ヴァルハラの乙女   作:第三帝国

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「衝号抜きの太平洋戦争」の第23話が3月21日に更新しました。
ネタの書き込み45の843に連載しております。
ぜひ見てください。


第8話「変化」

 

「ネウロイ1が真っ直ぐ、ここ501の基地を目指して進撃しています」

 

ミーナの言葉にやや場がざわめく。

緊張に周囲が走るが顔色を変えないミーナ、

そしてその隣で鞘に入れたままの扶桑刀を床に突き立て屹然と立つ坂本少佐。

2人の様子を見た501の隊員一同の動揺は収まった。

 

「今回は宮藤さん、リネットさんがいるので編成を少し変えます。

 坂本少佐率いる部隊は出撃、私が率いる部隊は予備として基地で待機します。少佐、説明を」

 

「指揮官は私、坂本美緒。前衛はバルクホルンとエーリカ。

 後衛はシャーリーとルッキーニ、ペリーヌが私の直衛に着いてもらう」

 

「私、エイラさん、宮藤さん、リネットさんは待機室で待機します。

 何か質問は――――ないわね、では出撃組は坂本少佐の指揮に従い速やかに出撃してください」

 

一斉に起立、そして敬礼と共に了解!と声が響く。

待機組を置いてゆく形で出撃組は駆け足で格納庫へと走った。

 

「おう、ルッキーニ、ペリーヌ。競争しようぜ!」

「いいよ!シャーリー!」

「…別にわたくしは自分のペースで走りますわ」

 

廊下を駆け抜けつつシャーリーがルッキーニ、

ペリーヌに競争を持ちかけた、ルッキーニは乗り気であるが、

金髪金眼の少女、ペリーヌ・クロステルマンはそんな2人を呆れ気味に答え、拒絶する。

そんな態度に悪戯スイッチが入ったシャーリーは、悪い笑みを浮かべてルッキーニに話しかけた。

 

「ノリが悪いなー残念だぜ。どうやら残念なのは胸だけじゃないようだぜルッキーニ」

「ペリーヌは胸が残念賞だから空気抵抗が無いのにねー、残念だねー」

「な、なんですってええええーー!?」

 

ドヤ顔で自らの胸を揺らしたところで、

ペリーヌの頭の何かが弾け、米神に青筋を立てシャッキーニのコンビを追いかける。

 

対して追いかけられる側は釣れた釣れた、と喜びながら追いかけられる。

そんな風にぎゃあぎゃあ言い争いながら駆け抜けてゆく3人とは違い、エーリカ・ハルトマンは眠たげであった。

 

「あーもう、うるさーい。眠いーお腹すいたー」

 

走りながら大きな欠伸を漏らす。

起きることが極端に弱い彼女からすれば早朝に警報でたたき起こされ、

朝食を食べる暇も無く、こうして走らされることは苦行に等しいものであった。

 

「エーリカは何時もそうだな…これを後で食べろ」

「わぁ、さっすがトゥルーデ!ありがとうー!」

 

そんなエーリカを見て「またか」

と口にしつつも、隣で走っていたバルクホルンが乾パンとチョコレートを差し出した。

 

エーリカは歓喜し戦友であるバルクホルンに感謝の言葉を口にする。

もっとも、バルクホルンの後で食べろという忠告は聞かずに早速乾パンとチョコレートを頬張った。

 

「走りながら食うなんて子供か?」

「ピチピチの16歳の子供だもん!」

「そうだな」

 

エーリカの反応に苦笑交じりバルクホルンは同意を示した。

しかし、エーリカは直後長年の戦友が物思いにふけたため息を吐いた瞬間を見逃さなかった。

 

それが、いつも戦場に行く前の緊張とはまた違うとエーリカは感じた。

直感が戦友が何かを隠している気がして、気付けば口を開いた。

 

「どうしたの、そんな憂鬱そうな顔をして?」

「わかるのか?」

 

眼を見開きバルクホルンが少し驚いたように答える。

 

「もう何年一緒に過ごしているから、

 そのくらいわかるよ、それこそミーナやトゥルーデの生理の周期も分かっているし」

 

「そりゃどうも、最後のは余計だけど」

 

一体いつ知ったのだか、バルクホルンは呟く。

 

「でさ、トゥルーデは何に悩んでいるの?」

 

エーリカが問う。

その問いかけにバルクホルンはやや間を空けてから答えた。

 

「…ネウロイの動きが少し気になってな、」

「ネウロイの動き?確かに直接ここに来るなんて珍しいけど、気になるの?」

 

ネウロイは夜襲や朝駆けこそしてくるが、

意図した戦術戦略は行動は基本とらず、ごくまれに迂回する程度である。

基本は質と量に物を言わせた蹂躙戦で、ブリタニアでの戦いは大型ネウロイが散発的に襲撃する程度だ。

 

「まあ、な。もしかするとこのネウロイは囮でないかと考えたからさ」

「囮?ネウロイが?トゥルーデは心配性だね」

 

そして、今回は毎度標的にされるロンドンではなく、

ここ501の基地を目指している点は確かに珍しいが深く考えることは無い。

というのがエーリカの意見である、なぜならたかが大型ネウロイ1機ならたどり着く前に叩き落すことが可能であるからだ。

 

その言葉に「そうだな、」と再度バルクホルンは口にした。

エーリカは戦友は未だ納得しておらず、戦友の態度から説明できない違和感を感じ取る。

そう、まるで自分だけが未来を知っていると言いたげな態度であった。

 

(私も考えすぎかな?)

 

より正確に言えば考えすぎ、

というよりそれは妄想の類だとエーリカは思った。

確かにゲルトルート・バルクホルンは昔から周囲とは何か違っていたが、それだけだ。

 

仮に戦友が自分とは違う存在であったとしても、

エーリカ・ハルトマンにとってバルクホルンは戦友であることに変わりない。

 

だから、これは考えすぎ。

そして問題などまったくない、それがエーリカ・ハルトマンが出した結論であった。

 

 

 

※  ※  ※

 

 

 

 

5人の少女と共に空を飛んでいる。

魔法力の保護があるとはいえ高度が高いためやや肌寒く、昇りたての朝日が眩しい。

 

時刻が約6時半と早めの時間ということもあるが、

出撃前にペリーヌと騒いで疲れたルッキーニ、朝が弱いエーリカなどは欠伸や眼を擦るなど睡魔と格闘している。

 

「……どう考えても妙だ」

 

現在坂本少佐の指揮下でネウロイに向かっており、その編成は【原作】と変わらない。

変わっている点といえば宮藤芳佳、リネット・ビショップの2人が始めから待機することになった点だ。

これは、わたしがいざと言う時には2人を出撃することを強く主張した影響である。

 

そこまではいい。

しかし、問題は【原作】では囮であるはずのネウロイの航路が違うことだ。

通常はロンドンを狙って来る航路をネウロイは通るのだが今回は501の基地へ真っ直ぐ向かってきている。

 

このネウロイが囮かもしれないとエーリカに言ったが、

考えすぎと言われたように、周囲を説得可能な材料はなく結果【原作】同様の編成で出撃した。

 

あるいは、もしかすると今自分が向かっているネウロイは囮ではなく、

【原作】では本命であったネウロイが始めからこっちに来ているのかもしれない。

 

だとすれば、見つけ次第即座に撃墜してしまえば何も問題ないが、

問題はそのネウロイは本体から分離、高速で離脱することが可能で取り逃がす危険性がある。

最大速度がどれだけ出るのか分からないが、【原作】のシーンを見ると時速800キロは出ていた気がする。

 

「まずいな。いや、待てよ」

 

となれば、それこそシャーリー位しか追いつけない。

しかし、逆に考えるとミーナ、エイラの2人だけで対応したのとは違い、

ここでは坂本少佐、ペリーヌ、シャーリー、ルッキーニ、わたし、エーリカの6人がいる。

 

加速する前に撃墜すれば問題ない。

そう、ここで撃墜してしまえば何も問題ない。

だから、今は今出来ることに集中しよう。

 

「こちら坂本少佐、間もなくネウロイと接触するはずだから、各隊員は周囲への警戒を怠らないように」

 

インカムから坂本少佐の指示が届くと全員周囲に視線を動かす。

誰も私語を発せず、戦場の緊張した空気がしばらく流れる。

10分ほどだろうか、先頭で魔眼で捜索していた坂本少佐が叫んだ。

 

「見えた!前方11時の方向、高度1500にネウロイだ!」

 

その言葉に釣られ、わたしもその方角に視線を向ける。

――――たしかにいた、【原作】では本命であったネウロイの姿が。

【原作】から乖離した事実をこの瞬間、わたしは目撃することとなった。

 

くそ、そういうことか!?

 

「前衛のバルクホルン、ハルトマンは突撃しろ、

 後衛のシャーリー、ルッキーニはネウロイ前方に回り込め!」

 

だが、それでやることは変わらない。

坂本少佐の命令が下ると考えるよりも早く体が動いた。

 

魔力をユニットに注ぎ込み全速で降下、

MG151を構え照準にたっぷり収まる距離まで詰めてゆく。

ネウロイは直前になって、ようやくこちらに気付いたが、遅い。

 

わたしとエーリカがネウロイと交差する寸前に息を止め、引き金をゆっくりと引いた

そして、マズルフラッシュに肩に強い反動、発射音の爆音が耳に響いた。

 

MG151は口径が20ミリと大きく、

しかも連装ゆえに反動も酷い物であったが魔力で強化された筋力はしっかりと反動を抑えていた。

 

数発に一発の割合である曳光弾が光のシャワーとなりネウロイの背後に降り注ぐ。

低空、そして奇襲の一撃ゆえに鉛弾のシャワーは数秒しか用意できなかったネウロイに打撃を与えたらしく、金属を引きずったような悲鳴を挙げた

 

さらに再度攻撃態勢に映るべく緩やかに旋回しつつ上昇。

首を後ろに回して様子をみると、シャーリー、ルッキーニが回り込んで逃げ道をふさぎ、

坂本少佐、ペリーヌがネウロイに追従する形で攻撃をしかけており、ネウロイは一方的にボコボコにされている。

 

このままここで撃墜可能か?

一瞬、そんな言葉が頭に思い浮かんだが、

 

『くそ、このネウロイは足が速い!』

 

インカムから少佐の悔しげな音声がもれる。

確かに今はネウロイをうまく叩いているがまだまだ飛んでおり、

しかも、高度が海面ギリギリまで降下したため下方からの攻撃は難しく速度が速いせいで徐々に離されている。

 

「エーリカ!もう一度いくぞ!」

 

このままではいけない。

そう思い、再度ネウロイを叩くべく降下、斜め後方から銃弾を浴びせる。

標的が大きいゆえに面白いように当たるがまだ落ちず、低空のため外れた弾が海面に水柱を作る。

苦手な海水を浴びたせいか、ややよろけるがそれでも飛び続けている。

 

ここまで叩いてもコアはまだ露出しておらず、

それどころか速度はさらに加速しており取り逃がす可能性と、

コアを破壊しない限り再生するため内心で苛立ちと焦りを覚えたが、

ネウロイを通り過ぎて後ろを振り返った瞬間、ネウロイは頭から海面に突っ込んだ。

 

「コアを破壊しないで堕ちた!?」

 

エーリカが驚く。

わたしも一瞬何が起こったのか分からなかったが、これは好機であった。

ネウロイが必死に空に浮かび上がろうとしているが、苦手な海に漬かったせいで海面に浮かぶだけで手一杯だ。

 

『いや、だいぶダメージを受けたから堕ちたのだろう、

 よくやってくれたバルクホルン、エーリカ。よし皆、ネウロイは浮いているだけだ。全員攻撃!』

 

それが合図となり、

身動きが出来ないネウロイにわたし達は容赦なく銃火を浴びせた。

命中するたびに連続して白い結晶のような物が飛び散り、ネウロイが悲鳴を轟かす。

 

そして、一瞬ネウロイから赤い宝石のようなもの、コアが露出。

わたしがコアの存在を認知した瞬間、誰かが放った弾が当たりネウロイは砕け、崩壊した。

懸念事項の実にあっけない最後であった。

 

「これで……」

 

これで終わりだ。

後は新手がこない限り帰るだけだ。

 

『なんだって……っ!』

 

しかし、インカムを抑えた坂本少佐が驚きの声を挙げた。

いやな予感が走る、可能性としては一度考えた可能性が思い浮かぶ。

 

『皆聞いてくれ、基地にネウロイが来ている……ミーナ達が迎撃のため間もなく接敵するようだ』

 

そう、そもそも「囮」はおらず、どちらも本命という可能性を。

【原作】からさらにずれた事をわたしは悟った。

 

 

 


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