新年最初の更新はこの作品から!
年明け元日の346プロは何時にも増して華やかだ。
艶やかな着物を着込んだ女性たちで溢れている。
正月の特番にはタレントさんたちは勿論だが、普段はTV番組に出ない女優さんやモデルさんたちも出演するからね。
アイドルたちだって例外じゃない。深夜に仕事のできない未成年組たちが朝から振り袖姿でやって来ている。特に寮住まいのアイドルは一緒に来たから凄い事になっていた。
寮には紗枝ちゃん、あずきちゃん、歌鈴と普段から和装慣れをしていて着付け出来る子がいるからな。いや、歌鈴だけは実家の神社に戻ってるんだったか、正月だから忙しいのだろうな。
何で俺が此処にいるのかというと、リフレッシュルームで年越しをしたからだ。
楓さんや瑞樹さんは年越し番組に出ていたし、叔母さんも万一に備えて事務室で待機していた。それに他にも大晦日から年越しの生特番に出ていたアイドル、二年参りや元朝参りに行くアイドルたちが大勢いたからね。家で一人で年越しをするのは寂しかったし。
奏が受験合格祈願に行くので付いて行こうかと思ったが、トラブルになりそうだからと断られた。男ってだけで去年の初詣ででも目立ったのに、配信に出て有名になってしまったからね。代々木八幡宮まで近いとはいえ、人込みの中では逸れてる可能性もあるから仕方ないか。
「純、あーん」
「あーん――うん。美味しいけど、何で八つ橋?」
「正月は和食やん? シューコちゃんちの正月限定品だよ」
実家が老舗和菓子屋の一人娘である塩見周子。食べるのは好きでも作る方はダメだったようで、職人修行は諦めたとの事。
「和食と和菓子は別物なのでは? それにシューコはんは年中和菓子食べてるじゃん。そして今は餅つき大会の最中だよ?」
346本社前で行われている餅つき大会。
TVの生放送中に中継も行われていて、346に所属する様々な部門の人たちが餅をついては振舞っている。
明治神宮や代々木八幡宮に初詣した人が流れてくるのと、346の芸能人を見に来るファンと一般人が一日中訪れるんだ。ここ数年では『〇時くらいから餅つきに参加します』とSNSに発信する人も居るので、その時間に合わせてくるファンも居るようだ。
「まったく、シューコはんは――純にぃはんはお雑煮とお汁粉、どちらがええどすか?」
「シキちゃんはおっしるこ~♪」
「フレちゃんもだよ~♪」
つきたてのお餅を持ってきた紗枝ちゃんの言葉に、志希にゃんとフレちゃんが答えた。いや紗枝ちゃんは俺に聞いたんだからね? 君たちは自分たちで行ってきなさいよ。
「いっぱい貰ってきたから、みんなの分あるよ★」
「純の分も! って言ったら、楓さんが山盛りにしちゃったんだよ☆」
城ヶ崎姉妹が盆に盛られたお餅を見せてきた。……数十個はあるね。一人2~3個食べるにしても、何人分有るんだこれ?
楓さんは今餅つきに行っているのか。年越し番組の後に仮眠を取ったとはいえ、トップアイドルも大変だ。
「俺は雑煮で、餅は2つでお願いして良いかな?」
俺の答えを待っていた紗枝ちゃんにお願いをすると「ほな、作ってくるなぁ」と言って給湯室へ移動していった。
その後戻ってきたちびっ子アイドルたちも自分のお餅を持って給湯室へ向かって行く。そこのコンロに雑煮と汁粉の鍋が有るんだろうな。
紗枝ちゃん、美嘉、莉嘉の3人が其々椀を2つ持って戻ってきた。
「にぃはん、熱いさかい気ぃ付けてや」
紗枝ちゃんは俺に雑煮の椀を渡すと隣の席に腰を下ろした。シューコはんが美嘉から汁粉を受け取りに立った隙を突いた早業だった。
「お紗枝はん、そこシューコちゃんの席だったんだけどなー?」
向かい合った3人掛けのソファー2つのうち片方は俺に紗枝ちゃんと志希にゃんで埋まっている。もう片方にはフレちゃんと莉嘉が座っている。
「もう1つ空いてますえ?」
フレちゃんの横のスペースを見て紗枝ちゃんが言う。どうやら譲る気は無いようだ。
その様子を見て諦めたようにシューコはんが座ると、お重と自分の椀を持って美嘉が再度やって来た。
「あれっ、アタシの席は!?」
うん、ここは全部埋まってしまっているね。ちみっ子達も別のテーブルで食べ始めているしな。
そして誰も答えないので諦めたのか、ローテーブルに重と椀を置くと近くの椅子を持ってきた。
そして気を取り直してお重の蓋を取って見せた。1段なのにお重とはこれ如何に?
中には黒豆に金団、伊達巻に……と、おせち料理が詰まっていた。
「お姉ちゃんが一人で三日かけて作ったんだよっ」
美嘉が一人でこれだけ作ったのか。焼き物はともかく煮物が多く時間もかかっただろうに。
「どう? 4か月の修行の成果だよっ★」
俺に向かってそう言う美嘉はドヤ顔であった。
夏のあの日から頑張ってきた成果か。
何品か食べてみたけど美味しかったから、そのドヤ顔も今は許せそうだ。
お昼近くになった時に幸子がやって来た。
「フフーン。どうですか、ボクの振り袖姿は? ただでさえカワイイボクが更にカワイクなってしまいましたよね!」
俺の目の前でポーズを取って見せる幸子。
山梨からその着物姿でやって来たのか。2時間かかるうえに着崩れても治せないだろうに……
「あれ、幸子ちゃん振り袖で来たんだ。大変なのに頑張ったね!」
少し離れた場所に居た友紀さんが寄ってきて幸子に話しかけた。
「友紀さんこそ何で着物じゃないんですか? 今日は着物でお仕事ってプロデューサさんが言ってましたよね?」
「幸子はん。お仕事は衣装の着物さかい、私物ちゃうどすえ?」
「……へっ?」
紗枝ちゃんの言葉に幸子の顔が固まった。
何故自前の着物だと思い込んだのか? 普段の仕事でも私服でなんて無い……あぁ
「着崩さないように頑張ってきたんですけど……?」
「ほな、行って来るなぁ」
茫然と呟く幸子を二人が両側から腕を取り仕事へと向かって行った。
正月の生放送だからドッキリは無いだろうし頑張れ! 番組欄も普通の内容だからな。……346とはいえ、番組欄自体がドッキリなんて事は無いよな?
「あー、疲れたぁ!!」
仕事向かった3人と入れ替わるようにやって来たのは、早朝に出発していった元朝参り組だ。そして帰って来るなり叫んだのは神谷奈緒。
「もう、奈緒が代々木八幡宮に行きたいだなんて言うからっ」
「加蓮こそ明治神宮に行くってきかなかっただろっ!」
言い合う二人を、一緒に行ったかな子と
「どっちも歩いて行ける距離ですからね」
「結局両方に行く事になっちゃいまして……」
加蓮と奈緒の意見が割れた結果、両方に行く事になってこの時間までかかったと。
巻き込まれた二人は災難だったな。……もしかして、これに巻き込まれないように奏は二年参りに行ったとか? そういや凛もそれに付いて行ったしな。普段ならうーちゃんや加蓮と一緒なのに……
「お疲れ様、お汁粉の準備出来てるから食べてね。はい、かな子ちゃんと卯月ちゃんの分」
「わぁ、藍子ちゃんありがとう♪」
「藍子ちゃん。ありがとうございます」
初詣には行かずに346プロに残っていた藍子が、二人に話しかけてお汁粉を渡していた。
藍子は人込みとか苦手そうだもんな。
「奈緒ちゃんと加蓮ちゃんも夕方まで仮眠するんでしょ? 朝から何も食べてないんだから、お汁粉食べてね」
給湯室へ行って戻ってきた藍子が、まだ言い合いを続けていた二人にもお汁粉を渡す。
仮眠前なのを分かっていながら、雑煮じゃなくて汁粉をチョイスして渡すのか。
かな子は「美味しいから大丈夫だよ」で済ますだろうけど、他の3人は……? 疲れたからか甘い物が良いようでそのまま食べていたね。
外が暗くなった18時過ぎ、俺が今日一番会いたかった人がやって来た。
「明けましておめでとう、そして誕生日おめでとう、茄子さん」
一富士二鷹三茄子。“なすび”でなく“かこ”だけど、名前に全てが含まれていて、元日生まれ。それに本人も幸運体質と、元日の今日に会いたい人No1の鷹富士茄子さんだ。
「明けましておめでとうございます。そして、ありがとうございます、純君。お礼に今年幸運に恵まれるように、おまじないしてあげますねー」
そう言うと俺の頭を豊満な胸に抱え込んだ。
――これはもう1年の幸運を使い果たしてしまったかもしれないな!!
「
俺の服をクイッと引っ張るのは
「あぁ。神様に願うよりは、この二人を拝んだ方が御利益あるかもね」
誰かが零したこの言葉に、この場にいた全員が二人に向かって拝み始めた。
「大丈夫ですよー、きっとみんな良い一年になりますからねー」
「良き一年になるのでしてー」
みんなに向かって笑顔で言うと二人は去って行った。
これから新春隠し芸大会に出演するらしい。見る人にも御利益が有ると良いね。
壁掛けTVから『ギャー、何ですか、何なんですかこれは!?』という幸子の声が聞こえてきた……
うん、幸子にもきっと良い事が有るさ。