ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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注意!
今回は原作キャラの飲酒喫煙描写があります。
さらに「夜戦(意味深)」を匂わせる描写があります。

そうした物が苦手な方は回れ右を推奨します。


幕間の魔女「勇敢な魔女たちの飲み会」

1944年 某月某日 サンクトペテルブルク 第502基地 司令官室

 

 

「ふむ、秘密の宴にしてはなかなか豪勢じゃないか、流石エディータだ」

 

チーズ、ハム、サラミ、キャビア。

それに各種ナッツにドライフルーツ類が盛られた数々の皿を見てラル少佐が頷く。

 

「光栄感謝の極みであります、我らが隊長殿」

 

エディータ・ロスマン曹長が舞台役者のように恭しく頭を下げる。

 

「えー、隊長。

 僕は宴に必要なアルコール類を持ち込んだのに無視ですかー」

 

「そのウィスキーとワインは元を正せばお前ではなく、

 バルクホルンが私達へと送ってくれた物だろ、クルピンスキー」

 

クルピンスキーの文句に対してラル少佐が軽くあしらう。

 

「現時点での所有者は僕ですからー、僕の物ですぅー」

 

「さて、この馬鹿は放置して宴を始めましょう隊長。

 ・・・ふふ、扶桑のウィスキーにリベリオンのワインだなんて、飲んだ事がないから楽しみね」

 

ブーブー言っているクルピンスキーを無視するロスマン。

享楽家としてかつての上官にして生徒であったバルクホルンが送ってくれた珍しいお酒にウキウキしていた。

 

「ああ、そうするとしよう」

 

ロスマンがグラスの準備しようとしたのを制止させ、

代わりにラル少佐自らがショットグラスを人数分用意し、ウィスキーを注ぐ。

 

「あ、どうも・・・」

「別に隊長自らしなくとも・・・」

 

古い付き合いとはいえ佐官クラスの将校から酒を注がれる事について、

階級を気にしないクルピンスキーも流石に恐縮し、ロスマンは物好きな隊長に対して呆れる。

 

「今はプライベートな時間だ、

 歳が近い戦友同士久々に語り合おうじゃないか」

 

ショットグラスを差し出しながらラル少佐が言う。

 

「じゃあ、かけ声は僕がします。

 オホン、貴公の勇気と、我が剣、そして我らが勝利にーーーー」

 

その昔、バルクホルンが祝いの席で上官であるフォン・ボニンから、

「何か面白い掛け声を考えろ」などと言われて咄嗟に思い付いた言葉をクルピンスキーが口にする。

 

どう聞いてもダークな魂のアレな台詞である。

 

「「「太陽あれ!」」」

 

しかし、その当時時代は未だ1939年。

誰も某死ゲーが元ネタであるなど知らない。

バルクホルンの園崎〇恵ボイスで声が良かったのと、

中二病患者の心を揺さぶる良い言葉かつ、育ち盛りの10代で戦場暮らしなウィッチに大ウケ。

 

今では世界中のウィッチが飲み会の席でする定番の掛け声にまで昇格されていた。

・・・まさかの大ウケにバルクホルンは電話片手に「どうして(震え)」な某猫状態であったが。

 

「旨いな」

 

「・・・ふぅ、いけるねコレ」

 

「あら、美味しい。

 下原さんの扶桑料理みたいな味ね」

 

3人揃ってダルマ、タヌキの愛称を持つウィスキーを一口で飲み干した。

【史実】よりも約10年早く世の中に登場したウィスキーの味は好評のようだ。

宴の燃料であるアルコールが注入されたのを契機に旧知の仲間同士和気あいあいと会話を始める。

 

「・・・こうして3人で飲むのも久しぶりだな」

 

「そうですね、

 最近はずっと皆さんと一緒でしたから、

 じっくりとカールスラント語で会話するのも久々な気がします」

 

「そうだねー。

 直ちゃん達と騒ぐのも好きだけど、

 たまには3人で静かに語り合うのもいいよね」

 

同じ第52戦闘航空団に所属して戦って来た仲間であるが、

普段はオラーシャ語、またはブリタニア語で会話していた上に、

それぞれ忙しいのでこうして3人で集まって飲み会など希にしかできなかった。

 

「ねー、隊長。

 タバコとかないかな?

 久々に吸ってみたいのだけど・・・」 

 

「ないぞ、前は扶桑人に酒を盗まれ、

 今日はスオムス人に配給のタバコを全部盗まれた」

 

堂々と煙草を強請るクルピンスキー。

しかし、既にどこぞの陸戦ウィッチに全部持ってかれたようである。

 

「司令官から物資を盗むとか末世だねぇ」

「東部戦線なんぞどこも末世みたいなものだろ?」

 

クルピンスキーの呆れに対してラル少佐はブラックジョークで切り返す。

 

「では、こちらなんてどうでしょうか?」

 

上官2人のじゃれ合いを観察していたロスマンが3本の葉巻を差し出した。

 

「うわぁ、葉巻じゃん先生!

 しかもこれ、結構いいやつでしょ?

 一体全体どこで手にいれたのさ・・・?」

 

「教育係曹長ですから」

 

クルピンスキーの質問に対してニッコリ、とほほ笑むロスマン。

教えるつもりは全くなさそうでこれからも教える気はないだろう。

 

「できる部下がいると私も嬉しいし、

 他の統合戦闘航空団に自慢したくなってしまうな。

 ・・・では、今度こそバルクホルンとハルトマンをミーナから頂くとしよう」

 

「隊長は健康維持のため、

 葉巻はなしでよろしいでしょうか?」

 

「冗談だよ、エディータ。

 それよりも不健康なんて上等だ、喫煙万歳。

 器の小さい健康ファシズムな禁煙者に災いあれ、呪いあれ」

 

全世界の禁煙者が聞けば激怒待ったなし、

そんな毒舌ムーブをラル少佐が披露しつつ、葉巻を受け取る。

久々であったが3人は慣れた手つきでシガーカッターで吸い口を作り、マッチで葉巻を点火させた。

 

「んん~~~至福の時間だよね、先生」

 

「貴女と過ごす時間について至福とは程遠いのだけど」

 

「最近は皆の手前。

 タバコの類を吸っていなかったから旨いな・・・」

 

吐き出された3条の紫煙が天井までユラユラと昇る。

吸っている人間が3人揃って20歳未満の少女と道徳的に宜しくないが、

麗しい見た目と、非常に慣れた仕草と態度で吸っているせいで絵面的にはお洒落であった。

 

「バルクホルン、

 タバコは付き合いで吸うけど基本は吸わない方だったね。

 昔『悪い遊び』としてフラウにタバコの吸い方を教えたら、

 バルクホルンがすっごく怒ったのをよく覚えているよ・・・うん」

 

「当たり前だ。

 いくらウィッチの飲酒喫煙について黙認されているとはいえ、

 あの当時、1939年時点でエーリカ・ハルトマンはまだ11歳だぞ・・・」

 

「あの時は私も怒ったから、よーく覚えているわ・・・」

 

かつてエーリカ・ハルトマンに『悪い遊び』を

教えたクルピンスキーの回想に旧知の2人が責め立てる。

 

「いや、だってさ。

 あの当時フラウは確かに真面目で良い子だったよ。

 でもそれは人の目を気にして臆病で、余裕がない事の裏返しにすぎなかったんだよ」

 

旧知の2人から責められ伯爵は弁解する。

 

「・・・それにさ、2人とも友達がいなかった小さい時の僕と似ていたから放っておけなくて、

 僕は出会ったばかりのバルクホルンにしたようにフラウにも楽しい軍隊生活のアレコレ教えたんだ」

 

らしくもなく真面目な態度で台詞を言うクルピンスキー。

視線は今ではなく遠い過去へと向いていた。

 

「・・・ぐっ、伯爵がそういう視点でトゥルーデ。

 それにフラウの事を見ていたのを知っていたけど、口に出されると腹が立つわね」

 

ロスマンが悔しそうに呟く。

クルピンスキーはどうしようもない女たらしで遊び人であるが、

なんやかんやで仲間や戦友の面倒を見ていたのを改めて認識する。

 

「だが、あわよくば2人纏めて頂くつもりだったんだろ?クルピンスキー?」

 

冷めた表情でラル少佐が本心を問う。

 

「それは勿論さ!

 タイプは違うけど2人とも魅力的な女の子だからね!

 バルクホルンもフラウもウブだから僕の手でぜひとも・・・って、痛い!先生痛いって!?」

 

「さっきまで感動していたのよ!

 そんなのだから貴女は偽伯爵なのよ!分かる!?」

 

ラル少佐の問いかけに正直極まる言葉を口にしたクルピンスキー。

これに激怒したロスマンが普段から持ち歩いている指示棒で女タラシをビシビシと叩く。

 

「ふぅーーーー・・・。

 加えて言うならばその『楽しい軍隊生活』

 とは私のサインを偽造して外出していたことか?」

 

「あれ?やっぱりバレてました?」

 

紫煙を吐き出しつつ問い詰めるラル少佐。

問われたクルピンスキーに反省の色などまるでない。

 

「バレないとでも思ったか?

 まあ、時効だから今さら蒸し返すつもりはないが」

 

「やった」

 

「何せここにはサーシャがいるからな」

 

サーシャと聞いて「うげっ」とクルピンスキーは身を引く。

固有魔法で完璧な記憶を持つ彼女相手にサインの偽造が通用するとは思えなかったからだ。

 

「あはははは、いい気味ね伯爵閣下!

 サーシャだけでなく、トゥルーデがいれば貴女を物理的に締め上げてくれたでしょうね!」

 

「ひぇっ・・・!?

 先生、勘弁してくださいよ。

 出会ったばかりのバルクホルンなら兎も角、

 今では素手で硬貨をへし曲げるんですよぉ・・・」

 

どこぞの世界線でサウナの壁を素手で破壊したり、

片手懸垂を日常的にこなしていたようにこの世界でもバルクホルンはかなり鍛えていた。

 

「ほほぅ、バルクホルンはお前の放蕩を止める良い薬になるようだな。

 転属・・・は無理だが、出張する理由を作って一度にここまで呼び寄せてみるか」

 

「た、隊長まで・・・そんなぁ。

 やめて下さい、バルクホルンは僕に割と容赦しないんですよ」

 

「あらあら、先ほどまでの威勢はどこへ行ったのかしら、伯爵様?」

 

ラル少佐、ロスマンが弱った伯爵様をここぞとばかりに弄り倒す。

 

「ふふふ・・・懐かしいな。

 このやり取りはJG52の頃を思い出すよ・・・」

 

ウィスキーを飲み干したラル少佐が呟く。

 

「あの頃の僕は直ちゃんぐらいの歳で、

 苦しい事も悲しい事もあったけど・・・楽しかったなぁ」

 

クルピンスキーはチビチビとウィスキーを舐めるように飲む

 

「本当に、そうね。

 かけ換えのない青春の日々。

 もう戻らない思い出の日々、本当に、懐かしいわ・・・」

 

チーズにハチミツをかけつつロスマンが言う。

 

「バルクホルンとハルトマンと言えば、

 今年になってから撃墜数250機まで伸びたな。

 しかもマルセイユも最近調子が良いのか同じく撃墜数250機まで到達している。

 私は背中の怪我があるが、3人ならまだまだ撃墜数は稼げるはずだ・・・どこまで行くか楽しみだな」

 

同じ第52戦闘航空団に所属し、同じ中隊にいた事もある3人が揃って、

世界トップクラスの撃墜数を誇るウィッチに成長したのをラル少佐が噛みしめる。

 

「それ、本当に凄いよね。

 バルクホルンは『あの2人は才能がある』と繰り返し言っていたけど、

 本当にここまで伸びるとは想像できなかったし、バルクホルン自身も凄く強くなったよね」

 

新米の頃はバルクホルンと同じ中隊で共に過ごし、

まだまだ弱かったバルクホルンの過去を知るだけに、

クルピンスキーは友人としてバルクホルンの成長を祝福する。

 

「部隊に来たばかりのトゥルーデはパッとしないほうだったわね。

 魔法力や体力、スタミナ、精神力はあったけど空戦に必要な技術である空戦機動や射撃眼。

 なんかは頭で理解できていても、体が上手く動かせていない感じだったわ・・・。

 1日に何度も出撃して出撃120回目でようやく初撃墜を記録したのを覚えているわ」

 

ロスマンがかつての生徒をしみじみと思い出す。

かつてバルクホルンは機械で空を飛ぶ「航空機」の動きと、

生身の肉体を動かして飛ぶ「ウィッチ」の動きに違いがあることに気づいていたが、

頭で理解していても体がなかなか上手く動かせず、四苦八苦していた時期があった。

 

「だが、バルクホルンもコツさえ掴めば撃墜数を稼げるようになっただろ?

 ハルトマンとマルセイユが来た頃にはネウロイをそれなりに撃墜していた。

 それにハルトマンも1日病院に入院した後、空戦機動が見違えるように進歩したな」

 

「ええ、しかも3人揃って世界の頂点に届く場所まで来るなんて・・・」

 

そんなバルクホルン。

さらには『あの2人は才能がある』と、

バルクホルンが断言した2人も今では誰もが認めるエクスペルテへ成長していた。

 

「ああ、楽しみだな。あの3人が今後どうなるか。

 む、もうウィスキーがないか・・・こちらも3人いるとはいえ早いな。

 さて、次はワインを飲もうじゃないか、足りなければ私のスオムスビールを出そう」

 

「いよっ、太っ腹!」

 

「ありがとうございます、隊長」

 

ラル少佐が命の水、

あるいは燃料の補充を自腹ですることを宣言する。

 

これに旧知の2人は歓喜し、

これを切っ掛けにさらに乾杯を重ね、

3人は深夜まで思い出で話で花を咲かせ、思う存分楽しんだ。

 

だが、宴の後。

クルピンスキーとロスマンは思い出話とアルコールの魔力を得て、

久々に「友達以上の関係(意味深)」になった挙句、飲み過ぎたせいでダウン。

2人揃ってベッドで仲良く頭痛とお友達になり、身動きが取れない状態へ陥った。

 

そして翌朝。

朝食の時間になっても来ない2人を心配し、

見に来たサーシャに「友達以上の関係(意味深)」を目撃されたのをここに記す。

 

 




以上です。
ちなみに出撃120回~のくだりは史実バルクホルンを参考にしました。

オマケ
下図はバルクホルンのイメージラフ画です。

【挿絵表示】

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