バルクホルン、シャーリー、そして芳佳が食堂で夜食を取っている中。
わずかな明かりしか灯していない格納庫に小さな人影が動いていた。
より具体的に描写すると日に焼けた肌、
短いツインテールに縞パン…ではなく縞ズボンを履いた少女が格納庫で人を探していた。
「シャーリー?
ねえ、シャーリーいないのー?」
501で最も年少のルッキーニだ。
彼女もまた小腹を空かして消灯時間に起きてこっそり夜食を食べた人物である。
そのまま寝る気にはなれず、
いつもなら格納庫でユニットの整備をしているシャーリーと遊ぼうと、
格納庫に来訪したが食堂にいることを知らずルッキーニは探し回っていた。
「シャーリーがいないなんて…。
まだ眠くないのに、もう、つまんなーーい!!」
天井までよじ登って探してもシャーリーが見つからず諦めたルッキーニが駄々をこねる。
ミーナがいれば子供は黙って寝る時間と諭すような時間帯であったが、
昼間や夕方に寝た分まだまだ元気なルッキーニは退屈していた。
「あーこうなったらサーニャと遊ぼうかな…。
でもサーニャの夜間哨戒が終わって戻ってくるのは朝だしなぁー」
格納庫の梁の上に寝ころびながらルッキーニが呟く。
夜に活動しているのは基本サーニャ・V・リトヴャク、サーニャだけだ。
実のところルッキーニとサーニャとの接点は割とある。
夜遊びの時間と哨戒のために夜の格納庫で待機しているサーニャとの時間が同じで話す機会があるからだ。
シャーリーと違って大好きな胸は薄いが、
それでもシャーリーと違う優しさを持つサーニャのことをルッキーニは好感を抱いていた。
「退屈だなーーー」
寝がえりし、呟く。
周囲に面白いことや、面白い事を起こしてくれる人物はいない。
その事実を享受しつつ、しばらくルッキーニはぼんやりと時間を過ごす。
しかし、時間が5分進んだ時。
ルッキーニはこの退屈な時間を乗り越える策を唐突に閃いた。
「そうだ!
悪戯しちゃおう!」
そうと決まれば行動は早く、
早速ストライカーユニットの発進を補助する始動機に駆け寄り、武器ラックを開く。
「ふふふん、みーんな入れ替えちゃお!」
通常始動機の傍に各人の武器弾薬が即座に取り出せるように武器ラックが設置されおり、
例えばバルクホルンの場所にはМG42機関銃、ルッキーニ自身はM1919A6機関銃がある。
緊急発進のたびに武器を取りに行く面倒を省き、各人の武器を即座に取り出せるようにしているのだが…。
「ミーナ隊長の銃を私のと交換してー。
シャーリーのを芳佳のと交換しちゃおーう」
ルッキーニの悪戯で全て無駄に成りつつあった。
鼻歌と共に心行くまでこの悪戯を楽しんでいるが、
武器管理担当者の許可なく所定の位置の変更は重大な規則違反。
という事実をルッキーニが知っていれば、このようなことはしなかったであろう。
何しろミーナ隊長のお尻への平手打ちと頭への拳骨の痛さはこれまで十分痛感しているのだから。
そして格納庫でそんな作業を始めて20分後。
ついにルッキーニは目的を完遂してしまった。
「できたーー!!」
ガッツポーズと共に喜びの声を上げる。
目的を達成した満足感と何かに夢中になれた充実感でルッキーニの心は高揚する。
満足げにストライカーユニットを固定する始動機を眺めるが、ふと気づく。
「うーん……全部交換したのはいいけど、
一目見た感じじゃ分からないし面白くないなぁー」
武器を全て交換したはいいが、
元々武器はラックの中に入っているので、
一目見て周囲を驚かす悪戯としてのインパクトに欠けている。
そうルッキーニが考えと時、さらに閃きを得た。
(ストライカーユニットの位置も全部変えちゃえ!)
そう決断するとストライカーユニットのロックを解除。
自身には魔法力を発動させ、金属の塊であるユニットを軽々と持ち上げる。
そして、ユニットをそれぞれの定位置から外れ、出鱈目に配置させて行く。
ルッキーニは悪戯をさらに楽しんでいるが、
再度の管理規定の違反で謹慎処分、減給、そして鉄拳。
というトリプル罰則がミーナから受けることが決定していたが、気づいていない。
「あ~雨が降っても気にしない~。
や~風が吹いても気にしない~。
な~槍が降っっても気にしない~。
ふ~吹雪が降っても気にしない~。
な~何があっても気にしない~」
エイラが一人で呟いていた歌を歌いながら、
ルッキーニはバルクホルンのユニットの固定を外し、
代わりに運んできたシャーリーのP51ムスタングのユニットを始動機に装着させようとする。
しかし、
「うにゃ…?」
ルッキーニは鼻に違和感を感じる。
埃が溜まりやすい格納庫を歩き回ったためだろう。
「へっくしゅ!!」
そして耐えきれず当然くしゃみをした。
思わず手に持っていたシャーリーのユニットを手放してしまうほど派手にだ。
そう、手放してしまった。
しかもルッキーニは魔法力を発現させている状態であり、
力加減なんてまったくできておらず、真っすぐバルクホルンのユニットに投げ出され。
結果、派手な衝突音が格納庫に響いた。
「うにゃーーーー!!?
どどどどど、どうしよう!!」
部品や破片が盛大に散らばり、
油が床を濡らす大惨事に流石のルッキーニも、
自分がやらかしたことを理解し恐慌状態に陥る。
(このまま知らんぷりしちゃおっかっ…!
あううう、でもミーナ隊長に直ぐに分かっちゃう)
このまま放置しても、
こんな事をする人間はルッキーニだけで、
即座にミーナが真犯人を見つけ出すことが安易に想像できた。
(部品とか油はお掃除すれば誤魔化せるけど、
壊れちゃったストライカーユニットだけは何にもできない!)
床に散らばった部品や零れた油については掃除すれば誤魔化せたが、
壊れたユニットだけは誤魔化す手段が思いつかなかった。
「う、ううううう~~~」
何か手段はあるはずだから、考えるべき。
そう思い、考えるが策は思いつかず思考の迷路に入る込む。
(いっそ、正直にシャーリーにバルクホルン。
そしてミーナ隊長に謝ろうかな、痛いのは我慢して)
万策尽きたとルッキーニは諦め、
正直に起こった事を報告し、謝ることを考えた。
第三者から見れば下手に誤魔化しや逃げるよりもそれは正しい選択であった。
のだが、
(……そういえば予備の部品があったよね?)
ふとルッキーニはそれぞれにユニットで保管している予備部品の存在を思い出す。
(そうだよ、自分で修理しちゃえば良いんだ!
それなら見た目だけじゃなく中身も誤魔化せる。
ユニットを弄るなんて何時も見ているシャーリーのを真似すれば良いだけだし)
導き出された回答にこれならお尻を叩かれず済むと歓喜する。
が、素人が弄ってユニットの性能がおかしくなる可能性についてルッキーニは気づいていない。
加えてプロの整備士が真っ先にユニットを弄られた形跡を発見し、ミーナに報告される可能性。
備品管理担当のバルクホルンが予備の部品が消えたことを気づき、犯人を探し出すこともルッキーニは考慮していなかった。
(よ~し、早速ユニットを修理しなくちゃ。
じゃないと、ミーナ隊長に怒られちゃうし……)
どう足掻いても事が露見することは免れず、
正直に謝る方が正しいのだが、子供にはそこまで考えが及んでおらず。
ユニット破壊を誤魔化すべくルッキーニはまず床を掃除するためにモップを手にした。