ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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ヒント:ローマの休日


第14話「ロンドンの休暇」

 

ああ、くそ。

失敗したなぁ…。

 

あの時、これから遊びに行くという時に、

墓参りなんて宮藤には見せたくなかったけど、

こちらの言いつけを破って本人が付いてきてしまったのは、仕方がないといえばそうかもしれないけど。

 

できればあの子にそうした所を見せたくなかった。

とはいえ、それは既に終わった過去の話であり今はブリタニア首都、ロンドンにいる。

 

あの後、

動揺している宮藤の手を引っ張り、

有無を言わさずキューベルワーゲンに乗り込むとロンドンまで直行。

 

しかし、途中で兵士を満載した軍用トラックの群れに引っかかる。

渋滞で速度が低下した上に、ウィッチがいることを知った兵士の一部がナンパして来た。

 

この姿になって以来。

美少女なせいでこの手の輩には多少慣れているとはいえ、不愉快なものであり無視を決めたが、

宮藤にちょっかいを出して来たので、こちらの将校としての階級を出すと相手の上官、小隊長が慌てて謝罪に来た。

小隊長は少尉、そしてこちらの大尉といえば約250名を指揮する中隊長クラスの階級なのだから、向こうが青くなるのは当然だ。

 

とまあ、トラブルはあったが無事ロンドンに到着。

そのまま車でロンドン塔、バッキンガム宮殿、時計塔といったロンドンの名所を回る。

 

わたしにとってはもう見飽きた場所であるが、

初めての海外旅行なためか、宮藤は楽しんでくれたので、

こちらとしても、ガイドに思わず熱が入り、久々の休暇を楽しめた。

 

「……ふむ」

 

そして、現在はかのネルソン提督を記念したトラファルガー広場にいる。

ここもまた観光名所ゆえに、トラファルガー広場は休日ということもあり少し混雑している。

 

それだけなら、観光地ではありふれた光景だがその観光客の大半が軍人であった。

見たところリベリオン、扶桑、ブリタニアそして我がカールスラントの兵士と実に国際色豊かである。

 

自分と同じ休暇でロンドンに来たのは想像できるが、少し多すぎる気がする。

以前兵站将校と話しをしたが、作戦開始前に英気を養うべく、こうして休暇を与える事があるらしい。

 

と、なると恐らくだが、大陸反攻作戦。

史実で言うところのノルマンディー上陸が近いのは本当なのだろう。

 

「バルクホルンさん!」

 

っと、宮藤に呼ばれた。

 

「そこの屋台で買ってみたんです、一緒にたべましょう!」

 

そう言い、笑顔で宮藤は新聞紙に包まれた揚げ物。

英国名物、フィッシュ&チップスを見せた。

 

む、いいな。

わたしの好物じゃないか。

 

前世で散々糞不味い、

との評判を受けている英国飯マズの代表格だが、意外とそうでもない。

冷えると流石にまずいが、ホカホカに焼けたものはこれまた英国名物のエールとも合って非常に良いものになる。

 

「ん、貰おう」

 

というわけで、頂くとする。

宮藤から受け取ったフィッシュ&チップスは揚げたてらしく、

茶色い衣がシュウシュウと音を立てており、実に香ばしい香りがしていた。

 

そこに、大きく口を開き噛み付く。

じゅわりと魚の油が口いっぱいに広がる、

それだけではない、白身魚の淡白な味わいが実に良い。

 

「ちょっと、油っぽいけど、

 おいしいですね、バルクホルンさん」

 

宮藤も同じく白身魚とポテトを口に頬張っていた。

うむ、たしかにうまい。英国料理は何とやらというが悪くない。

某ウナギゼリーを除けば、揚げ物にはずれはない。

 

「食事を終えたらどうする宮藤?」

「そうですね、ロンドン塔とかまだ見たことありませんし」

 

ロンドン塔か。

本物の幽霊が出るという噂だが行ってみるのもいいな。

 

「よし、今度はそっちに行くか」

「はい」

 

そんなこんなで英国グルメを堪能し、

次の観光地へ移動しようと思い、2人で車に移動するがこちらに駆け寄る人影、いや少女がいた。

 

白のブラウスに首元に青いリボンを締め、

スカート…あ、いやこの世界ではベルトだったな。

そして、青い目をして鼻や口のバランスがよく整った顔をした少女が、

わたし達の目の前に息を切らしつつ駆け寄り、声を掛けるより先にわたしの両手を掴むと叫んだ。

 

「ごめんなさい!しばらく匿ってください!」

 

くすんだ金髪の少女。

わたしより少し下の少女が唐突にそんな事を言った。

 

周囲から好奇の視線が突き刺さる。

あ、いや、待て待てどういうことなの?

キマシタワーなのか!キマシタワーが設営されたのか!!?

 

というか、貴女は誰ですか!?

 

「バルクホルンさん、何か怪しげな、黒服の人が来ますよ!?」

 

宮藤が指差す方向から、

確かに黒服のスーツにサングラスを掛けた屈強な男達がこっちへ駆け寄っている。

 

ああ、まったく!

どうやら、厄介ごとに巻き込まれたようだ。

 

「早く乗れ!そして掴まれ!」

 

2人を車内に引き込むと、

エンジンを起動、男達が飛び込む前に先にバック、そのまま、Uターンして逃走した。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「はじめまして、エリーといいます。

 ありがとうございます、お陰で助かりました…」

 

「あ、どうも。宮藤です」

 

厄介ごとを巻き込んだ少女の名はエリーと言うらしい。

一体何が原因で追いかけられているのか、何故自分達を巻き込んだのか、

聞きたいことは沢山あるが…宮藤、そこは普通に挨拶するところか?

 

「で、エリーは何故逃げていたんだ?

 それに、あの黒服の男たちは一体なんなんだ?」

 

もしもの尾行を巻くために頻繁に道を曲がらせつつ、エリーに問いただす。

厄介ごとに行き成り巻き込んだのだから、こちらには聞く権利があってしかるべきである。

 

「その、それは…」

 

顔を伏せ、戸惑うエリー。

このまま沈黙でもするのかと思ったけど、ぽつぽつと語り始めた。

 

「父と喧嘩をして外に出たんです」

「え、喧嘩?だとするとあの人達は?」

「はい、家の護衛です」

 

どうやらマフィアに狙われているとか、

そんな大層な話しではなく家出という平凡な原因であった。

しっかし、護衛付きの家庭ねぇ…エリーの英語も上品だし案外この子は貴族の娘かもしれない。

 

「喧嘩か、にしては大げさな気がするな」

「父は心配性なので…」

 

エリーが苦笑を零した。

だが、直ぐにその喧嘩の経緯を語る。

 

「…私、実はウィッチなのです。

 貴方達のように空こそ飛べないけど簡単な治療ぐらいは出来ます」

 

エリーが語る。

ふむ、ここは黙って聞くのがよいな。

 

「何もできずにただじっとするのが嫌だったんです。

 それでも、軍に志願しようとしたのですけど、父はずっと反対していて、

 私の意思を無視して未だにファラウェイランドの方に疎開させようとするのです」

 

エリーが俯き、悔しげに手を握る姿がバックミラー越しに見えた。

宮藤が心配そうに、エリーの様子を見ている。

 

「だから、お父さんと喧嘩して出たの?」

「はい、そうです」

 

宮藤の問いにエリーが頷く。

成る程な、それで家出をしたわけか。

 

で、だ。

 

「それで、家を出てから何かアテでもあったのか?

 それと今後の予定は?どこかで降ろせばいいのか?」

 

「その、えっと」

 

念のために何か考えでもあったのか聞くが、

家出娘は視線を彷徨わせ、言葉を詰まらせている。

 

…本当に、何も考えずに家出をしたのだな。

いや、いいさ。家出なんて大抵そんなものだから。

 

「やれやれ、困った家出娘だ。

 予定がないなら、このまま一緒にロンドン観光でもしないかエリー?」

 

「えっ!?いいのですか?」

 

「これも何かの縁だ、宮藤はどう思う?」

 

わたしの提案にエリーが驚愕の眼差しで見る。

別に今更1人くらい増えてもまったく問題ない。

 

むしろ、適当に放り出す方が気が引ける。

これも何かの縁だと思えばこの休暇もまた楽しいものになる。

 

「はい、私も賛成です!」

「み、宮藤さん!?」

 

宮藤が勢いよく手を上げ、賛同を示した。

うん、だった決まりだ。

 

「エリー、エリーの事情にわたし達に出来ることはないけど、

 嫌なこととかは、今日一日遊んで忘れさせる事ぐらいはできるから遠慮しないで欲しい」

 

「そうだよ、エリーさん。

 一緒に楽しんでしまいましょう」

 

「……はい、お2人共、ありがとうございます」

 

わたし達の提案に彼女は涙ぐみ、感謝の言葉を綴った。

 

「ところで、貴女の名前を聞いていないような……あの、名前を聞いていいですか?」

 

む、ああ。

そういえば宮藤はともかくわたしの名を言っていなかった。

 

「あ、ああ。バルクホルン。

 ゲルトルート・バルクホルンだ」

 

「バルクホルン…もしかしてあのバルクホルンですか!?」

 

エリーは、突然何かを思いついたように手を鳴らした。

ま、「あの」と言われるバルクホルンと言えば第501戦闘航空団に所属するウィッチのエースである自分しかいない。

 

「まあ、そうだが、何か?」

「あ、あのですね」

 

先程までの落ち込んだ空気は消滅し、代わりに目を輝かせるエリー。

ああ、またか。何度もこうした人間は見たことあるし、慣れているし、次の行動が予想できる。 

 

そして、エリーは予想どおり、

ポケットからメモ帳とペンを取り出し叫んだ。

 

「後でいいのでサインをください!」

 

 

 


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