ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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今年に入ってから奇跡の更新速度です。
これも全てストパン3期のお陰で次のアニメも待ち遠しいです。


第35話「魔女たちの無線交信」

ーーーーーー1944年8月某日 501基地 管制塔

 

『まてまて~~ちょこまかと、待てよナ~!』

『待てって言われても待ちません~~!!』

 

夜間哨戒任務に従事しているエイラと宮藤の声が無線から聞こえる。

どう聞いても任務に従事していると言うよりもじゃれ合っている声である。

 

『まったく、子供だなぁ・・・』

 

哨戒任務の責任者であるバルクホルンは、

2人が明らかに遊んでいるにも関わらずこれを止めず見守っていた。

宮藤が人生で初めて経験する夜間飛行を良い思い出にしたい、という配慮が働いていたのだろう。

 

特に自身がかつて必要に迫られて慣れない夜間戦闘を経験し、残酷極まる都市空襲を目撃したがゆえに。

 

「宮藤さん、楽しんでいるみたいね」

 

ミーナがバルクホルンとの無線の交信を始める。

 

『ん?ミーナか。

 こんな時間までお疲れ様だな。

 宮藤もだがエイラも楽しんでいるみたいで見ていて飽きないな』

 

「確かに、エイラさんが胸の事以外であれ程はしゃいでいるなんて初めて聞くわ・・・」

 

『・・・・・・言われてみればそうだな』

 

ミーナのぼやきにバルクホルンが同意する。

問題児のルッキーニと共にエイラが隊員の胸を揉むことに情熱を注いでいるのは周知の事実であった。

 

『でも、ワタシは嬉しいな。

 エイラもああして楽しんでいるのは』

 

「そうね、無線越しだけど、

 こちらにも楽しさは十分伝わるわ」

 

スオムスが誇るスーパーエースだが口数少なく、ミステリアスな容姿。

一体何を考えているのかよく分からないエイラが年相応の遊びに夢中になっている。

これに戦争の地獄と生死を経験した2人の心に温かい何かが宿り、優しくエイラを見守っていた。

 

『ところで、ミーナ。

 ワタシとエーリカで休みを貰えないか、半日でもいいから』

 

「構わないけど、珍しいわね?

 貴女の方から休みが欲しい、って言うなんて・・・?」

 

仕事熱心なバルクホルンの申し出にミーナが疑問を抱く。

ネウロイと戦う事だけが仕事でない事をよくよく理解しており、

必要な事務手続き、資材の調達、根回し、その他諸々の雑用を熱心に行い、

結果、ワーカーホリック気味なバルクホルンからまさかの休暇の申請である。

 

『最近ちゃんとエーリカの相手をしてやれてない気がしてな・・・』

 

「あらあら」

 

申し訳なさそうに言葉を綴るバルクホルン。

ミーナはこれに新人教育や任務で忙しいから仕方がない、等と言った慰めの言葉を言わなかった。

そんな言葉をバルクホルンは求めていないのは付き合いが長いミーナには理解できていた。

 

『エーリカは何ともないように振る舞っているけど、

 寂しがっているかもしれないし、その、なんだ、少しは遊んでやらないと』

 

モゴモゴと言いづらそうに言葉を綴る。

 

「ふふ・・・」

 

社交的で仲間思いであり「ロスマン先生は合法ロリ先生でエロい」

など馬鹿な事を口走る程度に馬鹿騒ぎをするが根っこの部分は意外と内気。

 

真面目で力持ちであるが、

心優しくも実は恥ずかしがり屋で素直でない性格。

長い付き合いであるが変わらぬ友人のあり方にミーナの口許が綻ぶ。

 

「あら、実はトゥルーデの方が寂しいのじゃないの?

 貴女の方からフラウ、エーリカに寂しいから付き合ってくれ、と言うとあの子は喜ぶわよ」

 

『・・・否定はしないが、

 そう言うとエーリカが調子に乗るし、何よりも面と向かって言うのが恥ずかしい』

 

つい茶々を入れるミーナ。

バルクホルンはこれに否定せず積極的な賛同もしなかったが図星のようである。

 

「貴女はいつもそうね、

 でもトゥルーデの美点よ、

 素直じゃなくても皆のために一生懸命な所」

 

『ヨハンナだけでなく、

 ミーナからもそう誉められると嬉しいな』

 

志願したのは良いが右も左もよく分からない軍隊生活。

しかも異世界TS転生者で今以上に抱いていた【本物の】ゲルトルート・バルクホルンとは違うというコンプレックス。

 

そんな中で出会い、ミーナやエーリカと出会う前の軍隊生活で出来た最初の友人。

ヨハンナ・ウィーゼの名前をバルクホルンは口にした。

 

「私はヨハンナ以上に何度もトゥルーデの事をそう誉めているけど?」

 

『何度も叱責されるのは嫌だが、

 誉められることは何度聞いても飽きないだけだよ、ミーナ』

 

古い友人と比較されてミーナは少し意地悪な問いかけを投げる。

が、バルクホルンは上手な切り返しを披露した。

 

『それより話は休みの方に戻るが、

 噂の大陸反抗作戦が発動されるとすれば8月後半から9月。

 時期的にもう間もなくだから・・・今の内に一緒にいてやらないと』

 

その言葉はミーナやバルクホルン自身ではなく、

ドーバー海峡の向こうにある欧州大陸、そして遥かなる祖国へと視線と共に向けられていた。

 

「・・・休みなさい、許可します。

 それと今後ローテを組んで他の隊員達にも順次休ませます」

 

9月以降欧州の天候は曇りや雪ばかりとなり、

上陸作戦における航空支援が不可能ではないが厳しい情勢となる。

しかも海が一気に冬模様、冬の荒れた海へとなってしまい上陸どころでなくなる。

 

月日は現在8月。

6月が先送りされた以上、今年最後の機会は9月と誰もが肌で感じていた。

 

そして一度作戦が発動すれば休む暇などなく、

必ず誰かが死ぬことをミーナはよく知り、経験してきた。

 

『休みのローテが組めるほど隊員が増えたのか・・・。

 以前は戦力も不足気味、あっても隊員同士の信頼と信用が不安定でおちおち休めなかったけど』

 

「そう考えると随分人が増えたわね」

 

少し暗い感情に囚われそうになったミーナ。

狙ったのかどうかは分からないがバルクホルンが次の話題へ移行させた。

 

『最近シャーリーが問題児のルッキーニの面倒を見てくれているお陰でルッキーニはかなり落ち着いて来てる。

 加えてシャーリー自身も部隊の纏め役である少佐、ワタシの次に指揮官そして将校としての自覚が出来つつある。

 ペリーヌは空回りする点がまだあるが、空戦技術に通常のデスクワーク系の仕事もキチンと出来るようになったな』

 

「それにリーネさんと宮藤さんが戦力としてかなり使えるようになったのは大きいわね」

 

501部隊の幹部3人に加え、

スオムスのエースであるエイラ。

口数が少ないが仕事を確実にこなすサーニャ。

人類トップクラスのエースに成長しつつあるエーリカ。

 

など戦力として安定している合計6人を除く他5人の成長ぶりについて想いを馳せる。

 

「・・・ようやく、ストライクウィッチーズらしくなって気がするわね」

 

『ああ、ようやくだな。

 長かったな、本当に・・・』

 

統合戦闘航空団の設立を思い付いたのは1941年。

様々な手続きや根回しを経過し正式に設立されたのは1942年。

 

1941年から数えれば3年の歳月がすでに経過していた。

 

発案者であるミーナと手助けしたバルクホルンが流れた月日の重みに対して感傷に浸る。

特にバルクホルンはようやく【原作】開始までたどり着けた事実に対してミーナ以上に感傷に浸っていた。

 

『そういえばミーナ、エーリカを見なかったか?

 離陸する前、格納庫にいたのは気配で分かっていたけど姿が見えなかったんだ』

 

「・・・いいえ、見なかったわ」

 

バルクホルンの質問に間を置いてミーナは答えた。

 

『そうか、だとしていると寝ているのか?

 ズボラな本人の性格という点もあるがエーリカは身体が小さいから疲れやすいし、

 小さいせいでスタミナと体力、精神力を消耗した後の回復速度が遅いからな・・・』

 

筋肉馬鹿でスタミナ馬鹿なワタシと違って、と言葉を綴る。

 

「心配してるのね、エーリカの事」

 

エーリカの事を予想以上によく見ていたバルクホルンに対して、

ミーナは微笑ましさと同時に嬉しさを覚えつつ、言葉をさらに綴る。

 

「ああ、エーリカ・ハルトマンは、

 ワタシの僚機で戦友でなによりもーーーー共に飛び続けたい友達だから」

 

バルクホルンの声は軍の大尉や、

最近スコアを伸ばしつつある撃墜王でもなかった。

 

 

ーーーーそこにいたのは友達の身を案じて、照れ臭そうに笑う一人の少女であった。

 

 

『・・・って、ミーナ!

 今の言うなよ!エーリカには言うなよ!

 エーリカが聞いたら絶対に調子に乗る!間違いなく!!』

 

普段言わない本心を自ら暴露したのに気づいたバルクホルンが早口で捲し立てる。

 

「はいはい、言いませんよ。

 でもさっきも言ったけど、エーリカに直接言ってあげた方がいいわよ」

 

『・・・分かるけど、それでも恥ずかしいんだ』

 

無線越しの音声でも顔を背けているのをミーナは見ずとも把握できた。

 

「楽しいわね・・・」

 

ミーナがバルクホルンに聞こえないようにそっと呟く。

昼間よりもずっと濃密かつ充実した楽しい会話の時間。

もっともっとバルクホルンと話をしたい誘惑にミーナは惑わされる。

 

「こちらはそろそろ消灯時間ね。

 私の方は先に寝るから、お休みなさい、トゥルーデ」

 

『ん、良い夜をミーナ』

 

しかし、楽しい時間ほど直ぐに過ぎ去ってしまう物であった。

消灯時間を理由にミーナがバルクホルンに別れを告げると無線の交信を終了させた。

 

「・・・さて、エーリカ。

 貴女、トゥルーデの事は何でも知っている。

 って、言っていたけどトゥルーデも貴女の事を知っているみたいよ」

 

「えへへへ・・・なんか嬉しいな」

 

ミーナが振り返った先にはバルクホルンが何度も直接言うのが恥ずかしい、

と言っていた当の本人、エーリカ・ハルトマンがいた。

 

「貴女がここにいたのはトゥルーデには内緒よ、いいね?」

「うんうん、分かっている。分かっているって」

 

口元に指を立てて静かに、のジェスチャーをするミーナ。

エーリカは上機嫌で頷く。

 

「少し前まで思い詰めていたけど、最近トゥルーデはシャーリーと仲が良いし、

 さっきもしてたけど宮藤がトゥルーデをいい意味で引っ掻き回しているから安心だよ」

 

「ええ、みたいね」

 

ミーナとエーリカは離陸前の格納庫で宮藤とバルクホルンが交わした会話について既に知っていた。

聞いた時は呆れると同時に、思わず腹を抱えて笑ってしまったのもつい先ほどだ。

 

「本当に、よかった。

 トゥルーデには長生きしてほしいから・・・」

 

エーリカが雲ばかりの夜空を見上げる。

物理的には何も見えないが、心は雲の向こうにいるバルクホルンを見ていた。

 

「貴女もそうよ、エーリカ」

 

「うん、分かっている。

 でもミーナだって同じだよ?

 ーーーーだから3人で一緒に長生きしようね」

 

エーリカの青くて綺麗な瞳。

汚れを知らない純粋な瞳がミーナを貫く。

長生きする、たったそれだけでも戦争では如何に難しいかをミーナは知っている。

何も悪さをせずとも、運命の悪戯であっという間に命を落とす事をミーナはよく知っている。

 

だからミーナは、

 

「・・・ありがとう、エーリカ」 

「へへ、どういたしまして」

 

大切な戦友が口にした願いへの返答として、感謝と共にミーナは抱きしめた。

身体は小さいが、聡く、熱い心を胸に抱く大切な友人、エーリカ・ハルトマンを力強く抱きしめる。

 

「ねえ、エーリカ。

 今晩私の部屋に来ない?」

 

抱きしめたまま、ミーナがエーリカを自室へと誘う。

エーリカとはさらに語り合わねば眠れそうになかったからだ。

 

「え?でも坂本少佐が来るんでしょ?」

 

話していないにも関わらずエーリカはミーナの予定を把握していた。

この子には隠し事なんて無理かもね・・・とミーナは心の中で自嘲する。

 

「問題ないわ、むしろ美緒ならエーリカと話せることを喜ぶわ。

 ・・・それに実はロンドンの司令部に行った時、扶桑の遣欧艦隊からお菓子を頂いたのよ。

 一緒に食べましょ、以前トゥルーデが手に入れて一緒に食べた間宮の羊羹・・・エーリカも好きでしょ?」

 

「マミヤの羊羹!?うん、食べる!」

 

「マミヤの羊羮」と聞いてエーリカがはしゃぐ。

元々は欧州に展開する扶桑のウィッチのために「間宮」は菓子を提供していたが、

今ではリベリオン、カールスラント、ブリタニア等各国のウィッチ達にも名が知られる有名な存在で、

『あの』間宮の羊羹だけでなく、抹茶アイスに最中、などなどエキゾチックな東洋のお菓子に皆夢中となっている。

 

「今夜は楽しみだね!」

「ええ、楽しみね」

 

ミーナとエーリカが手を繋いで管制塔を後にする。

同じ国でも出身地が違い、生活様式が違い、年も僅かに違う2人の組み合わせ。

 

ネウロイとの戦争が無ければ出会わなかった2人、

否バルクホルンも加えれば3人が出会うことなどなかっただろう。

 

しかし3人は出会い、異国で苦楽をずっと共に過ごしてきた。

平和な時代なら出会うはずのなかった3人の間には、今や固い絆と友情で強く結ばれていたーーーー。

 

 

 




誤字報告の皆様。
いつもいつもありがとうございます。
牛歩の歩みながらも完結を目指したいと思います。

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