神剣が選ぶもの(旧ありふれた魔王に勇者ときどき転生者) 作:くろから
橋の両サイドに現れた赤黒い光を放つ魔法陣。通路側の魔法陣は十メートル近くあり、階段側の魔法陣は一メートル位の大きさだが、その数がおびただしい。
小さな無数の魔法陣からは、骨格だけの体に剣を携えた魔物〝トラウムソルジャー〟が溢れるように出現した。空洞の眼窩からは魔法陣と同じ赤黒い光が煌々と輝き目玉の様にギョロギョロと辺りを見回している。その数は、既に百体近くに上っており、尚、増え続けているようだ。
しかし、数百体のガイコツ戦士より、反対の通路側の方がヤバイとハジメは感じていた。
図書館の図鑑でも最も危険な魔物として記録されていた、かつて最強と言わしめた冒険者ですら敵わなかった正真正銘の怪物『ベヒモス』と呼ばれる魔物と気味が悪いほど容姿が酷似していた
こちらを補足したベヒモスは大きく息を吸うと凄まじい咆哮を上げた。
「グルァァァァァアアアアア!!」
「ッ!?」
その咆哮で正気に戻ったのか、メルド団長が矢継ぎ早に指示を飛ばす。
メルド「アラン! 生徒達を率いてトラウムソルジャーを突破しろ! カイル、イヴァン、ベイル! 全力で障壁を張れ! ヤツを食い止めるぞ! 光輝、お前達は早く階段へ向かえ!」
光輝「待って下さい!メルドさん! 俺達もやります! あの恐竜みたいなヤツが一番ヤバイでしょう! 俺達も加わります!」
「馬鹿野郎! あれが本当にベヒモスなら、今のお前達では無理だ! ヤツは六十五階層の魔物。かつて、“最強”と言わしめた冒険者をして歯が立たなかった化け物だ! さっさと行け! 私はお前達を死なせるわけにはいかないんだ、!」
光輝「ですが!」
どうにか撤退させようと、再度メルドが光輝に話そうとした瞬間、ベヒモスが咆哮を上げながら突進してきた。このままでは、撤退中の生徒達を全員轢殺してしまうだろう。
そうはさせるかと、ハイリヒ王国最高戦力が全力の多重障壁を張る。
カイル・イヴァン・ペイル「「「全ての敵意と悪意を拒絶する、神の子らに絶対の守りを、ここは聖域なりて、神敵を通さず――〝聖絶〟!!」」」
二メートル四方の最高級の紙に描かれた魔法陣と四節からなる詠唱、さらに三人同時発動。一回こっきり一分だけの防御であるが、何物にも破らせない絶対の守りが顕現する。純白に輝く半球状の障壁がベヒモスの突進を防ぐ!
衝突の瞬間、凄まじい衝撃波が発生し、ベヒモスの足元が粉砕される。橋全体が石造りにもかかわらず大きく揺れた。撤退中の生徒達から悲鳴が上がり、転倒する者が相次ぐ。
トラウムソルジャーは三十八階層に現れる魔物だ。今までの魔物とは一線を画す戦闘能力を持っている。前方に立ちはだかる不気味な骸骨の魔物と、後ろから迫る恐ろしい気配に生徒達は半ばパニック状態だ。
未来と刃もパニックを起こし、狂ったように敵を倒し続けている
隊列など無視して我先にと階段を目指してがむしゃらに進んでいく。騎士団員の一人、アランが必死にパニックを抑えようとするが、目前に迫る恐怖により耳を傾ける者はいない。
その内、一人の女子生徒が後ろから突き飛ばされ転倒してしまった。「うっ」と呻きながら顔を上げると、眼前で一体のトラウムソルジャーが剣を振りかぶっていた。
あるところに寂しい少女がいた、五歳の頃に父親が自分を庇って事故死した。
割とありふれた出来事、本人からしたら冗談ではない出来事だが、万人からの視点では何処にでもありそうな悲劇に他ならない。
母親はちょっとしたお嬢だったらしく、父親と熱愛の結果として家族の反対を振り切って結婚した。
故に依存のレベルで父親とはベッタリである。
そんな母親は父親の死に耐えられず、だから“夫を殺した娘”に当たった。
恵理はこう考えた。
自分が悪かったのだ。
だから耐えた、耐えるしかないと思っていた。思っていなければ胸が張り裂けてしまいそうだった。
所詮は自分など母親にとって、父親のオマケに過ぎなかったのだから。
いつか終わると思っていた、父親が死ぬ前の日常が戻ってくると信じていた、
だが現実は残酷でそんな日常は戻ってはこなかった
そう確信したのはいつの頃だったか
そうだ、後から母親が連れてきた父親に犯されそうになった時、悲鳴を聞きつけたご近所さんが警察に通報して事なきを得たが、重要なのはそこではない、その後の母親の反応だった、
「私の旦那を誑かすなんて・・・・その年で男に言い寄る事を覚えたのかい?」
どの口でそんな事をのたまえるのか、どうすればそのような思考に行き着くのか全く理解できなかったが、恵理は一つの確信を覚えた
『この人にとって私は邪魔なんだ』
全てに絶望し終わらせようとして家を出た、父親が事故で死んだ交差点で終わらせようとしたが、ある少年に止められたしつこく事情を訊いてきた少年に、端折りに端折った事情説明をする。
少年は自分の信念に従い可哀想な少女に言う。
『もう一人じゃない。俺が恵里を守ってやる』
絶望して壊れ掛けていた少女に、そんな少年の言葉は強烈であったろう、少年のお陰で少女が学校に行けば、沢山の誰かしらが話し掛けてくれた。
全てが少年のお陰で。
こうなれば少女の心は、少年に対して堕ちる。
児童相談所が少女の母親の素行から虐待を疑い調査を開始した際、場合によっては少年から引き離されるかもと、『母親大好きな娘』を反吐が出そうになりながらも演じた。
母親が引き攣り恐怖する表情を見ても少女は何も感じなかった。
その反吐が出そうになる体験を吐き出せる相手もいた
少女にとって少年は正に王子様となる、それが勘違いだったと、そう悟るのは間も無くの事だった、
ヒーローがモブを救い、称賛されるというちょっとしたルーチンワーク。
自分が救われる“お話し"は少年にとって、終わった出来事に過ぎなあと悟った。
守ってくれると言った。
独りじゃないと言った。
だけどならどうして?
ヒーローにヒロインとは付き物だが、自分は少年のヒロインではなかったのだと気付いてしまう。
トウラムソルジャーに斬られようとしている少女……中村恵里は走馬灯を視ながらヒーロー――天之河光輝を見つめながら思う。
恵理(助けて光輝君)
手を伸ばしながら請う。
恵理(死にたくないよ、怖い、助けてよ光輝君!)
だけれど、天之河光輝の視線は既に落ちた白崎香織に向けられており、自分にはチラリとも向けてない。
知られない侭に落ちて死ぬのが堪らなく怖かった。
特別にはなれなかった、ありふれたモブが命を落としただけ、そんなありふれた結末でしかない。
涙を零した中村恵里は、一言だけ呟いた。
恵理「嘘……つき……」
守ってくれなかったし、独りぼっちにしたじゃないか……と。
奈落に落ち逝く中村恵里は目を閉じて、現実の全てを拒絶するのであった。
あれ、それだけだったっけ
刃「恵理!!」
その時壮絶な頭痛とともに神にかけられた記憶の封印が綻び、すべての記憶が頭を駆け巡る、悲しみも、怒りも、憎しみも、そして最悪の記憶の断片が魂に深く刻み込まれた経験と技術を呼び覚ます
瞬く間にトウラムソルジャーと恵理の間に割って入る
ザシュッ
恵理「・・・・・・え?」
そこには一番親しい親友が、どんな愚痴も嫌がらずに聞いてくれた、
大抵のわがままを聞いてくれたたった一人の人が
刃「生きるのを諦めるな、中村恵理、昨日言ったろ?おまえには、俺がいる」
少女を庇っていた
背中は肩口から大きく切り裂かれおびただしい血が流れていた
刃「フッ」
振り向きざまに魔物を切り伏せると口から吐血した
刃「ガッハ」
恵理「刃!」
刃「大丈夫だ・・・このくらいどうってことはない」
恵理「そんなわけないでしょ?!喋らないで!」
刃「見ろよ、クラスの奴ら、陣形もへったくれもありゃしない、あれじゃそのうち死人が出る、だから・・・・健を切られちまったから片手しか使えねーけど、俺が行くしかない」
恵理「なんで刃じゃなきゃいけないの?!」
恵理「こんな状況でついこの間まで一般人だった奴らが冷静になれるわけがない、それにこれは・・・俺のせめてもの償いだ」
そういうと刃はトウラムソルジャーの一番大きな集団の中に入っていった
恵理「バカ・・・・!」
しかし刃の予想をいい意味で裏切ったものが一人、今作の本当の主人公
南雲ハジメである、ハジメは誰も彼もがガムシャラに戦っているのを見て
ハジメ「なんとかしないと……必要なのは……強力なリーダー……道を切り開く火力……天之河くん!」
ハジメは走り出した。光輝達のいるベヒモスの方へ向かって。
ベヒモスは依然、障壁に向かって突進を繰り返していた。
障壁に衝突する度に壮絶な衝撃波が周囲に撒き散らされ、石造りの橋が悲鳴を上げる。障壁も既に全体に亀裂が入っており砕けるのは時間の問題だ。既にメルド団長も障壁の展開に加わっているが焼け石に水だった。
ハジメ「ええい、くそ! もうもたんぞ! 光輝、早く撤退しろ! お前達も早く行け!」
光輝「嫌です! メルドさん達を置いていくわけには行きません! 絶対、皆で生き残るんです!」
ハジメ「くっ、こんな時にわがままを……」
メルド団長は苦虫を噛み潰したような表情になる。
この限定された空間ではベヒモスの突進を回避するのは難しい。それ故、逃げ切るためには障壁を張り、押し出されるように撤退するのがベストだ。
しかし、その微妙なさじ加減は戦闘のベテランだからこそ出来るのであって、今の光輝達には難しい注文だ。
その辺の事情を掻い摘んで説明し撤退を促しているのだが、光輝は〝置いていく〟ということがどうしても納得できないらしく、また、自分ならベヒモスをどうにかできると思っているのか目の輝きが明らかに攻撃色を放っている。
まだ、若いから仕方ないとは言え、少し自分の力を過信してしまっているようである。戦闘素人の光輝達に自信を持たせようと、まずは褒めて伸ばす方針が裏目に出たようだ。
雫「光輝! 団長さんの言う通りにして撤退しましょう!」
雫は状況がわかっているようで光輝を諌めようと腕を掴む。
龍太郎「へっ、光輝の無茶は今に始まったことじゃねぇだろ? 付き合うぜ、光輝!」
未来「やられっぱなしもシャクだしな」
光輝「龍太郎、未来……ありがとな」
しかし、龍太郎と未来の言葉に更にやる気を見せる光輝。それに雫は舌打ちする。
雫「状況に酔ってんじゃないわよ! この馬鹿ども!」
香織「雫ちゃん……」
ハジメ「天之河くん!」
光輝「なっ、南雲!?」
香織「南雲くん!?」
ハジメ「早く撤退を! 皆のところに! 君がいないと! 早く!」
光輝「いきなりなんだ? それより、なんでこんな所にいるんだ! ここは君がいていい場所じゃない! ここは俺達に任せて南雲は……」
ハジメ「そんなこと言っている場合かっ!」
ハジメを言外に戦力外だと告げて撤退するように促そうとした光輝の言葉を遮って、ハジメは今までにない乱暴な口調で怒鳴り返した。
いつも苦笑いしながら物事を流す大人しいイメージとのギャップに思わず硬直する光輝。
ハジメ「あれが見えねーのか!? みんなパニックになってんだよ! リーダーがいないからだ!」
刃以外は訓練のことなど頭から抜け落ちたように誰も彼もが好き勝手に戦っている。効率的に倒せていないから敵の増援により未だ突破できないでいた。スペックの高さと刃の奮戦が命を守っているが、それも時間の問題だろう。
「一撃で切り抜ける力が必要なんだよ! 皆の恐怖を吹き飛ばす力が! それが出来るのはリーダーの天之河くんだけだ! 前ばかり見てないで後ろもちゃんと見ろ!」
光輝「ああ・・・・そうだな、すまない、南雲」
「下がれぇーー!」
〝すいません、先に撤退します〟――そう言おうとしてメルド団長を振り返った瞬間、その団長の悲鳴と同時に、遂に障壁が砕け散った。
暴風のように荒れ狂う衝撃波がハジメ達を襲う。咄嗟に、ハジメが前に出て錬成により石壁を作り出すがあっさり砕かれ吹き飛ばされる。多少は威力を殺せたようだが……
舞い上がる埃がベヒモスの咆哮で吹き払われた。
そこには、倒れ伏し呻き声を上げる団長と騎士が三人。衝撃波の影響で身動きが取れないようだ。光輝達も倒れていたがすぐに起き上がる。メルド団長達の背後にいたことと、ハジメの石壁が功を奏したようだ。
光輝「ぐっ……未来、龍太郎、雫、時間を稼げるか?」
光輝が問う。それに苦しそうではあるが確かな足取りで前へ出る二人。団長たちが倒れている以上自分達がなんとかする他ない。
龍太郎「やるしかねぇだろ!」
雫「……なんとかしてみるわ!」
未来「言われなくても!」
三人がベヒモスに突貫する。
光輝「香織はメルドさん達の治癒を!」
香織「うん!」
光輝の指示で香織が走り出す。ハジメは既に団長達のもとだ。戦いの余波が届かないよう石壁を作り出している。気休めだが無いよりマシだろう。
光輝は、今の自分が出せる最大の技を放つための詠唱を開始した。
光輝『神意よ! 全ての邪悪を滅ぼし光をもたらしたまえ! 神の息吹よ! 全ての暗雲を吹き払い、この世を聖浄で満たしたまえ! 神の慈悲よ! この一撃を以て全ての罪科を許したまえ!――〝神威〟!』
詠唱と共にまっすぐ突き出した聖剣から極光が迸る。
先の天翔閃と同系統だが威力が段違いだ。橋を震動させ石畳を抉り飛ばしながらベヒモスへと直進する。
龍太郎と雫は、詠唱の終わりと同時に既に離脱している。ギリギリだったようで三人共ボロボロだ。この短い時間だけで相当ダメージを受けたようだ。
放たれた光属性の砲撃は、轟音と共にベヒモスに直撃した。光が辺りを満たし白く塗りつぶす。激震する橋に大きく亀裂が入っていく。
光輝「これなら……はぁはぁ」
龍太郎「はぁはぁ、流石にやったよな?」
雫「だといいけど……」
未来「傷くらいはおったはずだろ」
そんな中、徐々に光が収まり、舞う埃が吹き払われる。
その中から無傷のベヒモスが突進してきた!
一同「「「「!!!!!!!」」」」
脳を一気に走馬灯が駆け巡る
未来(ここで死にたくない!何か打開策は!?)
そう思った時、頭を戦争の記憶が駆け巡った自分の持つ最悪の記憶、紙に封印されたはずの記憶の中から生き残る方法を導き出す
未来「モナドォォォォ『
一同を光のバリアが覆い、ベヒモスの突進を受け止め、弾き飛ばす
その間にハジメはメルドにある提案をした
メルド「だめだ!危険すぎる!死にに行くようなものだ!」
それは、この場の全員が助かるかもしれない唯一の方法。ただし、あまりに馬鹿げている上に成功の可能性も少なく、ハジメが一番危険を請け負う方法だ。
未来「そうだ、確実に成功する保証もない、俺も参加する」
光輝「だめだ!それなら俺も!」
未来「おまえまで残ったら誰がクラスをまとめるんだ!」
メルド「……やれるんだな?」
「「やります」」
決然とした眼差しを真っ直ぐ向けてくるハジメに、メルド団長は「くっ」と笑みを浮かべる。
メルド「まさか、お前さんに命を預けることになるとはな。……必ず助けてやる。だから……頼んだぞ!」
「「はい!」」
メルド団長はそう言うとベヒモスの前に出た。そして、簡易の魔法を放ち挑発する。ベヒモスは、先ほど光輝を狙ったように自分に歯向かう者を標的にする習性があるようだ。しっかりとその視線がメルド団長に向いている。
そして、赤熱化を果たした兜を掲げ、突撃、跳躍する。メルド団長は、ギリギリまで引き付けるつもりなのか目を見開いて構えている。そして、小さく詠唱をした。
メルド「吹き散らせ――〝風壁〟」
詠唱と共にバックステップで離脱する
それを確認した後、未来はベヒモスに会いたいしながらいう、
未来「ハジメ、俺が奴のバランスを崩す、合わせろ」
ハジメ「わかった」
未来「じゃあミッション開始だ!モナドォォォォ『
長くなったモナドの刃で切り上げ、ベヒモスの体制が崩れる
名称だけの詠唱。最も簡易で、唯一の魔法でありながら、彼の最大の武器、
「――〝錬成〟!」
ベヒモスの体が数メートル沈み込み、身動きを取れなくする
トラウムソルジャーの方は、どうやら幾人かの生徒が冷静さを取り戻したようで、周囲に声を掛け連携を取って対応し始めているようだ。立ち直りの原因は中村恵理である
香織「待って下さい! まだ、南雲くんがっ」
撤退を促すメルド団長に香織が猛抗議した。
メルド「坊主の作戦だ! ソルジャーどもを突破して安全地帯を作ったら魔法で一斉攻撃を開始する! もちろん坊主がある程度離脱してからだ! 魔法で足止めしている間に坊主が帰還したら、上階に撤退だ!」
香織「なら私も残ります!」
メルド「ダメだ! 撤退しながら、香織には光輝を治癒してもらわにゃならん!」
香織「でも!」
なお、言い募る香織にメルド団長の怒鳴り声が叩きつけられる。
メルド「坊主の思いを無駄にする気か!」
香織「ッ――」
メルド団長を含めて、メンバーの中で最大の攻撃力を持っているのは間違いなく光輝である。少しでも早く治癒魔法を掛け回復させなければ、ベヒモスを足止めするには火力不足に陥るかもしれない。そんな事態を避けるには、香織が移動しながら光輝を回復させる必要があるのだ。ベヒモスはハジメの魔力が尽きて錬成ができなくなった時点で動き出す、未来もいるが、どのくらい食止められるかわからない以上進むしかないのだ、
トラウムソルジャーは依然増加を続けていた。既にその数は二百体はいるだろう。階段側へと続く橋を埋め尽くしている。
だが、ある意味それでよかったのかもしれない。もし、もっと隙間だらけだったなら、突貫した生徒が包囲され惨殺されていただろう。実際、最初の百体くらいの時に、それで窮地に陥っていた生徒は結構な数いたのだ。
それでも、未だ死人が出ていないのは、ひとえに騎士団員達と刃のおかげだろう。彼等の必死のカバーと奮戦が生徒達を生かしていたといっても過言ではない。代償に、既に彼等は満身創痍で刃に至っては傷だらけでほとんど死に体だったが。
騎士団員達のサポートがなくなり、続々と増え続ける魔物にパニックを起こし、魔法を使いもせずに剣やら槍やら武器を振り回す生徒がほとんどである以上、もう数分もすれば完全に瓦解するだろう。
生徒達もそれをなんとなく悟っているのか表情には絶望が張り付いている。中村恵理の呼びかけで少ないながらも連携をとり奮戦していた者達も限界が近いようで泣きそうな表情だ。
誰もが、もうダメかもしれない、そう思ったとき……
光輝「――〝天翔閃〟!」
純白の斬撃がトラウムソルジャー達のド真ん中を切り裂き吹き飛ばしながら炸裂した。
橋の両側にいたソルジャー達も押し出されて奈落へと落ちていく。斬撃の後は、直ぐに雪崩れ込むように集まったトラウムソルジャー達で埋まってしまったが、生徒達は確かに、一瞬空いた隙間から上階へと続く階段を見た。今まで渇望し、どれだけ剣を振るっても見えなかった希望が見えたのだ。
光輝「皆! 諦めるな! 道は俺が切り開く!」
そんなセリフと共に、再び〝天翔閃〟が敵を切り裂いていく。光輝が発するカリスマに生徒達が活気づく。
メルド「お前達! 今まで何をやってきた! 訓練を思い出せ! さっさと連携をとらんか! 馬鹿者共が!」
皆の頼れる団長が〝天翔閃〟に勝るとも劣らない一撃を放ち、敵を次々と打ち倒す。
いつも通りの頼もしい声に、沈んでいた気持ちが復活する。手足に力が漲り、頭がクリアになっていく。実は、香織の魔法の効果も加わっている。精神を鎮める魔法だ。リラックスできる程度の魔法だが、光輝達の活躍と相まって効果は抜群だ。
治癒魔法に適性のある者がこぞって負傷者を癒し、魔法適性の高い者が後衛に下がって強力な魔法の詠唱を開始する。前衛職はしっかり隊列を組み、倒すことより後衛の守りを重視し堅実な動きを心がける。
治癒が終わり復活した騎士団員達も加わり、反撃の狼煙が上がった。チートどもの強力な魔法と武技の波状攻撃が、怒涛の如く敵目掛けて襲いかかる。凄まじい速度で殲滅していき、その速度は、遂に魔法陣による魔物の召喚速度を超えた。
そしで敵の一番の密集地で戦っていた刃が叫ぶ
刃「皆! 続け! 階段前を確保するぞ!」
光輝が掛け声と同時に走り出す。
ある程度回復した龍太郎と雫がそれに続き、バターを切り取るようにトラウムソルジャーの包囲網を切り裂いていく。
そうして、遂に全員が包囲網を突破した。背後で再び橋との通路が肉壁ならぬ骨壁により閉じようとするが、そうはさせじと光輝が魔法を放ち蹴散らす。
恵理「刃!」
刃「なん・・・とか・・・なったか」
恵理「もう喋らないで!」
そういうと刃に肩を貸す
クラスメイトが訝しそうな表情をする。それもそうだろう。目の前に階段があるのだ。さっさと安全地帯に行きたいと思うのは当然である。
「皆、待って! 南雲くんを助けなきゃ! 南雲くんがたった一人であの怪物を抑えてるの!」
香織のその言葉に何を言っているんだという顔をするクラスメイト達。そう思うのも仕方ない。なにせ、ハジメは〝無能〟で通っているのだから。
だが、困惑するクラスメイト達が、数の減ったトラウムソルジャー越しに橋の方を見ると、そこには確かにハジメの姿があった。
「なんだよあれ、何してんだ?」
「あの魔物、上半身が埋まってる?」
優花「未来!?」
刃「ハハッ、すげーじゃねーか南雲」
次々と疑問の声を漏らす生徒達にメルド団長が指示を飛ばす。
「そうだ! 坊主達がたった二人であの化け物を抑えているから撤退できたんだ! 前衛組! ソルジャーどもを寄せ付けるな! 後衛組は遠距離魔法準備! もうすぐ坊主の魔力が尽きる。アイツらが離脱したら一斉攻撃で、あの化け物を足止めしろ!」
ついさっき死にかけたのだ。一秒でも早く安全を確保したいと思うのは当然だ。しかし、団長の「早くしろ!」という怒声に未練を断ち切るように戦場へと戻った。
その中で一人、小さな悪意があった
その頃、ハジメはもう直ぐ自分の魔力が尽きるのを感じていた。既に回復薬はない。チラリと後ろを見るとどうやら全員撤退できたようである。隊列を組んで詠唱の準備に入っているのがわかる。
ベヒモスは相変わらずもがいて、片足が既に自由になっている
未来が押し留めているが、それもすぐに限界を迎えるだろう
額の汗が目に入る。極度の緊張で心臓がバクバクと今まで聞いたことがないくらい大きな音を立てているのがわかる。
ハジメはタイミングを見計らった。
そして、数十度目の亀裂が走ると同時に最後の錬成でベヒモスを拘束する。同時に、一気に駆け出した。
ハジメ「もう十分だ!逃げよう!」
ハジメ達が猛然と逃げ出した五秒後、地面が破裂するように粉砕されベヒモスが咆哮と共に起き上がる。その眼に、憤怒の色が宿っていると感じるのは勘違いではないだろう。鋭い眼光が己に無様を晒させた怨敵を探し……
ハジメを捉えた。
再度、怒りの咆哮を上げるベヒモス。ハジメを追いかけようと四肢に力を溜めた。
だが、次の瞬間、あらゆる属性の攻撃魔法が殺到した。
夜空を流れる流星の如く、色とりどりの魔法がベヒモスを打ち据える。ダメージはやはり無いようだが、しっかりと足止めになっている。
いける! と確信し、転ばないよう注意しながら頭を下げて全力で走るハジメ。すぐ頭上を致死性の魔法が次々と通っていく感覚は正直生きた心地がしないが、チート集団がそんなミスをするはずないと信じて駆ける。ベヒモスとの距離は既に三十メートルは広がった。
思わず、頬が緩む。
しかし、その直後、未来の表情が凍りついた。
無数に飛び交う魔法の中で、一つの火球がクイッと軌道を僅かに曲げたのだ。
……ハジメの方に向かって。
明らかにハジメを狙い誘導されたものだ。
未来「だれだ!?くそっ!」
はじめも気付き、咄嗟に踏ん張り、止まろうと地を滑るハジメの眼前に、その火球は突き刺さった。着弾の衝撃波をモロに浴び、来た道を引き返すように吹き飛ぶ。直撃は避けたし、内臓などへのダメージもないが、三半規管をやられ平衡感覚が狂ってしまった。
フラフラしながら少しでも前に進もうと立ち上がるが……
ベヒモスも、いつまでも一方的にやられっぱなしではなかった。ハジメが立ち上がった直後、背後で咆哮が鳴り響く。思わず振り返ると三度目の赤熱化をしたベヒモスの眼光がしっかりハジメを捉えていた。
そして、赤熱化した頭部を盾のようにかざしながらハジメに向かって突進する!
フラつく頭、霞む視界、迫り来るベヒモス、遠くで焦りの表情を浮かべ悲鳴と怒号を上げるクラスメイト達。
ハジメは、なけなしの力を振り絞り、必死にその場を飛び退いた。直後、怒りの全てを集束したような激烈な衝撃が橋全体を襲った。ベヒモスの攻撃で橋全体が震動する。着弾点を中心に物凄い勢いで亀裂が走る。メキメキと橋が悲鳴を上げる。
未来「まずい!」
未来が助けに入る
その瞬間遂に……橋が崩壊を始めた。
度重なる強大な攻撃にさらされ続けた石造りの橋は、遂に耐久限度を超えたのだ。
そして、ハジメと助けようとした未来が奈落のそこに落ちてゆくのが見えた
優花「未来ー!!!」
爆音を立てて橋が崩れ、その煙の中から
ベヒモスが現れた
なんとすんでのところで這い上がってきたのだ
メルド「そんなばかな・・・・」
もう魔力も切れかけのパーティーに対抗する術はない
誰もが、メルド団長さえ絶望したその時
刃が前にでた
刃「さてと、万事休すか、」
刃「シィィッィィィィィッィィィィィ」
呼吸音と共に刀を担ぐように構え、集中する
雫「ッッ!!」
身を切り裂くような剣気に身震いする
剣気が高まりつずけ
雫「あれは・・・・・・鬼?」
高まった剣気が鬼を幻視するほどになってもなお高まりつずける
無限一刀流 極意 無双剣
刹那、担いでいた刀を下段から振り上げるとそのあまりの剣速に爆風が巻き起こり土煙が立ち込める
土煙がはれると体を真っ二つに引き裂かれたベヒーモスがいた
メルド「刃!よくやっ」
ブシャァァァァァァァ
刃の体中から血が噴出す
恵理・光輝「「刃!」」
刃「こ・・・き・・恵理を・・頼んだ」
次回はもっと短くします・・・