ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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衝号抜きの太平洋戦争もいい加減書かないと・・・


第3話「原作開始Ⅱ」

 

「騎兵隊参上、といったところかな少佐?」

 

あかん、坂本少佐が『リベリオンの映画なら騎兵隊がくるのだがな』

と無線越しで呟いているのが聞こえたからつい言ってしまった。

今更ながら臭い台詞で顔が赤くなるのが自分でも分かる。

 

現に横にいるシャーリーが、

「うまいこと言ったな」と言いたげにニヤニヤと笑みを浮かべていた。

 

しかし、相変わらず大型ネウロイは硬い。

20ミリMG151/20機関砲の連装タイプで撃ち込んだがまだ悠々と空を飛んでいる。

実際、お返しとばかりにこっちに光線が雨あられと飛んで来ている。

 

「先に少佐と合流する、

 最大速度でネウロイの脇を抜けるがいけるか?」

 

「私に加速魔法があるのを忘れているのかい?」

 

まずは坂本少佐と合流する。

その際位置的に坂本少佐との間にいるネウロイの脇を通らなければいけない。

 

しかし、わたしの『Ta152H-0型』の最大時速は760キロ、

シャーリーのストライカーユニット『P51』の最大時速は703キロと足並みが普通なら揃わないが、

彼女には加速魔法があるのでわたしの速度についてこられるので、わたしの質問に頷いて見せた。

 

「よろしい。今からカウントするから、

 0になったら一気に行くぞ3……2……」

 

魔力をストライカーユニットに一定以上注ぎ込む、

大量の魔力を食らい、魔道エンジンから爆音と漏れ出す。

さらに、魔力は運動エネルギーへ変換されつつあり、加速への準備が整いつつあった。

 

「……1……0!」

 

そして、注ぎ込んだ魔力がMW50水エーテル噴射装置を経由して、

エンジンに水エーテルを噴射した刹那、わたしは時速760キロの世界に突入した。

 

冷たく鋭い風が顔を叩くが、

それよりも雲が続々と視界の脇に押しやられ、過ぎ行く景色と爽快感がとても心地よい。

青い空に飛行機雲を描き、まるで天使が後押ししてくれている気分だ。

 

そんなわたし達にネウロイからさらに光線が降り注ぐ、

まるで東方の某弾幕ゲーのような光景で避けるのは困難であるように見えたが、

少なくとも足を止めない限り当たる事はないのを知っているので、ただ加速して進む。

 

ネウロイの横を通り過ぎる際、光線がわたし達の横から追いかけるが、

偏差射撃も追いつかず、わたし達が通り過ぎた後から光線が飛ぶありさまである。

そして、ネウロイを通り過ぎると、孤軍奮闘していた坂本少佐に合流した。

 

「バルクホルン、そしてシャーリー。

 よく来てくれた、見ての通り『赤城』と駆逐艦数隻を除いて壊滅している。

 早速すまないが2人は速度を生かして囮になってくれ、その間に私がネウロイのコアを破壊する!」

 

「了解した」

 

「了解!」

 

久々に会ったことで積もる話をしたい所であったが、

残念なことにここは戦場であるために、軍務が優先される。

 

何よりも返事をした次の瞬間、

休む間もなくネウロイから唸り声と共に光線が飛んで来た。

わたし達は散開すると、シャーリーと2人でネウロイの周囲で旋回し盛んに鉛弾のシャワーを浴びせる。

的が大きいこともあって外れる弾はなく、続々と命中しネウロイが悲鳴を挙げた。

 

 

ネウロイは光線をこれでもかと放ってくるが、

攻撃するさいに一箇所に留まらず小刻みに動くことで回避している。

やむなくシールドを使う時も出来るだけ長く足を止めないように努めている。

 

「リロード!」

 

シャーリーが装填の合図をする。

その間にわたしが前に出る形で火線を絶やさないようにする。

 

「装填完了!」

 

そしてまた2人で高速でネウロイの周囲を旋回し鉛弾のシャワーをネウロイに浴びせる。

連装MG151/20機関砲はこれまでのMG42と比較して使う方として反動が大きく、

いくら魔法で強化された筋力で押さえ込んでいるとはいえ、流石に体に響く反動はややつらい。

 

おまけに背中には【原作】の第2期ではジェットストライカーユニットと共に、

登場した30ミリMK108機関砲を1つ背負っており、弾薬ともども重いことこの上ない。

 

だが、その分の労力は報われている。

MG151/20は口径が20ミリで【原作】で一貫して使用されたMG42の7.92ミリ、

と比較すれば物理的に遥かに威力は増大している、しかも炸裂弾を使用するため威力はさらに割り増しとなる。

 

【原作】ではドラマCDによると補給が追いつかない、という理由で登場しなかったが、

どういうわけかわたしがいる世界では【原作】で登場しなかったTa152共々わたしの元にある。

 

どのような原因でそうなったかは、分からない。

しかし、わたしのこの新しい玩具を手配した人物には感謝しよう。

 

ん、今ネウロイが赤く光った?

 

「コアだ!」

 

シャーリーが叫ぶ。

その言葉に改めてネウロイを見る。

一方的に殴られたため、ボロボロと崩れ白い結晶のような破片を落とすネウロイ。

その中央部に赤い宝石のような物が露出していた、太陽の光に反射してチカチカと赤い光が漏れている。

 

「ああ、終わりだな」

 

どうやら、わたしの【原作】介入は成功したようだ。

艦隊の被害も駆逐艦数隻が未だ無傷で『赤城』も航行中で宮藤芳佳が出る幕はないだろう。

そして、ネウロイはわたし達に背中を見せ、欧州大陸へ向けて撤退する航路を取る動きをとった。

 

無論逃がす心算など当初からないため、即座に追撃する。

今度は生き延びるために必死に光線の弾幕を張るネウロイだが、

どうやら先程から脅威度が高く追撃するわたし達に集中するあまり正面にいる彼女に気づいていないようだ。

 

『2人共、感謝する。

 だからここで終わらせよう』

 

坂本少佐だ、

彼女は軍刀を上段に構えネウロイの正面で対峙していた。

今更ながら自分の正面に天敵の魔女の存在を認識したネウロイは光線を放つ。

が、急に認識したせいかまばらでどれも明後日の方向へ飛んでゆく。

 

坂本少佐は動揺することなかった。

閉じた眼を見開き、静かに息をすっ、と吸う音を、

わたしは無線越しで聞き取ると彼女は雄叫びとともにネウロイに突貫した。

 

『おおおおおお!!!』

 

ネウロイは距離的に回避することも、光線の弾幕を張る余裕はなく。

ただ坂本少佐の斬撃を受けることを待つだけの存在へと成り下がっていた。

 

少佐がネウロイと衝突すると思われた刹那、

上段から振り下ろされた軍刀がネウロイの漆黒の装甲に接触。

まずは火花が散り、次に装甲が破壊されて白い結晶が周囲に飛び散った。

 

相対速度に従い少佐はそのままネウロイを両断するかと思われたが、

ネウロイが少し上向きに動き、完全に両断することは出来ず少佐は飛び出した。

 

それでもネウロイからすれば兜割りを受けたような姿、

つまり真ん中から一直線に半分以上割れている有様でコアも破壊されたらしく、

ネウロイはその機能を停止させ、急速に高度を落として崩壊しつつあった。

 

「すっげー!流石坂本少佐、ネウロイを斬っちまったよ」

 

まったく同意である。

銃火器で攻撃するよりも、ああした物理攻撃の困難さは比べようにない。

三次元空間を移動する目標に斬撃を叩き込む技量、何よりもネウロイと事実上密着するまで接近する度胸。

 

それらがなければ実現することはできない。

こうして見るとなぜ【原作】で坂本少佐が尊敬されていたのか改めて理解できる。

というか、あんな事を好んでやるウィッチなんて扶桑の人間以外いないし……。

 

わたしも弾切れした時には銃器か戦槌の類でぶん殴ったことがあるが、

お互い時速数百キロで進んでいる中でああいう近接武器を使うなんて正直やりたくない。

というか、怖い、魔法があるから衝突しても肉片に成ることはないが怖いものは怖い。

 

それを嬉々としてやる坂本少佐、もといもっさんマジもっさん。

 

しかし、相変わらずでかいネウロイだな。

見たところ直径200メートルぐらいあるし下手な戦艦並みの大きさだ。

そんなのが、崩れ錐揉みしつつ落ちているのだからなんというか派手である。

 

……おや?

 

「なあ、イェーガー大尉。

 ネウロイが落ちている方向は」

 

「え?」

 

直前までネウロイは大陸に向けて逃げていたが、

少佐に止めを刺されてから空中で錐揉みしている間に方角がイギリス側に変わっていた。

その先には丁度空母『赤城』がおり、角度と距離からして――――衝突は避けられないものであった。

 

『っ!!しまった、赤城に当たる!』

 

坂本少佐が叫ぶ、

『赤城』をシールドで守るべく降下するが間に合わない。

わたしも、急降下するが――――やはりどう見ても間に合わない。

 

「宮藤芳佳ァ!!」

 

くそっ!!こんなところで、

彼女を死なせてしまってはいけないにも関わらずこのざまだ!

盾になってでもこの物語の主人公である宮藤芳佳を守ると決めたのに!!

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

援軍の到来。

さらにネウロイの撃破により、

『赤城』の乗員は万歳三唱から始まり様々な歓声で溢れた。

 

が、それも直ぐに絶望へ変わった。

なぜなら空気を押しつぶすような唸り声を挙げつつ、

自分たちへ落下するネウロイを見てしまったからである。

 

恐慌状態になりつつも、

このままやられるくらいならばと対空砲火を浴びせるが、

元々対象が大きすぎるためにその効果は薄く、駆逐艦も砲火を放つが無駄な努力になりそうだ。

 

「機関全速、面舵一杯。回避してみせろ!!」

 

艦橋で艦長が叫ぶ。

その声に弾かれた様に操舵手が操舵輪を回し、

『赤城』の巨体がゆっくりと、確実に進路が右へ曲がるがいつもよりも動きが鈍い。

 

「駄目です!先程の至近弾でスクリューと舵が損傷した模様で回避できません!」

 

「………っ!!」

 

死が確定された絶望の報告。

『赤城』の艦長はこの時ほどこの偶然をもたらした、

戦場の女神を呪ったことはなかった。

 

「もはや、ここまでか」

 

ネウロイの落下は誰も止められない。

後はただ軍人として毅然とした態度で死を迎えるばかりであった。

 

 

 

※ ※ ※

 

 

 

みんなの悲鳴に罵声が絶え間なく響いている。

ネウロイという名の化け物こそ倒されたが自分たちへ向かって落下している。

『赤城』と同じくらい、あるいはそれ以上の大きさを持つそれに耐えられるとは思えない。

 

「あ、ああ」

 

怖い。

足が生まれたての子鹿のようにガチガチと震えているのが自分でも分かる。

自分なんかよりも遥かに巨大なネウロイを見れば嫌でも自分がちっぽけな存在であるのを自覚する。

 

そして、ここで私は死ぬんだ。

お父さんとの約束を守ることも出来ずに。

 

『宮藤!宮藤!海に飛び込むんだ!!早く!』

「っ坂本さん!?」

 

インカムから坂本さんの声が通り我に返る。

海に飛び込む、つまり逃げるという選択肢を知ったけど、

 

「けど、坂本さん。それだと『赤城』のみんなが」

『大丈夫だ、彼らは軍人だ。心配するな』

 

嘘だ。

坂本さんは私を逃がしたいのだ。

そのくらい、私にも分かる。

分かるから改めて無力で惨めな存在であることを知る。

 

力、力がほしい。

みんなを守れるだけの力が!

そして、私に出来ることがあるはず――――あった。

 

「わたしに出来ること……」

 

私も坂本さんのように空を飛べることはできない。

けど、お父さんとの約束を守るために、そしてみんなを守ることが出来る力が私にはある。

 

「ネウロイ落下します!!」

 

もう眼と鼻の先にネウロイがいる。

甲板にいたみんなが生きることを諦め、絶望の叫びを声を出す。

坂本さんも何か叫んでいるけど今の私には聞こえない。

 

ただ集中し両手を空へ突き出し、

じっくりと、そして確実にシールド魔法を展開する。

治癒魔法すらあまりうまくいっていないにも関わらず、

ほとんど始めての魔法で、しかも『赤城』と同じ大きさのネウロイを食い止める。

なんて自分でも馬鹿だと分かっている。

 

けど、私はもう逃げない。

みんなを守るために私は逃げない。

それに私は――――ウィッチなのだから!

 

「はぁああああああ!!!」

 

自分でも感じたことがない程膨大な魔法力が出ると、

巨大なシールドが出現しネウロイは私のシールドに阻まれた。

 

みんなが呆然と私に注目しているのがなんとなく分かる。

間もなく、それが歓声と共に私を応援するものへ変わっていった。

 

「っぅ…!?」

 

だけど、重い。

それに意識が時折失いそうだし全身から震えが止まらない。

 

息だって体育の日で走っていた時よりも荒いし、

このまま止めてしまえばどんなに楽になるか、そんな誘惑に駆られてしまう。

 

それに、徐々にだがネウロイの自重にシールドが押されている。

1秒が1時間のように時間は遅く感じてしまうし、私の魔法力も長くは持たない。

 

「あ、」

 

どれだけ耐えたのか分からない。

けどふっ、と意識が飛ぶと同時にシールドが消えた。

 

意識が完全の途切れる寸前、

絶望の黒い感情とこれまでの思い出が一瞬の内に走馬灯のごとく流れる。

 

もう、駄目だ。

ごめんなさい、みんな……。

 

「よく頑張ったな、宮藤。

 もう安心しろ……おまえは本当によく頑張った」

 

でも、最後に聞こえた坂本さんの声は穏やかなものだった。

私はその意味を確かめる気力はなく、坂本さんの胸元に倒れこむ形で眼を閉じる。

だけど、眼が完全に閉じる前に視界の隅でネウロイの白い結晶が飛び散っていたのを私は見た。

 

そして、『赤城』のみんなが私の元に寄ってきて口々に何かを言っていたことから、

私はようやくみんなを守れたことを知り、安心して眼を閉じ、意識を閉じた。

 

 

 

 


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