夏フェスの翌日の午前8時、346本社の別館前に数名のアイドルが集まっていた。
アイドル部門の事務員が運転するロケバスが、そろそろ到着するはずだからだ。
伊豆の保養所まで約二時間半のクルマ旅だ。
ちなみにこの一週間の間、事務員が交代で毎日ロケバスを走らせる。
朝8時半に346本社発、夕方16時保養所発だ。10時間以上の勤務になるが、昼間の時間は自由時間になり海で遊ぶことも許可されている。
それ故に大型免許持ちの事務員で、くじ引きが行われた程の人気だった。
「みなさーん。クルマが来るまで、まだ時間がありますから、日に当たり過ぎないようにしましょうねー」
別館の入り口から、高垣楓が駐車場に居るアイドルたちに声を掛けた。
初日出発組の中で最年長という事で、下の子達を気にかけているのだろう。……ダジャレを言いたかっただけでは無いと思いたい。
「はーいっ☆ みりあちゃん、一回中にもどろっか」
楓の声掛けで、駐車場ではしゃいでいた城ヶ崎莉嘉と赤城みりあが建物の中へと戻って来た。
「アイドルなんだから、日焼けにも気を付けなきゃダメよ」
「はしゃぎたくなる気持ちはわかるけどね」
戻ってきた二人に奏が軽く注意すると、二人を見て加蓮が笑いながら話した。
「海ですからねぇ。私も上京してきてから、初めてなので楽しみですよぅ」
「うちもこっちの海は初めてどすなぁ」
冷房の利いた別館の中では十時愛梨と小早川紗枝の二人が、関東の海は初めてだと話していた。
アイドルやってるとプライベートで海水浴に行くのは、なかなか大変だろうしなぁ。
「あっ、あれじゃない? 荷物持っていくよーっ★」
美嘉が指さした方からやって来たのはメイク台とトイレ付きのロケバスだ。……持っていくよーじゃなくて、来るまで待っていなさい!
運転席を除いて最大12人まで乗り込むことが出来るので、ここに居る全員が乗ることが出来る。……そのうち6席はメイク台前のベンチシートなので、乗り心地は良くないんだよな。
トイレ付きじゃない方のロケバスなら、補助席無しで15人乗れるのだから、そちらにすればよかったのになぁ。何故こっちを選んだのか……
ロケバスが別館の前で止まると、運転席から千川ちひろが降りて来た。
「皆さんお待たせしました。荷物は後ろの荷物置き場に入れてくださいね」
ちひろが後部にある荷物置き場のバックドアを開けてから、別館の入り口に移動してきた。
入れ替わるように、さっそくと言わんばかりに荷物を運び入れるアイドルたち。
「ちひろさん、お疲れ様です」
「ちっひー、お疲れー」
そんなアイドルたちを横目に、ちひろを俺と楓さんが労いの声で迎える。
「ありがとうございます。……まぁ疲れるのはこれからなんですけどね。――って二人足りないですね。夕美ちゃんと藍子ちゃんは、まだ来ていませんか?」
ここに居るのが全員ではなかったのか。そうなると――
俺、楓さん、愛梨さん、奏、加蓮、城ヶ崎姉妹、紗枝ちゃん、みりあに夕美さんと藍子で11人か。
うん、補助席使わない座席数ぴったりだね! って、ぴったりだと余裕が無くて辛いんですけど!!
「えぇ、まだ見てません……でしたが、来たようですよ」
楓さんの視線の先を見ると、二人が話しながらこちらに向かって来ていた。
「すいません。中庭の花壇の世話をしていたら、ギリギリの時間になってしまって」
「早めに来てはいたんですけどねー」
「まだ時間前ですから大丈夫ですよ」
どうやら二人は中庭の花壇に居たらしい。
花の世話をする夕美さんと、それを手伝う藍子か……。うん、ほのぼのとしていて良いね。
「全員が揃いましたから、荷物を積み終えたら出発しますよー」
ロケバスに向かうちひろに続いて、荷物をもってついていく。楓さんと後から来た二人も一緒だ。
四人の荷物も積み込み終わり、ロケバスの助手席に乗り込もうとしたら奏に腕を掴まれた。
「純、あなたはこっちよ」
「それでは助手席には私が乗りますね。ちひろさんよろしくお願いします」
奏に捕まった俺を見た楓さんが、さっさと助手席に乗り込んでしまった。
後ろよりは助手席の方が楽だし、アイドルたちで固まって欲しかったなぁ。
後部座席に行くと、向かい合わせの座席にみりあと莉嘉が並んで座っていて、その向かいの席には美嘉と夕美さんが座っていた。
横を通り過ぎる時に夕美さんが小さな声で「こっちは任せておいて」と、ウィンクしながら言ってくれた。
夕美さんなら元気な下の二人が騒ぐのを、上手く宥めてくれるだろう。
メイク台前のベンチシートの手前側には加蓮が座っていて、他の3人は立ったままだった。
奏が俺の腕を持ったまま手前のベンチシートに腰を下ろすと、必然俺もそのベンチシートに座る事になる。加蓮、俺、奏の順番だ。
「あー、奏ちゃんずるいですよぅ!」
「ごめんなさいね。途中の休憩時にかわりますから」
「奏はん、ほんまどすね?」
愛梨さんと紗枝ちゃんが不満みたいだったが、休憩するタイミングで席を替えると言ったら素直に引き下がってくれた。
出発前からギスギスした雰囲気にならなくて良かったよ。
「今日の奏はちょっと強引だねー、何時もの余裕が無いように見えるけど?」
「そうね。……そうかもしれないわね。独占するつもりは無いのだけれど、花束がどんどん大きく豪華になっていくのを見ていたら…………つい……ね……」
「あー、奏は高3だから心配になってきちゃったんだ」
「小母様は太鼓判を押してくれたのだけれど、本人をその気にさせないとね……」
「あぁ、そうだよね……」
俺を挟んで話していたかと思うと、二人して体を前に傾けて俺の顔を覗き込んできた。
二人とも小さいころからの知り合いだし、中学の頃から好意を向けられているのには気が付いているけどね。
……やはり18歳未満には手を出せんのですよ。
その後はSAに着くまで会話をする事も無く、黙ったままだった。……両腕をそれぞれに取られて肩に頭を預けられていたので、身動きが出来無くて辛かったです。
SAで軽く休憩したあとは、奥のベンチシートで愛梨さんと紗枝ちゃんに挟まれました。
愛梨さんは3月の卒業&大学合格祝いの温泉で関係持った後は、さらに積極的になった気がする。
去年まではアピールするくらいで、こうやって隣に座るような事は無かったんだけどな。GWの温泉にも仕事終わった後に来たくらいだし。それは瑞樹さんも一緒だったけど。
「――純にぃはん、聞いてます?」
「あぁ、ごめんちょっと考え事していたよ」
「もう、これやさかい……。どうしたら純にぃはんに手ぇ出してもらえるんどすか? って話どす」
紗枝ちゃんは可愛いし大和撫子って感じで好みなんだけど、まだ高1だしなぁ……。
前世だったら高校生カップルって事で手を出していたかもしれないけど、やはり後2年半待ってもらおう。それまでは悪いけど、アーニャと一緒に妹・後輩枠だな。
「やっぱし胸どすか? 80あらへんとだめどすか? 後2㎝大きなるかなぁ」
紗枝ちゃんを見たら、胸を見たのかと勘違いされてしまったようだ。身長差から斜め下に視線が行っただけなんだけど。
だけど、今まで関係を持った温泉組はというと――
バイトする前から関係があった楓さん81㎝、瑞樹さん87㎝、美優さん85㎝、うさみん84㎝で……
去年春のスカウト組で夏の旅行で関係を持った、美波さんが82㎝でふみふみが84㎝だっけか。
で、今年の春の大学合格お祝い組の、愛梨さんが86㎝と夕美さんの81㎝か……
うん、見事に全員80超えているね! いや、だからって大きくないとダメとかないよ? そもそも温泉組は叔母さんが気に入ったアイドルだけだから、叔母さんの好みがって話になるぞ!?
それにしても紗枝ちゃんは78だったのか、和服だと判り辛いな!
渋滞に巻き込まれる事も無く、無事に346の保養所に着いた。
で、ドアから駐車場に降りたのだけど……
「ニャハハハ、みんな遅かったね~。シキちゃん、待ちくたびれちゃったよー」
「しるぶぷれー。ジュンのフレちゃんだよー。昨日ぶりかな? かな~?」
何でこの二人が居るんですかね?
荷物置き場のバックドアを開けに来たちひろを見ると「フレデリカちゃんと志希ちゃんのお二人も、送りは不要で本日から参加希望が出ていましたよ」と二人を見て言ったのだった。
「初日ですから、まずは自分が使う部屋を確認してください。軽くでも良いので掃除してくださいね。遊ぶのは午後からですよ」
ちひろの言葉に従い、アイドルたちは荷物を持って保養所の中へと入っていった。
俺も自分が使う部屋を確認して、掃除しないとな。もちろんの事だが男は俺一人なので、一人部屋だから自分でやらないといけないし。
あてがわれた部屋は8畳の和室だった。下手にベッドを置くと使用人数が固定されてしまうから、この部屋だけでなく寝室は全て和室らしい。
掃除機をかけ終わった所で楓さんが部屋へとやって来た。
「あら、この部屋はエアコン付いてるんですね。夜にお邪魔しちゃおうかしら」
「楓さんの部屋にはなかったんですか?」
「私たちの部屋はどこも付いてませんでしたね。ですから、襖を取り払って大部屋にしちゃいました。――そして、リビングから扇風機で冷風を送り込んでるんですよ」
楽しそうに笑いながら話しているけど……。大事なアイドルたちが泊まる部屋に、エアコンが無いとか正気か346プロ!?
「……純君、本当に参加して良かったんですか?」
突然真面目な雰囲気でどうしたのだろうか……。アイドルたちに混じって参加したらまずかったのかな? でも叔母さんは自己責任で、参加しても構わないって言ってたしな。
「お風呂、1つしかないんですよ?」
「……あっ!」
会社の保養所だからてっきり別にあるかと思ってたが、346プロって設立以降100%女性社員じゃないか。そんな会社の保養所に男性専用施設なんて有るわけないわな……。
「えっと、使用時間を分けるとか?」
「じゅん君は自分の残り湯をアイドルに使わせるのと、アイドルの残り湯を使うの、どちらが好みですかぁ?」
ちょ、愛梨さん、いきなり現れて何言ってんのっ!!
「ふふっ愛梨ちゃん、純君は一緒に入るのが一番好きだと思いますよ」
楓さんもっ! 否定はできないけどさぁ……
「分けたとしても、聞かずに突撃しそうな子も居ますし。……普通の浴場のように、お触り禁止で妥協しますか?」
「そ、それでお願いします」
この世界の公衆浴場や温泉宿も通常混浴施設で、俺的には御褒美だからなー。
「興奮して我慢できなくなったらぁ、私たちに言ってくださいねぇ」
流石に保養所ではやらないよ!?
ついに温泉組が(作者の中で)確定しました!
関係を持ったアイドルの胸の大きさを覚えている主人公(笑)
メイク台とトイレ付きのロケバスについては下記URL参照
ttp://www.yata-bus.com/makeup_salon.html
楓さんの言う扇風機はサーキュレーターですね。
たぶん35cmのやつが数台