ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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今回MMDで挿絵を入れてみました。
好評ならば次回からも使って行きたいと思います。

使用MMDモデルは
・坂本少佐:ガンプラP
・金唐紙の部屋:yuduki
・スカイドーム


第5話「バルクホルンの憂鬱Ⅱ」

 

「む?」

 

ぼやけた視界にぼやけた思考。

当初は何も理解できなかったが両者は時間が経過するにつれて原因が判明する。

何でもない、ただ自分は執務室で書類仕事の途中で寝てしまったのだ。

 

「……まったく、私は書類仕事が苦手なんだがな」

 

黒髪の少女、坂本美緒が涎を拭きつつぼやいた。

しかも、机に寄りかかる形で寝ていたせいで体のあちこちが痛い。

寝ていたことも加え、かなり長い時間書類と睨めっこしていたせいか目がショボショボする。

 

眼帯を付けていない方の眼をこすり、顳顬を抑えて目の周囲の血行を良くしようとする。

本当なら、台所にいるだろう宮藤に温かいタオルでも準備してもらった方がいいが、そうはいかない。

 

横には山ほどに積まれた書類、これを何としてでも終わらさなければならない。

手早く済まさなければ午後のティータイムに間に合わないだけでなく残業になりかねない。

 

いくら下士官から佐官まで上り詰めた程実力があるとはいえ、

坂本美緒という人間は根本的に戦以外を知らぬ「もののふ」ゆえにとことん現場主義者で、こうした仕事には慣れていない。

ふと、ロンドンまで予算を分捕りに行ったミーナはいつもこんな仕事をしていることを思い出し感謝の念を送った。

 

「ふぁぁぁ」

 

今日は青海な空で降り注ぐ太陽がもたらす熱は温かい。

周囲に部下もいないことも加え、こうして欠伸をするくらい心地よい日だ。

 

「………………」

 

また意識が朦朧と仕出す。

いかんな、また寝てしまいそうだ。

等と隙だらけな思考を巡らせる程心地よい昼下がりだ。

 

「慣れない仕事はするものではないな―――いや、駄目だ給料分は働かなければ」

 

兵卒ならそれが許されたが、残念ながら佐官。

多くの特権が与えられると同時に給料以上の責任と義務を要求される階級にいる。

血税で養われている身なので、あまり長く休むことは坂本美緒の形成されて来た精神と主義に反する。

 

(では、手早く済ませて見せるか。)

 

決意を新たにして再度書類の山との戦闘を開始する。

内容は様々だ、補給品関係でも食料、武器弾薬、被服、資金と体系でき、

ここからさらに細かく分岐してゆき、分岐した後でもさらにその先と分岐してゆく。

 

組織とは常に連絡、報告が義務づけられているからそれこそトイレットペーパー1つまで報告書が提出される。

馬鹿らしいと考えてしまうが、それこそが公平で一定の法則に従った組織の存続の避けられぬ運命。

まして軍も国家の官僚組織の一種類にすぎず、記録を残す事に情熱を掲げる官僚組織は民間以上に書類に執着する。

よって、大量の書類の過半数はどうでもいい日常的業務の報告書が占める。

 

そして本当にトイレットペーパーの消費量について注意を促す書類が出てきて、坂本少佐はゲンナリした。

いくつものサインがなされ、年頃の少女ばかりの部隊にそんな書類をよこした連中の顔を想像する。

すると、50代のおじ様と結婚したというウィルマの夫が脳に映し出された。

 

「却下」

 

人の趣味嗜好はそれぞれだというがあまりよろしくない。

リネットには悪いが流石の自分でもその年の差はマズイと思うな、と坂本少佐は考えた。

結婚式で見た感じ、本人たちは嬉しそうだったが……なんと言うか周囲の空気は実に微妙であったのをよく覚えている。

 

「少佐ー書類できたよー」

 

などと回想している最中、外から二度ノック。

そいて聞こえた声で部屋にいた彼女側は注目をドアへと向ける。

 

「おう、入れ」

 

返答と共に開いたドアから人が滑るように入って来た。

 

「ちぃーす、こんにちわー」

「ふむ、シャーリーか。何の書類だ?」

 

書類をぷらぷらと手で振りながら部隊一のナイスバディが入室した。

 

「この間の戦闘報告書」

「ああ成る程、ご苦労」

 

書類を机に置く際に少し前かがみになり、

たわわに実った2つの果実が坂本少佐にこれでもかと強調する。

ペリーヌが見たら嫉妬と女性としての羨望で狂いそうな光景だ。

 

もっとも、このもののふは、

 

(でか過ぎると反って邪魔だな)

 

とまったく女性の思考が欠けた感想を抱いた。

そして、書類に書き忘れや書式が間違ってないか不備がないか簡単にチェックして言った。

 

「うむ、ご苦労。

 問題ない、後は好きにしていいぞ」

 

「了解ー」

 

いやー書類仕事は面倒だなー、

とボヤきつつシャーリーは部屋を後にした。

彼女が立ち去った後部屋に響く音は窓の外から響く海と風の声だけで、

他に雑音はなく、残された坂本少佐はポツリと呟いた。

 

「…………平和だな、」

 

 

【挿絵表示】

 

 

しかし、こんな平和な時間の間にも訓練は続けられている。

特に自分が連れてきた宮藤芳佳、そしてリネット・ビショップに対する訓練は、

バルクホルンの指導の下、徹底的に指導している最中である。

現に今は射撃訓練なのか、時折発砲音が窓の外から響いている。

 

(こうした時間が長ければ長いほど、訓練に割り当てることが出来るのだが)

 

数日も過ぎればネウロイが襲来する可能性が高い、

そのことを知っている坂本少佐は悔しげに顔をゆがめた。

 

規模によるが最悪彼女ら2人を連れて行くような事態になれば、

当然それだけ激戦となってベテラン勢がひよこっ子2人の面倒を見る暇がなくなり、

最悪の場合2人揃って二階級昇進、つまり戦死する可能性が高くなってしまう。

 

実戦は半年分の訓練に勝る。

という言葉があっても基本ができていなければ意味がない。

だが、その時間が圧倒的に足りないのが現状で、敬礼の仕方や軍人としてのマナーといった、

教育課程を飛ばしてひたすら訓練、さらに訓練、訓練漬けの日々を送らせているがなお足りない。

 

(何時もなら単機か少数のネウロイだから、

 2人が出撃するような事態は低いといえるが、万が一の事を思うと気になるな)

 

窓の向こうの蒼い空を見上げる。

あの空に飛んだのが11か12のころだっただろうか?

その時と場所は違い、遥々欧州までやってきたがそれでも空の色は変わらない。

 

当然のことだ。

しかし、人類とネウロイが戦う日々もまた変わらないのだろうか?

 

(私も随分と長い間戦ってきた。

 けどもうすぐ20歳だ、ウィッチとして戦えるのは良くてあと1年。

 最悪今年の間に魔法力の減退が始まって、飛べなくなってしまうかもしれない)

 

魔法が使えなくなるウィッチの寿命は古来より20歳だ。

ゆえに今年で19歳の坂本少佐に残された時間は僅か1年でしかない。

 

(……っ何を弱気になっているんだ!

 せめて宮藤が、あの宮藤博士の娘が一人前になるまで私は辞めるわけにはいかない!)

 

父親が既にこの世にいないことを知り、

泣き崩れ、そして真っ直ぐな瞳で戦場に立つことを決意した彼女、

宮藤芳佳をウィッチとして育て、導いていかなければいけない。

 

そして坂本少佐は呟いた。

 

「宮藤、私がウィッチとして寿命を迎えるその日までお前を守ろう。

 例え私がシールドが張れなくなり、わが身を犠牲にしても――――私はお前を守る」

 

自分以外誰もいない部屋で、坂本少佐は静かに決意を固めた。 

空は変わらず蒼く、夏の日差しが変わらぬある昼のことであった。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

ダン!やタン!ではなくズドン!

と腹まで響くようなひときわ大きな発砲音が蒼い海と空に轟く。

そして、立ち上る硝煙の香りが鼻を刺激させた刹那、双眼鏡越しに捉えていた目標に穴が開いた。

 

「命中、見事だリーネ」

 

距離は約800メートル。

目標の大きさは1メートル四方のもので、

これだけ離れていると、肉眼ではまったく見えない。

 

しかもだ、リーネが使用している銃器はボーイズ対戦車ライフル。

全長1.5メートル、重量は16キロと重たいことこの上ない代物で、

対戦車ライフルであるため、もしも人間に当たれば胴体が2つに割れること間違いないであろう。

なお、55口径(13.9ミリ)ゆえに反動も大きいが魔法力のおかげで伏射状態でバイポッドを立てずに撃てる。

 

「リネットさんすっごーい!あんな遠くの的を当てるなんて!」

 

隣にいる宮藤が率直な感想を述べる。

精々300メートル前後で射撃訓練を受けている彼女からすれば、

リーネのやり遂げたことは凄いことなのだろう、しかし。

 

「そんなこと、ないです」

 

リーネの反応は悪かった。

照れるより卑屈ゆえにしゅん、と獣耳と尻尾が下がった。

 

いつもならその可愛らしさと属性と相俟って

「ゴツイ銃器と美少女、しかも獣耳付きなんて萌えるなぁ!後でモフらせろ!」

と内心でワクテカするのだが……はぁ、やっぱりリーネのメンタルはあまり良くないないみたいだ。

 

「自虐する必要はないぞリーネ。

 その距離で当てるとなると流石のわたしでも難しいからな」

 

「そうだよ!リネットさん!私なんて今でも全然当たらないし!」

 

「……そう、ですか」

 

わたしと宮藤の2人が褒めるが本人は生返事である。

 

…まあ、仕方がないと言えば仕方がない。

訓練校から行き成り精鋭部隊へ配属され周囲に気圧され、

挙句自分より後から入った新人、宮藤芳佳は巨大なシールドを張って『赤城』を守り、

訓練初日からいきなり単独飛行に成功させたのだからこれで劣等感を刺激されないほうがおかしい。

【原作】でも、

 

「訓練もなしに行き成り飛べた宮藤さんとは違うの!」

 

と言った様に今わたしの横にいるこの主人公は元からチートで、

おまけに飲み込みが異様に早い、つまり確かにへっぽこな所があるが、それを改善させる力がやたらと高いのだ。

 

指揮官として即戦力として非常にありがたい人材であるが、

彼女らの仲間、戦友として考えると、特にリーネの心情を思うと実に難しいものだ。

 

「次、撃ちます」

 

と、そこまで考えたところで、

リーネがボルトを操作して空薬きょうを排出。

ピタリと頬を銃床につけて、すっと息を吸い全身の神経を集中させる。

何人も寄せ付けないその真剣な姿勢に、見ている宮藤が緊張する。

 

そして引き金に指をかけ、

余分な力を入れずに引き発砲。

腹の底まで響く強烈な音と白い硝煙が舞った。

 

「命中、ふむ、真ん中か。いいぞ」

 

成績は悪くない。

リーネの固有魔法『射撃強化』

で、弾丸に多くの魔力を帯びさせ、威力、

貫通力、有効射程を大幅に強化させているため、

むしろ良いほうで、射撃徽章を与えても良いくらいだ。

 

だが、問題はこれまで実戦でその実績を発揮できていないことである。

 

あれ以来色々アプローチを仕掛けてみたが全然駄目であった。

わたしはリーネより第一に年上であるし、上官でしかも軍人としてキャリアは遥かに長い。

向こうからすればいくらこちらからアプローチを仕掛けても気が引けてしまう。

 

同い年ならペリーヌ、エイラがいるが、

ペリーヌは階級が中尉である上に彼女自身ツンツンしている性格な上に、坂本少佐一筋である。

エイラもエイラで一応結構フォローしていたりするが、こちらはサーニャ一筋だ。

おまけに同じ階級の軍曹は宮藤以外いないと来た。

 

「……どうすればいいのやら」

 

なんというか、部下の扱いに悩む上司の気分だ。

ミーナは最悪戦死する前にリーネを部隊から外すことも検討しているが、

こうして悩まなく済むのならそれは恐らくベストな選択であろう。

 

しかし、彼女の性格のことだ。

もしもここから離れればリーネの自尊心が完全に折れる恐れがあり、

【原作】が成立しない云々よりも、今後の彼女の人生を思うと良心が痛む。

そして、その点についてはミーナ、坂本少佐でも一致した意見で頭を悩ましている。

 

だが、わたしは知っている。

彼女が変われる機会が間もなく訪れることに。

 

これまでのネウロイの習性を照らし合わせれば【原作】であった、

ネウロイが襲来し、リーネと宮藤が親友となるイベントが起こるであろう。

 

しかし、他者頼り。

それもよりにもよってネウロイ頼みとは、歯がゆい。

また前に『赤城』がネウロイの残骸で撃沈される寸前であったように、

【原作】知識は絶対ではなく、一瞬の油断が即座に死に繋がりかねない。

 

やれやれ、世の中うまくいかないことばかりだ……ん?

 

「ふぉ……!!」

 

横にいる宮藤が何か奇妙な声を出したので、思わず首を横に向ける。

わたしが見ていることにも気づかず、彼女はある一点をガン見していた。

 

わたしも視線を彼女の先に合わせ――――納得した。

リーネのたわわに実った横乳が撃つたびに揺れていたのである。

しかも地面にうつ伏せ状態であるから胸部装甲が地面で潰れてさらに大きく見えていた。

どうやらこの主人公の嗜好に【原作】と変わりがないようだ。

 

……というか、よく見つけたな、おい。

こっちはさっきまでシリアスにリーネの事で考えていたのに、なんだか気が抜けた気がする。

よし、そろそろリーネが全弾を撃ち尽くすし、気分転換もかねて休憩でもするか。

 

「命中だ、よしこれより休憩に入る!」

 

リーネとミーナと話ながらまた考えよう。

 

 

 


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