ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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久々に本編更新できました。


第40話「魔女たちの夜戦 中」

ネウロイの攻撃は来なかった。

エイラは未来予知が外れてショックを受け、宮藤とサーニャは困惑したままであった。

 

だが、ワタシは知っている。

必ずネウロイはやって来ることを。

だから勘違い、と周囲が思い込んで弛緩した空気が流れるよりも先に先手を打つ。

 

「宮藤、サーニャ。

 念のため2人ともそのまま周辺を警戒するんだ。

 エイラ、未来予知でネウロイの攻撃を『視た』のは間違いないな?」

 

「あ、あたり・・・いや当然だって!

 だって私の固有魔法は予言文章なんかじゃなくて、

 必ず訪れる未来を『映像』で『視て』予知するんダゾ!」

 

語気を強くしたエイラが言う。

これまで頼ってきた固有魔法に疑問を抱かれている、と思ったからだろう。

 

「勘違いするな、エイラ。

 ワタシはエイラを信じているし、信頼している」

 

エイラの未来予知、という固有魔法は一見胡散臭いが、

何にでも解釈できる某ノストラな予言文章と違って必ず、

「映像で視認する」のでこれまでネウロイの攻撃を一発たりたとも被弾してこなかった。

 

ゆえに、ワタシはエイラの実力に対して疑問を抱いていないし、

普段は冗談な事ばかりしているが、戦場で嘘偽りを口にするような子でないのを十分知っている。

 

「だから、記憶が薄れない今の内に、ネウロイの攻撃がどの方向、

 高度、角度から来たのか?その結果どんな未来が見えたのか?具体的な情景を説明してくれないか?」

 

「っ・・・!!!」

 

そう言うと何故かエイラは驚いたような顔を浮かべ、少し間を空けてから具体的な内容を口にした。

 

「・・・高度は同じで、正面からネウロイの光線が凪ぎ払うように飛んで来たんダ」

 

正面か・・・あの時、我々正面の方角は大陸。

ガリア方面、ノルマンディー地方に向いていて、

もう少ししたら地上のレーダーから支援を受けられなくなる距離だから、

旋回して、ブリタニア側へ戻る哨戒ルートの途中だったな・・・。

 

「サーニャ、魔導針に反応は?」

「・・・あ、ありませんでした」

 

こちらの質問に対してサーニャは申し訳なさそうにしている。

成程、つまりサーニャの魔道針が感知できる範囲にはネウロイはいなかった、と。

 

しかし、エイラは未来予知でネウロイの攻撃を視た。

ネウロイを目撃しなったサーニャの証言と矛盾しているけど・・・。

 

「いや、それだけでも十分だ。

 ネウロイは我々を待ち伏せしていた可能性が高い。

 大雑把だがネウロイの方角はノルマンディー方面だろう」

 

「え?ま、待ち伏せですか!!

 で、でも、サーニャちゃんは探知していないのに・・・」

 

ワタシの断言に宮藤が疑問を露わにする。

 

「宮藤、別に難しく考える必要はない。

『サーニャの魔道針の有効探知範囲外でネウロイが攻撃を試みたが、

 エイラの未来予知で先んじて回避行動をしたから、結果的に攻撃は来なかった』だけだ」

 

「だ、だけど。

 こんな夜中にネウロイはどうやって、狙い撃てたんダ?」

 

顔を青くしているサーニャの手を握るエイラが質問する。

 

「それも仮説だが根拠はある」

 

芋大尉、ではなく。

「歴戦のカールスラント軍人」として、

視線や基地の無線中継で聞かれているのを意識しつつさらに言葉を綴った。

 

「ネウロイはサーニャを知っている。

 サーニャが発している魔導波を逆探知し、

 探知範囲外の遠距離からのアウトレンジ攻撃するーーーーこれなら目視できずとも攻撃できる」

 

魔導針は魔導波を照射し、

相手に当てた魔導波が反射されて戻って来るまでの時間、

それと方位を計測することで相手の位置を探る魔法でレーダーと仕組みはまったく同じだ。

 

レーダーと同じように魔道針も、相手から反射された魔導波が明後日の方向へ逸らされたり、

反射した魔導波の力が弱かった場合、相手を認識できない時がある。

 

しかし相手は『自分が魔導波を照射されている』事実を認識した上で、

『自分が魔導波で探られている』事象を距離こそ不明だが方位だけは把握できる。

 

これが、逆探知だ。

 

【原作】でもネウロイは『サーニャの歌を乗せて無線妨害を実行した』ので、

ネウロイが電波を理解しているのは間違いなく、逆探知という概念も持ち合わせているはずだ。

 

加えて【前世】の歴史ではこの『発せられた電波の方向を探知する技術』を利用して、

あのコロンバンガラ島沖海戦では日本海軍がアメリカ側の電波を先んじて探知した上で優位な位置へ移動し、勝利を収めている。

 

同じような事をネウロイはしようとしたかもしれない。

ロングランスの名を頂く酸素魚雷の代わりに光線によるアウトレンジ攻撃を試みたが、

直前になってエイラが察知して回避行動をとったので、ネウロイは攻撃を中止した・・・そんなところだろう。

 

矛盾なんてものはない、エイラとサーニャはもどちらも正しい報告をしている。

 

しかし、改めて考えると厄介極まる話だ!

もしもエイラがこの場にいなかったら、最悪全員何が発生したのかも把握できず、撃墜されたかもしれないなっ!!

 

数年前、未だネウロイが銀色の個体だった時なんて、コアさえ破壊すればなんとかなったのに・・・。

それが今ではあの手この手で搦め手を使うようになるなんて、間違いなくネウロイは進化している。

 

そう思えば【原作】の宮藤たちはネウロイの戦術判断のミスで勝てたかもしれない。

 

前世の記憶、というよりも「記録」によれば

『雲海の中からサーニャを狙い撃てた』ぐらいに狙撃能力に秀でた厄介なネウロイだ。

 

たとえ未来予知能力のエイラがいても、エイラだけなら兎に角。

 

ストライカーユニットを半分壊されたサーニャ。

シールド防御に優れていても経験が浅いのでまだまだ足手まといな宮藤。

 

この2人を援軍が来るまで守り通すのは端的に言って難しい任務だ。

 

もしもネウロイがエイラに対し、

接近戦に挑まず雲海から遠距離狙撃の一撃を加えて離脱、

これを延々と繰り返していたら危なかったかもしれない。

 

いくらシールドでネウロイの光線を防げる、

と言っても長期戦になれば魔法力が消耗してしまうし、

精神的にも肉体的にも疲労した挙げ句、なぶり殺される形で撃墜されただろう。

 

何故ネウロイがこの戦術判断をしなかったのか分からない。

想像になるが一番の脅威と判断したサーニャを負傷させたと誤認して止めを刺すつもりで接近戦に挑んだのか?

 

しかし、『サーニャが一番の脅威とネウロイが判断した』そうなると別の視点がまた見えてくる。

 

「そうなると、サーニャの攻撃から逃げたあのネウロイ。

 あれは、魔道針の探知範囲を探る威力偵察だったかもしれないな・・・」

 

思った仮説を口にする。

前世も含めあのネウロイは先ほどに至るまで精々ネウロイの偵察、または哨戒という程度しか考えていなかったが、

人類側の探知技術を脅威と見なし、積極的に収集、把握しようと試みている、となると話は大きく違う。

 

『ネウロイは脅威を判断認定ができる思考能力を有している。

 しかも直接戦う相手ではなく、人類が発している電波情報を理解しようとしている』

 

仮説に仮説を重ねて得た結論だが我ながら理屈は通っていると思う。

 

しかし、これは物語の裏側。

たまたま深淵を覗いてしまったような気分の悪さを覚えるっ・・・!?

確かに人型ネウロイの存在は『知っている』けど、人という『形』で模倣していない分、気味が悪い。

 

まさか、あの感動の話においてこんな裏があったなんて。

それが分かってしまう現実の戦争なんて、やっぱりクソだ。

 

ネウロイとは何年も戦っているがまだまだ、こう気づかされる事があるなんて、

やはりワタシは、いいや、人類はネウロイについて未だ分かっていない所が多すぎる。

 

『・・・バルクホルン大尉、

 訓練を中止しなさい、全員の帰還を命じます』

 

基地からの無線でミーナの命令が来た。

「トゥルーデ」ではなく「バルクホルン大尉」と呼び掛けている辺り、事態の深刻さを重く受け止めているようだ。

 

「ミーナ、言い出しっぺのワタシが言うのもアレだが、

 ネウロイを直接見聞きしたわけでもなく、現段階では全て仮説にすぎないが」

 

『貴女を信用しているし、信頼しているわ。

 それに先ほどレーダーの担当者と確認したけど、

 トゥルーデの仮説に間違いはないし、理にかなっているのが分かったから』

 

『まあ、そう言うわけだバルクホルン。

 貴様なら兎も角、夜戦の経験がない宮藤には荷が重いし、状況が変わったからな。

 一度基地へ帰投して戦術の見直しを図った方が良い、そうミーナと判断したんだ』

 

こちらの確認に対してミーナと坂本少佐が答えた。

 

「妥当な判断です、少佐」

 

一度撤退せずに戦う。

という方法もたしかにある。

 

エイラの未来予知。

サーニャの魔導針。

主人公にしてメイン盾である宮藤。

 

最後に異世界TS転生者という歪な存在ながら、

ネウロイを張り倒す事に関しては3人よりも場数を多く経験し、

腕前もなかなかの物、世界の頂点まで来れたと、自負している自分。

 

この4人ならば戦う時間帯が昼でも夜でも最後はギリギリ何とかなるだろう。

 

だけど、

 

「あんまり、無理しないでね。

 夜間戦闘はカールスラント以降はしてないし」

 

エーリカがしてくれた助言に従おう。

空についてはエーリカの言葉は常に正しく、確かな物だから。

 

「聞いたな、皆。

 これより帰投する」

 

基地への帰還、と聞いて自分以外の一同がほっ、と安堵の表情を浮かべる。

 

「いやー、ミーナ中佐が話が分かる指揮官でよかったなー、宮藤」

 

「うん、月明かりがあるけど、

 夜に戦うなんて、私まだまだだし・・・」

 

エイラの軽口に対し、宮藤が同意する。

 

「なんたって、今夜も大尉やサーニャに手を握って貰わないと飛べなかったしナー、にひひ」

 

「うえぇ!

 い、今はそうですけど。

 その内一人で飛べるもん!!」

 

エイラの弄りに宮藤が頬を膨らませて抗議する。

柴犬の耳とか尻尾を威嚇している辺りが、かわいい・・・。

 

『はっははは、

 確かに今の宮藤では難しいが、

 その内できるようになるさ、私も含め、皆最初はそんなものさ』

 

と、少佐が元気よく言う。

 

『それにしても、バルクホルン。

 戦うだけでなく、技術面でも色々知っているし、それを実戦に生かせるとは、本当に凄いな!』

 

「勉強会に参加していただけですよ。

 それに、自分は試作機のテスト役をよくしているので、自然と色んな知識が増えた次第で」

 

基地への帰投ルートを飛びつつ答える。

『あの』大空のサムライに称賛されるなんて、少し気分が良く、笑みが溢れそうになる。

 

『うむ、人生は勉強だな!

 だが、バルクホルンは魔法少女を演じたことといい、

 軍隊生活が長い割に色々できるから、私も見習わなくてはな!!』

 

人生は勉強。

まったくその通りである。

異世界転生者であろうと学業、学問からは逃れられない。

 

ましてや近代の軍隊なんて学力がなければ、まず入れない。

ウィッチといえど学力が要求されるから、昔は勉強で四苦八苦して・・・・・・ん、んん?

 

「あー、少佐。

 そ、そのですね・・・魔法少女とは?」

 

嫌な予感しかしない単語について確認する。

身に覚えはあるけど、いや、まさか・・・。

よもや・・・あの姿と、あの演技がテレビ放送されたっ!?

 

「魔法少女?」

「なんだそりゃ?」

「バルクホルン大尉が演じた?」

 

魔法少女、などと言う単語を聞いて。

宮藤、エイラ、サーニャの頭上には疑問符が浮かんでいる。

 

しかし、他の隊員。

特に出撃前に目撃したペリーヌの大爆笑からして・・・。

 

『ん、ああ、それは・・・』

 

一瞬戸惑いつつも、坂本少佐が言葉を綴ろうとした時。

無線の音声に大きな雑音が急に発生し、数秒で基地との無線中継はできなくなってしまう。

 

そしてその変わりに別の「音」とメロディーが割り込んで来た。

 

「これ、サーニャちゃんの歌・・・」

「う、そ・・・」

「ネウロイがサーニャを知っているなんて、本当に大尉の予想通りだ・・・」

 

サーニャが普段から口ずさむ「歌」。

しかも父親が自分のために作ってくれた歌がよりにもよってネウロイが歌っている。

この事実は3人にとって衝撃が強すぎるのか、揃いも揃って顔を青くしている。

 

「全員、気を引き締めろ!

 ネウロイは我々を狙っている!

 エイラと宮藤は、目視で周囲を警戒!

 サーニャは魔導針で周囲を警戒するんだ、この場で迎撃する!」

 

指揮官として、そんな年下魔女たちを大声で叱咤激励する。

場数を踏んでいるエイラとサーニャは命令を聞いて、即座に任務に取り掛かった。

 

「き、基地まであと少しだし、このまま・・・」

 

「雲の下に飛び込めば、目視できずネウロイから一方的に撃たれるだけだ。

 よって、月明かりで目視できるこの場に踏みとどまり、少佐たちの援軍が来るまで持ちこたえる」

 

翻って宮藤は恐怖に震えていた。

新兵の異議申し立てに対して軍人として言葉を発する。

首を動かさず、視界の隅に入った宮藤の表情は『主人公』ではなく本当にただの『少女』だった。

 

「安心しろ、宮藤。

 ワタシが・・・私が必ず、宮藤を守る」

 

ただの『少女』だが、いずれ英雄であることを約束された『主人公』だ。

ワタシは必ずこの世界を変えてくれる宮藤芳佳を守るため、今日まで生きてきた。

 

これはワタシ、私だけが知る誓約。

誰も知らず、誰も理解できない誓約だ。

 

「あっ・・・!」

 

そんな時、サーニャの声か、宮藤の声か。

 

どちらかは判断できなかったが、

サーニャの魔導針が眩しく輝いたと思うと、

宮藤とサーニャのストライカーの魔道エンジンが唸り声を上げて急上昇した。

2人が上昇した刹那の時、地平線の彼方の雲の中からキラリと赤い光が見えると、光線が飛来してた。

 

「大尉!宮藤が!!」

 

血相を変えたエイラが叫ぶ。

だけど一瞬の出来事で、体が動くよりも先に悪い現実が先行する。

音よりも早く、幾条の雲を蒸発させながらネウロイの光線が2人に迫る。

 

「サーニャちゃん、危ない!!」

「えっ・・・!?宮藤さん!!?」

 

宮藤がサーニャを押しのけ、

代わりにネウロイの光線が直撃するコースへ躍り出る。

 

そして、得意のシールドを展開しようとするが、

シールドが完全に展開し終えるよりも先にネウロイの光線が直撃。

 

ストライカーの爆発と共に宮藤は墜落した。

 

 


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