セカイの呪いを解くために。   作:はたけのなすび

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では。


その十

 

 

 かくして、ホノメとルグナ、ヨミと俺という二人組に別れることになった。

 師匠からは最低二人組で行動しろと言われているので、恐らくこれでも問題ないだろう。

 荒事になる可能性もあるが、そのときはそのときと割り切るしかなかった。

 

「ヨミ、あんた何か心当たりでもあんのか?」

「あるから離れたんでーす。私のほうこそ聞きたいことがあります。ハヤくん、君はさっき何か考えこもうとしていましたよね。だからちょっとだけ私から気が逸れたようですし。その考えの内容、聞かせてくれませんか?」

「はぁ?……考えつったって、大したもんじゃねぇぞ。何かあの目撃者たちに引っかかったってだけだ」

「でーすからぁ、私はその引っかかりを聞きたいんですよ。教えてくださいよ」

 

 どこがどう引っかかったのかを突き止める前に、ヨミに肩を掴まれて色々頭から吹っ飛んでしまったのだ。

 あのときの違和感と、この街に着いてから印象を合わせて思い出そうと顎に指を添えて考える。

 壊された城壁に上ったとき、衛兵からの話を聞いて、彼らの同僚の遺体を見たとき。

 それから、目撃者たちの話を聞いたとき。

 すると、とても些細な棘を思い出した。

 

「お。その顔は何か思い出したようですね。何ですか?」

「……本当に大したことじゃねぇぞ」

 

 言い訳みたいに前置きしてから、記憶をなぞりつつ口を開いた。

 

「衛兵たちから話を聞いたとき、彼らは目撃者が全員飛び去る竜を見たって言ってた。確かにおかしくはなさそうなんだが、どうも……全員が全員、口を揃えて同じ証言をするってのは珍しい気がしたんだ」

「ふむ?」

「この街は五十年前から平和だ。住民たちのほとんどは魔族なんて見たことないだろう。いきなり壁が竜によって壊されるなんて異常事態を前にしたら、訳が分からなくなって辻褄が合わないことを言い合ってもおかしくねぇ」

 

 たとえば以前、こんなことがあった。

 ホノメと俺がまだ師匠と出会う前、故郷の里にいた頃のことだ。

 子どもらのみで集まり、森の中で戦いの訓練をしていてつい時間の経つのを忘れた俺たちの前に、熊が出たのだ。

 間が悪いことに、その日は冬が明けたばかりで冬眠から目覚めたばかりの熊は腹を減らせて気が立っていた。

 常なら人里の人間を無視する熊はこちらに襲い掛かって来、とんでもない阿鼻叫喚の大騒動になったのだ。

 その場にいたのは、俺とホノメ含めた子どもたちばかり。

 全員狩りの経験はあれど、獲物は精々小鳥程度で熊狩りなどの経験はまったくない未熟者揃いだ。

 逃げ惑う子どもらの中、ホノメが魔力を放出して熊を怯ませる炎を放ち、俺が身体能力を強化させて熊に大岩を投げつけることでどうにか退散させたが、人里に這う這うの体で全員帰ってみれば、実におかしなことになっていたのだ。

 曲がりなりにも立ち向かえたホノメと俺には、敵が冬眠で腹を減らした熊であることは認識できていたのだが、泣き叫んで恐慌状態になった子どもらの一部には、熊がただひたすらに大きくて真っ黒い化物に見えており、あれが魔族だとまで言い立てるやつがいたのだ。

 あれは魔族でも何でもない熊だとホノメが理路整然と述べても、そんなわけねぇだろと俺が言い返しても、あれは化物だと泣くばかりで話にならなかったほどだ。

 飢えた熊に子どもたちが遭遇して、重傷者が出なかったことが奇跡だと言われるほどの事件だったが、つまり、信じられないことを目にした人間の記憶などまったく当てにならないと俺はあれ以来思っている。

 怯えれば、狼狽えれば、人間はありもしない幻がいると簡単に思い込み、現実を歪んで捉える。

 自分が理解しやすい形に記憶を改竄する。

 何のためかって、自分の心を守るためだ。

 

 魔族の竜など、熊よりも恐ろしい化物だ。

 なのに、目撃者たちは確かに屍竜が飛び去ったと主張している。

 

 五人しか目撃者がいないし、全員大人なのだから俺たちのときのような食い違いはなくて当たり前かもしれないが、それでも食い違いがないという点が引っかかることは引っかかったのだ。

 けれど、ヨミ相手に自分の推論を口にすれば、口にするだけ大したことのない違和感だという気がしてくる。

 この街にいるのは、怯えて泣き叫ぶ羊の集団のようになった子どもたちではないのだから。

 

「ふーむふむ、そこに引っかかったんですね」

 

 が、ヨミは考えすぎだと笑い飛ばすことをしなかった。

 薙刀を器用に片腕で維持しながら、もう片方の手で自分の細い顎に手を添えて考える仕草をする。

 

「良い線行ってるかもですよ、ハヤくん。私もですね、あなたたちが到着するより前からこの街を回っていたんです。で、衛兵さんのふりをしてこそっと彼らから話を聞いてみたんですがね。皆さん口を揃えて、()()()()()だって仰るわけですよ。でもですね、五十年も生きてない一般人含めた人たちが、どうして屍竜だってはっきり言えるんでしょう?言い方にねぇ、断定するような強さがあったんですよこれがまた」

「図鑑や記録映像はあるだろ」

「そう言われちゃそれまでなのですが、どーうにもねぇ。証言が揃いすぎてるって気がするんです。整いすぎてます。恐怖に駆られた人間がどれだけめちゃくちゃになるか、君もちょっとは心当たりあるんじゃありません?かの赤の巫女さんこと【黒】のアジィザだって、あれだけ苦労して世界に警告を発したのに、恐怖に駆られたごく一部には魔女扱いされる始末ですよ。めちゃくちゃに理不尽だと思いませんか?彼女は、ただの事実をこの上なく効果的な方法で言い残しただけだと言うのに」

「……」

 

 その例えを持ち出すのはやや的外れではと思わなくもなかったが、ヨミの主張は理解できた。

 要するに、俺たちは同じところに違和感を覚えたのだ。

 発言が、綺麗すぎると。

 

「証言が揃いすぎている場合、考えられる理由は単純です。何だと思いますか?」

「……口裏を合わせて、全員が示し合わせてる場合か」

「ええ、はい、そうです!なら、何のためにそんなことをするのでしょうか?」

「わからねぇよ。現に衛兵は十人も殺されて、城壁は壊されてる。これだけのことを引き起こした相手を街の人間が庇う理由があるのか?」

 

 死人が出ているのだ。なのに、衛兵に護られるべき市民がそんなことをする理由なんて何も思いつけなかった。

 ヨミは、かつんと靴音を響かせて立ち止まって振り返り、人差し指を立てて左右に振った。余裕ぶったふうである。

 

「いえいえ、そうじゃありませんよ。君、悪ぶっててもやっぱり根が善寄りですね。人間的にはいいと思いますが、裏の裏まで考えて悪意をもっと見抜けるようにならないと大事なものを守れないですよ?」

「あんたに説教されてる時間は無い。そんなに言うなら、何か考えがあるんだろうな」

「はいはい。でもですね、それを今ここでしゃべっちゃっても勿体ないので探索を続けましょう。大丈夫です、当てはあるから君を連れ出したんですよ」

「勿体ないってあんたなぁ……」

 

 人死にが出ているんだぞと、言いたくなって口を噤む。

 軽い口調だが、ヨミの眼光は鋭いし和らいでいない。

 この街中で絶対に武器を手放さないこいつには、こいつなりに本当に考えがあって、ちゃらけているのはただの作戦とも考えられた。

 本当に素でちゃらけてこちらを振り回して楽しんでいるなら怒るが、こいつの行動で今回の事件が片付くならばいい。

 自分自身の堪忍袋の限界も感じながらになるが、そこは己の忍耐力でどうにかするしかない。つい先日、師匠の大事な剣を持ち出すというとんでもないやらかしを引き起こしたばかりの自分だが。

 

「で?その当てってのは何なんだ?」

「よくぞ聞いてくれました~。こっちですよ」

 

 言って、ヨミはずんずんと進んで行く。

 辿り着いた先は、先ほど調べたはずの衛兵隊の遺体が並べられた安置所だった。

 調べが済んでいないために遺族は引き取れず、医者の解剖もまだらしい。

 半地下の安置所は城壁の一角に設けられており、当然門番はいる。

 けれど、俺が名前を名乗るとやや訝し気な様子を見せながらも通してくれた。

 

「助かりましたよぉ。私だけだとやっぱり遺体には簡単には近寄れないんですよね。レトさんって、どうして私を弟子にしてくれなかったんでしょうか?」

 

 半地下の階段を下りながらもおしゃべりがやまないヨミに、こちらはむっつりと返した。

 

「師匠に聞けよ」

「聞いて教えてくれると思います?そもそも、言ってくれても私が理解できない理由からかもしれないじゃないですかぁ。お弟子さんなら何となくわかるのでは?」

「……」

 

 師匠の世間ずれはわかるだけに、俺には答えられない。

 答えられないからさっさとヨミを誘導し、階段を下り切って石の台の上に並べられた遺体へ近寄る。

 低い室温と空間全体にかけられた物質保存の術で、遺体の腐敗は進んではいなかった。湿っぽい空気を肺に取り入れて、また重く吐き出す。

 丸太のように並べられた体には、既に魂がないのだ。

 絶命と共に魂は体から離れて心は壊れ、ここにあるのはただの抜け殻。

 二度と、彼らが彼らとして動き出すことはない。

 今更遺体を前にして何をするつもりなのかとヨミの方を向けば、彼女はなんと片時も手放していなかった薙刀を石台に立てかけていた。

 

「何するつもりなんだ?」

「ちょっと特殊な魔力の使い方をお見せしようと思って。ハヤくん、今から私がするのは私の故郷の秘中の秘技なので内密にお願いしますね」

「ああ。……とっとと解決できるなら何だっていいさ。あんたが言ってほしくねぇなら、誰にも言わねぇよ」

 

 師匠が教えてくれるドラゴンの知識だって、教えてはならないと言われるものが数多含まれるわけで、他人の知識や技術を吹聴したりするつもりはなかった。

 そも、人里離れたところに少人数で暮らし、修行漬けの日々を送っていて、師匠たち以外との他人との交流が極端に少ない自分が誰に話すのかという面はある。

 ヨミは、軽く片頬だけで笑った。

 

「わかりましたぁ。ありがとうございます。では、驚いて腰を抜かさないでくださいね。あとそっちの薙刀持っていてくれると助かります。倒れると困るので」

「……はいはい」

 

 立てかけられていたずしりと重い薙刀を取り、隅に引っ込む。

 仰向けにされた遺体を前にしたヨミは、まずその上から布を取り除いた。先ほどと同じ惨殺された遺体の土気色の肌が見える。

 ヨミは瞳を閉ざした遺体の顔の上に手をかざし、自分も目を閉じる。

 かざしたまま、鼻歌のような小さな唄を唄い始めた。次いでヨミの体の周りに蛍火のような光の粒が現れる。

 ふわふわと、空間からにじみ出るようにして現れた粒たちは増え、集い、くるくると回り始める。まるでヨミの唄声で呼び寄せられたかのように。

 何故だろう。

 蛍火はとても美しいのに、見ていると背筋が寒くなった。

 儚い光の珠がただ薄暗い空間を照らすように漂っているだけなのに、目を逸らせない。

 美しいものに見とれて視線を奪われるのではなく、恐ろしいから動けない。

 何をされるかわからないから、警戒心によって見続けるしかないのだ。

 

 ヨミは、その光を纏わせたまま尚も唄を唄い続ける。

 唄に合わせて光の珠は乱舞し、旋回し、次第に数を増やして縦横無尽に空間を舞い踊った。

 

 それに伴って悪寒はますます強くなり、鳥肌が止まらなくなる。

 遺体が乗った石台が並べられた半地下の薄暗い穴倉のような部屋の中を、何百匹もの蛍が飛び回るようなこの光景がいつ終わるのかと考え始めたとき、ヨミがかっと目を見開く。

 唄い止めて衛兵の顔の上にかざしていた手を下ろせば、時間が止まったかのように光の粒は空中でぴたりと静止し、瞬きの間に力を失って床へと落ちていく。

 床に叩きつけられる直前で光の粒は内側から弾けて消えて行った。

 かしゃん、と薄いガラスの板が砕け散るような呆気ない音と共に。

 

 その音と共に、ヨミの体がぐらりと傾いだ。

 白髪が揺れて体が横に倒れそうになる。

 

「おい!」

 

 薙刀を持っていない片方の腕を咄嗟に伸ばし、何とかヨミが頭を床にぶつける前に支えればほっと息が漏れてしまう。

 

「お?ありがとうございます」

「びっくりさせんな。いきなり丸太みてぇに倒れるなら最初から教えろよ」

「ありゃまぁ……すみません?」

「何で疑問形なんだよ。大丈夫そうなら腕離すぞ。つーかやっぱ自分の武器はちゃんと持て。俺が刀抜けなくなるじゃねぇか」

 

 腕を引っぱってヨミを立たせ、薙刀を押し付けるようにして返す。

 元の通り己の武器を手にしたヨミは、探るような目をちらりと遺体に向けたあと白髪を手で整えた。

 

「それで?何かわかったのか?そもそも、あんた一体何をしたんだ?」

「うーん、ちょっと難しい話になりますから座りませんか?あちらに椅子がありますし」

 

 調査の際に使うためなのか、飾り気も何もない丸椅子とテーブルが置かれた部屋の片隅の空間をヨミは指さす。

 無言でそちらへ歩いて行き、椅子の一つをヨミに押しやって自分も座ると、ヨミは袴の裾を綺麗に捌いて腰を下ろした。

 遺体が並べられた空間に、ぽつりと静けさが満ちる。

 

「ヨミ、説明してくれるんだよな」

「ええ、はいはい勿論ですよ。ですがちょっと前置きを置かせてくださいね。ハヤくん、私の名前で何かおかしいって思ったことはありませんか?」

「は?あんたの名前はヨミだろ」

「ええ。ヨミです。名字は捨てたので無くて、私はただのヨミなのですよ。そうしてさらに、私の故郷ではヨミの名前の響きにはこういう意味があります。ヨミは、黄泉。死後の世界を意味する単語なのです」

「……じゃ、あんたは『あの世』みたいな意味の名前をつけられたってことか?」

 

 子どもにつける名としては、あまり未来への希望に満ち溢れている感じがしない。

 本来は、国が違うなら風習も違って当たり前だ。けれど、俺の知る限りヨミという響きにあの世という意味はない。

 南大陸では、魔族との大戦の影響で言語がほぼ統一されて久しい。

 かつてあったという、国や地域独自の言語は絶滅に近いのだ。

 戦場で味方同士が違う言葉を話して混乱してはならないと決められた影響で、人類は統一言語の習得に舵を切って、多言語の世界はなくなった。長く長く続いた戦争の影響で見捨てるしかなかったもの、破壊するしかなかったものは多くあるが言語はまさにその一つ。

 なのに、ヨミの故郷では違う言語を使っていたらしい。

 なくもない話だが、珍しくはあった。

 というか俺の故郷の里も、基本的には統一言語での会話をしていたが北大陸にいた頃の先祖の言葉も残っていたのだ。

 歌や地名や人名に微かな名残りがあるだけで、日常会話で流暢に話せる者はいなくなっていたし、俺もまったくわからないも同然だけれど。

 

「ええ、まぁそうですね。ぶっちゃけ『死神ちゃん』みたいなノリの名前なんですよ。そしてもってこの名前には意味がありましてね。私のような白髪と黒い瞳を持ち、死者と会話できる能力を持った異能者に与えられた名なのです。一代に一人しか生まれない、専用名なんですねコレが」

「……死者、と、話す、だと?」

「ええ。がっつり死んでる人と、です」

 

 咄嗟に何も言えないこちらを前に、ヨミは指を二本立てた。

 

「私の故郷はですね。北大陸からの避難民の末裔が作ったんです。この死者との対話能力は、北大陸にいた頃から血脈を通じて伝わっているものだそうです。カミからの授かりものって言われてましたが、実際どうなんでしょうね?私見としてはただの特殊な魔力持ちって気がしますが」

「ちょっと待て。お前も北の民の末裔なのか?」

「ええ。君とホノメさんもでしょ?だってこの薙刀も私の服装も、私の故郷にあるものですから。薙刀を使えると言った君は、私の故郷と繋がりがあっておかしくないって思いましたよ。君たちの名前の響きだってルグナくんと違って私の故郷のと似てますし。ハヤくんこそ、私が元同郷人と考えなかったんですか?」

「……考えなくもなかったが、重要とは思えなかったんだよ。今の俺に故郷は関係ねぇ」

「あはは。そりゃそうです。私も、君が親戚って気はしませんもん。で、話を進めますと私は自分だけが使えるちょっと特殊な魔力で、死者の念を読み取れるんです」

 

 絵具で描いたばかりのまだ乾いていない絵に紙を押し当てると、ぼんやりと絵の形が紙に写し取られるでしょう、とヨミは続けた。

 あんな感じだと言われても少々ピンとは来ない。

 

「すーぐには信じられないと思いますけど、私からはできるからできるって言うしかないですね。どうします、ハヤくん?」

 

 探るようなヨミに、こちらは肩をすくめて応じた。

 尤も、拳は爪が肉に食い込むほど握りめていたのだけれど。

 死者は応えない。死者とは二度と出会えない。

 それがこの世界の原則で、俺もずっとそれを信じて生きていた。

 死んだ者は二度と取り戻せないから、だから、絶対に間違えてはいけない時があるのだと師匠は俺たちに繰り返し教えてくれた。

 自分は昔間違えて、大切な人間を失ったからお前たちには誤りを犯してほしくないと。

 

 目の前の女は、俺にとってのこの世の真理を覆すことを言ってのけたのである。

 それも軽薄に、飄々と、何でもないゴミを潰すときみたいに。

 

 だけれど、俺にはヨミの言を嘘だと否定もできない。

 頭ごなしに他人を否定してはいけない、己の常識を常に疑って最善を選べということもまた、師匠から教わったことだったから。

 

「あんたが俺たちに嘘を吐く理由がわからねぇからな。とりあえず信じとく。要は、死んだ衛兵たちに自分を殺したのは誰か聞いてくれたんだな?答えてくれたのかよ」

「……」

「おい、どうなんだ?」

「いえ、何かすんなり信じてくれるのが予想外で。君まぁまぁ疑り深そうなのに……あ、いや君が疑り深いのは姉弟子さんと師匠の身の安全確保のためっぽいですね。それ以外、特に自分に関しては結構ガバガバしてるでしょ」

「勝手に俺を測るな。信じるのやめるぞ。何か見たんなら、とっとと情報寄越せっての」

 

 どうやって死んだのかを、死者本人の口から本当に聞けるのかと疑問はある。

 そんな術は聞いたことがないし、死者との対話など夢物語だという気がする。

 けれど、先ほどの蛍火色の光が異常で異質なナニカであったのも事実だ。

 感じたことのない気配と魔力の質に、理解できないけれど肌が粟立つヨミの唄。

 あのとき、死者の魂や心、或いは思念の欠片を前にしていたと見なすなら、完全な納得はできないまでもすとんと心に落ちてくる何かがあったのだ。

 

「んもー、せっかちですね。とはいえ時間がもったいないのも事実。わかったことだけすぱっと伝えましょうか」

「そうだよ。早くしてくれ、頼むから」

「では結論を述べましょう。……衛兵の彼らは殺されています。それも、魔族と人間の両方によって。さらに正確に言えば、()()()()()()()()()()()殺されたみたいですよ」

 

 これって相当に危機的状況じゃありませんか、と軽口のように言い立てるヨミの唇が、俺には異様に赤く見えたのだった。

 

 




異世界だろうと熊は強いです。
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