ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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事情があるとはいえ更新が遅れてすみません!



第17話「信じて」

 

また戦いね。

そうペリーヌは内心で呟いた。

 

『最近のネウロイのパターンにはブレが多いな』

 

『カールスラント領で何か動きが有るって聞いたけど。

 …あるいはもしかすると例の反攻作戦に気づいているかもしれないわね』

 

坂本少佐とミーナ中佐の雑談の内容に体が一瞬硬直した。

秋の反攻、噂のDディについては自分も聞いている。

ガリアのノルマンディ、あるいはカレーに連合軍が上陸し欧州の開放を目指す。

 

その時自分は先陣をきって戦いに行くべき。

否。戦うことを心の底から望んでいる。

 

例え祖国解放の半ばで戦死しても構わない。

少なくともここで戦死する場所は異国のブリタニアであるが、

ガリアで戦って戦死すれば生まれ故郷と両親が眠る地で死ねるのだから――――。

 

「クロステルマン中尉!」

 

そこまで思考の海に沈んだ刹那。

上司に呼ばれ突然のことでびくり、と体が震えた。

 

「ペリーヌ、いや。

 クロステルマン中尉。気が散っているぞ」

 

長機のバルクホルン大尉だ。

名前ではなく苗字と階級で自分を呼んでいる。

今自分が置かれている状況と照らし合わせてこの意味を直ぐに理解した。

 

「……っ申し訳ございません、大尉!」

 

そうだ、今は任務中。

余計な思考迷路に嵌っている暇はない。

何時ものように何も考えずにネウロイを倒してしまえばいいだけだ。

 

「…なら、いい。それとこの戦いが終わったら少し話があるから来てくれないか?」

「はい」

 

そう、何も問題はない。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

まいったな。

ペリーヌは問題ないと言いたげな表情だけど大いに問題がある。

戦争と言う異常な環境ではメンタルの問題が発生し易く、そのケアが非常に重要だ。

 

【原作】のバルクホルンなどはまさにそうしたケアが必要だった。

そしてこの世界でバルクホルンであるわたしは妹を死なせてしまった後ろめたさがまだ、ある。

宮藤の、かつての妹の姿に予想外に似ていたことに動揺したし、今も後悔などで感情の整理が追いつかない時がある。

 

けど、それでもわたし自身は生きていくしかなく、

この世界の主人公を助けてネウロイと戦わなくてはならないことを知っている。

 

だからこそ、戦える。

目の前に分かりやすい目標があれば人は頑張れる。

 

けど、ペリーヌは違う。

彼女の目標はさながらエベレストのごとく高く、遠い目標だ。

祖国奪還、という大きすぎる目標は彼女の心を確実に蝕んでいる。

そして心に問題を抱えた人間のやることと言えば己の限界を超えた行動をすることだ。

 

「くっそ、」

 

思わず悪態が零れる。

メンタルケアなんてわたしには出来ない。

 

心を癒すことを出来るのは自分自身、

つまりペリーヌ自身が最終的にどうにかしなきゃいけないのだから!

 

『ネウロイ発見!方角1時、高度5000!』

 

なんて考え込んでいたら前衛の坂本少佐からネウロイ発見の報が届く。

少佐の言葉に従いその方角を見れば――――いた、黒々しい飛行物体が飛んでいる。

 

『こちらも確認したわ美…少佐。

 少佐は宮藤さんと共にネウロイに突入。

 バルクホルン、ペリーヌのペアはその援護に回りなさい』

 

ミーナの指示に了解と皆返答する。

銃の安全装置を解除し、魔力をユニットに注ぎ込む。

 

さあて、わたし達の商売のはじまりだ。

 

『3…2…1……突入!』

 

ミーナの合図で一斉に降下を開始。

保護魔法越しに強力なGが体を締め付ける。

 

が、むしろ心地よい。

これこそ空を生身で飛ぶ楽しい所だ。

しかし、ネウロイはそんな楽しい時間を容赦なく奪う。

距離的に拳ほどの大きさに見えるネウロイから盛んに赤い光線が放たれる。

 

…っ、いつも思うが某妖怪をモチーフにした弾幕ゲーみたいだ!

幸いなのは爆発系の攻撃がなく直線系しかないことか?

 

『まだだ…もう少し、もう少しだ……よし、宮藤。撃て!』

『はい!』

 

先行していた少佐、宮藤の組が攻撃を開始。

何発かが当たったらしくネウロイが雄叫びと共に2人に光線を集中させる。

そして、数えるのも億劫になるほど膨大な光線が降り注ぐがメイン盾である宮藤がその全てを防いでしまう。

 

そのせいか、余計にネウロイは2人に気を取られこっちが疎かになり。

 

『こちらリネット、援護射撃開始します!』

 

ドン!と一際大きな銃声と同時にネウロイにリネットの対戦車ライフル弾が命中。

ネウロイから悲鳴のような金属音と白い結晶が零れる、初弾命中なんて成長したなリネット。

 

ならばこっちも負けていられない。

 

「よし、突入するぞクロステルマン中尉。ついて来い!」

「はっ!」

 

少佐、宮藤の組が離れた隙間を埋めるようによろめいたネウロイに肉薄。

照準どころか目の前で黒い壁にしか認識できないほど接近して引き金を引き鉛弾をプレゼントする。

 

それも容赦なくだ。

ネウロイには悪いがここで早々に撃墜してしまおう。

 

…っと、すぐに離脱と。

 

『こちら坂本、再突入する!』

 

離脱と同時に入れ替わるように少佐、宮藤の組が突入。

ネウロイがわたしの方に向いていたせいで反応できず集中射撃を受ける。

ダメ押しとばかりにリネットからの援護射撃でネウロイは大きな悲鳴を上げる。

 

状況は悪くない。

こちら側に非常に有利に進んでいる。

後2、3回突入と離脱を繰り返せば確実にネウロイは倒せ―――って、あの馬鹿!

 

「ペリーヌ、何故付いてこない!!」

 

後ろについてきているはずのペリーヌはおらず、

振り向けば彼女は未だネウロイに食らいつき銃撃を浴びせていた。

くっそ、ネウロイと戦いだして行きなりこれとかまったく勘弁してもらいたいものだな!

 

「ペリーヌ、応答しろ!ペリーヌ!深追いをするな!」

『く、この!堕ちなさい!堕ちなさい!』

 

呼びかけるが聞こえるのは銃声と罵声のみ

まるで初めて実戦に遭遇した新兵のように完全に頭に血が上っている

 

『クロステルマン中尉、ペリーヌさん、聞こえますか!バルクホルン大尉に従いなさい!』

 

しかもミーナからもペリーヌがネウロイに近づきすぎたことを視認したようだ。

ああ、もう、こうなったら強引に連れて行くしかない!

 

『こちらバルクホルン。

 ペリーヌの奴。頭に血が上っているみたいだ!

 さっきから深追いするなと言っているけど聞きやしない、強引に回収する!』

 

そうミーナに無線で怒鳴りつけるように言ってから加速。

たった数秒で拳ほどの大きさでしか視認できなかったペリーヌの姿が等身大まで拡大される。

腕を伸ばしネウロイに気をとられているペリーヌの肩に手を置き、文句の言葉を発しようとした刹那。

 

『待ちなさい!トゥルーデ!ネウロイが―――きゃ!?』

 

ミーナからの通信が耳に入ると同時にネウロイが爆ぜた。

いや違う、そう表現するしかないほど濃厚な光線攻撃が発せられたのである。

 

咄嗟にシールドを展開するが――――間に合わない。

わたしはペリーヌ共々地上へ墜落した。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

「第4射、撃ちます!」

 

そう言い、ボーイズ対戦車ライフルの引き金を引く。

直度、ズドンと大きな銃声と衝撃が肩に走る。

射撃の衝撃で銃身が上に逃げそうになるが魔法力で強化された腕力で無理やり抑える。

 

お陰で蒼空に放たれた13.9ミリ弾がリーネの予想通りの位置に飛ぶ。

その位置には坂本少佐、宮藤、さらにはバルクホルン、ペリーヌに追い立てられるネウロイ。

 

金属の破壊音と黒板を爪で引っ掛けるような叫び声が轟く。

 

「また命中、凄いわリーネさん」

「はい、ありがとうございます。ミーナ中佐」

 

第4射に至るまで外れることがない射撃にミーナが称える。

これまで失敗しかなかったリーネはこの賞賛に思わず口元が綻ぶ。

 

「このまま行けば、もうすぐネウロイは堕ちるわね…」

 

ミーナの呟きにリネットは頷く。

既にネウロイは満身創痍といった状態で撃墜まで目前だ。

 

「ん…?」

 

だから隊で坂本少佐に次いで眼が良いリネットは違和感に気付いた。

 

「ミーナ中佐、ペリーヌさんがネウロイに近づきすぎています!」

「…っ本当ね、クロステルマン中尉、ペリーヌさん、聞こえますか!バルクホルン大尉に従いなさい!」

 

ロッテの長機であるバルクホルンから離れ、

ネウロイに食らい付くペリーヌにミーナが警告する。

よく見ればバルクホルンもペリーヌに向かって何か叫んでいる。

 

『こちらバルクホルン。

 ペリーヌの奴。頭に血が上っているみたいだ!

 さっきから深追いするなと言っているけど聞きやしない、強引に回収する!』

 

そうバルクホルンから通信が入るや否や深追いしているペリーヌに急速に近づく。

しかし、戦場を俯角していたミーナはネウロイが最後の足掻きをするところを見逃さないかった。

 

「待ちなさい!トゥルーデ!ネウロイが―――きゃ!?」

「ひゃあ!?」

 

光線がネウロイを中心に360度あらゆる方角に放たれる。

今までの攻撃とは比較することができないほど強力な光線が周囲を征服する。

 

思わずミーナ、リネットは悲鳴を漏らす。

が、怪我はなく半ば無意識に展開したシールドのお陰で無傷だ。

 

「ペリーヌさん!バルクホルンさん!」

 

しかし、もっともネウロイに近づいていたバルクホルン、ペリーヌの2人はそうはいかなかった。

リネットの視界に2人が落下する光景を確かに捉えた。

 

 

 

 

 

 

 


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