ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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このペースでの更新だと完結はいつになるやら(汗)


第30話「黒猫の疑問」

 

基地からバルクホルン達が来るから、無理はしないでね。

そう言い残したミーナの言葉を思い出しつつフリーガーハマーの引き金に指を掛ける。

 

明かりは太陽の光を反射している頭上の月だけで、

ネウロイは雲の下に隠れている上に、基地から来る援軍も時間を必要としている。

 

等と1人でネウロイを相手するには厳しい条件下にあったが、

魔法のレーダーとも言うべき魔導針を操るサーニャには夜の闇は関係なく、

ネウロイ相手に不足する火力も瞬発火力が高いフリーガーハマーなので問題はない。

 

(それに夜はいつも1人だったから・・・)

 

サーニャはそう独白する。

孤独には慣れている、そう慣れているから大丈夫。

そう自身に言い聞かせ、引き金に引っ掛けた指に力を入れる。

 

その際引き金のバネが強かったり、

あるいは戦場での興奮と緊張状態から力強く引くことなく、

所謂「暗夜に霜が降る如く」ゆるりと引き金を引いた。

 

刹那、ロケットの噴射音と噴き出る炎が夜空を彩った。

最も発射の瞬間サーニャは閃光で目が潰れないように目をつぶっていたので、

その光景を目にすることはなかったが脳裏に移されたレーダーからロケットが不発せず噴射したのを確認する。

 

ネウロイからの迎撃の光線攻撃も想定し、

ジグザグに飛翔するように設定したロケットは――――。

 

「・・・至近弾」

 

ネウロイには命中しなかった。

代わりに時限信管が作動しネウロイに破片を浴びせたのをサーニャの魔導針が捉えた。

 

これにサーニャは喜ばず、即座に回避行動を始める。

小型ネウロイなら兎も角、大型ネウロイ、

それも全長が100メートル単位となれば破片効果などたかが知れており、

もたもたすればネウロイから光線が暴風雨のごとく浴びせ来ることをこれまでの経験から知っていた。

 

魔法力で保護されていても急速に押しかかる重力加速に眉を顰めつつ、

急激な旋回と高速降下で光線を回避する飛行航路をとる。

 

しかし、10秒後。

サーニャはふと違和感を覚えた。

 

(光線が、こない?)

 

何時もなら降り注いでくるネウロイの光線が一条もこないのだ。

ネウロイにとって夜の暗闇は人間のように視界が暗くて見えないなんてことはなにも関わらずにだ。

 

「・・・・・・・・・」

 

再度フリーガーハマーを構える。

ネウロイの姿は両目では見えなくても、

魔導針が雲の中に隠れているネウロイを捉え続けている。

 

だからサーニャは戸惑うことなく連続して引き金を引いた。

ロケットが発する炎がサーニャのひと際白い顔を夜空に映し出す。

数条の雲を引きつつロケットがネウロイがいるであろう場所に直進する。

 

連続して発生する爆発。

月よりも強い光が夜空を彩り、雲を散らす。

が、それでもネウロイは未だ生存しているのをサーニャは把握していた。

 

「反撃、してこない?」

 

同時に違和感を何となく、

というあやふやなものでなく明確な物として認識するに至った。

 

バルクホルンやハルトマン、

ミーナといった名だたるエース程経験を積んだわけではないが、

それでもウィッチとしての経験からネウロイの動きには困惑の感情が浮かぶ。

 

何せネウロイといえばこちらを見つければ問答無用に光線を浴びせてくるような存在であり、

人類のようにとても思考と理性を以て活動しているとはいいがたい者である。

しかしこの夜のネウロイはまるで「様子見」という人間の思考に基づく行動パターンを取っていた。

 

(・・・どうしよう)

 

サーニャに迷いが生じる。

これまでにないネウロイの動きに困惑を覚え、どうすべきか分からなかった。

しかし、それでも無視するわけにいかず、ネウロイの動きに合わせて距離を詰める。

 

だがネウロイは攻撃せずサーニャを避けるように移動する。

しばらくネウロイをサーニャは追いかけていたが、

基地と輸送機から距離が離れるのを警戒し進路を反転した途端。

 

(こっちに来た・・・)

 

雲海に潜むネウロイがサーニャに向かってくるのを魔導針が捉えた。

サーニャは細い体でリーガーハマーを振り回し、牽制も兼ねて即座にロケット弾を発射。

 

が、命中する直前。

ネウロイが雲のさらに下に潜ったため命中するには至らなかった。

 

それでもなおネウロイからの反撃はなく、

サーニャとの距離を一定の間で保ちつつ沈黙していた。

 

『サーニャ、こちらバルクホルン。

 今そちらに向かっている最中だ、状況を報告せよ』

 

いっそ全弾一斉射撃で焙り出すべきか、

と過激な発想に傾きつつ最中にバルクホルンから無線が入った。

 

「ネウロイと戦闘中。

 けど、その・・・ネウロイからの反撃がありません」

 

『光線がこないのか?』

 

はい、一条も。

そうサーニャが続けると、

基地から出撃したバルクホルン以外の隊員が、

無線を通じて好き勝手に己の考えを口に出し始めた。

 

エーリカ曰く、お寝坊なネウロイじゃないの夜だし。

リネット曰く、迷子のネウロイかな・・。・?

ペリーヌ曰く、人類の反応を探る偵察行動に決まっていますわ。

ルッキーニ曰く、ペリーヌって頭堅いね、胸も堅いけど。

シャーリー曰く、お尻も骨ばっかで堅かったな、ゲルトの方が肉があったぞ。

ペリーヌ曰く、なんですってぇ!?

 

「ふふふ・・・」

 

ルッキーニの余計な一言で始まった口論と、

それをはやし立てる周囲の人間のやり取りにサーニャは思わず笑みをこぼす。

 

『面白いかサーニャ?』

 

普段の哨戒任務中ではありえない程騒がしい中、

サーニャにとって一番親しい人物、エイラが語り掛ける。

 

「うん、みんな楽しそうだから、

 私も聞いていて楽しい気分になれるから好きよ、エイラ」

 

『んーたしかに賑やかなのはいいよなァ。

 あ、そうそう後5、6分にはサーニャと合流できるから、

 それまで無理しちゃ駄目なんだからな、ちゃんと待っていてナ」

 

「大丈夫よエイラ。

 今はネウロイの動きは鈍いから、

 私1人でも平気よ、だから心配しないで」

 

エイラの心配は問題ないとサーニャが断言した。

 

『うん、分かった。

 でも気をつけるんだゾ』

 

「ありがとう、エイラ」

 

待っててナ、

再度エイラは言うと交信を切った。

そしてサーニャは意識を再びネウロイに向ける。

表情に先ほどまでの不安や焦りといった感情はない。

 

なぜなら、少し待てば501の仲間たち。

それにエイラが駆けつけてくることを分かっているからだ。

 

『サーニャ、

 エイラも言っていたように間もなく到着する。

 飛べる人間の全てを引きつれて来たとはいえ夜間戦闘経験は皆浅い。

 また、輸送機の護衛が主たる任務ゆえに今回はネウロイの撃破は目指さない』

 

2人のやり取りを黙って聞いていたバルクホルンが口を開く。

改めてすべきことをサーニャに明示する。

 

『とはいえ我々が駆けつけるまで1人で頑張って貰わねばならない。

 ・・・サーニャには負担を掛けるようですまないが、もう少しだけ頑張ってくれ』

 

「了解しました、大尉」

 

バルクホルンの命令、

というよりお願いにサーニャが頷く。

 

『では交信を終える、また会おう』

「はい、また後で」

 

交信を切る。

そして即座にフリーガーハマーを構えなおす。

 

「撃ちます――――」

 

懲りずに近寄るネウロイにロケット弾を浴びせる。

弾数は残り少ないが1発、1発丁寧に狙って撃つことでしのぐ。

 

サーニャの射撃、ネウロイの回避。

ネウロイの接近、サーニャの回避と射撃。

そんなやり取りを時計の秒針が5、6回周回を終えた時。

 

『サーニャ!!』

 

突然エイラの声がインカム越に飛び込んで来た。

待ちに待っていた501の仲間たちが駆けつけて来たのだ。

 

『よく頑張ったね、サーニャン。後は一緒に帰ろうか』

『サーニャさん、私達が来たのでここを離脱しましょう』

『シャーリ~~サーニャと会えてから寝ていい?』

『おいおい、帰るまで我慢しなルッキーニ』

『う~ん、サーニャさんがどこにいるか見えないなぁ』

 

エーリカ、ペリーヌ。

ルッキーニ、シャーリー、リネットの順に無線が騒がしくなる。

 

サーニャが後ろを振り返れば、

ユニットから吐き出される排気炎の光が夜の闇の中で幾つも浮かんでいた。

その中で1つだけ突出している光が猛烈な勢いでこちらに来ているが、

きっと心配症なエイラだろうと、サーニャは当たりを付ける。

 

『こちらバルクホルン。

 ミーナの輸送機とサーニャを確認した。

 これより輸送機の護衛とサーニャの回収を始める』

 

『分かりました。

 ご苦労様です、バルクホルン大尉。

 サーニャさん、聞こえましたが?

 もう十分です、撤退を開始してください』

 

「はい、ミーナ中佐」

 

無事にミーナ達を守れたのと、

任務が達成されたことにサーニャは安堵する。

しかし、油断せずネウロイにたいして正面を向いたまま後退。

 

増援をネウロイ側も感知したのか、

サーニャの後退に合わせて追撃することはなく、

同じようにゆっくりと後退を始める。

 

ふと、ネウロイと接触するまで会話を交わしていた相手、

ビッグ・ガンはどうなっただろうと思い出す。

 

魔導針で周囲を探り――――見つける。

左程離れていない場所におり、こちらの様子を窺うように周回している。

 

(見守っていた、の?)

 

喜びよりもただの航空機で、

そんな行為をする無謀さにサーニャは呆れの感情を覚える。

 

あるいは何らかの勝算があったかもしれないが、

魔女でも苦戦する大型ネウロイを相手に何を考えていたのだろうか。

 

サーニャは本名を知らぬ相手、

ビック・ガンの思考について考える。

しかし、答えは出ずやがてビック・ガンの機影は進路を大陸へと変針し、

魔導針の範囲外へと飛び去って行った。

 

サーニャは魔導針で捉えたその姿を範囲外に出るまでずっと見守った。

 

 

 


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