ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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【注意】今回、原作キャラの喫煙描写があります!



幕間の魔女「芋大尉の日常」

◇煙草の話

 

「こんな光景、他の隊員には見せられないな・・・」

 

三条の紫煙が揺らめく中、ワタシは発言した。

 

「そうよね、ウィッチの喫煙は黙認されている。

 と言っても、「黙認」であって「公認」ではないし、

 ルッキーニさんとか子供が真似しそうだし、皆の前で吸うのはちょっと、ね・・・」

 

紫煙の主、その一人目であるミーナが頷いた。

細長いシガレットホルダーで吸う姿は「女侯爵」の二つ名らしく、どこか貴族的な余裕と優雅を感じさせる。

 

軍隊と煙草は切っても切り離せない関係、

しかもこの時代は煙草は喉ごしが良いなんて言われていたから、

喫煙に抵抗感が薄いのを知っていたけど・・・しっかし、まさかミーナも煙草を吸うなんて・・・。

 

初めて知ったときは、本当に驚いた。

それこそ例えるならばクラスのお嬢様がNTRた挙句、

ガングロ化してチャラ男の象さん(意味深)なしだと以下略)な薄い本的展開に匹敵する衝撃だったな、うん。

 

まあ、ミーナは1日に葉巻を20本も吸うヘビースモーカーとして有名なガランド少将の副官を務めていたし、

指揮官としてのし掛かる心理的重圧、有力者との会談やパーティーなどの付き合いで喫煙せざるを得ない機会が多いからなぁ・・・。

 

というか、この時代。

喫茶店には灰皿、マッチは必ず用意されているし、

映画館で映画を上映していても、飛行機の中、列車の中でも平気で煙草を吸っている。

おまけに、ポイ捨ても平気でやるし喫煙者にとっては天国のような時代だ。

 

「ミーナの言うとおりだ、子供は大人に憧れる。

 ルッキーニだけでなく、宮藤もリーネも真似するだろうな」

 

紫煙の主、その二人目である坂本少佐が呟いた。

口にしているには前世でも有名な銘柄「ラッキーストライク」だ。

なお、ミーナも少佐と同じ銘柄をシガレットホルダーの先端に挿して吸っている。

 

よもや坂本少佐まで煙草の味を知っているなんて、意外すぎるが、

煙草の覚醒と鎮静作用に頼らざるを得ない戦場にずっと身を置いてきたせいなのと、

少佐もミーナと同じく付き合いで煙草を吸う機会が多く、それで煙草の味を覚えたと聞いた。

 

・・・JG52にいた時を思い出すな。

ヨハンナ、ラル、クルピンスキー、3人とも腕前は確かだったけど、

所詮は新米少尉に過ぎず、真の将校として人を率いるにはあと数年の歳月が必要だっただろう。

 

だけど、ネウロイ戦争で経験を積んだ先輩ウィッチは消耗戦の果てに次々と倒れ伏せ、

気づけば、中尉に昇進してみんな中隊長として職務を任されるようになってしまったんだ。

 

なおワタシとヨハンナに至っては最後は3個中隊を束ねる飛行隊司令まで昇進してしまった。

平時ならば経験豊富な大尉、あるいは少佐が受け持つ役職にも関わらず新米中尉が、である。

 

あの当時、人は簡単に死んでいった。

 

1度の出撃で発生する未帰還率は3割。

出撃する度に誰かが戦死するか、戻ってきても誰かが重傷を負って飛べなくなった。

 

12歳どころか、場合によっては10歳程度の少女がである!

 

ヨハンナは両足を切断するしかなかった部下から恨み言を吐かれて精神的にかなり追い詰められたし、

ラルは「自分が嫌われ役になれば良い」と開き直ってあの図々しい鉄仮面を被ったけど、ストレスで味覚がおかしくなった。

 

クルピンスキーは言動、女遊びな行動こそ変わってなかったけど、

部下を庇って撃墜される回数も増えて、誰かが戦死する度に密かに大泣きし、酔いつぶれていた。

 

そんな中、煙草は戦地では数少ない娯楽であり、

煙草の覚醒と鎮静作用は戦場で荒んだ精神を安定させるのに必要不可欠であった。

皆で集まって煙草を吹かしながら、喧嘩したり、議論したり、泣いたり、笑ったりしたんだ。

 

もう5年、あるいはたった5年前の話で、

まだ15歳どころか13歳の時だけど、何もかも懐かしい青春だった――――。

 

「少佐、宮藤については問題ないかと。

 何せ未だ中学校に在籍しているので一度煙草を吸えば一発で退学間違いなしですから」

 

「む、そう言えばそうだったな。

 すっかり銃後の常識を失念していたな、いかんな」

 

「本当ね・・・『普通の』女の子なら10代で煙草なんて吸わない、そんな常識を忘れてしまうわ・・・」

 

そう、『普通』ならそうだ。

『普通』の女の子なら煙草なんて吸わないし、頼らない。

軍隊と一般社会の常識の間には、大きな溝があり、長い軍隊生活がそれを忘れてしまう。

 

「それにです、」

 

紙巻煙草を吸っている2人と違い、

こちらはパイプだから炉に火を保たせるように、一度息を吹く。

 

「それに、喫煙習慣があっても進んであの3人に煙草を勧めるようなウィッチはこの部隊にいませんから」

 

エーリカに煙草を教えたチャラ女・・・。

もとい、クルピンスキーのように「楽しい軍隊生活」を先輩として教えるウィッチはいない。

 

本当、501にいるウィッチはミーナが言ってたように「良い子」ばかりである。

JGG52は確かに精鋭部隊だったけど「プライベートは深く関与しない」とラルが宣言したように、

私生活において非常に癖が・・・ぶっちゃけ、問題児なウィッチが大勢所属する愚連隊な所があったな、そうそう。

 

だけど塹壕貴族(自分がそのあだ名をつけた)もとい、

ボニン司令はそんな部隊について頭を痛めるどころか、むしろ楽しんでいた気がする。

 

「えっ?喫煙習慣って・・・私達以外にいるの?」

 

「うん、ミーナ。

 意外かもしれないけど、いるんだよ。

 正確には「昔は喫煙習慣があった」だけどエイラ、

 シャーリー、この2人、実は煙草を吸っていたんだ」

 

「シャーリーならまあ無くはないが、エイラが?意外だな・・・」

 

それについてはワタシも同意する。

黙っていれば清楚系な美女である上に、

リアル北欧系銀髪美少女なエイラが煙草を吸っていた。

なんて事実はショッキング極まる事実なのは間違いない。

 

「切っ掛けは原隊にいた時、

 先輩ウィッチから喫煙を勧められてからだそうですよ、少佐」

 

「あーーー・・・先輩から勧められ喫煙を始めたのか、よくある話だな」

 

「その辺の事情はどこも変わらないのね・・・」

 

坂本少佐とミーナが「あるある」と頷く。

「先輩から勧められて喫煙を始めた」なんて話は【前世】からよくある話だ。

 

だけどこれが、ケモノ耳と尻尾を生やし、空を飛んで戦う魔法少女でも、

こうした生臭い話が絡むなんて、少し面白く、笑ってしまいそうだ。

ただし、エイラの喫煙についてそうせざるを得ない事情もあった。

 

「スオムスは白夜の季節になればほぼ丸1日昼間の様に明るくなり、

 殆ど寝る暇も無く戦う羽目になりますから、眠気覚ましと疲労を誤魔化すのに煙草が必要だったそうです。

 501に来て暫くは隠れて喫煙していましたけど、今はサーニャに嫌われるのが嫌で止めた、と本人が言ってました」

 

堂々と吸わずに隠れて吸っていたのも本人曰く、

「ウィッチ用の食堂や休憩所に灰皿がないので、部隊に定められた暗黙の規定を察したから」と言う辺り、

エイラは見てくれこそ二次元から飛び出たリアル美少女だけど気質は周囲の空気が読めるベテラン下士官そのものだ。

 

傍から見ればボンヤリしているミステリアスな美少女だけど、

10歳の時からずっと戦ってきただけあって「軍隊」の気風、阿吽の呼吸を知り尽くしている。

 

・・・おっと。

 

「2人とも、どうぞ」

 

二服目の喫煙を始めようとする2人に対してジッポを点火する。

「あら、ありがとう」「すまないな」と感謝の言葉を受ける。

 

「ふぅーーーー・・・。

 成る程、エイラさんにそんな事情があったなんて」

 

「流石、バルクホルンだな。

 ミーナと私では知り得ぬ隊員ことを把握できるとは」

 

仲良く1つの火種を分かち合った2人から称賛される。

金ピカの将軍閣下よりもずっと、嬉しい称賛だ。

 

「何てことありませんよ、

 エイラと一緒にサウナに入って雑談する最中に知った話です」

 

だけど、ワタシは昔から素直に誉められた時の受け止め方が下手くそだ。

この称賛は本来あるべき「彼女」が受けるべきだと思っているからだ。

だから今日も後ろめたさ、照れ臭さを誤魔化すようにパイプを吹かした。

 

「シャーリーさんは?」

 

「シャーリーについては地方(一般社会)にいた時から吸っていたそうだ、ミーナ。

 理由は単純明確、大人から女性らしくしろだの、あーだ、こーだ、と言われて反骨精神を拗らせたからだ、と言っていたな」

 

この世界では歴史の節目節目にウィッチが活躍し、

「ライト姉妹」のように社会と人類の進歩を助けた経緯から「史実」より女性の地位は高い。

だけど、それでも男女の性差はあるし大人が求める「女性らしさ」は今も昔も変わっていない。

 

「シャーリーは機械弄りが得意で、

 自身もバイクのレースに出場できる程の腕前なので、

 絶賛も多かったですが「女性らしくない」と難癖も相応にあったんだ」

 

同性からも叩かれたと聞いている。

ハッキリ言って八つ当たり、それと嫉妬だろう。

何せ唯でさえウィッチ、というだけでも同性から嫉妬の対象となりうる。

 

しかしシャーリーからすれば努力して得た結果であり、

何も行動せず、アレコレ言う連中なんてふざけた話であり、

「女性らしさ」とやらを押し付ける大人と女性に対し怒りを覚えて当然だ。

 

そして反抗心を拗らせた10代の少女がやる事なんて――――まあ、喫煙一択であった。

 

「・・・シャーリーらしい、

 と言えばらしいが、意外と苦労しているんだな、シャーリーも」

 

ぽつり、と坂本少佐が呟いた。

 

「出る杭は打たれる、

 どこも事情は同じかもしれませんね。

 ですが、今はルッキーニの面倒を見たり、

 自由にストライカーユニットを改造できたりと、

 楽しい事、好きな事が山程あるから、喫煙する暇なんてないと笑ってました」

 

自分のやりたい事、好きな事を見つけ、

それに向かって努力を惜しまない――――。

 

本当に羨ましい。

【前世】も含めて自分のやりたい事、好きな事が分からず、

軍人になってネウロイを叩き落とす事でようやく承認欲求を満たせた自分とは大違いだ。

 

まあ、いい。

どうせ自分はいつか戦死する。

最近は平和になった後の世界の行く末を見てみたい欲求があるけど、その道のりは未だ遠い。

 

それよりも「ストライクウィッチーズ」の主人公である宮藤芳佳を守り通す。

彼女さえ生きていれば、必ずネウロイを地上から殲滅してくれる、絶対にだ。

人類数十億の命運は彼女に掛かっていると言って良い、だから自分の命は捨てても元は十分取れる。

 

何も問題ない、そう何も。

それだけを生き甲斐に今日まで生きて来たのだから。

 

「トゥルーデ、少し顔が怖いわよ・・・?」

「ん・・・そうか、ミーナ?」

 

心配そうにミーナが自分を覗いている。

こんな時、どうすべきか分かっている。

 

「いや、隠さない方がいいか。

 シャーリーが羨ましいな、と思ったんだ、ミーナ。

 好きな事を見つけて、好きな事に邁進するシャーリーが。

 軍人になるしか道はなかったし、軍人であることにしか意義が見いだせない自分と違って」

 

【嘘は言っていないが、本当の事は言わず、道をずらす】これに限る。

こうして自分の気持ちを騙し、周りの人間を騙して来た、ずっとだ。

 

ミーナは優しい、ワタシが知る誰よりも優しく、強く、情を知る人物だ。

だから「宮藤芳佳を守り抜くために戦死しても問題ない」なんて事実を知って心配させたくない。

 

「幼い頃に親を亡くして、引き取られた遠縁の親戚は軍人貴族な家系だから、

 ウィッチとして軍人になるしかなかったし、将来の婚約まで周囲から言われていたから余計に、な」

 

気づいたら「ストライクウィッチーズ」のゲルトルート・バルクホルンに転生していた。

しかもクリスを除いて実の家族がトラックの事故で全滅していた、本当に訳が分からなかった。

おまけに引き取られた親戚が【あの】ゴトフリードなバルクホルンだったから当時気分はもう銀河猫状態だった。

 

そんなんだから、この世界は「ストライクウィッチーズ」ではなく、

バルクホルンをメインヒロインにしたや○夫スレか!?と昔は悩んでも仕方がない事を真剣に悩んだな。

 

「ごふぅ!!、げほ!げほげほ!!

 こ、婚約!?バ、ババババ・・・バルクホルン!それは本当か!!?」

 

坂本少佐が妙に狼狽している、解せぬ。

というか、ここまで慌てふためている姿なんて初めてかもしれない。

 

「けほ、けほ・・・あ、あのね、トゥルーデ。

 普通は驚くわよ、というより落ち着いている貴女の方が驚きよ」

 

ミーナまで言われてしまう、何故だ?

 

「『身寄りのないウィッチを養女として迎えて、一族の息子と結婚させる』なんてよくある話だろ、ミーナ?」

 

美少女で魔法が使えるウィッチには希少価値があり、社会的なステータスシンボルだ。

だから歴史上、身寄りのないウィッチを権力者が育てて一族に迎える、なんてことはよくあった。

 

ましてやユンカーだ。

華やかな宮殿文化で骨抜きにされた軟弱なガリア貴族と違って、

己の勇武、御恩と奉公が商売な武士の類だから強い血、太古の昔から戦場に立つウィッチの血統は絶対に必要だ。

 

「それに妾とか、家内労働者とかではなく周囲の扱いは正妻。

 しかも、士官学校に入れる程度に教育してくれたから、ワタシは運が良いよ」

 

本当に運が良かった。

いくらウィッチとして覚醒している。

と言ってもウィッチとして正しく力を制御する訓練が必要だった。

 

加えて社会常識、それに言語もしばらく怪しい状態だったから、

もう一度学びなおす必要があり、それら全てを丁寧に教えてくれた人たちに巡り合えたのは運が良かった。

 

しっかし、よもや自分が「あの」ゴトフリードのお嫁さん候補とは・・・。

おじさんは軍人貴族家系だからと言って、ワタシまで無理に軍人になる必要はないし、

ましてや「息子の結婚相手」なんて考えていなくて単に「可愛い娘が増えて嬉しい」というスタンスだったけど、

 

周囲の人間は尚武と勇武の一族に引き取られたウィッチなら、軍人になるのが当然。

そして、自分をサーベルタイガーと一緒に引き取られた某魔王の義姉のように見ていたし、そう扱おうとしていた。

 

昔はそう囃し立てる周囲の人間に色々思う所があったけど、

ネウロイ戦争で大半は戦死してしまったから、今は少し寂しい気持ちが勝る。

 

「トゥルーデ、貴女・・・・・・」

「バルクホルン・・・・・・」

 

等と少し回想してたけど、

何故か2人揃って泣きそうな顔でこっちを見ていた――――理由が分からない。

 

 

 

◇服の話

 

「しっかし、ゲルト。

 お前マジで自然に着こなせているな、扶桑の服」

 

しげしげと、ワタシを観察していたシャーリーが呟いた。

 

「宮藤からも言われたが、そう見えるのか?」

 

今の自分は少佐の銃剣道に付き合っていたので胴着と袴姿であるが、

以前からどういう訳か、異口同音に扶桑の装束が似合っていると言われている。

 

「見えるさ、ゲルト。

『服を着るだけ』なら誰だってできるけど、

『服に合わせた細かい仕草』なんて簡単じゃないぞ。

 おまけに慣れない服にも関わらずリラックスしているし、私には無理だぜ」

 

「・・・仕草、か」

 

まさか仕草とは、ね。

【前世】から転生してから少しの間は男女の違い、

肉体の大きさが違うから体の動かし方すら違和感を覚えて大変だった。

 

「ゲルトは大抵の事なら何だって出来るから、マジで尊敬するぜ」

 

「何でもは知らないさ。

 知っていることしかできないだけだよ、シャーリー」

 

誉めるシャーリーに対して、

リベリオン人のようにヤレヤレと大袈裟なポーズをした。

 

 

 

 

◇髪の話

 

「トゥルーデ、少し伸びたよね」

 

エーリカの部屋で片づけを終えた後。

2人でベッドに寝転がり、それぞれ好きな事をしていた最中にエーリカが言いだした。

 

「言われて見れば伸びたな、髪が」

 

Ta152のマニュアルから目を離し、

腰まで、とは行かないが相応に伸びた髪を摘まむ。

色々あって切るのを後回しにしていたけど、流石に切った方がよいだろう。

 

長い髪は暑いし、何よりも手入れが面倒くさい。

女性の髪は繊細だから【前世】のように頭をガシガシ洗って終了!とはいかない。

 

しかも乾かすのにも手間隙と労力を要求されている。

まったくもって面倒なのだ、長いとアレもコレもやらなきゃならない。

 

「んん、でもいっそこのまま伸ばしたら?

 トゥルーデの髪質って、少佐に似て湿度を帯びているから長髪も似合うと思うけど」

 

エーリカがワタシの髪を撫でつつ呟いた。

 

「長髪は手入れが面倒だぞ、エーリカ。

 しかも、この基地は常に潮風に晒されているから、余計に手間が掛かる。

 化粧なんてしたことがない少佐でも、髪については毎日手入れを欠かせていないんだ」

 

坂本少佐、といえば【原作】のズレた性格と行動から、

女性らしい身だしなみについて関心がないと思っていたけど、

髪の手入れはその仕草に色気すら覚える程丁寧にしていたから、初見は心臓が止まるかと思った。

 

「それに髪を伸ばすなら、エーリカが伸ばせばいいじゃないか。

 エーリカの金髪は秋の麦穂、金糸みたいに繊細で綺麗だから伸ばして損はない」

 

転生して初めて知ったが欧米人、

中でもドイツ人と言えば金髪!のイメージが強いけど、意外とそうではない。

大半は自分のような栗毛か、金髪であっても別の色が乗算された色合いをした人が多い。

真面目な話、エーリカのような綺麗な金髪とは銀髪と同じくらい結構レアな色なのだ。

 

「えぇー、ヤダし。

 私の髪質は乾燥気味だから、今でも手入れが面倒なんだよねー。

 あっ、これから毎朝トゥルーデが手入れしてくれるなら、伸ばしてもいいかも」

 

「自分で手入れしろ」

 

エーリカの髪を櫛で梳かしながら答える。

吾ながら酷い矛盾である。

 

この子はものぐさで、残念な言動と態度をしているが、

良いとこで育ったせいか自分で髪を手入れする時はちゃんと丁寧にする方である。

 

そういえばマルセイユも見かけに反して、髪の手入れは本当に丁寧だった。

 

性格、態度は生意気なクソガキそのもので、

煙草を一丁前に吹かそうとしてヤニクラで倒れたり、

深夜まで大騒ぎした挙げ句、飲み過ぎによる体調不良で出撃できなかったりと、兎に角問題児だった。

 

だけど、髪の手入れ。

その時だけは普段の唯我独尊な振る舞いは消え失せ、1人静かにゆっくりと手入れをしていた。

 

何せあの見た目で、あの長い髪だ。

それを静かに手入れしている姿は美しく、本当に綺麗だった――――。

 

「・・・今、ハンナの事、考えてたでしょ?」

 

過去の思い出に浸っていたらエーリカが鋭い一撃を放った。

背中しか見えないが「面白くない」という態度を全身から発している・・・なんでさ、というか。

 

「・・・何故、分かったんだ?」

「トゥルーデの雰囲気から『ハンナは可愛くて格好よかったなー』って感じだったし、分かるし」

 

顔を見ずに雰囲気だけで分かるなんてエスパーか!?

あ、そう言えば魔女か・・・。

 

「私、トゥルーデの事なら何でも知っているもんね~」

 

そう言うと、エーリカは鼻歌を歌い出した。

 

「かなわないなぁ・・・」

 

小さくても誰よりも聡い友人にワタシはお手上げするほかなかった。

 

 

 

 




【注意】これはあくまで、フィクションです。
    自分は如何なる場合でも未成年者の喫煙には反対します。

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