べたを這いずる虫けらを見るように見下ろす蹴りウサギ。そして、見せつけるかのように片足を大きく振りかぶった。
ハジメ(……ここで、終わりなのかな……)
絶望がハジメを襲う。諦めを宿した瞳で呆然と掲げられた蹴りウサギの足を見やる。その視線の先で、遂に豪風と共に致死級の蹴りが振り下ろされた。
ハジメは恐怖でギュッと目をつぶる。
「……」
しかし、いつまで経っても予想していた衝撃は来なかった。
ハジメが、恐る恐る目を開けると眼前に蹴りウサギの足があった。振り下ろされたまま寸止めされているのだ。
まさか、まだ遊ぶつもりなのかと更に絶望的な気分に襲われていると、奇妙なことに気がついた。よく見れば蹴りウサギがふるふると震えているのだ。
ハジメ(な、何? 何を震えて……これじゃまるで怯えているみたいな……)
〝まるで〟ではなく、事実、蹴りウサギは怯えていた。
ハジメが逃げようとしていた右の通路から現れた新たな魔物の存在に。
その魔物は巨体だった。二メートルはあるだろう巨躯に白い毛皮。例に漏れず赤黒い線が幾本も体を走っている。その姿は、たとえるなら熊だった。ただし、足元まで伸びた太く長い腕に、三十センチはありそうな鋭い爪が三本生えているが。
その爪熊が、いつの間にか接近しており、蹴りウサギとハジメを睥睨していた。
辺りを静寂が包む。ハジメは元より蹴りウサギも硬直したまま動かない。いや、動けないのだろう。まるで、先程のハジメだ。爪熊を凝視したまま凍りついている。
ハ「……グルルル」
と、この状況に飽きたとでも言うように、突然、爪熊が低く唸り出した。
ハジメ「ッ!?」
蹴りウサギが夢から覚めたように、ビクッと一瞬震えると踵を返し脱兎の如く逃走を開始した。今まで敵を殲滅するために使用していたあの踏み込みを逃走のために全力使用する。
しかし、その試みは成功しなかった。
爪熊が、その巨体に似合わない素早さで蹴りウサギに迫り、その長い腕を使って鋭い爪を振るったからだ。蹴りウサギは流石の俊敏さでその豪風を伴う強烈な一撃を、体を捻ってかわす。
ハジメの目にも確かに爪熊の爪は掠りもせず、蹴りウサギはかわしきったように見えた。
しかし……
着地した蹴りウサギの体はズルと斜めにずれると、そのまま噴水のように血を噴き出しながら別々の方向へドサリと倒れた。
愕然とするハジメ。あんなに圧倒的な強さを誇っていた蹴りウサギが、まるで為す術もなくあっさり殺されたのだ。
蹴りウサギが怯えて逃げ出した理由がよくわかった。あの爪熊は別格なのだ。蹴りウサギの、まるでカポエイラの達人のような武技を持ってしても歯が立たない化け物なのだ。
爪熊は、のしのしと悠然と蹴りウサギの死骸に歩み寄ると、その鋭い爪で死骸を突き刺しバリッボリッグチャと音を立てながら喰らってゆく。
ハジメは動けなかった。あまりの連続した恐怖に、そして蹴りウサギだったものを咀嚼しながらも鋭い瞳でハジメを見ている爪熊の視線に射すくめられて。
爪熊は三口ほどで蹴りウサギを全て腹に収めると、グルッと唸りながらハジメの方へ体を向けた。その視線が雄弁に語る。次の食料はお前だと。
ハジメは、捕食者の目を向けられ恐慌に陥った。
ハジメ「うわぁああーー!!」
意味もなく叫び声を上げながら折れた左腕のことも忘れて必死に立ち上がり爪熊とは反対方向に逃げ出す。
爪がその巨大に見合わない速度で襲い掛かる!
未来「ハジメェェェェェェェェェェ!!」
未来「モナド『鎧』!」
ハジメの周りに黄色いバリアが形成される
ブォン!!
ハジメ「アベシッ!」
ハジメは地面を鞠のように弾んで壁に激突する
ハジメ「グハッ」
かなりのダメージを負い、左手の感覚がないが、生きていた
しかし、ハジメの目の前には爪熊が迫っていた
未来「ハジメ!逃げ・・・・」
ハジメ「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!錬成!錬成!錬成ェ!」
あまりに連続した恐怖に、ハジメはたまらず逃げ出した
爪熊はハジメを追いかけようとする
未来「オイコラ熊公、お前の相手はこの俺だ」
そう言いながら熊の肩にモナドを突き刺す
熊「ガァァァ!!」
未来は体重差で振り落とされるが、気を引くことには成功した
未来「モナド『魔』!!」
絶望的な戦いが始まった
一方その頃
いく。
「うぁあああーー! 〝錬成〟! 〝錬成〟! 〝錬成ぇ〟!」
半ばパニックになりながら少しでもあの化け物から離れようと連続して錬成を行い、どんどん奥へ進んでいく。
後ろは振り返らない。がむしゃらに錬成を繰り返す。地面をほふく前進の要領で進んでいく。既にズタズタになった左腕の痛みのことは頭から飛んでいた。生存本能の命ずるままに唯一の力を振るい続ける。
どれくらいそうやって進んだのか。
ハジメにはわからなかったが、恐ろしい音はもう聞こえなかった。
しかし、実際はそれほど進んではいないだろう。一度の錬成の効果範囲は五メートル位であるし(これでも初期に比べ三倍近く増えている)、何より左腕の出血が酷い。そう長く動けるものではないだろう。
実際、ハジメの意識は出血多量により既に落ちかけていた。それでも、もがくように前へ進もうとする。
しかし……
ハジメ「〝錬成〟 ……〝錬成〟 ……〝錬成〟 ……〝れんせぇ〟 ……」
何度錬成しても眼前の壁に変化はない。意識よりも先に魔力が尽きたようだ。ズルリと壁に当てていた手が力尽きたように落ちる。
ハジメは、朦朧として今にも落ちそうな意識を辛うじて繋ぎ留めながらゴロリと仰向けに転がった。ボーとしながら真っ暗な天井を見つめる。この辺は緑光石が無いようで明かりもない。
いつしかハジメは昔のことを思い出していた。走馬灯というやつかもしれない。保育園時代から小学生、中学生、そして高校時代。様々な思い出が駆け巡るが、最後の思い出は……
月明かり射し込む窓辺での香織との時間。約束をした時の彼女の笑顔。
その美しい光景を最後にハジメの意識は闇に呑まれていった。意識が完全に落ちる寸前、ぴたっぴたっと頬に水滴を感じた。
それはまるで、誰かの流した涙のようだった。
ハジメは左手を失いません、魔王化も多分しません(ネタバレ)