ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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以前より筆が進んで楽しいです。


第34話「芋大尉の夜間哨戒」

「天気は曇り、

 予想通り悪いな・・・むぐ」

 

「ほふ・・・ん、そうだな。

 初めて夜を飛ぶ宮藤には荷が重いかもだぜ、ゲルト」

 

たっぷりケチャップとマスタードを効かせたホットドックを噛る。

シャーリーがワタシ達のために作ってくれた夜食を食べつつ、飛行計画について語っている。

 

「で、味はどうだいゲルト?」

 

「なかなか美味しいな。

 特にコーラと一緒に飲んで食べると更にいい」

 

如何にもアメリカ・・・ではなく、リべリオン!

な豪快かつ分かりやすく味付けてあるが、なかなか美味である。

 

しかも美味な上に懐かしい味がする。

醤油や味噌ではない味とコカ・コーラに懐かしさを感じるのは何故だろうか?

 

「そう言ってくれると嬉しいなぁ!

 機会があれば今度は肉汁たっぷりなハンバーガーを作るぜ!」

 

「ーーーーハンバーガー、か」

 

ハンバーガー。

この単語で前世の記憶が甦る

そう、これはフライなチキンや某道化師といったファーストフードの味だ。

 

「それは、それは楽しみだな、どんな味か」

「任せておきな!」

 

いつかまた、あの懐かしい味を食べられる日が来るだろうか?

いや、必ずその日まで生きてワタシの知らない「ストライクウィッチーズ」の未来を見てみたい、な。

 

「ゲッホ、ゲホ・・・。

 な、なんですの、この黒い炭酸水は・・・?」

 

「えー、結構おいしいのに?

 ペリーヌ、好き嫌いしているから胸もペッタンコーかもー」

 

「な、なんですって~~~!?」

 

なお、夜間哨戒組以外の一部隊員。

管制塔にいるミーナと気配は感じるが姿が見えないエーリカ以外の全員が格納庫に集い、

 

シャーリーが作ったホットドッグを各自の流儀で堪能している。

例えばペリーヌはコーラという野蛮なリべリオン的飲料に慣れてないようでルッキーニにからかわれていた。

 

で、だ。

 

「あ、あの。芳佳ちゃん。

 なんでずっと私の方を見てるの・・・?

 そんなに見つめられると恥ずかしいよぉ・・・」

 

宮藤がリーネのホットドックを食べている仕草を熱心に観察していた。

まあ、何時もの宮藤なのだがら仕方がないといえば仕方がない。

 

「私の視線なんて気にしないで、リーネちゃん。

 私、ありのままのリーネちゃんを見ていたいだけだから!

 だからもっと脇をギュッとして、もっと胸を強調しながら食べて!」

 

「・・・・・・え、えぇ」

 

その視線が何処に向かっているのか、何を想像し妄想しているのか、

見られているリーネ自身理解できているようで、力説する宮藤にリーネが引いている。

 

「・・・本当にブレないよな、宮藤の奴」

「・・・そうだな」

 

宮藤の正直すぎる態度に、流石のシャーリーも呆れていた。

というか宮藤、昼間に「気まずい」と言った癖にまるで反省していないなあ!?

逆に自重しなくなってないか!?ワタシでも引くぞ!これは!!?

 

「流石に注意した方が良くないか?

 あれじゃあ、やり過ぎだしリーネが可哀想だろう」

 

真剣な表情でシャーリーがワタシに対して言う。

以前のように「プレッシャーに負けて部隊を去る予定の半人前」とは見ておらず、

リーネをエースウィッチと共に肩を並べるに相応しい仲間として認め、心配している。

 

「問題ない、もうすぐ少佐が宮藤の弛んだ頭を絞め直しに来る」

 

対淫獣最終兵器である坂本少佐の名を挙げる。

戦機に長ける少佐だから、即座に反応して制裁を下すはずだ。

 

「ほう、宮藤。

 どうやら未だ寝惚けているようだな・・・」

 

言っている傍から坂本少佐が宮藤の背後に立つ。

宮藤が何をしていたかも既にお見通しで言い逃れはできない。

 

「いえ、いえいえいえ!

 そんな事ないですよ坂本さん!?」

 

顔を青くして必死に否定する淫獣宮藤。

 

「問答無用ー!!

 その根性を修正してやる!腕立て50回始めー!!」

 

「ひぇええええ!!?」

 

が、そんな言い訳が通用するはずがなく、

少佐の罵声と淫獣の悲鳴が同時に木霊した。

 

「流石少佐だ」

「だろ」

 

シャーリーの感心に対してウィンクする。

 

「しっかし、本当に暗いな。

 せめて月明かりがあればよかったけど宮藤の奴、大丈夫か?」

 

再度宮藤の身を案じるシャーリー。

確かに格納庫より外は完全に真っ暗である。

ワタシが知る21世紀の世界と違い電気という文明の灯火は弱く、近場にある街の明かりすら見えない。

 

「大丈夫だ、今回は軽く飛ぶだけ。

 雲さえ抜けてしまえば月明かりと雲海の景色を楽しめるさ」

 

軽口を呟きつつ、

安全確認と離陸の準備に入る。

 

「それに離陸時には手を繋いで飛ぶつもりだからな、問題ない」

 

ヨシっ!と指さし確認しつつさらに言葉を続けた。

 

「・・・やっぱり優しいな、お前」

 

何かを悟ったような、

或いは何か尊くて眩しい物を見たような、

何時もとは違う表情をシャーリーは浮かべている。

らしくないな、そんな辛気臭い顔なんてシャーリーに似合わないのに。

 

「大した理由なんてない。

 ウィッチとして正規の教育を受けず、

 つい最近まで友達と学校に通っていたような子だ。

 ワタシみたいに志願して、頭の先からつま先まで戦争と破壊で一杯なのとは違う」

 

目を瞑れば思い出したくない光景と思い出が時々出てくる。

 

海行かば水漬く屍。

山行かば草生す屍。

街行かば燃ゆる屍。

 

そんな修羅の世界をワタシは知っている。

 

「飲み込みは速いし、

 努力家なのはよく知ってるが、

 近代国家の兵士、軍人として宮藤の才能は落第点だ」

 

だからこそ。

ずっと、ずっと待っていた。

この世界を救ってくれる主人公の到来をずっと耐えて待っていた。

 

けど、実際に会い。

宮藤芳佳という人間を知るにつれて分かって来た物がある。

 

「しかし才能はある、ウィッチとしては間違いなく。

 あり過ぎてウィッチとしてネウロイと戦う修羅の道。

 以外の選択肢を周囲が許さないほどの才能を秘めている。

 あの子----宮藤芳佳は父親の愛に飢えているただの女の子にすぎないのに・・・」

 

【原作】では主人公の演出としてその並外れた力を描写されていた。

さらにはあのおっぱい星人ネタを視聴し、読んで、見て、聞いた誰もが笑った。

 

だけど、根っこの部分。

ウィッチとして戦うことを決断したのは、

「行方不明となっている父親の意思を継ぐため」という事実について忘れがちだ。

 

ワタシはその事実をあの子と一緒に訓練し、

空を飛び、共に食事をする中で何度も突き付けられた。

 

父親の意思を継ぐーーーーという形で、

父親の愛情を確認しようとしている、ただの幼い女の子である事実を。

 

「ミーナ隊長にハルトマン中尉といい、

 カールスラント人はお人好しでよく見てるな、みんなを・・・」

 

聞いていたシャーリーが優しい音色を含ませた声を出す。

瞳にあの元気溌剌さはなく、代わりに慈愛と共に潤ませいる。

 

いや、まてまて。

ワタシはそんな大層な人間じゃないぞ、シャーリー。

 

それにだ、

 

「何を言っている?

 そういうシャーリーこそ普段からルッキーニの面倒を見ている上に、

 さっきから、宮藤~、宮藤は大丈夫か~と心配してばかりじゃないか?」

 

こちらの言葉に虚を突かれたのか、

シャーリーは目をパチパチと瞬く。

 

「ふっ、そうかな?」

 

そして顔を背けて疑問を呟く。

大方、恥ずかしいのだろう。

分かりやすい奴だな。

 

「そうだよ、シャーリー。

 それにエーリカもそうだが、

 シャーリーは笑っていた方が嬉しいな」

 

「そうかい、照れるな」と呟きシャーリーは笑った。

さて、もう少し話をしていいけど宮藤達の準備も終わったようだし、行くか。

 

「そろそろ、行ってくる」

「おう、行ってこい」

 

シャーリーと交わす言葉はこれだけで十分だ。

ストライカーユニットを起動させ所定の位置まで滑走路上をゆっくりと移動する。

 

「宮藤、ほら。

 手を握れば怖くなんてない」

 

「バルクホルンさん・・・」

 

予想通り夜の空に震えていた宮藤の手を握る。

夜の飛行を本気で怖がっているのは、手に伝わる震えから分かる。

 

「・・・こっちの手も握ってみる?」

「え・・・いいの!サーニャちゃん!」

 

『あの』サーニャからの意外な申し出。

これに宮藤だけでなく格納庫にいた他の隊員もどよめく。

かくいうワタシも正直かなり驚きである。

 

「サーニャちゃん、ありがとう!」

 

笑顔を浮かべた宮藤がサーニャの手を握った。

これで宮藤の左右はサーニャとワタシではさまれる格好になったが、

 

「・・・お、面白くないゾ!!

 私だけ除け者じゃないかよ、ずるいぞ!」

 

結果、エイラが除け者になるような形になる。

 

「だったら、エイラの方からサーニャの手を握ればいいじゃないか?

 ・・・それとも恥ずかしいから命令して欲しいのか、ユーティライネン少尉?」

 

憤慨するエイラに対して冗談半分。

あるいはからかい半分で言ってみる。

さて、どんな反応が来るか楽しみだなーーーー。

 

「え、いや。でも、その、

 私はしたいし、命令でも全然大丈夫だけど、

 サーニャが嫌がるかもだし、あっと、えっと・・・その」

 

なんかモジモジとするスオムスの妖精がそこにいた。

恥ずかしいのか耳まで赤くしている可愛いJCがそこにいた。

 

・・・何だこの可愛い美少女は(驚愕)!!

くそ、見てくれは部隊でもトップクラスなせいでエイラが美少女に見えるぞ!?

というかエイラ、お前・・・本当っっっっっに、ヘタレだな!!?

 

「すまない、サーニャ。

 見ての通りエイラがアレだから、

 そっちから手を握ってもらえないだろうか?

 面倒なら拒否しても、放置してもどっちでも構わないが」

 

「バルクホルン大尉。

 大丈夫です、エイラがヘタっ・・・。

 不器用なのは分かっているから、問題ありません」

 

「・・・そうか」

 

サーニャに耳打ちしたが、

よもやサーニャの口から「ヘタレ」と言いかけたような気がするが多分気のせいだ。

この子に限って恋と戦争に手段を択ばぬブリテンの精神を引き継ぐ黒リーネのような進化なんて来るはずない、多分。

 

「エイラ・・・握るね」

「ひゃ、ひゃい!!」

 

握る、というより触れた途端にこの反応である。

 

「・・・エイラ、嫌だった?」

「あ・・・違う、そうじゃなくて・・・」

 

そろり、とサーニャが手を離す。

エイラはこの世の終わりかのごとく、悲壮な表情をしている。

 

「・・・そう、だったら今度はちゃんと握るね」

「ふぉおううう!?」

 

今度はサーニャがしっかりとエイラの手を握る。

握られた側は幸福とか夢が実現したのか実に幸せそうである。

なお、表情と音声はMADの素材にされそうな愉快極まった代物であるが。

 

「バルクホルンさん、バルクホルンさん。

 ーーーーエイラさんって、頭大丈夫ですか?」

 

今まで見たことがないエイラの百面相を目撃した宮藤が、

真剣かつ大真面目に、今日のお前が言うなぶっちぎり№1な台詞をこっそり呟いた。

 

「・・・人様にそんな事を言っては駄目だろ。

 それと鏡を見ろ、鏡を見た上で自分の胸に手を当てて考えてみるんだ、宮藤」

 

「胸に・・・」

 

「ワタシの方じゃないっ!!」

 

「でも、自分の胸なんて触っても見ても面白くありません!!」

 

「・・・分かった、もういい。

 分かったから一旦胸の話は忘れろ・・・」

 

視線をワタシの胸に全集中させている淫獣がいた。

この胸に対する情熱は何なんだ、この子は・・・意味が分からないよ。

離陸する前になんだか疲れて来たな・・・。

 

「・・・エイラさん。

 まさか貴女がそんな面白い方だとは思いませんでしたわ、おほほほほ」

 

「エイラさんって、

 そういう人だったんですね・・・。

 何だかとっても親近感が湧きました!」

 

「エイラのヘッタレ―♪」

 

「へー、エイラ。

 お前結構初心なんだなー」

 

「わっははははは!

 そんなヘタレでは駄目だぞエイラ!!」

 

なお外野といえばペリーヌ、リーネ、ルッキーニ、シャーリー、

そして坂本少佐の順で一斉にヘタレだのやいのやいのと言いだしている。

 

「う、う、ううう、

 うるさいゾーーー!!そこっ!!?

 ほら、行くぞ!こんな所でグダグダしてないでさっさと離陸するゾ!!」

 

「エイラの言うとおりだ。

 これ以上ここにいると疲れが溜まりそうだ」

 

エイラの言葉に全力で同意しつつ、

ストライカーユニットを起動させ、離陸のために加速させる。

エイラとサーニャはワタシが加速を始めた時点で魔導エンジンを起動させ、同じように加速を始める。

 

空も海も滑走路も全て真っ暗で何も見えないが、やる事はいつもと同じで騒ぐこともない。

 

「ちょ、ちょ心の準備が・・・は、初めてなのに・・・。

 わぁあああああ、エイラさんとバルクホルンさんのエッチーーーー!!」

 

「何でダヨっ!!?」

 

「誤解を招くような発言はやめろ!?」

 

もっとも1人の例外を除き、という但し書きがあった。

覚悟が決まっていない宮藤が非常に誤解を招くであろう叫び声を挙げている。

 

兎も角、色々締まらないまま夜の空へと飛び立った。

 

 

 

 

 




エイゲルは次回になりました。

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