ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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あけましておめでとうございます。
アニメのお陰で筆が進みましたので、お年玉の代わりに新作を投稿します。



第33話「狼と兎の雑談、ときおり侍」

 

シャーロット・E・イェーガーが抱くカールスラント人の印象は随分と変わった。

以前はカールスラント人といえば扶桑人と同じく堅物で規律規律で面白味のない人間。

 

そう誰もが思い浮かべる人物像を描いてたが・・・。

 

「シャーリーさん、

 バルクホルン大尉の仕事を代行して得た印象はどんな感じかしら?」

 

普段はバルクホルンが担当する仕事を代行しているシャーリーに対してミーナが気遣う。

 

「いやー、色々確認する事とかあって大変ですね。

 書類と格闘するくらいならネウロイと戦った方がマシだと思います」

 

シャーリーが遠慮なく正直極まる感想を口にする。

頭が固い上司が聞けば「不謹慎!」と怒り狂うこと待ったなしである。

 

「あらあら、

 気持ちは分かるわ。

 でも、大事な仕事だからそこは理解してね。

 分からない事があれば遠慮なく私かトゥルーデ・・・。

 バルクホルン大尉が夜には起きるからその時聞いてね」

 

「はい、そうします」

 

しかし、ミーナは非常に寛容であった。

それどころか仕事で分からない事があれば遠慮なく聞いても構わない。

 

自分の仕事が増えるにも関わらず笑顔を浮かべている。

シャーリー自身のストライカーユニットの改造についても黙認している件もそうだが、

堅物で規律規律なカールスラント人の人物像とはだいぶ乖離している。

 

「ところで・・・ルッキーニ少尉はどんな感じかしら?

 あの子、シャーリーさんと過ごせる時間が少なくなって寂しいんじゃないかしら?」

 

さらにミーナは部隊最年少の少女を気遣う。

こうした何気ない気遣いができるから統合戦闘航空団の隊長として選ばれ、皆が従う「威」を得たのかもしれない。

 

「ハルトマン中尉がルッキーニの面倒を見てくれました。

 ついさっき迄は2人で飛行訓練をしてました・・・今は仲良く昼寝してますよ」

 

「遊んで疲れて昼寝する。

 あらあら、子供らしいというか、微笑ましいと言うべきか」

 

「その両方でしょう、ミーナ中佐」

 

やれやれ、とリべリオン的なジェスチャーをするシャーリー。

実に『らしい』率直な物言いにミーナはクスクスと笑みを溢す。

 

「正直、ハルトマン中尉がルッキーニの面倒を見てくれるとは思いませんでした。

 特に普段バルクホルン・・・ゲルトに世話を焼かれているばかりなのを見ていますので」

 

「まあ、そうね。

 バルクホルン大尉の言葉を借りるなら

 『頭はいいが、空を飛ぶ事以外を置き去りにした生活無能力者』だけど、

 あの子、結構頑固で上層部の受けは悪いけど『戦友』想いな所があるし、

 皆の事を意外としっかり観ているからルッキーニ少尉については安心して頂戴」

 

ミーナが誇らしげにそう語る。

特に「戦友」の単語を強調する、友人以上の意味を込めて。

 

(・・・2人の事、大事に想っているんだな)

 

ミーナの態度にシャーリーの心に言語化できない熱い想いが満たされる。

 

原隊でも追い出されるまで友人は確かにいた。

しかし、ここまで血の繋がらない赤の他人を想い、

他人に想われる程度までの関係を築く事はできたであろうか?

 

 

ミーナ・ディートリンデ・ヴィルケ。

ゲルトルート・バルクホルン。

エーリカ・ハルトマン。

 

全員カールスラント人であるが、

これまでの経験から規律に拘り、堅物であると言うよりも、

どちらかと言えば仲間との絆、義理人情に重きを置いているのが最近分かって来た。

 

しかも全員歴戦の勇者であり有能なウィッチである。

 

「・・・ミーナ隊長、

 これからも御指導などよろしくお願いします」

 

「あら?シャーリーさんがそんな真面目な態度をするなんて、

 今晩は雪でも降るのかしらーーーーごめんなさい、冗談よ、冗談。

 でも、貴女にそう言われるととても嬉しいわ、これからも宜しくね、シャーリーさん」

 

だからシャーロット・E・イェーガーはミーナ、

それと今この場にいない2人に対して敬意を込めて敬礼を送った。

 

「ところで・・・最近。

 トゥルーデの事をゲルトって、呼んでいるでしょ?

 あの子はあの子で結構無茶する所があるから傍で支えてくれる人が増えて嬉しいわ。

 ・・・これからもトゥルーデの事を宜しくね、シャーリーさん」

 

「あ、はい!勿論です、ミーナ中佐」

 

変わらずニコニコ笑顔で言葉を綴るミーナ。

しかし、瞳には僅かにだが感情が揺らめいている。

 

カールスラント本土決戦での敗北。

さらにガリアでも敗北して海の向こうの異国であるブリタニアまで撤退を重ね、

今に至るまで苦楽を共に過ごした戦友が新しい友人関係を築いている。

 

これを祝福しつつも、シャーリーに対して嫉妬している。

そんな感情表現をミーナは微かに発露させていた。

 

「・・・それにしてもバルクホルン大尉は

 なんだかんだで結構面倒見がいいですね!家族で例えるなら兄みたいです」

 

露骨な話題転換を図るシャーリー。

優しい見た目と穏やかな性格から想像できないが、

怒らせるとかなり怖いのは身に染みていたからだ。

 

が、ここで思わぬ第三者がこの話題に食いつく。

 

「バルクホルンが兄、か。

 ならば私はお父さん、つまりミーナの夫になるな!」

 

「ぶふぉ!?」

 

「・・・はい?」

 

唐突に格納庫に響き渡る元気溌剌な音声の正体はーーーー坂本少佐である。

予想外の不意打ちにミーナは吹き出し、シャーリーは呆れる。

これが意図して言ったわけでないのが余計に性質が悪い。

 

「げほっ!げほっ、げほ・・・。

 み、み、美緒!いえ、坂本少佐!?」

 

「ん?ミーナ、何故顔が赤いんだ?

 ひょっとして風邪か?駄目じゃないか。

 部隊の長だからこそしっかり休まないと・・・」

 

オロオロと狼狽えるミーナ。

あの屹然とした態度が何が原因で崩れたかは一目瞭然であるが、

元凶である坂本少佐は21世紀の極東で定義されるキャラクター。

ーーーーすなわち鈍感系ハーレム主人公と同じく女性の好意に鈍かった。

 

「ふーむ、

 熱は特にないようだから過労か・・・?」

 

「ひゃあ!!?美緒ダメよ!

 こんな見える所で・・・っ!!?」

 

さらに坂本少佐は躊躇なく互いの額を合わせてミーナの体温を図る。

なおシャーリーは、と言えば唐突に始まったラブコメについてゆけず固まっている。

 

「わ、わたし。

 さっきまでシャーリーさんと部品の在庫確認していたから、

 埃っぽいし、機械油で臭いとか・・・その、だから、あのね」

 

羞恥心で表情が自身の頭髪よりもさらに赤くなるミーナ。

坂本少佐の視線から逃れるように顔を下へ下へと傾ける。

 

「何を言っているんだ、ミーナ?」

 

だが大空の侍にそんな乙女心を理解できない。

ミーナの顎を優しく掴み、そっと持ち上げて視線を合わせる。

 

「小さい時から戦場を往来してきた武辺者な私と違って、

 ーーーーどんな時、どんな場所でもミーナは綺麗でいい香りしかしないじゃないか」

 

至近距離で坂本少佐が大真面目に語る。

どこぞの偽伯爵のようにお遊びで言っているのではなく、

真剣に、心の底から本音と本心で語っているのは誰が見ても分かる。

 

こうした芯の通った、

真っ直ぐな性格と心のありようが坂本少佐の美点に違いない。

とはいえ、無自覚かつ自然体で女性の好意を量産している。

 

という事実に変わりなく、

意図した上での発言ではないのが色々罪深い・・・。

 

「・・・・・・・・・う、うん」

 

そして坂本少佐の真っ直ぐな思いを受け取ったミーナは・・・完全に陥落していた。

黄色い桃の缶詰に入っているシロップ以上に甘く、蕩けた表情を浮かべている。

 

「・・・ねえ、美緒」

「ん、どうした?」

 

甘い色気を帯びた声を漏らすミーナ。

何を期待しているのか明白であるが大空の侍は鈍感である。

首を傾げ、頭上に「???」のマークを描いている。

 

「美緒・・・」

 

ゆえにミーナは実力行使を敢行しようとしてーーーー。

 

 

「あー、その。

 こちらの存在を忘れてませんか・・・?」

 

 

ここで再起動を果たしたシャーリーが発言する。

非常に非常に気まずい表情を浮かべている。

 

「え、え。ひゃあああああ!!?」

 

第三者に目撃されていた。

この事実を認識したミーナが悲鳴の声を漏らす。

 

「いやー、よもや、よもやです。

 ミーナ隊長がここまで情熱的とは思いませんでした。

 ・・・それと坂本少佐が男性だったら今頃きっと他のウィッチ、

 さらにはご婦人方に対してにモテまくりで色々ヤバかったでしょうね」

 

聞く側からすればかなりキツい嫌味とも取れる言葉をシャーリーが発する。

だが、ずっと傍でイチャイチャしているのを見せられた以上、

この程度の嫌味を言いたくなるの無理もないだろう。

 

「そうか?

 まあ確かに前にバルクホルンから私宛の、

 女性からのファンレターが沢山来るから何とかしろ、と言われていたが・・・?」

 

坂本少佐の回答は斜め上であった。

 

「ええぇ・・・」

 

無自覚ジゴロ。

しかも現在進行形でやらかしている事実にシャーリーがドン引きする。

おまけに、今、このタイミングで言ってしまう事実にもドン引きする。

 

(ミーナ隊長がいる前で言うか普通ー!!

 というか誰だよ、扶桑人は真面目で堅物な人間だと。

 ロマーニャかガリア人の女たらしな野郎まんまじゃないか!?)

 

内心で突っ込みを入れるシャーリー。

そう言えば宮藤とリーネの関係もなんだが怪しいし、

原隊にいた時からチラホラ聞こえてくる扶桑の魔女に関する噂でも『アレ』だったし・・・。

 

などと思考を巡らせ、らしくもなくシャーリーは頭を抱えた。

 

「・・・後で詳しくトゥルーデからも聞かなきゃ。

 それとその件について、後で話して頂戴ね、絶対よ、絶対だからね美緒」

 

「・・・かまわないが?

 どうしてミーナが拗ねているんだ?」

 

「・・・・・・ふんだ」

 

静かに憤怒を溜め込んだミーナが一句一句を強調する。

なお当事者である坂本少佐は相変わらず頭上に「???」の記号を浮かべている。

 

「シャーリー。

 なんでミーナが機嫌を損ねているか分かるか?」

 

「・・・恋愛小説でも読んでみれば分かるようになると思いますよ」

 

坂本少佐の質問に対してシャーリーは投げやり気味な回答を述べる。

他人の好意のやり取りについて深入りするのは豪胆なシャーリーでも御免被る案件であるからだ。

 

「そうね、その通りよ!

 美緒、今晩私の部屋に来て頂戴」

 

アレコレ感情が溜まっているミーナが坂本少佐を誘う。

普段のシャーリーなら「ミーナ隊長は大胆だなー!ひゅーひゆー」

などなどと囃し立てたであろうがその気力は今はない。

 

「今晩も何も、毎晩来てるじゃないか・・・?」

 

坂本少佐が不思議そうな態度を示す。

 

(はあぁあ!?毎晩!!?)

 

さらに暴露された事実について声に出そうになったが必死に耐える。

先ほどから明らかにされる斜め上な事実に対してシャーリーの突っ込みが追い付いていない。

 

「と・も・か・く!

 坂本少佐は乙女の情緒について認識を改める必要があると思います!

 なので今晩ーーーーいえ、今からそれを教えます!!ええ、今すぐにでも!」

 

「お、おい。

 ミーナ、どうしたんだ急に?

 シャーリーとの仕事はいいのか?」

 

「一通り教えたので少佐が心配する必要はありません。

 では、シャーリーさん。出来具合については後ほど執務室まで報告してね・・・」

 

ミーナが坂本少佐の手を握ると、

早足かつ、大きな歩幅で引きずるようにその場を後にした。

 

「・・・何で真っ昼間から深夜のラジオ番組で放送されているような恋話に巻き込まれたんだ、私?」

 

2人が視界から消えた後、残されたシャーリーが小さく呟く。

ミーナ隊長が坂本少佐に好意を抱いているのは見れば分かっていたが、

まさかここまで、あるいはあそこまでゾッコンでポンコツを晒すとは思わずこの現実についてどう受け止めるべき未だ分からない。

 

「というか、もしかして大尉・・・。

 いや、ゲルトは毎度毎回これを見ているのか?」

 

思えばそもそも原因は鈍感侍なくせにスキンシップが激しい坂本少佐であるが、

他の501部隊の隊員の前でミーナ隊長とのあそこまで大胆なスキンシップを披露していない。

 

披露したのは部隊の幹部が3人しかいない時。

通常ならば幹部はミーナ、坂本少佐、そしてバルクホルンの3人であるから、

バルクホルンは普段から今みたいな肺に直接メープルシロップを流しこまれるような甘い展開に遭遇しているのかもしれない。

 

「・・・今晩、何か差し入れでも持ってこうかな」

 

現在夜間哨戒班担当中のカールスラント人に思いを馳せる。

書類仕事と部隊指揮でも大変なのに普段から上司達の痴情に巻き込まれているとは災難以外他にない。

 

シャーリーは心の底からバルクホルンに対して同情した。

 

 

 


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